バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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闇の書編
面倒ごとの匂いがするな。


 

 

俺がなのはの実家に住むようになってから数日経った。

初めはどこかぎこちなかったなのはだったが次第に慣れて来たのか今では普通の生活を送っている。

 

それで俺はというと……

 

「すみませ〜ん、注文いいですか?」

 

「は〜い、ただいま〜」

 

翠屋でウェイターをやっていた。

流石に住んでる以上何もしないって訳には行かない。

 

「随分手慣れてるね?」

 

「よくやってたので」

 

美由希さんと駄弁りながら俺があくせく働いていると、なのは達がやってきた。今日は日曜だし暇だったんだろう。

 

「あ‼︎ アント君‼︎」

 

「こんにちは‼︎ アント君‼︎」

 

「本当に働いてるのね……」

 

「まあな、三名様ご案内します」

 

なのは達を席に案内してからしばらくすると忍さんと恭也さんがやってきた。

なぜか木刀を持って……。

 

「さて、闘ろうか」

 

「……今忙しいから無理です」

 

「ああいいところに来たね、恭也。ちょうど店を閉めようと思ってたところだよ」

 

……士郎さんに裏切られた。

 

「……今日はちょっと疲れたから無理です」

 

「この前もそう言って逃げただろう? 今日こそは逃がさん」

 

「私も貴方がどれだけ強いのか知りたいわ。ダメかしら?」

 

……一回受けたら何回もやることになりそうなんだよなあ……。

でもこの調子だといつかはやることになりそうだし……運動だと思って諦めるか……。

 

「分かりました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで裏の道場にやってきた。だが……

 

「なんで全員来てるんだ……」

 

「にゃはは……」

 

「あはは……」

 

「何よ、私達が見ちゃダメなの?」

 

「いや、そんな見にくるようなものじゃないだろ……」

 

「まあいいじゃないか。審判は私がやろう」

 

「何してるんだ? 早く来い」

 

恭也さんはすでに戦闘準備をしていた。木刀を持って俺を待ち構えてる。

 

「……はい」

 

渋々恭也さんと向かい合う。

 

「二人とも準備はいいね?」

 

士郎さんが手を振り上げた。

 

「では……始め‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:恭也

 

やっとこの時が来た。子供だからって手加減できるような奴じゃない。

 

「では……始め‼︎」

 

始まりの合図が掛かるが俺とアントは微動だにしない。お互い隙を伺っているのだ。

互いに木刀を構えたまま、少しずつ近寄る。

 

……隙が一切見当たらないな……このままでは埒があかないか……。

 

状況を動かすため俺は仕掛けることにした。だが俺の攻撃は躱されるか、もしくは上手く受け流されていく。体格の不利をものともしていないようだ。

 

しばらく防御にまわっていたアントだったが様子見は終わりだと言わんばかりに攻勢に出てくる。

アントは俺の振り下ろした木刀を軽いステップで躱すと同時に俺の肩へ切り込んできた。

 

「ッ……‼︎」

 

俺は身体を捻って躱そうとしたが避けきれず受けてしまう。

肩に鈍い痛みが走る。

 

上手い……‼︎ 回避と攻撃を同時に行なっているのか……。

 

一旦距離を取ろうとするがアントは俺を追ってくる。

逃がすつもりは無いようだな。だがこれだけ距離が有れば十分だ。

 

「薙旋」

 

御神流の奥義の一つ。 抜刀からの四連の斬り。

 

「ぐおっ……‼︎」

 

二つは避け、一つは木刀で防御されたが、最後の一太刀はアントの膝を捉えた。

ダメージを負ったアントはすぐさま俺から距離を取る。

 

……長期戦は互いに不利だな。名残惜しいがそろそろ決着をつけるべきだろう。

 

「神速」

 

御神流を最強たらしめている奥義、これでけりをつける‼︎

 

俺はミシミシと悲鳴をあげる体を酷使しながら最高速度で接近した。

アントの視線は動かない。どうやら俺を目で追えていないようだ。

 

取った……‼︎

 

俺は渾身の力で木刀を振り下ろす。

 

バキィン‼︎

 

「何⁉︎」

 

だが確実に当たったと思われた俺の攻撃はアントの木刀に弾かれた。

 

「くっ……」

 

だが衝撃を完全には受け流せなかったようだ。

アントはバランスを崩し、そこに隙が生まれる。

 

「はぁぁあああ‼︎」

 

すぐに態勢を整えもう一撃放つ。

 

「それまで‼︎」

 

木刀がアントの脳天に触れかけた瞬間、決着を告げる父さんの声が響き俺はギリギリのところで止まった。

 

「この勝負、引き分け‼︎」

 

「え⁉︎」

 

「引き分け?」

 

「お兄ちゃんの勝ちじゃないの……? お姉ちゃんどうゆうこと?」

 

「……恭ちゃんの胴体を見てみて」

 

「「「……あっ‼︎」」」

 

「まさかあの態勢から攻撃に転じるなんてな……」

 

俺の心臓にはアントの木刀が突きつけられている。あのまま振り下ろせば俺も無事では済まなかっただろう。

 

俺は肩の力を抜きアントから離れた。

 

「……はあ……はあ……水……」

 

同じく肩の力を抜いたアントは息を切らしながら地べたに大の字で寝転ぶ。

 

「これを飲むといい。スポーツドリンクだ」

 

「……はあ……ごくっ……」

 

「……これほどとはね……正直予想以上よ」

 

「まさか神速が破られるなんて……」

 

「驚いたわ……」

 

「すごかったの‼︎」

 

「うん……凄かった……」

 

「あ〜……疲れた〜……」

 

アントの呼吸が整ったところで気になっていたことを聞いてみる。

 

「どうやって俺の攻撃を受け止めたんだ? 目で追えてるようには見えなかったが……」

 

「勘」

 

「は? 勘?」

 

勘だと?

 

「いや勘と言うか予想かな。恭也さんの姿が消える直前、俺の頭を狙ってるみたいだったから出来るだけ身を小さくして木刀を構えていただけ。ぶっちゃけ何も見えなかった……」

 

それだけのことをあの一瞬で考えて行動したのか……

 

「もう無理、一歩も動きたくない……」

 

大の字に寝転んだアントだったがふと動きを止めた。

 

「これは……」

 

立ち上がり飾ってあった日本刀に近づいて行く。

 

「ああ、それは我が家の家宝だよ」

 

「……そうか……そういえば日本刀って切るためだけに特化した武器だったな……」

 

なにやら独り言を呟き始めた。

 

「……いっそ全部の武器を新調してみるか?」

 

「新調? 一体どういう……」

 

なんの話だと俺が尋ねようとした時、母さんがやってきた。

 

「そろそろ終わったかしら? シュークリームの準備できてるわよ?」

 

……シュバッ‼︎

 

さっきまで疲れ切っていた奴とは思えないほどの速度でアントは行ってしまった。

 

「は、速いの‼︎」

 

「ちょっと‼︎ 一歩も動きたくないって言ってたじゃない‼︎」

 

「ま、待って〜アント君〜……」

 

突然走り出したアントを追ってなのは達が駆けてゆく。

道場には俺と忍、美由紀、父さんだけが残された。

 

「凄かったね。正に死闘って感じだったよ」

 

「あの歳であれほど強くなるなんて……分かってはいたけど只者じゃないね」

 

「……やっぱりもっとしっかり調べるべきかしら……どう思う? 恭也?」

 

ふむ、情報が少な過ぎて本当に盟友にして良かったのか不安なのだろう。

 

「……確かにアントには謎が多いがそこまで警戒する必要はないだろう。剣を交えれば分かる、あいつは悪い奴じゃない」

 

「そうだね。私、恭ちゃんの満面の笑顔なんて久しぶりに見たよ」

 

「笑顔? 俺が?」

 

「あーそうそう。戦いが楽しくて仕方ないって顔だったわ」

 

そんな顔していただろうか……。

 

「さていつまでも母さんを待たせるわけにも行かないだろう? 俺は汗をふいてから行くから先に行っといてくれ」

 

「分かった〜」

 

「早く来ないと無くなっちゃうわよ?」

 

「子供じゃあるまいし……」

 

美由紀と忍が道場を出て行く。

 

だが何故か父さんが残った。

 

「父さん? どうしたんだ?」

 

「直接剣を交えた恭也なら気付いただろう? アント君の違和感に」

 

「⁉︎」

 

父さんは気付いていたのか……。

俺は戦いの終盤を思い出す。

 

「……死ぬのが怖くない……いや違う……あれはもっと別の……」

 

「恭也」

 

俺の言葉を父さんが遮った。

 

「私はこれまでいろんな者を見てきた。だがアント君についてはよく分からない。まだどちらにもなっていないんだ」

 

「どちらでもない?」

 

「そうだ。アント君がどうなるかはこれから決まる。私達は見守るしかない」

 

「そうか……」

 

見守るしかない……か。

だがもしもなのはを泣かすような事があったら……俺は絶対にアントを許さん。

 

「さていつまでも話していても仕方ない。私達も行こうか」

 

「ああ分かったよ、父さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也さんと試合した翌日、俺はスーパーへ買い出しに来ていた。

 

「ジャガイモ、人参、玉ねぎ、鶏肉、ルー……今夜はカレーだな」

 

自然とスキップしながら食材を探していると……

 

「ん? アント君やないか。どないしたん? めっちゃ嬉しそうやな?」

 

声をかけられ後ろを振り向くと車椅子に乗った少女がいた。

 

「ん? ああ、はやてか」

 

「こんにちわ。アント君」

 

この車椅子の少女の名ははやて。スーパーで何回か会ってるうちにこんな風に会話するようになった。

 

「それで? なんでそんなに嬉しそうなん?」

 

「聞いて驚け。今夜はカレーなんだ」

 

「ええな〜カレーか〜。知っとる? カレーにリンゴ入れると美味しくなるんやで?」

 

「まじで? 今日やってみるわ」

 

「チョコなんかもよく隠し味に使われてるんや」

 

「はあ? チョコ? 流石に嘘だろ?」

 

「そう思うやろ? 騙されたと思って入れてみい。私に感謝することになるで?」

 

そんな感じで会話しながら買い物を続ける。

お会計が済んだ後、俺はいつも通りはやてを家まで送る。

 

「いつもすまんな〜」

 

「なに、少し目を離した瞬間ひっくり返ってるよりましだ」

 

「その話は勘弁してや〜。ちょっとミスっただけやねん」

 

「その日は計三回ぐらいひっくり返ってたけどな」

 

「そんくらいならしゃあないやろ」

 

「お前が学習しないだけだろ」

 

車椅子を押しながら会話を続ける。

 

「それにしてもかなり大荷物だな。パーティーでもすんのか?」

 

「あ〜今家に親戚が集まっとんねん。四人……いや、三人と一匹やな」

 

「なるほど」

 

そうこうしているうちにはやての家にたどり着いた。

 

「ここでいいか?」

 

「うんありがとうな。お陰で楽できたわ」

 

はやてが家に入って行くのを見送り、その後俺はなのはの家へと向かう。

 

「……リンゴとチョコか……試してみよう」

 

ウキウキしながら歩いていると突然結界の中に取り残された。

 

《ボス、広域結界の発動を確認しました》

 

「……面倒ごとの匂いがするな」

 

何か厄介なことに巻き込まれたと思っていた時だ。上空からポニーテールの凛とした風の大人の女性が降りて来た。

 

「微かだが魔力を感じるな。お前は魔道士か? まあどちらでもいい、大人しく魔力をよこせ」

 

「……今年は厄年だったっけ?」

 

魔力強盗かよ……新しいカツアゲだな。

 

 

 

 

 

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