フェイト達の引越しの翌日から俺は調査を開始した。
だが、調査開始1日目にしてとんでもない事実があっさりと発覚してしまった。それは……
『ほな、行ってくるわ』
『気をつけろよ、はやて』
『主を頼んだぞ、ザフィーラ、シャマル』
『承知』
『任せて‼︎』
はやての家に昼過ぎくらいに行った時、ちょうど散歩に出かける守護騎士達とはやてを見てしまった。
「……よし、帰るか」
《現実逃避ですか? ボス?》
「……戦略的撤退だ」
《それは使う場面が違うと思われます》
何か言ってるようだが聞こえないな。帰ろう。
高町家へ戻った俺はベッドに寝転がり一息ついた。
《ボス、どうされるおつもりですか?》
「……蒸し返すの早過ぎるだろ……今寝転がったばっかりなんだけど……」
《やはり管理局に報告した方が良いのでは?》
ルリは俺を無視してこれからどうするべきか尋ねてくる。
「ちょっと待て。まだ何も整理できてない」
ここは落ち着いて順番に考えてみる。
「……いや、そもそもはやてが魔力を蒐集してこい、なんて命じるか?」
《その可能性は高いでしょう。プログラムである守護騎士達が自らの意思で動くというのは考え辛いと思われます》
「……どうにもはやてが命令したって考え難いんだよな……」
《人の本性とは分からないものです。ボスですら見誤ることがあると思います》
人の本性か……結構見る目はあるつもりだったんだけどなあ……。これまでもいろんな奴に会ったわけだし。
「…………よし、とりあえず置いておこう。まだ仮面の男達のことがよく分かってないしな、うん。今は調査を続行するぞ」
《結局問題の先送りですか?》
「違う、慎重なだけだ」
慎重なのは大事なことだ。
そのまま数日間調査を続行したが仮面の男達が姿を現すことはなく、守護騎士達は魔力の蒐集へ向かってしまう。そして管理局はそれを補足したようで、すぐに集合するようにと連絡が届いた。
俺は一旦調査を止め、アースラへと向かう。
《結局放置してただけとなりましたね》
「……アプローチの仕方が間違ってたんだな。次はやり方を変えてみよう」
《具体的には?》
「……この後決める」
ルリの質問責めから逃げるようにアースラの転送ポートをくぐると、すでになのはとフェイトの姿はなくエイミィとリンディさんがモニターを観ていた。
「ん? なのは達は?」
「来たようね。なのはさん達はもう現場へ向かったわ。クロノ達は闇の書の持ち主を探索しているところよ」
「なるほど。なら俺もすぐに現場へ……」
「それはちょっと待って」
「は? なんで?」
現場へ向かおうとした俺だったがエイミィに止められた。
「なのはちゃん達に言われたの。守護騎士の人達と正面から話したいからアント君は少し待ってて欲しいって」
「いいのか? そんなことしちゃって?」
「ええ、もしかしたら説得に成功。もしくは情報を引き出せるかもしれないわ」
「……それ建前ですよね?」
「……正直私は反対したかったのだけど、あの子達の真っ直ぐな目を見たらダメだって言えなくてね……。だからアントには不測の事態が起こった時にすぐに駆けつけられるように待機しておいてもらいたいの」
「……まあ、雇い主がそう言うなら従いますよ」
モニターを見るとなのは達と守護騎士達が戦いを繰り広げていた。
「それにしてもいつもより激しいな。二人ともなんかパワーアップしてる気がする」
「うん、そうだね。二人のデバイスにはカーリッジが搭載されてるしね」
「……まじか、ただでさえ大量に魔力あんのに更に上乗せかよ……」
……えげつないな。
とある世界:
「ラケーテンハンマー‼︎」
「くうっ‼︎ アクセルシューター‼︎」
なのははヴィータの攻撃を正面から受けきり、新射撃魔法でヴィータとグラーフアイゼンを圧倒する。
「はぁぁあああ‼︎」
「くっ‼︎」
一方、クロスレンジで打撃と斬撃を撃ちかわしあうシグナムとフェイト。
バルディッシュはレヴァンティンの刃をしっかりと受けきり、シグナムに肉迫する。
「シュランゲフォルム‼︎」
「プラズマランサー‼︎」
シグナムの鞭状連結刃にもひるむことなく互角の戦いを繰り広げるフェイト。
「やるな‼︎ いい太刀筋だ‼︎」
「やっぱり強い……でも負けられない‼︎」
互いの強さを認め合いつつも、勝負を続ける二人
その頃、結界の外から闇の書を手に戦場を見守っていたシャマルは、結界内のザフィーラと通信しながら現在の状況に苦悩していた。
『シャマル‼︎ 二人が負けることはないだろうが状況が良くない‼︎ ここは引くべきだ‼︎』
「……そうね……でも……」
念話でザフィーラにそう言われるも、シャマルの魔力では管理局の張った結界を破れない。
「一つだけ方法はあるけど……リスクが大き過ぎる……」
どうするべきかシャマルが迷っていると突然背にデバイスを突きつけられた。クロノがすでにシャマルの背後を取っていたのだ。
「そこまでだ‼︎ 戦闘を停止しろ‼︎」
「っ⁉︎ いつの間に……」
「大人しくしてもらおうか‼︎ すでに君達に逃げ場は……がっ⁉︎」
投降するように言おうとしたクロノだったが、突如現れた仮面の男に弾き飛ばされてしまった。
「あ、貴方達は……この前の……」
「……時間がない。闇の書の力を使え」
狼狽えるシャマルに構うことなく、仮面の男は力を使うように促した。
「えっ⁉︎ なぜそれを⁉︎」
「そんなことはどうでもいい。早くしないと手遅れになる」
「でも……これは……」
「減ったページはまた増やせば良い。仲間がやられてからでは遅い。それに……アント・バーキンがここへ向かって来ているぞ?」
「っ⁉︎ …………仕方ないわね」
シャマルはその言葉を聞いた瞬間、蒐集した闇の書のページを直接魔力に変換し始めた。
「させるか‼︎」
弾き飛ばされたクロノだったがすぐに戻ってきてそれを阻止しようとするものの仮面の男に阻まれてしまった。
「邪魔をするな。いずれ、これが正しいことがわかる」
「正しい? 一体何を言って……」
どういうことか問い質そうとしたクロノだったが仮面の男は答えることなくその場を去ってしまった。そしてシャマルは闇の書の力を解放し、黒色の砲撃を放って結界を破壊する。
「よしっ‼︎みんな‼︎ 逃げるわよ‼︎ アント・バーキンがここに向かってるわ‼︎」
「なんだとっ……くっ……勝負はお預けだ、テスタロッサ‼︎ 次は決着をつける‼︎ 行くぞ‼︎ ヴィータ‼︎」
「分かってる‼︎ 次は確実に仕留めるからな‼︎ なのは‼︎」
なのはとフェイトに再戦を誓い、シグナムとヴィータは去ってゆく。
「あ‼︎ 待って‼︎」
話をしたかったなのはだったがすでに守護騎士達は結界の外へ行ってしまう。残されたなのは達は守護騎士達の様子に疑問を抱いていた。
「……アント君の名前を聞いた時のヴィータちゃん達、なんか様子がおかしかったの……」
「そうだね。なんだか怖がってたような……」
守護騎士達の去って行った方向を見つめながら考えを巡らせる二人。そこへ仮面の男という不測の事態に駆けつけてきたアントが到着した。
「あー、くそっ仮面に逃げられたか……」
なのはは少し悔しそうにするアントに先程抱いた疑問をぶつけてみる。
「……ねえ、アント君。守護騎士さん達に何かしたの?」
「ん? なんだ突然?」
「なんか守護騎士さん達がアントの名前を聞いた時違和感があったの」
「……前回ちょっと攻撃したからじゃないか?」
「そうなのかな?」
「それくらいしか心当たりがないな」
「うーん……」
どこか釈然としない様子のなのは達だったがこれ以上は考えても仕方ないとアースラへ戻ることにした。
アースラへ戻るとリンディさんとクロノが険しい表情で俺達を待っていた。
「お疲れ様。早速で悪いのだけど今回の件でおかしな点がいくつか見つかったわ。それについて話しをしておきたいの。クロノ、お願い」
「はい、艦長」
クロノが手に資料を持ちながら話し始める。
「さて闇の書の使用目的と、守護騎士たちの性質や言動の矛盾点があるんだ。管理局のデータでは、闇の書はひとたび完成したなら純粋な破壊にしか使えない、いわば制御不能の爆弾のようなもの。だが守護騎士たちは自らの意志で、さらには主のために闇の書の完成を目指しているということ。そこに大きな矛盾が生じてる」
「完成したら……死ぬ?」
「……もしかしたら、守護騎士達はそれを知らないんじゃ……」
「その可能性はある。だがその場合、何故魔力を蒐集しているのかが分からないままだ。それに仮面の男が何者で何が目的なのかも未だに分かっていない」
混迷を極めていく事態に一同が首をかしげるも今回はこれで解散となった。
「はぁ〜、ややこしいことになってきた……」
守護騎士達の矛盾、謎の仮面の男達の目的、闇の書の持ち主、謎が多すぎて頭が爆発しそうだ。
《少々複雑になってきましたね》
「……とにかく今は情報が欲しい。はやての周辺調査と闇の書について調べてみるしかないな」
……地道な作業になりそうだ。
それから数日間、手当たり次第に調べてはみたものの何も情報が手に入ることはなかった。いい加減慎重に動くのが面倒臭くなってきたので直接八神家へ突撃しようと思った時
「はあ? はやてが倒れて病院に搬送された?」
《はい、サーチャーでずっと見張っていたので間違いありません》
ルリからはやてが倒れたという報告が入った。
「闇の書の副作用か何かか? とにかく会いに行くぞ。守護騎士達の動向からも目を離すなよ」
《了解です、ボス》
side:はやて
私はある日突然倒れてしまい現在入院している。
「……くう……う……また痺れが……」
ふとした拍子に全身に痺れと痛みが襲ってくる。
「く……ふぅ……はあ……はあ……」
少しの間耐えると痛みは引いていく。ここ最近はこれの繰り返しだった。
「はあ……慣れんもんやなあ……」
痛みが引いたことで一息ついていると不意にドアがノックされる。
シグナム達かな……あかん……こんな表情見られるわけにはいかん。
私は汗を拭い表情を和らげさせた。
「……どうぞ」
ドアから入ってきたのはアント君だった。
「よっ」
「……アント君? なんで私が入院してるって知っとんの?」
「ああ、この前家を訪ねた時にはやては入院してるって赤い髪の女の子に教えてもらったんだ」
赤い髪の女の子、ヴィータかな?
「なるほどなあ〜それで見舞いに来てくれたん?」
「おう、リンゴいるか?」
「ありがとうな。そこ置いといて」
「はいよ」
リンゴを置いたアント君は私の側に椅子を持ってきて腰掛けた。
「あ〜、大変だったな? 突然倒れたんだって?」
「そうなんよ。でもちょっと立ちくらみしただけやから大丈夫やで」
「そいつは良かった」
「それよりお話でもしようや。入院ってめっちゃ暇やねん」
それからしばらくの間、私とアント君は沢山お話しをした。
「それでな? ヴィータの飴玉を口いっぱいに含んだ顔が可愛いくてな〜」
「へ〜、そいつは見てみたいな」
話の内容は主にみんなのことだった。シグナムは真面目で最近は和風のものにハマってる。ヴィータは甘いものと呪いウサギが大好き。ザフィーラには散歩の時背中に乗せてもらうこともある。シャマルはいつも料理を手伝ってくれる。そんな話をずっとしていた。
「……なあ、お前んとこの親戚に俺のこととか聞いてない?」
「アント君のこと? う〜ん、特に聞いたことはないなあ。知り合いだったん?」
「いや、知らないなら別にいいんだ。うん」
「そういやまだ紹介しとらんかったなあ。ちょうどええ、この後みんながっ……くぅ……」
その時、言葉を遮るように例の痛みが私を襲った。
……しまった……気を抜いてもうた……こんなに間隔が短くなってたなんて……。
「っ⁉︎ ちょっと待ってろ‼︎ すぐに主治医を……」
「待って‼︎ ……はあ……はあ……いつものことやねん……大丈夫や、すぐに痛みは引くからな……」
「……なら楽な姿勢になっとけ」
アント君はそう言って痛みに耐える私の背中をさすってくれる。
「はあ……ありがとうな、大分楽になったわ……」
「……いつもこんな感じなのか?」
「……今日はちょっと調子が悪いみたいや。気にせんでも明日になったら多少はましになっとるはずや」
「……このこと、お前の家族は知ってんのか?」
「……この痛みについては多分、知らんと思うよ」
「……なら教えておいた方がいいだろ」
「それはあかん」
私は即答した。私が苦しんでるなんてみんなに知られるわけにはいかんのや。
「私はみんなに心配されたい訳やないんや。ただ今まで通りに接して欲しいんよ」
「っ……‼︎」
そう言ってからアント君と目が合った瞬間、アント君は眉を吊り上げ今まで見たことないような怖い表情になった。
「……黙ったままでいいわけねえだろ……」
「え……?」
「隠されてる身にもなってみやがれ……万が一が起こってからじゃ遅いんだよ‼︎」
「な、何を怒っとるん?」
「怒るだろうが‼︎ まるでそのうち死ぬみたいな言い方しやがって‼︎ そうやって隠される方が迷惑だ‼︎」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「てめえ一人だけ満足しながら死のうってか? 突然死なれて残された奴がどんな思いをするのか知らねえんだろ⁉︎」
「いい加減にしてえや‼︎」
私は思わずカッとなった。
「みんなに心配かけたくないだけや‼︎ 私だって死ぬつもりなんてない‼︎ でもどうにもならんねん‼︎ たくさん薬も飲んだ‼︎ リハビリだって毎日頑張っとる‼︎ これ以上出来ることなんてないんや‼︎ アント君にどうにか出来るもんならやってみい‼︎」
「ああやってやる‼︎ その依頼、確かに引き受けた‼︎」
「えっ……?」
予想外のアント君の言葉に私は虚をつかれた。
「い、依頼? な……何言ってんねん‼︎ アント君にどうこう出来ることじゃないんやで⁉︎」
「それでもどうにかするんだよ‼︎」
「っ……‼︎ 出来るわけないやろ‼︎ もう出てって‼︎ これ以上私を苦しめんといてや‼︎」
「………………分かった」
アント君は立ち上がる。だけど病室のドアから一歩踏み出したところで振り返った。
「だがこれだけは言っておく。俺は依頼を失敗したことはないんだ。だから何が何でもお前を助ける。どこにいても駆けつける」
「っ……‼︎ 出てって‼︎」
私がそう言うと今度こそアント君は病室を出て行った。病室のドアが閉まり一人になったところで私の瞳から涙が溢れて止まらなくなった。
「う……うう……なんで……なんで私だけ……こうなるんやぁ……私はただ……みんなと暮らしていたいだけやのに……友達と笑ってたいだけやのに……」
……こんな簡単なことすら私は望んじゃいかんの?
side:アント
病室を出た俺は扉越しにはやてのすすり泣く声を聞いていた。
《なぜあんなことを言ったんですか?》
「……ついカッとなっちまっただけだ」
……あいつの目を見た瞬間、感情が抑えられなかった。さっきのあいつの目は……俺が大嫌いな目だった。
「……あの時のババアみたいな目をしやがって……クソッ」
俺は扉から離れ歩きだす。
「行くぞ。どうすりゃいいのかやっと分かった」
《八神はやてを助けるおつもりですか? だとすると闇の書を封印するので?》
ここに来る前はそれも選択肢の一つだった、だが……
「却下だ。依頼内容は家族と一緒に暮らすことだからな」
《ではどうするのですか?》
「決まってんだろ。守護騎士達は消させない、はやても助ける」
《それが出来る可能性は限りなくゼロかと》
「ゼロじゃあないんだな? 十分だ」
《……また危険を冒すおつもりなんですね。また気まぐれですか?》
「……ああ、ただの気まぐれだ」
一人になることがどういうことか知っている。家族を失うことが、どれほど辛いことか知っている。だから俺はフェイトの時のように勝手に動く。これが気まぐれと言わなくてなんだと言うのか。
「時間がない。とっとと行くぞ」
《……了解です、ボス》