side:なのは
お昼休み。私は最近モヤモヤしながらお昼ご飯を食べてる。
「むう……」
私がモヤモヤしてる時いつも思うこと、それは最近、全然アント君に会わないということなの。
「どうしたの、なのは? なにか悩んでる?」
フェイトちゃんが心配そうに尋ねてくる。
「ん〜、なんでもないの。それよりフェイトちゃん、体調は大丈夫?」
「うん。大分良くなってきたよ」
そういえば……アント君がこの前、フェイトちゃんのお見舞いに来たってアルフさんに聞いたの。
私はその時のアント君の様子を聞いてみることにした。
「ねえフェイトちゃん、この前アント君もお見舞いに来てたんだよね。どんな様子……」
「ふぇっ⁉︎」
フェイトちゃんの顔が真っ赤になっていく。
「どうしたの?」
「な、何にもなかったよ? 本当だよ?」
「えっと……私はアント君の様子を聞きたかったんだけど……」
「あ……」
私とフェイトちゃんの間に静かな空気が流れる。
「……何かあったの?」
「本当に何もなかったよ⁉︎ さっきのはちょっと間違えただけ‼︎」
絶対何かあったの……。
「……フェイトちゃん?」
「うっ……」
私が問い詰めようとした時、教室のドアが開いてアリサちゃん達が入ってくる。
「お待たせ〜」
「あら? 何してんの?」
二人が来たことで私は問い詰めるチャンスを逃してしまったの。
……後でちゃんとお話しするの。
私がそう思った瞬間、フェイトちゃんがビクッてしてる気がしたけど、きっと気のせいなの。
それから四人でお昼を食べていると話はすずかちゃんのお友達の話になった。その子が先週から入院してしまったらしい。
「それでね、四人で学校帰りに訪ねたいんだけど、どうかな?」
「いいわね。会ってみたいわ」
「うん。私も」
「翠屋のお菓子持っていくの」
「じゃあ、聞いてみるね?」
すずかちゃんはそう言ってすぐに携帯にメールを送り、お見舞いに行っていいかどうかを聞くことにする。
しばらくすると返事が届き、是非来て欲しいとの事だったの。
そこで私達はそれぞれがお見舞いの品を持って、集合してからはやてちゃんに会いにいくことになったの。
管理局本部
時刻は深夜3時。警備員である二人の局員はロストロギアなどの危険な物を保管している場所を見回りしていた。
「ふ〜、今夜は冷えるな……」
「ああ、こんな日は早く帰って暖かいスープを飲みたい」
「そもそも、こんなに厳重に守られてんのに見回りなんているのか?」
「そう言うな。ここには世界を崩壊させるだけの力を持ったロストロギアがあるんだ。慎重になるのも当然だろ」
「はあ、そうだけどよ。暇すぎて愚痴も吐きたくなっちまうよ」
そんな会話を交わす二人の背後を静かに人影が通り過ぎる。
「ん? 今誰かいなかったか? なんか人の気配がしたような……」
「気のせいだろ。実際誰もいないしな」
二人は気付かなかった。保管庫のドアが少しだけ開いているということに。
まんまと保管庫に侵入した目出し帽を被った侵入者は、警備員二人が立ち去ったことを確認し、安堵の溜息をつく。
「ふう。バレずに済んだな……」
《急ぎましょう。監視カメラを誤魔化せるのはせいぜい3分程度です》
「ああ」
侵入者は足音をたてることなく保管庫を探索する。
《ボス、そろそろ時間になります》
「ちょうど今見つけた。しまっといてくれ。逃げるぞ」
侵入者は目的の物をデバイスにしまい管理局を立ち去った。
侵入者は管理局を離れ、周囲をしっかり警戒してから目出し帽を脱ぎ捨てた。侵入者の正体はアントだった。
「は〜、上手くいったな……」
《ボス、毎度のことながら無茶が過ぎます。もう少し安全性を重視してもらいたいです》
「手段を選んでる暇はないしな。なに、用が済んだらちゃんと返すさ」
《……今回の作戦、正直私は反対です。不確定要素が多すぎるだけでなく、ボスにかかる負担が大き過ぎます。成功率は限りなくゼロでしょう》
「ゼロじゃないんなら十分だろ。まあこの手段は闇の書が覚醒した時のための保険だ。まだ蒐集に時間がかかる筈だからそれまでに他のもっと確実な方法を見つければ、こんなリスキーな手段は使わなくて済む……」
その時、突然クロノから念話が入った。
『アント‼︎ 闇の書が覚醒した‼︎ 今どこにいるんだ⁉︎』
「…………ああ……言ったそばからこれだよ……」
『聞いてるのか‼︎』
『……聞こえてる。すぐにそっちに向かう』
『なるべく急いでくれ‼︎』
クロノは切羽詰まった感じで念話を切る。
アントは諦めたように大きな溜息を吐く。
「もう少し時間に余裕はある筈だったんだけどな……例の仮面男が何かやったか? とにかく状況は最悪だ。やるしかないみたいだな。準備はいいか、ルリ?」
《……はい。いつでも使えます》
「うし、行くぞ」
時は少し遡る
病院にてはやてが独りで本を読んでいた時、おもむろにノックの音が聞こえてきた。はやては本を読むのを中断して返事をする。
「はーい、どうぞー」
「「「「失礼します」」」」
それに合わせてなのは、フェイト、すずか、アリサが包装された箱を持ってやって来た。
まさかの来客にはやては驚きながらも笑顔になる。
「すずかちゃん、いらっしゃい。今日は大人数やな、嬉しいわ〜」
「こんにちは、はやてちゃん。今日はみんなを紹介しに来たよ」
「はじめまして。高町なのはなの」
「私はアリサ・バニングスよ。よろしく」
「フェイト・テスタロッサだよ。よろしく」
「みんなよろしくな〜。今日はわざわざ来てくれてありがとうな」
それからなのは達はしばらくお喋りをし、そろそろ帰る時間になった時、病室に凛とした声が響いた。
「失礼します」
はやてを含めた全員が声の方向を見た瞬間だった。
「「‼︎」」
「「なっ‼︎」」
なのはとフェイトは驚きの表情で固まった。何故なら、入ってきたのは最近まで戦っていた者達だったからだ。
その後、お見舞いを済ませたなのはとフェイトはアリサ、すずかと別れて病院の屋上にいた。そしてそこではシグナムとシャマルが待ち構えていた。
なのは達は沈痛な面持ちで真実と向き合う。
「……はやてちゃんが闇の書の持ち主……」
それに対してシグナムとシャマルは戦闘態勢に入る。
「あと僅かで悲願は達成される」
「邪魔するならたとえはやてちゃんの友達でも……‼︎」
「駄目なんです‼︎ 闇の書を完成させてしまったら……‼︎」
シグナムとシャマルの決意にも怯まずになのはが叫ぶが、その時、上空から雄叫びが響いた。
「でやぁぁぁ‼︎」
「‼︎」
なのはは奇襲をかけてきたヴィータの攻撃を咄嗟に片手のシールドで防ぐ。
しかし……
「きゃあぁぁ‼︎」
シールドは粉々に砕かれ、後方の金網フェンスに叩きつけられる。
「ぶっつぶれろぉぉお‼︎」
「っ‼︎」
痛みで動きが鈍くなっているなのはにヴィータはアイゼンを叩きつける。
なのはのいた場所で大規模な爆発が起こった。
「なのは‼︎ っ……‼︎」
「余所見している暇はないぞ‼︎ テスタロッサ‼︎」
なのはの身を案じるフェイトにシグナムはレヴァンティンを斬りつける。
フェイトは素早い動きでシグナムの一撃をかわしてバルディッシュを展開させる。
「管理局に主の存在を知られては困るのだ……シャマル、後方で電波妨害を」
「分かったわ」
戦うしかないと察したフェイトはバリアジャケットを装着する。
《バリアジャケット、ソニックフォーム》
バルディッシュの機械的な音声と共にフェイトの姿形が変わる。その姿は従来のマント姿とは異なり、黒いタイトスーツのようだった。
《ハーケン》
バルディッシュの声と共に鎌の形へと変形させる。
「薄い装甲をさらに薄くしたか」
「その分速く動けます」
「些細な攻撃でも当たれば死ぬぞ……正気か?」
「あなたに勝つためです」
フェイトの曇りなき覚悟を肌で感じ、シグナムは悲しげな表情になる。
「……こんな形でなければ私達は友になれただろう……」
「今ならまだ間に合います」
真っ直ぐに見つめてくるフェイトにシグナムも濡れた瞳でにらみ返す。
「止まれん……我等は主のためなら誇りを捨てると決めた……もはや、止まることは出来ない‼︎」
毅然と言い放つシグナムにフェイトは堂々と返す。
「なら私とバルディッシュが止めます」
バルディッシュを構えてシグナムと相対する。
一方、ヴィータは目を見開いて驚愕していた。炎の中から無傷のなのはが出てきたからだ。
「……悪魔め」
なのははそれに対して悲観することなく、決心した様子でレイジングハートを構える。
「悪魔で……いいよ。悪魔らしい方法で話を聞かせてもらうから‼︎」
なのははレイジングハートを展開させて臨戦態勢に入る。最後の戦いが今ここで始まる───
はずだった。
突如、なのはの体にバインドが巻き付く。
「え⁉︎」
「なっ⁉︎」
戦おうとしていた矢先、何者かのバインドに捕まる。
「バ、バインド⁉︎」
「うっ‼︎」
「うわ‼︎」
「なっ‼︎」
バインドはなのはだけでなく、その場にいた魔導師全員にかけられた。バインドがかけられると同時に夜空から仮面の男が現れる。
「あなたは⁉︎」
「貴様は‼︎」
両者にとっても因縁深い相手の登場にバインド捕らわれながら声を荒げる。
そこにもう一人の仮面の男が現れた。男はシャマルに歩み寄ると闇の書を奪い取る。
「やめて‼︎ 何をする気⁉︎」
シャマルの悲痛の叫びに対して、仮面の男は冷たく言い放った。
「不要になった騎士たちは蒐集する。そしてこの機に八神はやてに消えゆく貴様等の姿を見せてやろう」
「なんだとテメェ‼︎」
ヴィータは仮面の男に殺気をぶつける。
しかし、男たちは守護騎士達を少しも相手にしない。それどころか男の一人が騎士たちとなのはたちを頑強な結界に閉じこめる。
「お前達は少しの間どこかへ行ってもらう」
仮面の男はそう言って、なのはたちを無理矢理結界ごと遥か上空に飛ばした。
その時、突如現れたザフィーラが仮面の男に飛びかかる。仮面の男の隙を伺っていたのだ。
「はぁぁああ‼︎」
「無駄だ」
「ぐうっ‼︎」
だが仮面の男はザフィーラの不意打ちを分かっていたかのように対処する。ザフィーラは仮面の男の一撃にやられ倒されてしまった。
「ザフィーラ‼︎」
「ちくしょう‼︎ 手前ら‼︎ 何が目的なんだ‼︎」
シグナムたちはもがきながら怒声を放つが、音さえも結界に遮断されてしまう。シグナムたちを余所に男たちはなのはとフェイトの姿へと変わった。
「これで全てが終わる」
「お父様の悲願が成就する時が来たわ」
なのはとフェイトの姿を写し、二人になりすました仮面の戦士は、はやてをその場に召還する。
「え……ここは……? あれ? ……なのはちゃんに……フェイトちゃん? 帰ったんじゃ……」
事情がわからず、戸惑うばかりのはやてに仮面の男はなのはの姿で冷たい笑顔を向ける。
「はやてちゃん、貴方ははもう助からないの」
「え……? いきなり何言うとんの? なのはちゃん?」
「シグナムさん達は一生懸命に魔力を蒐集してたけど全てが無駄だった」
「フェイトちゃんまで何を……」
その時、はやての目に捕らわれのシグナム達が目に写った。
「み、みんな……‼︎ どうなってんねん‼︎ なんでみんなが……」
「この人達は悪い事をしたの。だから、消さなくちゃいけないの」
仮面の男はなのはの姿で闇の書をかざす。
「ま、待って‼︎」
「蒐集開始」
守護騎士達の姿が一人ずつ消えていく。
「はや……て……」
「……はやてちゃん……」
「くっ……」
「すみません……」
「シグナム‼︎ ザフィーラ‼︎ シャマル‼︎ ヴィータ‼︎ お願いや‼︎ やめて‼︎ やめてぇぇえ‼︎」
やがて守護騎士達は全員消されてしまった。それと同時にはやての顔が絶望に染まる。
「あ……ああ……みんな……いなくなってもうた……嫌や……こんなの……嫌やぁああああああ‼︎」
はやての悲しみと怒りがはじけ、その思いに呼応した闇の書がはやての前に現れる。
なんとか拘束を解除してその場に辿り着いたなのはとフェイトは必死にはやてに呼びかける。
「はやてちゃん‼︎」
「はやて‼︎」
だが、その場にいたのははやてではなかった。起動の際に意識を失ったはやてに変わって、闇の書の意志がはやての体を動かしているのだ。
「……ああ、また全て終わってしまった……」
闇の書の意志は涙を流し、悲しみにうつむく。そして必死に呼びかけるなのはたちに、闇の書の意志は静かに告げる。
「我は闇の書、我が力の全ては、主の願いのそのままに」
巨大な広域攻撃魔法の光弾が、その頭上に発生していた。
闇の書の覚醒を離れた場所で見守る仮面の男たち。
「計画通りね」
「うん。あとはこのデュランダルを起動させるだけ」
なのはたちと闇の書の意志を戦わせながら、重要な機会を待つ二人。
「っ‼︎ 避けて‼︎」
だが何かを察知したのか、なのはの姿をした仮面の男がフェイトの姿をした仮面の男を突き飛ばす。突き飛ばした瞬間、何者かのバインドが巻きついた。
「なっ‼︎」
突然のことに驚愕していると背後から声をかけられる。
「驚いてる場合じゃねえだろ」
「っ‼︎」
すぐさま応戦しようするも、全身に痺れが走り武器であるカードを落としてしまった。
「あ……あ……」
謎の襲撃者は仮面の男を無力化したことを確認する。
「こっちは終わったぞ、クロノ」
「ああ、こちらも捕縛は完了した」
二人を捕らえたのはクロノとアントだった。やがて仮面の男の変身は解け、正体が露わになる。
「やっぱり、貴方達だったか……」
クロノは悲しげな表情で告げる。仮面の戦士の正体は、変身魔法で姿を変えていたリーゼロッテとリーゼアリアだった。
「……行こう、アント。僕はグレアム提督と話さなくてはいけないことがある」
side:アント
その後本局に戻り、クロノと俺はグレアムのもとを訪れた。
グレアムは俺達の姿を見て全てを理解したようだった。
「あと少しのところだったんだが……これまでか……」
「……話してください。貴方の狙いを」
グレアムは諦めたように深い溜息を吐き、静かに語り始める。
「私の狙いは闇の書の完全なる封印だ。完成前に破壊や捕獲しても転生してしまう闇の書を永遠に止めるためには、闇の書の完成後を狙うしかない。完成から暴走が始まるまでの間に、主もろとも極大の凍結魔法で永久封印。そうすることでページの蒐集の必要のない闇の書は主を食い殺して転生することもなく、その活動を永遠に停止する。という計画だった」
グレアムの話を聞いていたが俺には一つだけ分からないことがあった。
「なんではやてが闇の書の主だって分かったんだ?」
「偶然さ。運が良かったんだ。彼女の生活を援助していたのも私だ。それが封印とともに人生を奪ってしまうことへの贖罪のつもりだった」
クロノは全ての話を聞き終えると静かに口を開く。
「残念ながら、貴方のやったことは犯罪です。暴走が始まるまでの間であれば、闇の書の主は永久凍結をされるような重犯罪者ではなく、その執行は違法だ」
クロノの言葉を聞いたリーゼロッテは怒りの声を上げた。
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ‼︎ そんな法のせいで被害は終わらない‼︎ あなたの家族もそれで死んでしまったのよ⁉︎」
「ロッテ……落ち着きなさい」
「でも……」
リーゼロッテの激昂にも怯むことなくクロノは淡々と語る。
「……たとえ凍結しても、永久封印にはなりえない。どんなに隠しても力を求めるものがいつか闇の書にたどり着き、氷の封印を解いてしまうだろう」
クロノの言葉にグレアム達は力無くうなだれた。
「……では現場が心配なのでこれで」
退出するクロノに続いて俺も出て行こうとした時だ。
「……待ってくれ」
俺はグレアムに呼び止められた。
「ここ最近の君の行動はリーゼ達から聞いていた……。教えてくれ、何故、君は家族を殺した存在のためにそこまで頑張れるんだい?」
……敵討ちなんざ少しも考えてないんだが……。今回、俺が動いた理由はたった一つ。
「……ムカついたからだ。あいつの死ぬことを受け入れてるみたいな笑顔が」
「……」
「だから勝手に依頼を受けた。あいつには絶対に幸せになってもらう」
「……何か方法があるのかい?」
「……一応準備はした。あとは実行するだけだ」
「……そうか。ならこれを持って行くといい」
そう言うとグレアムは一枚のカードを渡してきた。それはグレアムとリーゼたちが目指した永久封印の切り札……デュランダルの待機状態だった。
「……彼女を……はやてを救ってやって欲しい……頼む……」
「……ああ、報酬は全部終わってからしっかりもらうからな」
俺はグレアム達を残し部屋を出た。部屋の外ではクロノが俺を待っていた。
「悪いな、待たせて」
「構わないさ。それより急ごう」
「クロノ、これはお前が持っていてくれ。いざという時は任せた」
俺はデュランダルをクロノに渡すことにした。クロノは最初は驚いていたがすぐに落ち着きを取り戻す。
「いざという時……? ……アント……君は何をするつもりなんだ?」
「博打だ。上手くいきゃ全て丸く収まる。下手したら俺は闇の書と共に封印される」
それを聞いたクロノは少し躊躇うも、俺の手からデュランダルを受け取った。
「……分かった。だが君を封印するつもりはない。必ず成功させてくれ」
「ああ、任せとけよ。こういうピンチは何度も経験してるからな」
アントとクロノは現場へ向かう。全てに終止符を打つために。