バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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心のどこかで

 

 

 

結界内ではなのは達と闇の書の意志による激しい戦闘が続いていた。

 

なのは達は距離を保ちつつ魔法を繰り出す。だが闇の書の意志はなのは達の攻撃を容易く受け、なのは達を弾き飛ばした。

 

「くっ…………え……⁉︎」

 

「あれは……‼︎」

 

体勢を整えたなのは達が空を見上げると膨大な魔力が闇の書の意志に収束されていた。闇の書の意志の魔法陣から生成されるそれは、なのはのスターライトブレイカーだった。

 

「いけない‼︎ なのは‼︎」

 

フェイトはなのはを抱き抱え離脱する。だが避難している途中で、バルディッシュが何かを探知した。

 

《マスター、民間人が結界内に取り残されています》

 

「え⁉︎」

 

フェイトはすぐに民間人の存在を確認しようとした。だが視線を向けようとした瞬間、闇の書の意思のスターライトブレイカーが完成してしまう。

 

「……スターライトブレイカー」

 

「っ‼︎」

 

フェイトは咄嗟に放たれたスターライトブレイカーを躱す。

 

そしてフェイトに抱きかかえられていたなのはは結界内にいる民間人を見つけた。

 

「えっ……アリサちゃんと……すずかちゃん……⁉︎」

 

予想外の事態に驚愕するなのは。アリサとすずかは運の悪い事にスターライトブレイカーの射線上にいた。

 

「フェイトちゃん‼︎ 行って‼︎ アリサちゃんとすずかちゃんがいるの‼︎」

 

「っ‼︎ 分かった‼︎」

 

今の状況に気付いたフェイトはなのはを置いて全速力で二人の元へ向かう。

だがどうあがいても間に合いそうにない。

 

「くぅっ‼︎ もっと速く‼︎」

 

《これ以上は無理です‼︎ マスター‼︎》

 

巨大な光線が二人の目の前まで迫る。

 

「だめぇぇええ‼︎」

 

なのはの叫びも虚しく、アリサとすずかの姿は光線に包まれた──かに思われた。

 

 

 

光線は不自然に捻じ曲がり空へ打ち上げられた。

 

 

 

目を瞑っていたアリサとすずかが恐る恐る目を開くと、そこには槍を持ったアントがいた。

 

「……う……腕が……へし折られるかと思った……」

 

《おそらくあれはなのはのスターライトブレイカーを模倣したものです》

 

「……こんなん食らったら死ぬだろ……よく生きてたな、フェイト」

 

《あの様子だとまだまだ余力を残しています。油断は禁物です、ボス》

 

「あれ相手に油断できるほど能天気じゃねえよ……」

 

アントは腕の痺れをほぐしながらアリサとすずかに振り向く。

 

「怪我は……なさそうだな。クロノ、こいつら転送してやってくれよ」

 

「……君は相変わらず無茶をするな。肝が冷えた」

 

クロノとアントがそんな会話している中、ようやく我に帰ったアリサとすずかがアントに声をかける。

 

「……ア、アント……よね? え……どういうこと……?」

 

「…………目の前に光が……ゆ、夢……?」

 

我には帰ったが二人は未だに理解できない状況に錯乱していた。

 

「質問は後で……っ‼︎」

 

二人を早く避難させようとしたアントだったが、闇の書の意志から大量の魔力弾が放たれた。

 

アントは槍を巧みに操り魔力弾を片っ端から叩き落す。

 

「クロノ‼︎ 二人を連れて早く逃げろ‼︎」

 

「っ……‼︎ 分かった‼︎ 僕もすぐに戻る‼︎ それまで耐えてくれ‼︎」

 

「えっ……⁉︎ ま、待ちなさいよ‼︎ まだ何も……」

 

「アント君……⁉︎」

 

二人はクロノに連れられてその場を去った。それと同時に闇の書の意志はとてつもない速度でアントに迫る。

 

「チェンジ」

 

アントは武器を銃に変え応戦する。だが当たりはするがダメージを与えられていない。

 

「防御が硬すぎるな……この距離じゃ無理か……」

 

闇の書の意志はその速度のまま蹴りを放った。アントは放たれた蹴りを仰け反ってギリギリ躱す。そして武器を小回りの効く短剣に変え、素早く斬りつけた。

 

「無駄だ」

 

だがアントの攻撃は防壁に阻まれた。

闇の書の意志は防御した手とは逆の手に魔力を練りアントに砲撃を放つ。

 

「っ‼︎ らあっ‼︎」

 

至近距離から放たれた砲撃を間一髪で弾き飛ばすアント。

 

「危ねえ……ほぼノータイム砲撃かよ……普通こんな至近距離で撃つか?」

 

「……」

 

闇の書の意志は答えることなくアントに攻撃を仕掛ける。

 

「っ……‼︎ 雷装‼︎」

 

アントは回避の切り札を使い放たれる攻撃を躱す。

 

「……なるほど。逃げるのは得意なようだ。だが、それだけだ。攻撃は大したことがない。ならばこちらは当たるまで攻撃し続けるのみ」

 

そう言うと闇の書の意志は周囲に大量の魔力弾を巡らせた。威力を減らして手数を増やすつもりのようだ。

 

(前にもこんな戦いあったな……あの時は一か八かの勝負だった。だが……)

 

「悪いな、それの対策はもうできてんだ」

 

アントはカートリッジを取り出した。

 

「カートリッジロード」

 

魔力量が増し、更に多くの紫電がアントを包み込んだ。それと共にアントの動きは鋭さと速さを増していく。

 

「くっ……‼︎」

 

闇の書の意思はアントに大量の魔力弾とパンチを浴びせる。だが避けることに特化した戦闘スタイルに加えてカーリッジを使ったことでスピードが上がっているアントに攻撃は当たらない。

 

攻撃を受けつつ数多の攻撃を放つ闇の書の意志。攻撃を避けつつ確実に攻撃を当てるアント。戦いは拮抗していた。

先ほどまでは負けはしないと思っていた闇の書の意思は次第に焦りを見せ始める。

 

闇の書の意志の一瞬の隙を突き、アントの膝が闇の書の意志の防御を掻い潜り腹部に突き刺さる。

 

「ぐふっ……‼︎ くっ……」

 

一瞬息がつまるが痛みを堪えパンチを繰り出す闇の書の意志。

アントはそれに合わせてクロスカウンターを決める。

 

「がっ……」

 

少なくないダメージを食らってよろける闇の書の意思をアントは袈裟懸けに切った。

 

「っ……‼︎」

 

今回の戦いで初めて膝をつく闇の書の意志。アントはそんな闇の書の意志を見下ろす。

 

「カートリッジってのは本当に便利だな。こんなに体が動くのは初めてだ」

 

「くっ……‼︎」

 

(なんなんだこいつは……⁉︎ 魔力はほとんど感じられないに……この底知れない強さはなんだ⁉︎ ……守護騎士達の記憶の中にあったこいつへの恐怖がやっと分かった……こいつは……紛れも無く化け物だ)

 

一向に動きを見せない闇の書の意志にアントは疑問をぶつける。

 

「……なあ、なんでわざわざ俺を潰しに来たんだ?」

 

アントがそう聞いた瞬間、闇の書の意志から怒りのオーラが発せられた。

 

「……なんでだと……⁉︎」

 

闇の書の意志はふらふらと立ち上がり鋭い視線をアントに向ける。

 

「お前が……お前さえいなければ……っ‼︎ 主が悲しむことはなかった‼︎ 傷付くことはなかった……‼︎ ……お前に主の気持ちが分かるか……⁉︎」

 

闇の書の意志の問いかけに対し、アントは淡々と答えた。

 

「……知るかよ。俺は思ったことを言っただけだ」

 

アントがそう言い放った瞬間、闇の書の意志の瞳から感情が消える。

 

「……もういい」

 

闇の書の意志がそう言った瞬間、闇がアントを取り囲んだ。アントと会話している間に張り巡らせていたのだ。

 

「……これなら流石に躱せないだろう。永遠の眠りにつくがいい、アント・バーキン」

 

やがて闇は広がり、アントを飲み込む。

 

「アント君‼︎」

 

「アント‼︎」

 

なのは達が駆けつけてきたが、すでにアントの姿は闇の中に消えてしまっていた。

 

「そ、そんな……」

 

「アントが……」

 

呆然とする二人に無表情で対面する闇の書の意志。

 

「……すべては、安らかな眠りのうちに」   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:アント

 

パチリ

 

目を覚ますとそこは森の中だった。

 

「……ここは……闇の書の内部か……上手く入り込めたな」

 

俺はあえて闇の書に取り込まれた。そうしなくては俺の計画が始まらないからだ。

 

「にしても……この森……何処かで……」

 

なんだろうか……どこか懐かしいような……

 

「何やってんだい、アント? ご飯だよ早く来な」

 

俺が記憶を探っていた時、背後から声をかけられる。

 

「っ……⁉︎」

 

振り返るとそこにいたのは死んだはずのババアがいた。

 

「ババア……」

 

「なんだいその死人を見たみたいな間抜け面は」

 

……ああ、分かっていた……夢を見るとしたらかつてのこの光景を見るだろうって。

 

「ここは俺の居場所()()()からな……」

 

……だがこれは過去だ。現実じゃあない。

 

俺はババアに向き直り口を開く。

 

「……あんたには沢山言いたいことがあった。でも今はやらなきゃいけないことがあるんだ。だから……現実に帰らせてもらう」

 

俺がそう言った直後、突然ババアが……いや……()()()歪み始めた。

 

「は……⁉︎ な、なんだ……? 景色が……変わって……⁉︎」

 

やがて歪みは収まり、そこは何もない真っ白な空間になった。

 

《目覚めたか》

 

俺が唖然としていると、何者かに声をかけられた。どこかで聞いたことのある声だ。

 

「……誰だ?」

 

《我が何者かなど、どうでもよいことだ》

 

………………こいつ、まさか……。

 

「神……か?」

 

《好きに呼ぶがいい》

 

間違いない。この声の主は神で、ここは俺が転生する直前にいた場所だ。だが場所が分かっても意味がわからなかった。予想外な展開に俺は混乱する。

 

「……どういうことだ……? なんでお前が出てくる……?」

 

《貴様が望んだからだ》

 

「……望んだ? 俺が?」

 

《そうだ。貴様は望んだのだ。己が生の()()()()

 

「っ⁉︎」

 

……終わり? ……こいつは何を言って……。

 

あまりの突拍子の無さに思考が一瞬停止する。

 

《思い返すがいい、己の行動を。何故貴様はその身を常に死地に晒し続けている?》

 

「それは……」

 

神にそう言われて俺はこれまでやってきたことを振り返る。

 

「俺は……」

 

…………平和に暮らそうと思えば出来たはずだ……なのにわざわざ危険がつきまとう傭兵をやっていたのは……。

 

「っ……」

 

……闇の書に取り込まれた者は()()()()()()()()。そして俺はさっきまで別の夢を見ていた。つまり俺が欲しいもの、それは……生き場所と死に場所……。

 

「……ははっ、なんだそりゃ……矛盾してやがる……」

 

真っ白い空間に俺の乾いた笑い声が響く。

 

《我が知識を満たした礼だ。貴様を時の鎖から解放し、真の死を与えよう》

 

俺が自分の願いを自覚したのを見計らったのか、神は俺に語りかける。

 

「はあ……真の死か……」

 

俺は笑うのをやめ、神に答え返す。

 

「いや、いらねえや」

 

俺の返答に姿の見えない神は少し驚いたような気配を出す。

 

《……何故だ? 真の死こそ貴様の願いのはず。なぜ拒絶する》

 

「そんなくだらねえ死に方したら、ババアに張り倒されちまう。お前は約束一つ果たせない情けない男に成り下がったのかってな」

 

《……これは最初で最後の機会。これを逃せば貴様はこの先も苦しむことになるだろう》

 

「そんな未来のことまで気にしてられるか。俺には今やることがある。はやてを助けるって約束を果たさなくちゃならない」

 

《……ならば行くがいい、修羅の道を。我はただ見守るのみだ》

 

神がそう言った瞬間、真っ白な空間は消え去り、何も無い真っ暗な空間になる。

 

「……夢が覚めたか」

 

ぼーっとしている俺にルリが話しかけてきた。

 

《ボス。ここまでは順調ですが、本番はこれからです。気を引き締めていきましょう》

 

「……ルリ、俺はどんだけ気を失ってた?」

 

《? いえ、ボスは一瞬たりとも気を失ってはいませんでしたが……どうかされましたか?》

 

「いや、なんでもない」

 

気持ちを切り替えよう。ルリの言う通り、これからが本番だ。

 

「……やるか」

 

《了解です、ボス》

 

ルリは管理局から盗んできたロストロギア、ジュエルサードを一つ吐き出した。

 

「……プレシアには感謝しなくちゃな」

 

プレシアはかつて時の庭園を暴走させアルハザードへ至る道を作ったと言っていた。俺は魔力が使えないはずの虚数空間にさえ道を作れるなら、闇の書の中でも可能なはずだと思いついたのだ。そして直接はやてを起こし、闇の書の管理者権限を取り戻させる。そうすれば守護騎士達を失うことなくはやても助かる。

 

問題はちゃんと道が作れるかどうかだ。結局あの時出来た道がアルハザードヘ通じていたのか確認できてないしな。

 

《それではお願いします、ボス》

 

「よし……封印解除」

 

ジュエルシードに意識を集中させ少しずつ慎重に封印を解いていく。それと同時に身体の中を大量の魔力が流れこんでくる。

 

「ぐっ‼︎ けっ……こう……キツイな……‼︎」

 

俺の身体を時の庭園の代わりにする。つまり、大量の魔力が俺を媒介に放出されるということだ。当然俺にかかる負荷はとてつもなく大きい。ルリの全力のサポートを受けてようやく意識を保つのが精一杯だ。

 

「ぐふっ……‼︎」

 

口から血が流れた。だがかつて暴走しかけたジュエルシードを抑えた時よりマシだ。

 

《シンクロ率、60%……70……80……90……100、道が拓けました‼︎》

 

目の前に一本の白い道が出来ていた。

 

だが大量の魔力は放出し続けなくてはならない。魔力が途切れるとこの道は消えてしまうからだ。

 

……今にも破裂しそうだ。こりゃあ急がねえとな。

 

「行くぞ……ルリ」

 

《……了解です、ボス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、同じ闇の書の中。アントとは違う場所に車椅子の上で眠るはやてがいた。そしてはやての側には銀髪の女性、闇の書の意志が膝をついて寄り添っていた。

 

「う……ん……」

 

「……どうか安らかに……」

 

はやての頬を撫でながら闇の書の意志は子供を寝かせつけるように撫でる。

 

「ん……」

 

「安心してください。そして安らぎの眠りの中へ……⁉︎」

 

はやてを撫でていた闇の書の意志だったが、突然何かを感じ取った。

 

(何だ……⁉︎ この膨大な魔力は……っ‼︎ こちらに近づいて来ている⁉︎)

 

闇の書の意志が視線を魔力の方へ向けると、白い道の向こうからアントの姿が現れた。

 

「っ……⁉︎」

 

(なんだと⁉︎ 夢を抜け出したというのか⁉︎ それにこの魔力はなんだ⁉︎ 力を隠していたのか⁉︎)

 

《八神はやてを確認しました。ジュエルシードを再封印します》

 

闇の書の意志が驚愕しているとアントの魔力が小さくなっていった。

 

「……まじでプレシアには感謝しなきゃだな。お陰で辿り着けた」

 

アントが安堵の溜息を吐いていた時、闇の書の意志は焦っていた。

 

(魔力が小さくなった……? どういうことだ? いや、それよりも奴をどうすれば……ここで戦っては主を巻き込んでしまう……‼︎)

 

「……よお、さっきぶりだ。そこどいてくんねえか?」

 

アントが声をかけると闇の書の意志は鋭い視線をアントに送る。

 

「っ……‼︎ 訳がわからない‼︎ なぜここに来た⁉︎ 夢を抜け出したならそのまま出て行けばいいだろう‼︎ お前は主をどうするつもりだ‼︎」

 

「どうするも何も、俺はそいつを助けに来ただけだぞ?」

 

「っ‼︎ 主を傷つけておいて助けるだと⁉︎ ふざけるな‼︎」

 

「ふざけてねえよ。そういう依頼を本人から受けた」

 

「っ……‼︎ 信じられるか‼︎ やはりお前を近づけさせるわけにはいかない‼︎」

 

「……そうか。なら近づかなくていいや」

 

アントは大きく息を吸い込む。

 

「っ……‼︎ やめろ‼︎」

 

何をする気か察した闇の書の意志はアントの行動を止めようと動き出すが手遅れだった。

 

「いい加減起きろ‼︎ はやてぇええ‼︎」

 

「……ん……」

 

「あ、ああ……主……」

 

アントの呼びかけに薄く目を開くはやて。どうやら完全に目を覚ましたわけではないらしい。

 

闇の書の意志がはやてに気を取られている隙にはやてに近づくアント。はやては薄く開いた目でアントを見つめる。

 

「アント……君?」

 

「いつまで寝ぼけてんだ。帰るぞ」

 

「……でも……みんなは……」

 

「お前の家族は一人も死んじゃいない。呼びかければ応えてくれる」

 

アントの言葉を聞いたはやては微笑みながら涙を流した。

 

「……そうなんかあ……よかったあ……。私……とっても……怖かったんや……みんな消えてもうて……ひとりぼっちになって……それで……」

 

「悪夢ってのは覚めるもんだ。お前の家族が待ってる」

 

アントははやてに手を差し出した。

 

「帰るぞ、はやて」

 

「うん……‼︎」

 

はやてはアントの手を取る。

はやての完全に目を覚まし、アントの顔を見ると華やかに笑った。

 

「ありがとうな、アント君。私を起こしに来てくれて」

 

「言ったろ。どこにいても駆けつけるって。俺は嘘はあんまり言わないんだ」

 

「ははっ、そうやなあ。それと……その……病院でのことなんやけど……」

 

はやてがそう言うと、アントは顔を引きつらせた。

 

「あー、あれはだな……えーと……」

 

「謝らせて欲しいんよ。アント君は私を助けてくれるって言ってたのに信じないで怒っちゃって……ごめんなさい‼︎」

 

車椅子に座ったまま頭を下げるはやて。

 

「いや、待て……あれは俺に非があるというか……謝られると罪悪感が……」

 

《ボス。素直に謝った方がよろしいかと》

 

「っ……………………あの時は悪かった」

 

アントが頭を下げるとはやては嬉しそうに笑う。

 

「よかったあ……これで仲直りや」

 

そしてはやては事の成り行きを見守っていた闇の書の意志と向き合った。

 

「あなたが……闇の書やね?」

 

「あ、あの……」

 

「闇の書が覚醒して一体になっとったからかな。今なら分かるんよ。あなたの苦しみと悲しみが」

 

「……」

 

「せやから私が何とかする」

 

「主……」

 

闇の書の意志は涙を流す。それは戦いの最中の涙とは違って喜びのこもった涙だった。

 

アントは一歩離れた場所から微笑みながら二人を眺める。

 

《……ここまで来れたのは奇跡です。プレシアの技術が高かったこと、そしてボスがジュエルシードの魔力に耐えきったこと、これらが無ければ成功はあり得なかったでしょう》

 

「そうだな。だが気を抜くのはまだ早いだろ。これから先はどうなるか予測できてないんだからな…………っ⁉︎」

 

アントは口から血を吐くと膝をついた。ダメージは確実に蓄積されていたようだ。

 

「アント君⁉︎ 吐血しとるやないか⁉︎ どないしたん⁉︎」

 

「……気にすんな。大したことじゃない」

 

「どう見ても一大事やん‼︎」

 

焦って手をパタパタさせるはやて。

 

「そんなことよりもう時間がない。俺の話を聞いてくれ」

 

アントは有無を言わさぬ口調ではやてに告げた。

 

「う……うう……じゃあ、ここを出たらすぐに病院に行くんやで⁉︎ ええな⁉︎」

 

「分かった分かった」

 

「分かったは一回や‼︎」

 

「……分かった」

 

「よろしい。それで話って何なん?」

 

「ああ、やってもらいたいことがある。お前には……身体を乗っ取られてもらいたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かつての思い出があるとは言え所詮は過去です。居場所を失い、何千何万と死に続けたアントの苦しみはかなりのものだったでしょう。
アントの経歴がとんでもないのは危険な依頼を受け続けたからです。
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