バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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今回は少し短めになってしまいました。


本心は行動に出る

 

半年後、なのはは無事退院した。

 

無事退院してよかったよかった……なんだが……なのはの俺に対する態度がおかしくなっている……。

 

例えば朝。

 

「か、勝手に入ってこないで‼︎」

 

「いや、起こしに来たんだから入らざるをえないだろ……」

 

「だ、だったらノックくらいして欲しかったの‼︎」

 

「寝てるのにノックに反応できるとは思えないんだが……」

 

「いいから出てって‼︎」

 

部屋を追い出されたアントは首を傾げて疑問符を浮かべる。

 

約束破ったことを根に持ってるんだろうか……。

 

そう推理したアントは怒りが収まるまではなのはと距離を置くことにした。

 

 

 

 

 

だが、夜になり、アントはソファーに座ってテレビを見ていた時。

 

「……なあ、なのは」

 

「どうしたのアント君?」

 

「……なんか近いんだが」

 

なのははアントの真横に座っていた。

 

「ここは私の定位置なの」

 

その言葉には、絶対に移動しないという意思がこもっていた。

 

「分かった分かった、なら俺が移動して……」

 

アントはなのはから距離を取るため、立ち上がろうとした。だが、なのはは素早く頭を倒して膝枕をすることでアントを抑え込む。

 

「………………おい、動けないだろ」

 

「こ、この体勢が一番楽なの」

 

顔をプイッと背けるのでどんな表情してるのか分からない。

 

「……」

 

……どういうことだよ……もはや怒ってるのかどうかも分からねえよ……。

 

 

 

 

 

なのはの変化はアントに対する態度だけではなかった。退院してからは仕事量がかなり減った。そしてその代わりに、空いた時間は母である桃子に料理を教わるようになった。

 

「ど、どうかな? 美味しい?」

 

「……うまいな」

 

なのはが作った料理は流石に桃子ほどではないが間違いなくうまいと言えるものだった。

 

なのははパァッと表情を明るくし、照れたように笑う。

 

「よかったぁ……ねえアント君」

 

「ん?」

 

「……また食べてもらっていいかな?」

 

上目遣いで尋ねてくるなのは。

 

「あ、ああ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アントは素振りしながら、ここ数日のなのはの異変について考えていた。そして一つの答えに至る。

 

「なるほど、思春期ってやつか」

 

「……それは少し違うだろ」

 

アントの近くで鍛錬していた恭也は呆れた様子でツッコミを入れる。

 

「じゃあなんですか?」

 

「言いたくはない」

 

「えぇ……」

 

その後も何か知っているなら教えてくれとしつこく問いかけるアントだったが、恭也は頑なに言おうとはしなかった。

 

……うん、これ以上考えても無駄だな。

 

あとは時間が解決してくれるだろう、とアントは考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日経ったある日のこと、全員で夕飯を食べていた時だ。美由希はふと気になったことを口にした。

 

「今更だけどさ、アントってしばらく見ない間に随分背が伸びたよね? 今何歳だっけ?」

 

「二十歳です」

 

その瞬間、高町家の食卓が固まった。

 

「「「「「……」」」」」

 

高町家全員の視線がアントに集中する。

 

「二十歳です」

 

高町家の面々が聞き間違いだろうかという表情をしているのを見たアントは再度答える。

 

「絶対嘘なの‼︎」

 

「嘘じゃないぞ」

 

ほれ、とバイクの免許証を見せるアント。

それを見た高町家の面々は呆然とした表情になった。

 

「……ほ、本当だ……つまり……私より年上……?」

 

「で、でも初めて会った時は11歳だって……」

 

「あの時はそれくらいの歳の方が都合が良かったんだ」

 

「都合がいいって……」

 

「前とは違って、しばらく地球を拠点に動くつもりだからな。二十歳が一番都合がいいんだ」

 

「じゃ、じゃあ本当は何歳なの?」

 

「知らん。歳なんて数えてない」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう話があったの」

 

翌日、なのははフェイト、はやて、アリサ、すずかは学校の屋上で昼食を食べながらアントのことを話した。

 

なのはの話を聞き終えた四人は揃ってうわぁと引いていた。

 

「二十歳って……流石に盛りすぎやろ……よくて十四歳くらいやん……」

 

「でも戸籍上は二十歳で通っちゃってるんだよね?」

 

「そうなの。その上、偽名まで使ってたの……本名は色々と都合が悪いことがあるって……」

 

五人の間に微妙な空気が流れた。

 

「もはや何か罪を犯したみたいになってるわね……」

 

「じゃ、じゃあ誕生日は?」

 

「……一月一日だって」

 

「へぇ〜、それは本当の?」

 

「ううん……『覚えやすいから』って言ってたの……」

 

「効率重視なん⁉︎」

 

「私達……アントのこと何も知らないんだよね……」

 

「そうだね……謎だらけだよ……」

 

そうやって話していた時、ふと、すずかは自身の姉も二十歳であることを思い出していた。

 

「二十歳かあ……ってことは結婚もできる年齢だよね」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

恭也と忍のことを言ったつもりだったすずかだったが、なのは、フェイト、はやては法律上はアントが結婚できるというふうに受け取ってしまった。

三人は俯いたまま顔を真っ赤に染める。

 

「あ、あれ……?」

 

「……随分と分かりやすい反応するわね……」

 

「どういうこと?」

 

「アントと結婚した光景でも思い浮かべてるのよ、きっと」

 

「……アリサちゃんはどうなの?」

 

「わ、私⁉︎」

 

「アント君のこと、ちょっと意識してるよね?」

 

「うっ……」

 

すずかの指摘に心当たりがあったアリサは少し考え込んだ。

 

「……よく分かんないわよ……そりゃあ嫌いじゃないわよ? 助けてもらったこともあるし……でも……うう……」

 

そこまで言いかけて悩ましげに頭を抱えるアリサ。

 

「そ、そういうすずかはどうなのよ⁉︎」

 

「え……」

 

アリサに問われ改めて自分にとってアントはどういう存在なのか考えてみる。

 

「私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、なのは、フェイト、はやては仕事、アリサは用事があるとのことですずかは一人で帰宅していた。

 

……私にとってアント君はなんなんだろう……。

 

結局結論は出ず、すずかはずっと考え込んでいた。

その時、すずかの真横にバイクが止まった。

 

「よ、今帰りか」

 

不意に声をかけられビクッとするすずか。横を見るとバイクに乗ったアントがいた。

 

「アント君……? なんでここに?」

 

「ツーリングの帰りだ」

 

「あ、そうなんだ。楽しそうだね」

 

「まあ地球も悪くないが……速度制限があるってのがな……何回か警察に追い回されたし」

 

「へ、へー……」

 

さらっと出てくるとんでもない話になんて返せばいいのか分からないすずか。

 

「家すぐそこだろ? 送ってやるよ」

 

「え、でも悪いし……」

 

「いいからいいから」

 

アントはすずかにヘルメットを被せるとサイドカーに乗るよう促す。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

結局すずかはアントに送ってもらうことにした。

アントは月村邸ですずかを降ろすと、バイクの向きを変え帰ろうとした。

 

「じゃあまた今度な」

 

「あ……‼︎ ちょっと待って‼︎」

 

すずかは去ろうとするアントに慌てて声をかける。

 

「よかったら寄っていかない? お礼もしたいし」

 

「お礼? 大袈裟だな。ただ送っただけ……」

 

「珍しいお菓子もあるよ?」

 

「お邪魔します」

 

すぐさまエンジンを切りバイクを降りるアント。

 

……やっぱりこういうのに弱いんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すずかとアントは机を挟んで向かい合ってお菓子を食べていた。

 

「うまいうまい」

 

「前から思ってたけど、アント君って食べるの大好きだよね?」

 

「そうだな、普段ろくなもん食えてないしな。ひどい時は虫と泥水だ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

それからアントとすずかがしばらく会話していると、月村家のメイドの一人であるファリンがティーポットを持って現れた。

 

「紅茶のおかわりはいかがですか?」

 

「ああ、頼む」

 

「かしこまりました」

 

ティーカップに紅茶を注ぎ直し、机に戻そうとした時だ。ファリンの手からティーカップが滑り落ちた。

 

「あ、ああっ‼︎」

 

「うおっ」

 

滑り落ちたティーカップはアントの足下の床で砕け散った。

 

「ご、ごめんなさい‼︎ すぐに片付けますから……」

 

慌ててティーカップの破片に手を伸ばすファリン。それを見たアントはファリンの手首を掴んだ。

 

「待て待て。素手は駄目だろ。とりあえずチリトリ持ってきてくれ」

 

「あ、はい‼︎」

 

パタパタと走り去って行くファリン。

その時、アントは自分の指にぬめりとした感触があることに気付いた。

 

「あれ? 指から血が……」

 

どうやら落下の衝撃で飛び散ったガラスの破片で指を切ってしまったようだ。

 

「大丈夫? すぐに絆創膏を……」

 

アントを心配するすずかだったが、ふとアントの指から滴り落ちる血を見て動きを止める。

 

(か、体が……熱い……)

 

自身の体調の変化に戸惑っていると、次第に視界から背景が消え、すずかの目にはアントしか映らなくなっていった。

だがアントはすずかの変化に気付いていなかった。

 

「ああ、別に大丈夫だ。唾でもつけてりゃすぐに治るだろ」

 

アントがそう言って自分の指を咥えようとした時だ。いつの間にか側まで来ていたすずかがアントの手を両手でガシッと掴んだ。

 

「ん? どうした?」

 

すずかはアントのそう問いかけに答えることなく、ゆっくり口を開き

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……はぁっ⁉︎ 何してんだ⁉︎」

 

予想外の事態に慌てて手を引こうとするアントだったがガッチリ掴まれていてビクとも動かない。

 

「ちゅっ……ん……」

 

その間にもすずかはアントの血を吸い続けた。

やがてアントの血を吸い終えたすずかが頬を赤らめ、チロリと舌を出し目を細める。

 

「……おいしい♪」

 

「っ‼︎」

 

小学生とは思えない妖艶さにアントは思わずたじろいでしまう。

 

………………な、なんだ? 何が起きてんだ? いや、ここはとりあえず魔法で気絶させて……。

 

電気で気絶させようとした瞬間、すずかはアントと目を合わせると

 

「動かないで」

 

まるで命令するかのような口調で言い放った。

 

「……………………分かった」

 

その瞬間、アントの表情はなくなり、命令通り動きを止めた。

アントが動きを止めたのを確認したすずかは身を乗り出してアントの首を撫で妖艶に微笑む。

 

「ふふっ、美味しそう…………頂きます♪」

 

徐々にその口をアントの首筋に近付けていく。そして牙が触れそうになったその時だ。

 

「お嬢様? 一体なにを?」

 

チリトリを持ったファリンが不思議そうな表情ですずかを見つめていた。

 

「‼︎」

 

ファリンの声にハッと正気を取り戻したすずか。

 

「わ、私は……何を……?」

 

「アントさんもボーッとして、どうされたのですか?」

 

「はっ……」

 

続いてアントもファリンの呼びかけに意識を取り戻した。

 

「……な、何があったんだ……?」

 

 

 

 

 

 

その後、すずかはすぐさま忍に今回起こった出来事を話した。

すずかに何が起きたのか理解した忍はアントに謝罪した後、吸血鬼の能力について説明した。

 

「人を従わせる魔眼?」

 

「そうなのよ。目を合わせることで使えるの。きっとアント君の血を見て本能がでちゃったのね……でも一回経験しておけば大丈夫よ。次からは自制が効くようになるから」

 

「なるほど」

 

話を聞き終えたアントは椅子から立ち上がった。

 

「じゃあ、そろそろ帰ります。知りたいことも知れたし」

 

「そう。すずか、アント君を見送ってあげて」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出て二人きりになると、すずかはアントに深々と頭を下げる。

 

「……ごめんなさい……私っ……」

 

そこまで言いかけてぎゅっと目を瞑るすずか。

すずかは恐れていた。今回のことでアントに拒絶されてしまうかもしれないということに。

 

「まあ、気にすんな。大したことじゃないしな」

 

「こ、怖くないの?」

 

「別に怖くはねえよ。血を吸われただけだし」

 

きっぱりと即答するアントだったが、すずかは今回自分がしたことに罪の意識を感じてしまっていた。

 

「う、嘘だよ……‼︎ さっきだって私はアント君を襲って……‼︎」

 

「そこまで気にすることじゃねえんだけどな……。そうだ、どうしても信じられねえってんなら……」

 

アントは自分の首をトントンと指した。

 

「飲め」

 

「え……?」

 

アントの言葉に一瞬呆然とするすずか。

 

「……な、なんで……」

 

「お前に吸血されることなんてこれっぽっちも怖くねえってことを行動で示してやる」

 

「いや……それは……その……」

 

突拍子のない提案にすずかはしどろもどろになってしまった。だが吸血鬼の本能か、次第に意識はアントの首筋へと移って行ってしまう。

 

「……本当に……いいの?」

 

「ああ」

 

「……じゃ、じゃあ……」

 

やがてすずかはおずおずとアントの首筋に顔を埋め、牙を突き立て血を吸い始める。

 

ちょっと塩辛くて……なめらかなバターみたい……。

 

すずかはアントの血を吸いながら何かに包まれたような感覚に浸る。

 

……なんだろう……安心するなあ……ずっとこうしていたいような……。

 

だがいつまでも吸うわけにはいかない。やがて十分に血を吸ったすずかはアントから離れた。

 

「な? 怖くねえって言ったろ?」

 

「うん……ありがとう」

 

 

 

それからアントはバイクに乗って去って行った。

アントを見送ったすずかが自分の部屋に戻ろうとした時だ。

 

「すずか」

 

忍に呼び止められた。

 

「……実はまだ言ってないことがあるの」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

忍から衝撃的な事実を教えられたすずかは自分の部屋に戻ると同時にベッドに倒れこんだ。

 

「はあぁぁぁ……」

 

すずかはベッドに仰向けに倒れこむと、先ほど忍から聞いたことを改めて考える。

 

『吸血衝動には二つのパターンがあるの。一つは空腹、そしてもう一つは……』

 

……恋した相手への愛情表現……。

 

「っ‼︎」

 

すずかは先ほどの血を吸ってる時の幸福感を思い出した。

 

……もう、誤魔化せないなぁ……私、アント君のことが……

 

「……好き……みたい……」

 

 

 

 

 

 

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