バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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今回は少しシリアスです。




 

 

 

アントとフェイトはアースラの訓練場にいた。

依頼がなく、高町家で暇を持て余していたアントを同じく暇を持て余していたフェイトが模擬戦に誘ったのだ。

 

「ごめんね? 時間とってもらっちゃって」

 

「どうせ暇だしな。そういや、フェイトとは今まで戦ったことなかったな」

 

「そうだね。この前シグナムと戦ったでしょ? 私も戦ってみたいなって」

 

キラキラした瞳でそう言うフェイト。アントはため息を吐くと屈伸運動を始める。

 

「シグナムもだが、お前も相当のバトルジャンキーだ」

 

アントは準備体操を終え、軽く伸びをする。

 

「さて、始めるか。カートリッジの使用は無し。それでいいな?」

 

フェイトはコクリと頷くとバルディッシュを手に取ると、アントもルリを手に握った。

 

「セットアップ‼︎」

 

「セットアップ」

 

フェイトは大剣を、アントは銃を装備し、二人は向かい合った。

 

「それじゃあ、行くよ‼︎」

 

「こい」

 

開始の合図と共に、フェイトは自身の周囲に槍のような形をした魔力を生成するとアントへ放った。

 

「フォトンランサー‼︎」

 

アントは魔力弾を紙一重で躱しつつ、レールガンを数発撃ち返す。

フェイトはそれを持ち前のスピードで躱し、大剣を振りかざしてアントに突撃した。

 

突撃してくるフェイトに対し、アントは武器を薙刀に変え素早く振り下ろした。

二人の武器は火花を散らしてぶつかり合った。

フェイトは大剣をすぐさま横薙ぎに払う。アントはそれをしゃがんで躱すと、薙刀の柄でフェイトの足を鋭く叩いた。

 

「っ‼︎」

 

バランスを崩すフェイト。そこにお返しと言わんばかりに横薙ぎに振るわれた薙刀が迫る。

 

フェイトは咄嗟にバリアを張って防御した。だが防御した瞬間、アントの拳が腹部に突き刺さる。

 

「かはっ……⁉︎」

 

アントはフェイトがバリアを張った瞬間に槍を手放していた。そして槍に意識を向けているフェイトのがら空きの胴体にパンチを打ったのだった。

 

「っ……‼︎」

 

手痛いダメージを食らい、なんとかその場から逃げようとするフェイト。だがこの時すでにアントは薙刀を足で拾い上げており、フェイトは逃げる間も無く斬りつけられる。

次から次へと振るわれる斬撃を防御するのに精一杯になってしまい、逃げるタイミングを完全に失ってしまったフェイト。

 

……くっ……逃げられない……それに魔力を練る暇がない‼︎ ならここは真正面から突破を‼︎

 

先程のようにカウンターを食らわないように大振りの攻撃は一切せず、魔力量の有利を生かしてアントを正面から押しのけることにした。

 

だがフェイトの思惑に反して、アントは一歩も引くことなく切り結び続けた。

 

確かに一撃の重みはフェイトの方が強かった。本来なら魔力の少ないアントではフェイトの斬撃に耐えられるはずがなかった。だが、薙刀の刃先を大剣に沿わせ若干横にずらすことでフェイトの斬撃を見事に捌いていたのだ。

魔力では劣るアントだったが、戦いの技術はフェイトを上回っていた。

 

このままでは不味いと悟ったフェイトはダメージ覚悟で強引に後ろへ退避した。すると案の定、薙刀の刃先がフェイトの脇腹を捉える。

 

「くぅっ……‼︎」

 

やはり無傷というわけにはいかなかったものの、なんとかアントの間合いから退避したフェイトは、足止めのための魔力弾を放ちながら現在の状況を分析する。

 

(……ダメージは大きいけど、まだやれる)

 

自身の状態を確認すると次はアントの攻略方法を考える。

 

(近距離、中距離、遠距離に対応できるオールラウンダー、そして近接戦闘はアントの方が上……それなら……‼︎)

 

「ソニックフォーム‼︎」

 

バリアジャケットはレオタードにスパッツ、そして手にはフィンブード、足には光の羽を纏うのみとなり、圧倒的な運動性・機動性・攻撃速度を手に入れた分、手足以外は防御力を捨てた。

フェイトは先読みを得意とするアントに対し、自身の最高速度で挑むことにしたのだ。

 

それを見たアントは武器を刀に変えた。

 

「雷装」

 

その言葉と共にアントの周囲を紫電が走る。

フェイトはアントの奥の手を前にゴクリと生唾を飲み込む。

 

アントの雷装は死角が消える。それはつまり、視覚を翻弄出来ないということ。

 

(……でも、翻弄できないわけじゃない‼︎)

 

フェイトはその場から飛び立つと、訓練場の中を縦横無尽に飛び回りつつ、どんどん加速していった。

やがて最高速度に達すると、フィンブードを振りかざしアントに斬りかかる。

 

フェイトが紫電に触れると同時に、アントは回避のために動き始めた。いつもならこのまま無事回避しているはずだった。だが

 

 

フェイトのフィンブレードはアントを捉えた。

 

 

「ぐっ……⁉︎」

 

咄嗟に回避から防御に変更したことでなんとか直撃は防いだ様子のアント。だが魔力量の差が大きすぎたのか、衝撃を受け流しきれず体勢が大きく崩された。

 

そこに更に追い討ちをかけるフェイト。アントはまたしても回避しきれず刀で防御する。

 

雷装を纏っていながらも、フェイトの速度に反応が間に合っていなかった。まさに速度のゴリ押しだった。

 

自身の戦法が有効だと分かったフェイトは、立て続けに攻撃を繰り返す。

 

(いける……雷装で致命傷は避けてるけど、着実にダメージは積み重なってる)

 

やがてダメージが蓄積しすぎたのか、いつ倒れてもおかしくないほどにフラフラになったアント。そこにフェイトの上半身を狙った攻撃を食らい、バランスを崩したアントは仰向けに倒れそうになった。

 

(ここだ‼︎)

 

フェイトは大チャンスだと判断してアントの真上に移動すると、とどめの一撃を振り下ろす。

 

(勝った‼︎)

 

フェイトは勝利を確信した。だが、その時

 

 

 

苦しそうにしていたアントの表情が、ニヤリと意地悪そうな笑顔に変化した。

 

 

 

 

「っ⁉︎」

 

アントの表情の変化に驚くフェイト。その視界には仰け反りつつも、鞘に収められた刀の持ち手に片手を添えるアントの姿が映った。この時、フェイトは自分が嵌められたことに気付いた。

 

(しまった……‼︎)

 

フィンブレードという武器の形状、高速移動の中で攻撃をしているということ、そしてアントはフラフラだということ、この三つの要因により、仰向けに倒れるアントに対して一切警戒することなく真正面からの攻撃を選択してしまったのだった。フェイトはまんまと誘導された。

 

「御神流抜刀術……」

 

刀が抜かれる瞬間、フェイトにはそれがスローモーションに見えた。

 

「虎切」

 

虎切、それは高速・長射程の抜刀術。アントが高町家で学んだ必殺技だった。

 

放たれた斬撃は目に追えない速度でフェイトを袈裟懸けに斬った。

大ダメージを負ったフェイトはそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フェイトは医務室のベッドで目を覚ました。

 

「あれ……? 私……」

 

「おっ、起きたか」

 

目覚めたばかりで少しボーッとしていたフェイトだったが、側にいるアントを見て全て理解した。

 

「そっか……私、負けちゃったんだ……」

 

落ち込むフェイトにアントは声を上げて笑った。

 

「クハハッ、まぁいい勉強になっただろ? お前ら魔導師はああいう騙し討ちに弱い」

 

「うぅ……まさかフラフラしてたのは演技だったなんて……ダメージは入ってると思ってたのに……」

 

「大した演技力だろ? 実戦ではかなり有効なんだぜ? まぁ、確かにダメージは入ってたし、あの時の誘導に引っかからなかったら負けてたのは俺だったかもな」

 

アントの言葉に悔しそうに頰を膨らませるフェイト。

 

「むぅ……次は負けないよ‼︎」

 

「クハハ、いつでも相手してやろう」

 

フェイトが再戦に燃えていると、不意に医務室の扉が開きプレシアが入ってきた。

 

「あら、起きたのね。お疲れ様、フェイト」

 

「母さん⁉︎ 来てたの⁉︎」

 

「ええ、惜しかったわね。まぁ……仕方ないと言えば仕方ないわね。正直私も騙されたもの。あんな戦い方をする魔導師はいままで見たことないわ」

 

「そりゃそうだろうさ。俺の戦い方はあんまり魔力に頼れない奴の戦い方だからな。それに自分が優位だと思っている奴ほど隙が出来るんだ。致命的な隙がな」

 

アントの話を聞いていた二人はなるほどと言わんばかりに頷いた。

その時、プレシアはふとフェイトの方を見た。

 

「それにしても……こんなに傷物にしちゃって……。これは責任取ってもらうしかないわね」

 

「ふぇ⁉︎ な、何言ってるの⁉︎」

 

「お嫁に貰ってもらいなさい」

 

「お、お嫁……⁉︎」

 

顔を真っ赤にしつつ妄想の世界にトリップするフェイト。一方アントは呆れたような目でプレシアを見る。

 

「まだ頭に後遺症が残ってんのか。小学生相手に何を言ってるんだ」

 

「あら、もうすぐ中学生よ。いつまでも子供だと思ってたら、あっという間に大人になっちゃうんだから。貴方も今のうちに相手を探しておいた方がいいじゃない」

 

「いいじゃない、じゃねえよ。なんであんたはいつもそういう話に持っていくんだ」

 

「でもフェイトのこと、嫌いじゃないでしょう?」

 

「いや、人の話を聞け。そもそもそういう問題じゃなくてだな……」

 

「そういう問題よ。嫌いじゃないならそうなる可能性はあるってことだもの」

 

……ああ言えばこう言う……プレシア相手に口論で勝てる気がしない……。

 

これ以上口を開けば追い詰められるのは目に見えている。アントは固く口を閉ざしプレシアを無視することにした。

 

アントがいつもの都合が悪くなった時の態度を取り始めたのを見たプレシアは手をパンと叩いた。

 

「ま、この話はまた今度ってことにしましょう。フェイト、そろそろ戻って来なさい」

 

そう言ってフェイトの肩を軽く揺する。

 

「……はっ……‼︎ べ、別に変なこと考えてたわけじゃないよ⁉︎ 本当だよ⁉︎」

 

分かりやすくオドオドする自分の娘に思わずニヤニヤしてしまうプレシアだったが、ゴホンと咳払いして気を取り直した。

 

「ええ、分かってるわよ。それよりシャワーで汗を流して来たらどう?」

 

「え……あ、うん。それじゃあそうするね」

 

母親があっさり引き下がったことに拍子抜けしつつ、ちょうど汗を流したいと思っていたフェイトはベッドを降りるとシャワー室へ向かって行った。

 

 

 

フェイトが出ていったのを見送ると、プレシアはアントを振り返った。

 

「フェイトは行ったわ。それに周囲に人の気配は無いわよ」

 

「ああ、悪いな」

 

プレシアはアントの前に座り直した。

 

「それで? 突然念話で人払いを頼むような話って何かしら?」

 

プレシアがそう質問すると、アントの表情は先程までとは一変して真剣な表情になった。

 

「ジェイル・スカリエッティについて知ってることを全部聞きたい」

 

「っ‼︎」

 

その名前を聞いた瞬間、プレシアは身を固くした。

 

「……理由を聞いてもいいかしら」

 

「……二年前、俺が地球を離れてから少し経った頃、仕事場に奴がちょっかいかけてくるようになった。新型ガジェットが乱入してきたり、色々と危険なトラップが仕掛けられてたりな」

 

「……どうしてスカリエッティだと分かったの?」

 

「奴自身が教えてくれた。ご丁寧に、ガジェット一機ずつに名前が彫ってあった。見たことのない新型ガジェットにそんなふざけたことができるのは奴くらいだろ?」

 

「……ええ、そうね、十中八九そうだわ……でもなんでアントを……心当たりはあるかしら?」

 

「昔、あいつの最高傑作とやらを消し炭にした」

 

消し炭という物騒な言葉にプレシアは眉をひそめる。

 

「……なるほどね……それなら納得できるわ……」

 

「二年間、俺は奴の影を追い続けた。でもある日突然、パタリと痕跡が消えたんだ」

 

アントはため息を吐くと深く椅子に座りなおした。

 

「奴の狙いがなんなのか。情報を集めようにも裏での奴の情報は完全に消えた。だから表から情報を集めるしかない」

 

「なるほど。管理局の情報網を頼るつもりなのね」

 

「……まあ、そういうことだ。さて、俺の事情は話したんだ。そろそろ話してくれよ」

 

「知ってることと言ってもそんなに無いわよ? 大分昔に共同で研究していただけなんだから」

 

「それでもいい。全部話してくれ」

 

「そうね……生体改造や人造生命体の開発に異常な執念を抱くマッドサイエンティスト。かつて、私がアリシアのクローンを作るために行った計画、プロジェクトFのベースとなった基礎理論を構築した人物よ。並外れて傲慢、そしてサディスティックな性格だったわ。私が知ってるのはこれだけよ」

 

プレシアの話を聞き終えたアントは考え込んだ。

 

(最初は俺に復讐するつもりだと思っていた。でもその割には本気で殺しにきてる感じじゃない。それに俺がガーラを殺してから時間が空き過ぎている。それじゃあ俺を使って人体実験? いや……何か違う……? )

 

「だめだ、分からん。もう少し調べてみるか。この話、なのは達には言わないでくれ」

 

「そうね……彼女達に話しても心配かけるだけだものね」

 

「それもある、でもそれだけじゃない。ジェイル・スカリエッティには強力なバックがついている。そしてその組織は裏社会の組織じゃない。裏社会の組織なら、俺に何かしらの情報は入るはずだからな」

 

アントがそう言うと、プレシアは最初は眉をひそめたが、やがて思い当たることがあったのか、ハッと顔を上げた。

 

「……まさか……それって……」

 

何か気付いた様子のプレシア。アントはゆっくりと頷く。

 

「管理局だ」

 

プレシアは驚愕して目を見開いた。

 

「リンディさんには話をしてある。あの人なら上手く立ち回ってくれるだろ。とりあえず、なのは達はこの事に気付かない限り、安全なはずだ」

 

「貴方は……どうするつもり?」

 

アントは死んだ魚のような目を細め、ニヤリと笑う。

 

「徹底的に相手してやるさ。()()()()、な」

 

 

 

 

 

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