カーーーン‼︎ カーーーン‼︎
とある山奥。そこでは木刀と木刀が交わる音が響いていた。戦っているのはアントと恭也である。
カン‼︎ カン‼︎ カッ‼︎ カカカカカッ‼︎
木刀の速度は次第に増していき、やがて目では捉えきれない速度になった。二人はしばらくの間、その速度を維持したまま打ち合っていた。
「よし、これくらいでいいだろう」
恭也がそう言って木刀を振るうのをやめるのと同時に、アントはバタリと仰向けにひっくり返った。
「……ゼヒュー………ゼヒュー………」
「なんだ情けない。この程度でバテるとはまだまだだな」
「ゼェ……この程度って……ゼェ……朝から晩まで……ロクに休憩してないんですがね……」
アントは今回、美由希、恭也、士郎と共に山籠りに来ていた。
朝は素振り一万回と険しい道を全速力ランニング、昼はサバイバルしつつ筋トレ、そして夜はひたすら実践稽古だった。
「仕方あるまい。俺は今回の山籠りで教えられることを全て教えると決めているからな。当然、御神流の最終奥義も伝授するぞ」
「……わ〜い」
仰向けに倒れたまま万歳するアント。明らかに言葉とテンションが噛み合っていなかった。疲れがピークに達しているのだ。
「嬉しそうでなによりだ」
「……」
アントの死んだ魚のような目から更に生気が抜けていくのが見て分かる瞬間だった。
やがて夕飯の支度が整い、アント達は焚き火を囲って食事を始めた。
「……ガッ、ガッ」
無心で焼き魚に食らいつくアントに美由希は苦笑しつつスープを渡す。
「……ははは、急がなくても、まだまだあるよ? アント君が沢山取ってきてくれたからね」
「中々の手際の良さだったな。サバイバル経験があるのか?」
恭也がそう質問すると、アントは顔を上げ、口の中のものをロクに噛まずに飲み込んだ。
「ケホッ。まぁ昔は山で生活してましたから」
「へぇ〜、前々から思ってたけど色々な経験あるんだね〜。ねえねえ、一番記憶に残ってることってなに?」
「……そうですね……山で生活してた時に近場の火山が噴火したことでしょうか」
「ふ、噴火?」
「ええ、ドカーンって。めっちゃびっくりしました」
「……よく生きてたね……」
「俺はどんな状況でも絶対に生き残りますから」
まるで生き残るのが当然だと言わんばかりのアントの口調に美由希は眉をしかめる。
「駄目だよ。そういう過信が一番良くないんだから。逃げるときはちゃんと逃げないと」
めっ、と注意する美由希に対して、アントは肩をすくめて苦笑を浮かべた。
「クハハ、気を付けますよ」
食後、アントは月明かりで照らされた夜道をのんびりとした様子で散歩していた。
「山での生活ってのも久しぶりだな。まぁ、毒草が少ない分、地球の方が数倍住みやすいが」
《そうですね。ボスはほぼ全ての毒草を食べて覚えていましたからね》
「……やめろ、思い出させるな……」
ヨネ婆さんに反発してロクに話を聞いていなかった頃。アントは食べない方がいいと言われていたキノコや野草を、ルリの制止を無視して纏めて鍋にぶち込み食べたことがあるのだ。
「……マジで生死を彷徨ったな」
「ほう、それは興味深い話だな」
不意に恭也がアントの真横に現れた。
「うぉぉおあああ⁉︎」
驚いて飛びのくアントを恭也は興味深げに眺める。
「ふむ。普段落ち着いているアントがここまで取り乱すとは、珍しいものが見れたな」
「…………俺を驚かすためだけに無音歩行しないでください。っていうか、まじで気付けなかったんですけど……」
「まだまだ修行不足だな。精進するように」
「……」
それから、二人は淡々と夜道を歩く。
「気配を消しきれていないぞ。足音も微かに聞こえる」
「……俺……シンプルに散歩がしたかっただけなんですけど……」
「甘いな。山籠りが始まった時点で休息は無い。常に周囲に気を配れ」
「ストイックすぎる……」
「これくらいは普通だ。なにせ今回の山籠りで俺が教えられることは全て教えるつもりだからな。それと……話は変わるが一つ聞いておきたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「アント、お前は今回の山籠りを終えたら──また死地を渡り歩くのか?」
ぼーっと月を見上げながら歩いていたアントは恭也の放った言葉にピタリと固まった。
「…………なんのこと……」
「誤魔化さずとも分かっている。お前からは時々血の匂いがするからな。それで? どうなんだ?」
アントは恭也の追及に誤魔化すのを諦めて苦笑を浮かべた。
「……くはは、さぁどうでしょう。今のところはそんな物騒な予定はありませんがね」
「…………………そうか、だがこれだけは言わせてもらおう」
恭也は鋭い視線をアントに向ける。
「なのはを泣かせたら許さん」
その言葉は警告そのものだったが、それと共に、色々と危なっかしい弟子を心配しているものでもあった。
その後、アントは無事山籠りを終えた。出迎えたなのはがボロボロになっているアントの姿を見て悲鳴をあげるなどの一悶着はあったりはしたが。
そして山籠りから数日後、アントは依頼を受け、とある次元世界をバイクで疾走していた。
《ボス、目的の遺跡まで残り3kmです》
「……」
《ボス?》
「……ん? ああ…………………なんだって?」
《目的の遺跡まで残り3kmです》
「ああ、分かった」
《……ボス。恭也さんに言われたことでお悩みなのは分かります。ですが今は仕事中です。仕事に専念してください》
ルリに叱責されたアントは頭を振って気持ちを切り替える。
「そうだな。仕事が終わってからゆっくり考えりゃいいよな。悪いな、ルリ」
《いえ、ボスのお役に立つのが私の使命ですから》
やがてアントは目的の遺跡に辿り着いた。
「ここか。なんか随分不気味な入り口だな」
《今回の依頼内容はこの遺跡の調査、そしてロストロギアの確保です》
「珍しいロストロギアだったら言い値で買う、だったな。随分と割りのいい仕事が入ったもんだ」
《そうですね。ここ最近はジェイル・スカリエッティの情報を集めてばかりだったせいで貯金がかなり減ってましたから》
「まあな。でも仕方ないだろ。何をするにも金が必要だからな。とっとと仕事を始めるぞ」
アントは遺跡に潜ると一本道をひたすら歩き続けていた。
「ここまで歩いて道が一本でトラップの気配もなしか。この遺跡はハズレかもな」
《ボス、油断は禁物です。この先に広い空間があります。注意してください》
「そうか、ならここからは気を引き締めて……」
アントがそこまで言いかけた時だ。不意にアントの背後で機械が作動したかのような音が鳴り響いた。
「?」
思わず振り返ったアントの視界に、先程まで歩いてきた道を完全に塞いだ金属の壁が映った。
「………………閉じ込められた?」
《………………そのようですね》
「遺跡の罠か?」
《分かりません。現状ではなんとも……》
「………………この壁ぶち破れると思うか?」
《やってみなければ分かりませんが……壊せたとしても、その余波で生き埋めになる可能性があります》
「転送は?」
《結界が張られているため無理です》
「そういうタイプの遺跡か……管理局に救援要請を出すわけにはいかねえよなぁ……」
《救出と同時に逮捕されますからね。どちらにせよ、電波妨害のせいで救援要請は出せませんが》
「まじか……手詰まり過ぎだろ……じゃあ進むしかねえってことだな……」
アントが慎重に一本道を歩いていると、ルリの言っていた広い空間に辿り着いた。
「ここか……かなり広いな……天井が見えない……」
《ボス‼︎ 前方より複数の反応が‼︎》
ルリがそう警告した瞬間、大量のガジェットが暗闇の中から現れ凄まじい速度でアントヘ迫ってきていた。それと共に力が抜けるような感覚がアントを襲う。
「っ……‼︎ この感じ……AMFか‼︎ ルリ‼︎」
《了解です‼︎》
アントは即座に薙刀を手にすると、先頭のガジェットを串刺しにした。すると、貫かれたガジェットからカチッ、カチッといった時計のような音が響いてくる。
(なんだ? この音──)
次の瞬間、ガジェットは凄まじい光と熱を発し──
アントは金属の壁の前に立っていた。
「は……?」
アントは呆然と前方の見覚えのある壁を見つめていた。
《ボス、どうやら閉じ込められたようです》
何事もなかったかのように振る舞うルリの口調に、アントは一瞬で自分に何が起きたのか悟った。
(死に戻った……?)
《ボス? どうされました?》
ルリが心配そうに声をかけるが、アントは答えることなく思考を巡らせる。
(……あの光と熱……ガジェットが破壊されたことによる爆発じゃない。間違いなく人為的なものだ。それにさっきは突然で気付かなかったが、あのガジェットは最新モデルだった。ということは──)
アントは苦い表情で舌打ちした。
「チッ……嵌められたか。わざわざ招待してくれたようだな……スカリエッティ」
《なっ⁉︎ それはどういう……》
驚愕するルリに対し、アントは落ち着いた様子で壁にもたれかかると煙草を取り出し一服した。
『ルリ、盗聴されてるかもしれないから念話で話すぞ。今回の依頼は奴の罠だった。依頼内容どころか依頼人も全部フェイクだ。その上、更に面倒なことにセーブポイントはここだ。本当に意地の悪いチートだ』
《ボス……例のレアスキルが発動したのですか?》
『ご名答だ。レアスキルっていうかチートだけどな』
アントは吸い終えた煙草の吸殻を踏みにじると、視線を道の先に向けると頬を釣り上げて笑みを作る。
「まぁ、予想外だが好都合だな」
この後のアントのとる行動は決まっていた。何回か死ぬことで出来るだけ多く敵の情報を集めるのだ。
(正直あんまりやりたくねえんだけどな。死ぬまでがめっちゃ痛いし)
アントは溜息を吐くと銃になっているルリを構えた。一回目と同様に広い空間に出ると大量のガジェットが押し寄せてきた。
「カートリッジロード」
カートリッジの魔力を銃に収束し引き金を引く。大量の魔力が込められたレールガンは先頭のガジェットを貫いた。それから数瞬遅れて爆発が起こった。
(破壊から爆発まで約三秒。爆発の範囲はそこまで大きくないな)
ガジェットの分析をしつつ銃から短刀に切り替える。
やがて先頭のガジェットの爆発を躱したガジェット達がアントに襲いかかってきた。
アントは迫りくる複数の攻撃を躱しながら手にした短刀で斬りつけ続けた。小回りがきく短刀で数十回斬りつけることで、どれくらいのダメージで爆発に至るのか調べるためだ。それが分かれば必要最小限の力で倒せるので体力の温存にもなる。
(なかなかタフだな。それに以前よりスピードが速くて、動きが読み難くなってる。だがまぁ、これくらいならなんとかなるか)
粗方分析を終えたアントはガジェットの群れから一旦距離を取った。
『三回目はいらねえや。このまま終わらせるぞ、ルリ』
《了解です、ボス》
アントがルリに声をかけると短刀は二本の刀に変化した。ガジェット達は離れたアントにすぐに向かってくる。
(ここはヒットアンドアウェイだな)
アントは凄まじい速度で迫り来るガジェットの群れに飛び込んだ。ガジェット達はこれみよがしにアントへ襲いかかる。
アントは無駄のない動きで地面を這うように走り去ると共に、間合いに入った全てのガジェットを切り裂いていった。アントの背後では破壊されたガジェットの爆発音が響く。それと同時に大きめの破片も飛んできた。
《ボス》
「分かってる」
アントは振り向きもせずに鉄板を片足で受け止めると、それに飛び乗り、まるでサーフィンでもするかのように爆風を乗りこなした。
「こりゃあ便利だな。移動が楽だ」
巧みに鉄板を操りつつ次から次へとガジェットを破壊していくアント。ガジェット達は予測不能な動きをするアントを捉えることが出来ず一方的に破壊されていくのだった。
・
・
・
「これでラストっと」
そう言って刀を鞘に納めると、数瞬遅れて最後の一機が爆発した。
アントの周囲には大量のガジェットの破片と爆発で焦げた跡が残った。
《お見事です》
『……やっと終わったな。地味に疲れた……』
アントが一息ついたその時だ。
《ボス‼︎ 膨大な魔力反応です‼︎ 気を付けて‼︎》
ルリが慌てた様子で警告するとともに、頭にフルフェイスヘルメットのような仮面を被った大柄な男の姿が現れた。その両手には無骨な籠手が嵌められている。
「……これからが本番って感じだな」
二本の刀を手に握りしめ、迫ってくる男に歩み寄るアント。
やがて両者の距離が目と鼻の先まで近付くと、二人は同時に動いた。
アントの刀と男の籠手を纏った拳が目にも止まらない速度で衝突する。だがアントは押し負けて吹き飛ばされてしまった。アントは慌てて空中で体勢を整える。
(……くそっ、少しずらしたのにこの威力かよ……こりゃあ出し惜しみしてる場合じゃねえ)
「チェンジ‼︎ カートリッジロード‼︎」
得物を銃に変え、地面に降りる前に男へ引き金を引く。
だが男はスッと片手を前に出すと、弾丸を手のひらで受け止めてしまった。
(嘘だろ⁉︎ 片手で止められた⁉︎)
アントは内心驚愕するが、すぐに思考を切り替えた。
「ルリ、雷装。そしてカートリッジの上乗せだ」
《了解です》
自身の回避性能を上げ、改めて男を観察するアント。
(野郎……こっちの体勢が整うまで待ってやがった。余裕があるからか、それとも他に狙いがあるのか……)
アントがそう思考していると、突然男の姿が消え、アントの目の前に現れた。
「っ⁉︎」
男は振りかぶった拳をそのまま叩きつける。
アントは咄嗟に身を捻り間一髪で回避した。拳はアントではなく真下の地面に叩きつけられた。
地面は男を中心に大きな亀裂が入り、またしてもアントはその衝撃で吹き飛ばされてしまった。
「くっ……‼︎」
男は吹き飛ぶアントに凄まじい速度で追いつくと、アントを蹴り上げた。
「がっ……‼︎」
咄嗟に身体の軸をずらすことで衝撃を受け流しはしたものの、ダメージは多大だった。腹部を蹴られたせいか呼吸がうまくいかない。
(息が……出来ねえ……‼︎)
男が打ち上げられているアントの頭上に現れた。
アントの視界には右手を大きく振りかぶっている男の姿が映っているものの、先程のダメージと体にかかる凄まじい重力のせいで回避行動が取れない。
「っ……ルリ……‼︎」
このままトドメを刺されるかに思えたアントだったが、咄嗟に自身の目の前に魔力障壁を出現させた。
アントの身体が自分で作った障壁にぶち当たり空中で急ブレーキすると、男の拳は空を切った。
「カートリッジ……ロード……デトロイトバスター……」
アントは空振りしたことで隙だらけになっている男に向けて砲撃を放った。
銀色の光が男を包み込んだ。
地面に不時着したアントはすぐに体勢を整えると、すぐさま仕留めきれたのか確認する。
だが男は何事もなかったかのようにそこに浮いていた。アントは驚愕して目を見開いた。
『嘘だろ……ロクに収束出来てなかったとはいえ……あれ食らって無傷なのかよ……』
《……ボス、お逃げください。今のボスではあれにダメージを与えるのは無理です》
『……そうしたいのは山々だけどな、どうやらあちらさんは逃す気はないようだ》
アントの視界に大量の魔力弾を生成する男の姿が映る。
男が手を振りかざすと同時に魔力弾が発射された。アントは咄嗟に得物を刀に変えると魔力弾を切り裂きながら回避していく。
(一つずつに込められている魔力が多すぎる……このままじゃ死ぬな。それなら…………この際死んでもいいか)
アントは男のいる方向を睨み付けるとルリに指示を出す。
『ルリ……俺の飛んだ先に足場を作れ。魔力残量は気にせずにな』
《……了解です》
ルリの返事を聞いたアントは雨のように降り注ぐ魔力弾の中で大きくジャンプし、男に向かってまっすぐ強引に突き進む。
多数の魔力弾がアントの身体を貫いた。だがアントは構うことなく突き進む。
「⁉︎」
アントの無茶苦茶な突撃に男は意表を突かれた様子だったが、アントが目の前に迫っているのに気付くと素早くパンチを繰り出そうとする。だがその瞬間、アントの姿が一瞬消え、男の背後にフッと現れる。
「神速」
刀を鞘にチンッと納めるアント。
どれほど強靭な者でも攻撃する瞬間が最も脆くなる。アントは男が攻撃しようとするタイミングに合わせて、恭也から教わった御神流の必殺技を使用したのだ。
男の体に数瞬遅れて袈裟懸けに傷が現れ血が吹き出る。
「……‼︎」
男はガクッと地面に崩れ落ちた。だがアントのダメージも凄まじく、全身から血を流しながら膝をついた。
(危なかった……今の俺じゃあコンマ0.5秒くらいしか神速は使えないからな……)
時間がかかればかかるほどジリ貧なあの状況では、アントは無理をしてでも殺される前に男に接近するしかなかったのだ。
アントが血を流し過ぎて弱っていると、どこからかともなく拍手の音が鳴り響いた。
「いやぁ、流石だね。今のは一体なにかな?」
現れたのは広域指名手配がかかっている次元犯罪者にしてマッドサイエンティスト、ジェイル・スカリエッティだった。
「はじめまして、アント・バーキン。お会い出来て光栄だよ」
「予想通りすぎてまったく驚けねえな……それで? 弱って抵抗できない俺をどうするつもりだ……?」
「ふはははっ、確かに弱ってはいるが、隙があれば私を殺すつもりなのだろう? 何、少し話をしたいだけさ」
スカリエッティは自身の背後にある椅子に座ると愉快そうに語り始めた。
「私が君を認識したのは五年ほど前、とある男のデバイスを君が奪い取った時だ」
「……デバイス……? ……ルリのことか?」
「その通り。君のデバイスは私が実験用として作り上げたものなのだよ」
アントは心の中で舌打ちした。
そこからか。まさか最初っからとは思わなかった。
「……それで? 返して欲しいとでも言うつもりか?」
「まさか。そのデバイスは君が使ってくれて構わないとも。今の話はただのきっかけだからね。決定的に興味を持ったのは、かの王国にてガーラが負けた時だ。私はその結果を予想していなかった。あの場にはガーラのスペックに勝る存在など皆無だったからね」
スカリエッティはそこで言葉を切るとアントを指差した。
「だが君は勝った。騙し討ちではあったが間違いなく勝利した。私は君のこれまでの経歴を全て調べたよ。その結果、ほとんどがギリギリで勝利を収めていた。悪運が強すぎるのか、それとも野生の勘ってやつなのか。はたまた何かしらのレアスキルか。なんにせよ、この経歴は異常だ。君は言うなれば究極の死に損ないと言えるだろう」
死に損ない?
その言葉を心の中で呟くと、アントは全身に痛みが走るのも気にすることなく笑い始める。
「ク、クハッ……ハハ、ハハハハハッ‼︎」
突然笑い始めたアントにスカリエッティは不思議そうな表情で問いかける。
「何がそんなにおかしいのかね?」
するとアントは笑いを抑え目をこすりつつスカリエッティを見た。
「そりゃあ……笑うだろ……史上最悪の天才なんて呼ばれてる奴に……ここまで見当違いなことを言われたんだからな……。死に損ないなんて……俺とは一番程遠い言葉だ」
死に損ないとは死ぬべきタイミングを逃した者のこと。アントのこれまでに死ぬタイミングは無かった。神からもらったチートのせいで死ぬことなんて無かったからだ。
強いて言うなら──
「……生き損ないって言うんだよ……俺みたいな奴は……な」
アントは生きるべきタイミングを逃したのだ。前世も含め、恵まれているということに気付けなかった。その結果が今である。何処にも居着けずにフラフラと彷徨ってる。
(いや、今はそんなことどうでもいいか。それよりも……)
時間を稼いだことで若干回復出来たアントはスカリエッティを殺すため動こうとした。
──その時だ
《ボス‼︎ 後ろ‼︎》
アントの背後に先程倒した男の姿が現れアントを殴り飛ばした。アントの身体が壁に叩きつけられズルズルと崩れ落ちる。
「ふむ……実に興味深い話だったがね、どうやら時間のようだ。身体の調子はどうかな?」
スカリエッティが問いかけると、男はアントに切られた場所をなぞる。
「だいぶ深く切られてしまいました。それに力が上手く制御出来ません。やはりまだ時期ではなかったようです」
「なるほど、流石に一筋縄じゃいかないようだね。もう少し調節してみようか」
「了解です」
男はやるべきことは終わったと仮面を外した。
アントは薄れゆく意識の中、必死に顔を上げ男の顔を見る。
「……てめえは……っ‼︎」
「久しぶりだな。アント・バーキン」
その男は、かつてアントが始末したはずの最強のナンバーズ、ガーラだった。
「……クローン……か……?」
「残念ながら本物だ。あの時ドクターの転送装置に助けられたのでな」
「……なるほどな……やっと分かった……俺を追い回す理由が……。要はリベンジしたいってわけか……よっぽど俺が憎いみたいだな……」
アントは全て理解した。スカリエッティは気に食わないのだ。誰にも負けないはずの究極の人造生命体が、アント・バーキンという大した魔力もない雑魚に負けたことが。
「……その通りだとも。私は君が憎い。だがこの場で殺すつもりはない。今回はまだガーラの調整が上手くいってなかったようだからね。最後の舞台までに完璧に仕上げるさ。その時までせいぜい生き延びてくれたまえよ、フハハハハハハハハハ‼︎」
そしてガーラとアントの視線がぶつかり合う。
「次こそは……必ず」
「……返り討ちにしてやるよ……筋肉ダルマ」
やがてスカリエッティとガーラの周囲に光が瞬き始め、二人は転送装置を使って去って行った。
残されたアントは体から力を抜き天井を見上げる。
「クハハッ……おめでたい奴らだ……俺がアンタの言う最後の舞台まで大人しく待つわけねえだろ……でも今は……ルリ」
《はい、なんでしょうか》
「休みたい」
《了解です。結界が消失したので早速転送します》
こうして、アント達も遺跡から姿を消したのだった。