バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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あけましておめでとうございます。遅くなりましが新年一発目です。



Strikers編
あの日のこと


ある日の管理局の一室、そこでは一人の女性局員が忙しそうにペンを走らせていた。それに伴い彼女のデスクを覆っていた書類の山はどんどん減っていく。

 

やがて書類は全て無くなり、とめどなく動いていたペンは机に置かれた。

 

「よっっしゃ……‼︎終わったぁ〜……‼︎」

 

やり切った表情で大きく伸びをする。

 

「お疲れ様なのです、はやてちゃん」

 

はやてのユニゾンデバイス、ツヴァイが労いの言葉と共にお茶を差し出した。

 

「ああ、ありがとうな」

 

お茶を受け取りつつ手元の資料を感慨深げに眺めるはやて。

 

「……やっとここまできたなぁ」

 

はやては現在、新しく設立した部隊の部隊長を務めている。

部隊の名前は機動六課。ロストロギア関連の危険な任務を扱う古代遺物管理部の部隊でレリックというロストロギアの回収を専任としていた。

メンバーはなのは、フェイトを隊長として将来有望な新人が四人。はやてが考えていた最高の布陣となっている。

 

「失礼するわ」

 

一仕事終えのんびりしているとノックと同時にどこかウキウキした様子のアリサが入ってきた。その手には大量の書類が積み重なっていた。

 

「……」

 

「この世の終わりみたいな顔ね」

 

「……アリサちゃんは私を殺す気なんや……」

 

「仕方ないでしょ? 出来たばかりの部隊なんだから。終わりなんてまだまだ先の話よ」

 

「……私には休みなんて無いってわけやな……」

 

諦めたようなオーラを放つはやて。アリサはそんなはやてに手元の書類を渡す。

 

「はいこれ、新人達の新しいデバイスの資料よ。せっかくだから最新の技術を組み込むことにしたわ。特に力を入れたのはインテリジェンスデバイスね。将来的にはこれを応用したデバイスを目玉商品として売りに──」

 

「ちょ、ちょい待ち‼︎ それくらいにしといてや‼︎ 話し始めると長いんやから……」

 

はやての制止にアリサは渋々といった様子で話をやめる。

 

「そう……まあいいわ。とりあえず目を通しておいてちょうだい。これでいいならすずかとシャーリーに伝えるから」

 

そう言うアリサの顔は完全に技術者のものだった。

現在のアリサはデバイスマイスター補佐となりデバイスマイスターであるすずかのサポートをしている。

 

「なんかなぁ……二人ともモノ作りのプロって感じになってきたなあ。アリサちゃんは商人っぽさもあるけど」

 

「当然よ。何を売りにしているのか分からなかったら売れるものも売れないわ」

 

「資格取った時からいつか独立して店を持ちたいなんて言ってたけど、ぶれんなあ」

 

「まあね。プレシアさんにも色々と教わってるから知識だけなら誰にも負けないわよ?」

 

ふふん、と得意げなアリサ。その時ふと、気になっていたことを聞いてみる。

 

「それで? あいつの事は何か分かったのかしら?」

 

アリサの質問にはやては渋い顔をすると大きく溜息をついた。

 

「……ダメやな、なんにも分からへん。経歴も年齢も嘘だらけ。フェイトちゃんやなのはちゃんが目撃情報を集めてくれてるけど……噂ぐらいしか知らん奴が大半。知ってそうな奴は怖がって話してくれないらしいんや……もはや都市伝説扱いやな」

 

どれだけ調べても虚実の混じった実績ぐらいしか分からない。完全に打つ手なしだった。

 

(この私にここまで苦労させおって……あのアホ、見つけたらどうしてやろうか……)

 

満面の笑顔と共に若干の怒りを滲ませる。

 

「……そう」

 

何も手がかりがないと分かり少し落ち込むアリサ。

その時、ツヴァイのもとへ連絡が入る。

 

「はやてちゃん、シグナムから連絡です。模擬戦をしたいそうですよ?」

 

「模擬戦? 相手は誰や?」

 

「えーっと、エリオです」

 

「あ〜……例の……」

 

悩ましげな様子のはやて。アリサは不思議そうに尋ねる。

 

「どうしたの? エリオって確か新人の一人よね? 何か問題でもあるの?」

 

「うーん、問題があるわけやないんよ。ただちょっと気がかりな事があってなあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練室、そこではシグナムとエリオが向かい合っていた。

 

「ここなら遠慮はいらない。全力で戦え」

 

力強い眼光がエリオを貫く。

 

「は、はい‼︎」

 

シグナムの気迫に緊張した面持ちで槍を構えるエリオ。シグナムは剣に手をかけながらその姿を注意深く観察する。

 

(打ち込みにくい構えだ。だが緊張しているせいか力が入り過ぎているな)

 

「いきます‼︎」

 

まっすぐかつ愚直に繰り出される槍。まさしくエリオの性格を表しているかのような攻撃だった。

 

「ふむ」

 

ある程度攻撃を受けた。小手調べに軽く攻撃してみる。するとエリオはぎこちないながらもしっかりと防いで見せた。

 

「これくらいなら防ぐか……」

 

「え……?」

 

「いや、こちらの話だ。そろそろペースを上げていくぞ」

 

その言葉はエリオにとって地獄のような時間の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

エリオの体力はすでに限界だった。非殺傷とはいえシグナムの容赦ない攻撃を受け続けた体はすでにボロボロだった。

そんなエリオに対してシグナムは息一つ切らしていなかった。

 

「どうした? もう終わりか、エリオ? 」

 

「いえ……‼︎ まだ出来ます‼︎」

 

エリオはフラフラと槍を構え直した。

 

「はぁぁああ‼︎」

 

シグナムは口元に笑みを浮かべる。

 

(いい気迫だ)

 

エリオのスピードに合わせて剣を振り下ろす。するとエリオが一瞬加速し懐に潜り込まれる。どうやら渾身の一撃を放つつもりのようだ。

 

「ほう」

 

予想外の動きに感心するシグナム。そこへスピードの乗った突きが繰り出された。

 

今のはかなりいい動きだった。だが──

 

「甘い‼︎」

 

剣を振り下ろし迫り来る槍を叩き落とす。エリオの手から槍が離れていった。

 

(こんなところか)

 

ここで終わりにしようと思った──その時だ。

 

シグナムの顔めがけて蹴りが迫っていた。

 

「っ⁉︎」

 

まずいっ‼︎

 

咄嗟に振り下ろしていた剣の軌道を変え強引に薙ぎ払う。すると剣はエリオの胴体に命中し、吹っ飛ばした。

一瞬呆然としていたシグナムだったが自分がした事を思い出し慌ててエリオのもとへ駆け寄る。

 

「す、すまない‼︎ 大丈夫か⁉︎」

 

するとエリオは倒れたまま目を回していた。

 

「……きゅ〜……」

 

 

 

 

 

 

エリオはすぐさま救護室へ運ばれた。見るからに怒った様子のシャマルの前で小さく縮こまるシグナム。

 

「やり過ぎです」

 

「……すまない」

 

「今回は軽傷で済んだけど、当たりどころが悪かったら大怪我だったのよ?」

 

側ではなのはとフェイトがホッとした様子でエリオを見る。二人は先ほどの手合わせを見ていたのだ。

 

「よかった……シグナムの剣を受けたのを見た時はヒヤッとしたよ」

 

一方、なのは達と一緒に見学していたヴィータは真面目な表情で口を開いた。

 

「さっきの……どう思う?」

 

ヴィータの問いかけに二人は悩ましげに首を傾げた。

 

「うーん……戦ってる時の感じは新人そのものだよね。でも所々新人とは思えない動きをしてる」

 

「そうだね……シグナムの懐に潜り込んだ時、突然切り替わったっていうか……」

 

「ああ、あのカウンター……って言っていいのか? シグナムが槍を叩き落とすのを見越して蹴りにいってやがった」

 

「誰かに教わったのかな? そうじゃなきゃ説明がつかないよね?」

 

「スカウトしてきたのはフェイトだったよな? 経歴にそんな記載あったのか?」

 

するとフェイトは首を横に振った。

 

「どこにもそんな事は書かれてなかった。スカウトしに行った時も戦ってるところは見たけど今日ほど異常じゃなかったし……」

 

「実力を隠してる……とか?」

 

なのはの言葉にシグナムが異議を唱えた。

 

「それはない。剣を交えれば分かる。あれは紛れもなく全力で戦っていた」

 

「でもあれは誰かに教わってないと無理だと思う」

 

「つまり基礎中の基礎だけ教えてああいうカウンターを教えた奴がいるってことか? どんな偏屈野郎だ」

 

ヴィータの呆れたような物言いになのはとフェイトは同意するように苦笑を浮かべた。

 

「とりあえず、しばらくは様子を見よう」

 

「それしかなさそうだね」

 

そう結論付けなのは達は各自の仕事場へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年、エリオ・モンディアルの人生は幸せだった。富豪であるモンディアル家に生まれ優しい父と母に愛されて育った。だが、その幸せは彼が三歳の時、唐突に終わりを告げた。

 

彼の家に白衣を着た男と武装した男達が現れ、エリオを引き渡せと要求してきたのだ。当然、両親は反抗した。

 

「そんなこと許すわけないだろう‼︎」

 

「そうよ‼︎ 管理局に通報するわよ‼︎」

 

だが白衣の男は両親を嘲るように笑った。

 

「管理局に来られて困るのは貴方達の方でしょう?」

 

「な、何を言って……」

 

「プロジェクトF」

 

その単語を聞いた瞬間、両親は硬直した。

 

「本物の貴方達の息子はとっくの昔に病気で死んでいる。そうでしょう?」

 

「「……」」

 

両親は自分達の息子の死を受け入れられなかった。エリオは当時すでに違法研究とされていたプロジェクトFによって生み出された特殊クローンだった。

 

俯く両親。白衣の男は無言で武装した男達に指示を出す。

 

「い、いやだ‼︎ お父さん‼︎ お母さん‼︎ 助けて‼︎」

 

バインドをかけられ担がれる。エリオは必死に両親に助けを求めた。

 

だが両親は悲しげな目をするだけで助けようとはしなかった。諦めたのだ。

人形のために自分達が危険にさらされるような事は出来ない。

 

エリオは絶望した。

 

研究施設では非人道的な扱いをされた。ほぼ毎日人体実験され、研究員には暴力を振るわれた。完全に監禁された状態で星すら見ることが出来なかった。

 

最初エリオは泣き叫び助けを求めた。だが助けてくれる人は現れなかった。

自分は人形だから、捨てられるのも誰も助けてくれないのも当たり前。ならば抵抗してもどうしようもない。

その考えは次第にエリオを蝕み生きる気力を奪っていく。終いには感情を表に出すことはなくなってしまった。

 

 

 

そんなある日、エリオがいつものように部屋でうずくまっていた時のことだ。

彼の耳に微かな悲鳴が聞こえて来たのだ。

 

「な、なんだお前は──ぐふぅっ‼︎」

 

「ひっ……や、やめ……‼︎ ギャァァアア‼︎」

 

「アァァアアア‼︎ ごめんなさい‼︎ ごめんなさい‼︎ 許して……」

 

悲鳴の正体はいつもエリオに暴力を振るう研究員だった。

しばらくすると悲鳴は途絶え、ゆったりとした足音が部屋の外に響く。

 

やがて足音はエリオの部屋の前で止まった。

 

エリオが無感情で部屋の隅に座り込んでいると、ゆっくりと扉が開いた。

 

入って来たのは黒髪で死んだ魚のような黒い目をした男だった。男は眉をひそめると手に持っていた槍を肩に担ぎ、エリオのいる部屋を見回す。

 

「辛気臭い場所だな。まるで牢屋だ」

 

男の視線が少年の姿を捉えた。エリオは男を無感情に見つめ返す。

 

「ガキ?」

 

男はエリオの前にしゃがみ視線を合わせた。

 

「どこのガキだ? 名前は?」

 

「……」

 

エリオは答えない。答える気力もない。身動き一つしない。

 

すると男は無言で槍を振り上げた。

 

ああ、このまま殺されるんだ。エリオは諦めたように目を瞑った。

 

 

ガシャン‼︎

 

 

だが、薙刀は少年ではなく少年を拘束していた鎖を切り裂いた。

 

「……………?」

 

不思議に思い目を開くと、男は手に持っていた槍を消しエリオを背負った。

 

「軽いな。この様子じゃロクなもん食えてねえんだろ? まずは飯だ」

 

男の背中は広く頼もしいものだった。不思議だった。とても暖かかった。

エリオは研究所に連れてこられてから初めて安らかな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ……? ここは……」

 

目を覚ますと救護室のベッドの上だった。周囲には誰もいない。

自分は確か模擬戦をしていたはずと思い出す。

 

「そうだ……吹っ飛ばされて……気を失っちゃったのか……」

 

エリオは先程みたのが夢だと分かり安心しつつ、少し残念な気持ちになる。

 

だがそうも言ってられない。エリオはベッドから起き上がり乱れていた服装を整える。その間、先程の夢に見た男の姿を思い浮かべていた。

 

「久しぶりに会いたいな……今頃どうしてるんだろう……」

 

僕をあの地獄から連れ出してくれた恩人。そして──僕が憧れた人。

 

 

 

「──アント兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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