新人達も訓練に慣れ始めた頃。新たにデバイスが支給された。
「ほら、見てティア‼︎ 私のデバイス、インテリジェントデバイスだよ‼︎ すごいよ‼︎」
ピョンピョンと飛び跳ね興奮気味に自分のデバイスを見せる、スバル・ナカジマ。
「分かったから落ち着きなさい、スバル」
スバルの相棒であるティアナ・ランスターは相棒を宥めつつ自身へ支給されたインテリジェントデバイスを嬉しそうに見つめる。
「エリオとキャロのデバイスは?」
若干興奮が収まったスバルは二人へ質問する。
「ボクとキャロはリミッターの解除をしてもらってます。これから実力に合わせて、何段階かのリミッター解除をしていくそうです」
「これまでとは比べ物にならない性能になってるらしいんです。これでもっとお役に立てます‼︎」
「いいねぇ‼︎ 私だって負けないよ?」
「何張り合ってんのよ、まったく」
すずかは自分達が作ったデバイスが新人達へ支給されるのを遠巻きに眺めていた。
どうやら相当気に入ってくれたようだ。
「私、やっぱりこのお仕事好きだなあ。アリサちゃんはどう思う?」
ニコニコ笑いつつ側にいたアリサへ同意を求める。
「自分達で一生懸命作ったデバイスがあんなに喜んで貰えるのは悪くないわね」
すずかと同じく、嬉しそうに話すアリサ。
「デバイスを弄ったり作ったりするのも面白いけど、それを大切に使ってくれる人に届けたいって思えるわ」
「ふふふ、夢だもんね?」
「ええ、絶対にいつか自分だけの店を持つわ。その時はすずか、よろしく頼むわよ?」
「うんっ。当然だよ」
ふと、すずかはしみじみとした様子で遠くを見つめる。
「……随分遠くまで来ちゃったね」
「そうね。きっかけはアントを追いかけることだったわ。でもこの世界に来てやりたいことができた」
「自分達の力だけでどこまでやれるのか、だったよね」
「ええ……」
少々元気無さげに答えるアリサ。すずかは口元に笑みを浮かべて聞いてみる。
「会いたい? アントに」
「な⁉︎ べ、別にそんなこと考えてたわけじゃ……」
「私は会いたいよ。それで、側で見てて欲しいかな」
「……」
アリサはすずかの真っ直ぐな言葉に黙ってしまう。
そして軽くそっぽを向くとすずかにも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「……私だって」
その時だった。
突如メンテナンスルームに警報が鳴り響いた。
緊急警報と同時に、ラボのメインモニターが赤く点滅し、アラートの文字が表示される。
「このアラートって‼︎」
「一級警戒態勢?」
浮かれていた新人達の顔が一気に引き締まる。
「グリフィス君‼︎」
なのはの声に反応するように、メインモニターに副部隊長のグリフィス・ローランが現れる。
「はい。教会本部から出動要請です!」
『なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君。こちらはやて』
「状況は?」
メインモニターの両隣のモニターに、はやてが映った。
緊迫した空気が漂う。
はやてが口早に事態を説明する。
『教会の調査団が追っていたレリックらしき物が見つかった。場所は、エイリの山岳丘陵地帯。目標は山岳リニアレールで移動中』
「移動中って……」
フェイトが声を上げる。
「まさか‼︎」
なのはは嫌な予感がしたのか、息を飲む。
『そのまさかや。内部に侵入したガジェットのせいで車両の制御が奪われてる。リニアレール車内のガジェットは、最低でも30体。大型や飛行型の未確認のタイプがでてくるかも知れへん』
(リニアレールの貨物……って事は無人車両?)
自然と戦略を思い描くティアナ。フォワードメンバーで出動した場合のシミュレーションを。
『かなりハードな初出動や。なのはちゃん、フェイトちゃん、いけるか? 』
「私はいつでも」
間髪入れずフェイトが答える。
「私も‼︎」
なのはもすぐに答えた。
二人の返事に、はやての視線がフォワードメンバーに移る。
『スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。みんなもOKか?』
「「「「はい‼︎」」」」
『よし、いいお返事や。シフトはA‐3。グリフィス君は隊舎での指揮、リインは戦闘管制、ツヴァイはリインの補助。なのはちゃんとフェイトちゃんは現場指揮』
素早く、次々と指示を出すはやて。
普段の優しげでおちゃめな雰囲気しか知らない者なら、圧倒されてしまうような勢いだ。
『ほんなら、起動六課フォワード部隊、出動‼︎』
「「「「「「はい‼︎」」」」」」
こうして、新人達は初任務に挑むことになった。
ヴァイス・グランセニック陸曹が操縦するヘリに乗り込んだフォワードメンバー。
「スバル、ティアナ。新デバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、練習通りで大丈夫だからね」
「はい」
「大丈夫です‼︎」
ティアナ、スバルは良い意味で緊張している。やる気が満ち溢れていた。
「エリオ、キャロも、それにフリードもしっかりですよ‼︎」
「うむ、訓練でやったことをやればいいのだ」
ツヴァイとリインも、エリオとキャロに声をかける。
「は、はい‼︎」
「はい‼︎」
緊張気味に答えるキャロ。一方のエリオは比較的落ち着いていた。
「エリオは随分落ち着いてるね?」
「え?」
なのはの問いかけにエリオはキョトンとした顔になる。
「あ……その、なんていうか……こういう状況だと逆に落ち着いてしまって……」
「え?」
エリオの返答に今度はなのはがキョトンとした顔をする。
「えっと、兄さんと生活するうちにこうなってた、というか……」
「兄さん?」
(確か遠い血縁の叔父さんが保護者なんだっけ? この状況で落ち着けるような生活ってどんな生活?)
かなり気になったが状況が状況なのでこの話は頭の片隅に置いておく。
「ロングアーチより入電。敵航空戦力接近中‼︎ その数五十‼︎ マズイですぜ、なのは隊長‼︎」
ヴァイスがロングアーチからの情報を報告する。
「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を抑える」
なのはは立ち上がり出撃準備に入った。
「ウッス、なのはさん。お願いします‼︎」
ヴァイスがヘリの後部ハッチを開ける。外の空気がヘリの中に流れ込み、その風が更に緊張感を際だたせる。
「じゃあ、チョット出てくるけど、みんなもガンバって、ズバッとやっつけちゃおう!」
「「「はい‼︎」」」
「……はい‼︎」
キャロの返事がワンテンポ遅れた。緊張しすぎて表情が少し青くなっている。
そのキャロに、なのはが近づく。
「キャロ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
優しく言い、なのははキャロの頬を両手で包み込む。
「あ……」
「離れていても、通信で繋がっている。一人じゃないから。ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法はみんなを守ってあげられる優しくて強い力なんだから。ね?」
「は、はい‼︎」
キャロが、今度は元気よく答えた。
「うん、いいお返事」
ニコッと笑ってなのはが離れる。そして、開け放たれた後部ハッチまで歩いた。
「お気をつけて」
ティアナ達は敬礼をしなのはを見送る。
なのはは一度うなづき、そしてヘリから空中に身を踊らせた。
「レイジングハート、セットアップ‼︎」
空ではなのはとフェイトが次々とガジェットを落としていた。
「すごい……」
感嘆の声を上げるティアナ。その感想はその場にいた新人達の心の声を代弁していた。
「さて、新人ども。隊長さん達が空を抑えてくれるおかげで無事に降下ポイントに到着だ。準備はいいか‼︎」
気合いを入れるように、ヴァイスが声を上げる。
「「「「はい‼︎」」」」
今度は誰の返事にも迷いはなかった。
「行ってこい‼︎」
陸曹がピタリとヘリを安定させる。
「スターズ3、スバル・ナカジマ‼︎」
「スターズ4、ティアナ・ランスター‼︎」
「「行きます‼︎」」
なのはがやったように、スバルとティアナも空中でセットアップを完了させる。
それを確認したヴァイスが、今度はエリオとキャロに声を掛けた。
「次、ライトニング‼︎ 気い付けてな‼︎」
「「はい‼︎」」
ヴァイスの声を受けて、エリオとキャロがハッチに立った。
「行こう。キャロ」
エリオはキャロへ手を差し出す。
「うん‼︎」
二人は手を繋ぐと大きく息を吸い込む。
「ライトニング3、エリオ・モンディアル‼︎」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ‼︎」
手を繋いだまま、空中に駆け出した。
「「行きます‼︎」」
無事モノレールへ着地した四人は瞬く間にガジェット達を破壊していった。
「すごい‼︎ すいすい動けるよ‼︎」
「急ぐわよ‼︎ スバル‼︎ あまりライトニングの二人に無理はさせられないわ‼︎」
「分かってる‼︎」
二人は全速力でレリックの確保へ向かった。
一方、エリオとキャロ、そして召喚獣であるフリードは順調に大量のガジェットを破壊していく。
「この調子で行くよ‼︎ キャロ‼︎」
「うん‼︎ サポートは任せて‼︎」
破竹の勢いで八両目に突入した時だった。
二人の目の前に突如影が指し、それまでとは比べものにならない大型ガジェットが現れた。
エリオはすぐさま行動した。
「キャロ‼︎ 上に行って‼︎」
「う、うん‼︎ フリード!」
フリードに掴まりキャロは戦闘で剥がれた穴から屋根へ飛び出る。
外へ出たキャロはエリオをサポートするためガジェットへ先制を仕掛けた。
「フリード、ブラストフレア‼︎」
フリードの口から炎が吐き出される。だが──
ブンッ‼︎
大型ガジェットはフリードの炎をキャタピラみたいな腕で虫を払うように凪払った。
「な⁉︎」
目の前の信じられない光景に驚かされるもエリオはすぐさまストラーダを構え勢いよく突進した。
「おりゃあぁぁぁ‼︎」
訓練と同じように、瞬間的に魔力を高めて切りかかる。
ガギン‼︎
が訓練とは違う手応えが返ってきた。
「くっ‼︎ 硬い‼︎」
一撃必殺の勢いで放った斬撃は、その表面の装甲に止められてしまった。
大型ガジェットは腕を凄まじい速度でエリオへ振り下ろした。
咄嗟に槍を向かってくる腕へ叩きつけ勢いを止める。
(いつもより力が入らない……‼︎ 一際大きなガジェットだからAMFが濃いんだ……‼︎)
「キャロ‼︎ もっと距離をとって‼︎ AMFの範囲がかなり広い‼︎」
腕と鍔迫り合いをしつつキャロヘ指示を出す。その間、エリオの身体は徐々に押し潰されていった。
「で、でも‼︎」
どうするべきなのか躊躇うキャロ。その時エリオへガジェットのレーザーが撃たれた。
「クッ‼︎」
咄嗟に迫り合いをしていた腕を横へ受け流し、飛び上がってビームを躱す。
が、着地した瞬間に殴り飛ばされてしまった。
「がっ⁉︎」
殴り飛ばされたエリオは壁へ身体を打ち付けると更に顔を掴まれた。
「やめて‼︎」
キャロの悲痛な叫びと共にフリードのブレスが放たれるが、AMFが濃すぎるのかガジェットまで届かない。
二度、三度と壁に叩きつけられ周囲にはエリオの血が飛び散っていた。
「エリオ君‼︎」
キャロはエリオを救出するために車内へ戻ろうとした、その時だ。
ギロッ
エリオの目がガジェットを捉えた。それと同時に掌に電気を纏わせ自身の顔面を掴んでいる部位に思いっきり流し込んだ。
AMFを纏っているためダメージは少なかったものの、一点に集中した攻撃はエリオを掴む力を一瞬緩めさせた。その隙にエリオはガジェットから逃れると、すぐさま槍を拾い上げ突き立てた。
ガギンッ‼︎
先程と同様に硬すぎる装甲に跳ね返される。だがエリオは攻撃を止めることなく何度も何度も突いた。
ガジェットはエリオへ腕を振り回しビームを乱発する。しかしガジェットの攻撃は一発も当たらない。まるで死角から来る攻撃が見えているかのように避けているのだ。
「す、すごい……」
キャロは呆然としていた。自身と同い年くらいの少年の凄まじい戦いに目が離せなかった。
「はぁぁああ‼︎」
やがてガジェットの装甲にヒビが入り始めた。同じ箇所を何度も攻撃されダメージが蓄積したのだ。
「これで‼︎ 終わりだぁああ‼︎」
渾身の力を込めた突きがガジェットを貫いた。ガジェットの全身から煙とスパークが漏れ出る。
「やった‼︎」
歓声をあげるキャロに対してエリオは焦っていた。
(まだ完全に破壊出来てない……‼︎ 早く距離を取らないと……‼︎)
だがダメージが大きいのか、エリオの身体は言うことを聞かない。
ガジェットは最後の足掻きと言わんばかりにその場から動けなくなっているエリオを殴り飛ばした。エリオは気を失い力なく宙へ放り出される。
「エリオ君‼︎」
咄嗟に力を使おうとするキャロ。だが何故かデバイスは起動しなかった。
「な、なんで……⁉︎」
その間にもエリオは谷底へ落ちていく。
「動いて……‼︎ お願い……‼︎」
その時、キャロの脳裏に『今度はどこへ行けばいいの?』と聞いた時、フェイトが笑顔で言ってくれた言葉が蘇る。
『キャロがどこに行きたくて、何をしたいかによるよ』
私がしたいことそれは──
“優しくて暖かな場所と仲間を守りたい”
そう心に思い浮かべた時、キャロを中心に大型の魔法陣が展開された。その形はベルカ式ともミッド式とも違う魔法陣だった。そしてその中から一体の巨大な白い竜が現れた。
「行くよ‼︎ フリード‼︎」
「グリュオ‼︎」
薄暗い、だが極端に広い部屋に一人の男がいた。
白衣を着たその男は、目の前のモニターを見ている。
モニターには突如現れた白い竜がモノレールを飛び出た少年を拾い上げるのが映っていた。
「ほお、なかなか素晴らしいじゃないか。それにこの二人、プロジェクトFの残滓が生きて動いているなんて素晴らしいよ。そう思わないかいウーノ?」
「はい。ですがレリックはよろしいのですか?」
ウーノの質問にスカリエッティはにやりと口角を上げた。
「やめておこう。レリックは惜しいが、彼女たちのデータが取れただけでも充分さ」
スカリエッティはそう答え、メインモニターに今の戦闘に参加していた六課のメンバーの記録を映し出す。
「それにしても、この案件はやはり素晴らしい。私の研究にとって興味深い素材が揃っている上に……」
スカリエッティは、モニターにフェイトとエリオをピックアップする。
「この子達を、生きて動いているプロジェクトFの残滓を手に入れるチャンスがあるのだからね」
残忍な笑みを浮かべて、楽しくてしょうがないと笑うスカリエッティ。そこへ別のモニターから声がかかった。
『ドクター、終了しました』
「おや、もう終わったのかね?」
『はい、いかがいたしましょうか?』
「ふむ、ではこちらに戻ってきたまえ。機動六課の戦闘データを分析するといい。あぁ、でもその前にシャワーでも浴びてくるかい?」
『お気遣いなく。汗一つかいていません』
そう言うガーラの背後には先程のエリオが辛勝を収めた大型ガジェットやかつてなのはを追い詰めたガジェットが大量に転がっていた。
「そうかね。ならこちらに来るといい。だが急ぐ必要はないよ?」
『了解です、ドクター』
通話が切れた。スカリエッティの背後ではウーノが驚愕していた。
「あの大量のガジェットを……この短時間で……?」
しかも本人は汗一つかいていない。ウーノは信じられないと息を呑んだ。
「ククッ……ハーッハハハハハハハハハハハ‼︎」
研究所にはスカリエッティの狂気に満ちた笑いが響いていた。
なんかエリオが主人公のようだ……