バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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すまん……

 

 

しくじった

 

今、ガリューの心の内はこの一言で埋め尽くされていた。

 

何故気付けなかったのか、何故ここまでの接近を許したのか。いや、それよりこの状況をどうするべきか。

 

「とりあえずそいつをこっちに渡しな」

 

迫るアントを前にガリューはジリジリと後ずさる。逃げようにも隙がない。

 

ならば戦うしか──

 

ドンッ‼︎

 

「……‼︎」

 

ガリューの頬あたりを魔力弾が掠めた。

 

「やめとけ。お前じゃ俺には勝てねえよ」

 

感情が読めない目を向けたまま言い放たれる。ガリューは攻撃体勢のまま動けなくなってしまった。

 

負ける。この男と戦ったら負ける。

 

本能がそう語っていた。だが結局どうすればいいのかは分からない。

 

どうすればいいのか決めかねていた時、一人の警備員が物音に気付いたのか近付いてきた。

 

「……誰かいるんですか? ここは危険ですよ?」

 

懐中電灯の光が二人を照らそうとしていた。

 

「タイミング悪すぎるだろ……っ‼︎」

 

素早く、かつ静かに光から逃れるアント。ガリューはこれ幸いと痛みを堪えて駐車場から逃げ出した。

 

「っ‼︎ 逃すかっ‼︎」

 

アントは柱の影に置いていたバイクに飛び乗るとガリューを追いかける。

 

「あ‼︎ ちょっと‼︎」

 

警備員はバイクの音がする方へライトを向けるがすでにアントは走り去っており、その姿を見ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルから離れた場所にて報告を待っていたルーテシアは尋常じゃない様子の使い魔に戸惑いを隠せなかった。

 

「どうかしたのか?」

 

「……ガリューが、何かに追われてるみたい」

 

「追われてる? 警備員にバレたのか?」

 

「ううん……そんな様子じゃない……もっと怖い人に追われてる……」

 

「……恐らく管理局の魔導師だな。ならば俺が足止めしておこう。ガリューをここに呼べ。転移の準備をしておくんだ」

 

「……分かった」

 

指示通り動くルーテシア。ゼストは自身の武器である槍を構え迫り来る敵に備えた。

 

「来た」

 

ルーテシアがそう呟くと同時に、身体の至る所に傷を負ったガリューが現れた。

 

「ガリュー……⁉︎」

 

「待て‼︎」

 

駆け寄ろうとしたルーテシアを制すると目線をガリューの後方へ向ける。するとそこにはバイクに乗ったアントが銃を片手に迫っていた。

逃げるガリューへ数発の魔力弾が放たれる。

 

「っ……‼︎」

 

ゼストは全速力で魔力弾とガリューの間に割り込むと弾丸を叩き落としアントに向かって槍を突き出した。

アントはバイクから飛び上がり槍をかわすと、そのままバイクに着地した。バイクはドリフトしながら止まった。

 

槍を構えたゼストと銃を構えたアントが向かい合う。

 

「危ねえな。死んだらどうすんだ」

 

欠片も危なかったとは思っていない物言いにゼストは眉をしかめる。

 

(管理局員という感じじゃない。だが今の身のこなし、中々のモノだった)

 

ゼストは警戒心を高め槍を握る手に力を入れた。

 

「すまないな。だが仲間が追われていたのなら仕方ないだろう?」

 

「仲間? そうか、そいつの仲間か。ちょうどいいや。そいつの代わりに答えてくれよ」

 

アントは死んだ魚のような目を細め問いかける。

 

「お前ら、スカリエッティの仲間か?」

 

「っ⁉︎」

 

予想外の言葉にたじろぐゼスト。

 

……まさかスカリエッティが言っていた厄介な邪魔というのはこいつのことか……⁉︎

 

「……なんのことだ?」

 

「怪しいな。まあ素直に話すわけないか」

 

アントは引き金を引くのと同時にバイクを飛び降りた。

 

ゼストはそれを瞬時に叩き落とす。だが叩き落とした魔力弾に隠れて、もう一発の魔力弾が迫っていた。

 

バリアは間に合わない。ゼストは身をよじりギリギリで回避した。

 

だが回避した瞬間、アントの足が目の前に現れる。

 

「ぬうっ‼︎」

 

ゼストは槍でガードすると力任せに弾き飛ばした。

 

宙を舞うアントへ追撃をしようとしたゼストだったが、銃口が自身へ向けられているのに気付いた。

 

ドドドンッ‼︎

 

迫る三発の魔力弾をバリアで防ぐと、地面に着地した瞬間を狙って魔力弾を叩き込む。

 

避ける動作に入ろうとしていたアントだったが、魔力弾は逃げ道を潰すためのものだった。逃げ場を無くしたアントへ高速の槍を繰り出すゼスト。

 

「チェンジ」

 

瞬時にアントの武器が短刀に変化した。

繰り出される槍を紙一重で躱すと、ヌルリとゼストの懐へ潜り込み短刀を突き出す。

 

ゼストは迫る短刀を膝で蹴り上げ、距離を取りつつ槍を振り下ろした。

だが振り下ろした槍は短刀により火花を散らしながら受け流された。

 

二人は互いに距離を取り息を整える。

 

「……ここまでやって傷は無しか。強いなアンタ」

 

「それはこちらのセリフだ。その若さで大したものだ」

 

言葉とは裏腹にゼストは焦っていた。

 

どうする。勝てなくはないだろう。だが時間がかかりそうだ。それにホテルの方のガジェット達もそろそろ一掃される頃だ。あまり長居すると局員達に囲まれてしまう。どうすれば……

 

ゼストが考えていると、ルーテシアが動き出した。

 

「伏せて」

 

その声に咄嗟に伏せるゼスト。すると先程までゼストの頭があった場所をビームが通過した。

 

「うおっ⁉︎」

 

アントはすんでのところでビームを躱した。そこへ追い討ちをかけるように背後からガジェットが襲いかかる。

 

「ぐっ⁉︎」

 

横に跳びのき回避するアント。だが周囲は大量のガジェット達で溢れていた。もちろんルーテシアの強化済みだ。

 

「これは……」

 

「ドクターの追加のおもちゃ。今のうちに」

 

「……ああ」

 

ゼストはスカリエッティに助けられたという事実に苦い表情を浮かべつつ、ルーテシアとガリューと共に早々に転移し逃げ去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

シャマルは再び現れたガジェットの存在に気付いた。

 

『クラールヴィントのセンサーに新たな反応あり‼︎』

 

『把握してます‼︎ 新たに陸戦1型、機影50‼︎ 陸戦3型、5です‼︎ ……あぁっ‼︎』

 

その時、モニターを見ていたシャーリーは驚きの声を上げた。

 

『民間人らしき人が囲まれています‼︎ 救出を急いでください‼︎』

 

『民間人⁉︎ なんでそんなところに……‼︎』

 

『今こっちが片付いた‼︎ すぐに向かう‼︎』

 

ちょうどガジェットを片付け終えたヴィータが名乗りを上げた。

 

『気をつけてヴィータちゃん‼︎ すぐにシグナムを向かわせるから‼︎』

 

『おう‼︎』

 

ヴィータは念話を切るとスターズの二人に声をかけた。

 

「お前ら‼︎ 説教は後だ‼︎ 着いてこい‼︎」

 

「えっ‼︎」

 

「い、いいんですか?」

 

「緊急事態だ‼︎ 次あんな危険な真似したらタダじゃ済まさねえからな‼︎ スターズはあたしのサポートに徹しろ‼︎ ライトニングの二人は念のためここで待機‼︎ 何かあったらすぐに連絡しろ‼︎」

 

「「は、はい‼︎」」

 

「「はい‼︎」」

 

三人は現場へと急ぎ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

現場に到着すると数機のガジェットが三人に襲いかかってきた。

 

「いいか‼︎ あたしが道を作る‼︎ 民間人の救出を最優先にしろ‼︎ 戦おうなんて考えるんじゃねえぞ‼︎」

 

「「了解‼︎」」

 

三人は群がるガジェット達の合間を走り抜けながら巻き込まれたであろう民間人を探す。

すると、ティアナは人の姿を発見した。

 

「見つけた‼︎ ヴィータ副隊長‼︎ 発見しました‼︎」

 

「よし‼︎ 救出しろ‼︎ すぐに撤退して態勢を立て直すぞ‼︎」

 

「「了解‼︎」」

 

ヴィータの命令を受け、ティアナはヴィータとスバルが他のガジェットの相手をしている隙に民間人の男へと駆け寄る。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

ティアナが声をかけた瞬間、男は無造作にカートリッジを四発ロードすると周囲のガジェットを撃ち抜いた。

 

「え……?」

 

男は鬱陶しそうに周囲を見回す。

 

「キリがねえ」

 

よく見ると男の足下には数機のガジェットの残骸が転がっている。

 

嘘……今のって……。

 

呆然とするティアナ。そこへヴィータとスバルがやってきた。

 

「ティア‼︎」

 

「何やってんだティアナ‼︎ 早く撤退を、って……あれ?」

 

「ん?」

 

突如固まるヴィータ。すると男はヴィータに向かって引き金を引いた。

 

「な⁉︎」

 

「危ない‼︎」

 

叫ぶティアナとスバル。だが魔力弾はヴィータではなくヴィータに攻撃しようとしていた背後のガジェットを貫いた。

 

「ヴィータじゃん。なんでこんなとこにいるんだ?」

 

男は何事もなかったかのようにヴィータに話しかけた。

 

「テ……テメエ‼︎ アント‼︎ それはあたしのセリフだ‼︎ はやてがどんだけ──」

 

男は再び引き金を引いた。今度は真横から迫っていたガジェットを撃ち抜いた。

 

「とりあえず、話はこいつら片付けてからにしようぜ」

 

男の言葉にヴィータは何か言いたそうにするもすぐに思考を切り替えた。

 

「ああもう‼︎ 分かってる‼︎ ティアナ‼︎ スバル‼︎ この先は自分達の身を守ることだけを考えろ‼︎ そいつは守らなくていい‼︎」

 

「え、えぇ⁉︎」

 

「でも巻き込まれた民間人って……」

 

「そいつは民間人じゃねえ‼︎ 気にせず戦え‼︎」

 

「「り、了解‼︎」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

任務が終わり、長い一日が終わる。

大体の現場検証を終えたエリオはシャマルに資料を渡した。

 

「ありがとう。とりあえず終了ね」

 

「はい、無事終わりました」

 

やっと肩の力を抜くことが出来たエリオ達。キャロの方は疲れ果ててしまい座り込んでいる。

 

「そういえば巻き込まれていたっていう民間人の方はどこに……」

 

「ああ、それなら……」

 

そう言って視線をずらすシャマル。視線の先にはなのは、はやて、フェイトに囲まれ、バインドでぐるぐる巻きにされている男の姿があった。

あの後、無事ガジェットを破壊し終えたヴィータはすべき仕事を終えた後、はやて達に報告したのだった。その結果アントは現在のような状況に陥っていた。

 

「久しぶりだね、アント君。元気だった?」

 

にっこり笑いかけるなのは。その笑顔には迫力があった。

 

「……いや、なんで俺縛られてんだ?」

 

「ごめんね? でも自由にさせておくとすぐどこか行っちゃうから」

 

「昔っからそうやもんね?」

 

「……」

 

抵抗をやめ黙ることしか出来なかった。

そんな三人に囲まれている男の姿を見たエリオは驚きの声をあげた。

 

「……え?」

 

民間人の扱いの酷さに驚いたのだろうと判断したシャマルは苦笑いを浮かべた。

 

「ははは……大丈夫だよ。あの人は昔馴染みでね。今まで消息不明だったんだよ」

 

「アント兄さん……?」

 

「……え?」

 

シャマルが疑問符を浮かべていると、エリオはアントのもとへ駆け出した。

 

「兄さん‼︎」

 

三人をすり抜けアントへ飛びついた。

 

「「「え?」」」

 

あまりに突然のことになのは達は虚を突かれ固まった。それと同時にアントを捕らえていたバインドも解ける。

 

「ん? おお‼︎ エリオか‼︎ 久しぶりだなあ。なんでこんなところに?」

 

「任務です‼︎ 僕、管理局機動六課のメンバーになったんです‼︎」

 

「そうか。元気そうで何よりだ」

 

「はい‼︎」

 

はやては動揺しつつ二人の会話に割り込んだ。

 

「え〜と……アント君? エリオのこと知ってるん?」

 

「ああ、そうか。お前ら知らなかったよな」

 

アントの手がエリオの頭に乗せられる。

 

「こいつ、俺の弟なんだ」

 

一瞬空気が固まった。そして──

 

「「「「「「「えぇーーー⁉︎」」」」」」」

 

アントの事を知らない新人を除いた全員が驚きの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから機動六課隊舎に戻ってきたはやては改めてアントの話を聞くことになった。なのはとフェイトはまだ仕事が残っていたため後ほど合流ということになった。

 

現在、はやてはアントと二人きりで話をしている。

 

「じゃあこのジョン・スミスはアント君のことなんやな?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「はあ〜、やっと謎が解けたわ。エリオに戦い方を仕込んだのもアント君ってことやね?」

 

「まあな。凄いだろ、あいつ。教えた事はすぐ覚えちまうんだ」

 

どこか自慢気なアントに対し、はやてはため息をこぼした。

 

「はぁ、どおりで。シグナムも言ってたで? エリオらしくない捻くれた戦い方だって」

 

「おい待て。誰が捻くれ者だ。真っ当な戦い方だろ?」

 

「鏡見てみい。どう見ても素直ではない奴が映っとるよ」

 

「……」

 

そんなに酷いか? と首をかしげるアント。

呆れたようにため息を吐いたはやてだったがここで話を切り替えることにする。

 

「さて、なんであそこにいたのか。今まで何をやってたのか。そろそろ聞かせてもらおか?」

 

「……何って言われてもな。ずっと仕事してただけだぞ?」

 

「嘘やな。何か隠しとるのは分かってるんやで?」

 

「なんでそんなこと言い切れるんだ?」

 

アントの質問に対し、はやては引き出しから大量の書類を取り出した。

 

「これ、アント君の情報や。これの中から信用できる情報だけを取り出して推理すると、アント君の行動には一貫性があるって分かるんや。そして、これらから私が導き出した答えは……」

 

はやてはそこで言葉を切ると呆気にとられているアントにニッコリと微笑む。

 

「アント君はここ数年間、人探しをしとる。そしてそいつはアント君の敵や。そうやろ?」

 

「……せ、正解だ」

 

アントの背筋に冷や汗が流れる。まさかここまで知られるとは思わなかったのだ。アントは苦い表情を浮かべる。

 

「……数年会わないうちに随分とその役職が似合うようになったな」

 

「なんや? 褒めてるんか?」

 

ケラケラと愉快そうに笑うはやて。

 

「ここまで当たってるんや。もう全部話してくれてもええんちゃう?」

 

「……分かった。全部話す」

 

アントは話した。自分とスカリエッティの因縁の始まりから今日に至るまでの全てを。

 

 

 

「……そういうことやったんか」

 

話を聞き終えたはやては思案するように腕を組んでいた。

 

「ま、そういうことだ。じゃあ俺はこれで」

 

話は終わったと席を立ち退室しようとするアント。

 

「待てや」

 

ドアノブに手をかけ立ち去ろうとするアントの肩に凄まじい力で手が添えられる。

 

「イタタタタッ‼︎」

 

「まだ終わってないで?」

 

はやてはアントを強引に自分の方を向かせた。はやての視線が厳しいものになっている。

 

「なんで黙ってたんや。話してくれれば私達だって力になれたはずやのに」

 

「そ、それは……」

 

「いや、分かっとるよ? あの時の私達じゃあ足手まといになる。だから話してくれなかったんやろ? でもな……」

 

すると

 

はやてはアントに抱きついた。

 

「……なっ⁉︎ ……はやて?」

 

「うるさい。顔見たら許さんからな」

 

有無を言わさない物言いで更にキツくアントを抱きしめる。

 

「連絡一つよこさんかった罰や。しばらくこのまま」

 

そう言うとグリグリと頭を擦り付けるはやて。

 

予想外の状況にアントは固まってしまった。こういう時、どうするべきなのか分からない。

その時、はやての目から光る何かが流れてるのが目に入った。

 

「……」

 

腕の中にいるはやては先程までとは打って変わって弱々しい様子だった。

 

「……心配したんやからな?」

 

「……悪かった」

 

「ずっと怖かったんや、もう会えないんじゃないかって。すごく遠くに行ってもうたみたいで……」

 

「……悪かった、すまん」

 

「……謝って済むなら警察はいらんわ」

 

「……ああ、そうだな」

 

抱擁ははやての気が済むまで続いた。

 

 

 

 

 

この後、仕事を終えたなのは、フェイト、すずか、アリサが訪れもう一悶着起きたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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