バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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六課で

 

 

 

結局、アントは機動六課の面々と一緒に行動することになった。

一応、目的が一致しているので、こうなったこと自体に言うことはない。だが……

 

「暇だ……」

 

機動六課のメンバーが訓練やら仕事やらで忙しくしている中、アントは一人、何もすることなく広場にてボーっとしていた。

 

情報収集をしようにも現在は打つ手がない。暇つぶしに町へ出かけようとしても周囲に止められる。

 

なんでも出かけたっきり帰ってこなさそうだ、とかなんとか。

 

「……ガキか、俺は」

 

《賢明かと思われますが。ボスには放浪癖のようなものがありますからね》

 

「俺がいつそんなことした?」

 

《これまでの行動全てがそうです》

 

「……とにかく、何もしないってのは暇すぎるんだよ」

 

《強引に話を逸らしましたね》

 

アントはルリを無視するとポケットからタバコを取り出し、肺へ煙を送り込む。

 

「……はぁ〜……今日は天気がいいな……」

 

清々しいほど晴れ渡っている空を見上げていると、突如、咥えていた煙草がなくなった。

 

「……あれ?」

 

どこにいった? とアントが煙草の行方を探していると、背後から咎めるような声が響いた。

 

「もう、またこんなの吸って、身体に悪いんだよ?」

 

振り返ると、そこには煙草を手に持ったフェイトがいた。

 

「あ、ちょ、まだ吸い始めたばっかり……」

 

「ダ〜メ、煙草は没収っ」

 

そう言うとフェイトはアントのポケットに手を入れ煙草の箱を取り上げてしまう。

 

「あ〜……」

 

名残惜しげに手を伸ばしていたアントだったが、ガックリと肩を落とし諦めた。

 

「……そういや、なんでここにいるんだ? お前も暇なのか?」

 

「違うよ、お昼食べに食堂に向かってたところ。もうとっくにお昼の休憩時間になってるんだよ?」

 

「もうそんな時間に? じゃあ、飯食いに行くか」

 

「うんっ、行こう」

 

嬉しそうな笑顔で頷くフェイト。アントはそんなフェイトをまじまじと見つめた。

 

フェイトはアントに見つめられ動揺しつつ徐々に頬を染めていく。

 

「ど、どうしたの? 何かついてる?」

 

「いや、なんか変わったよなぁ、ってな」

 

「そ、そうかな?」

 

「ああ」

 

改めてよく見ると、フェイトは責任ある立場の人間って感じの雰囲気を纏っているように思えた。

 

フェイトだけではない、久し振りに会った人達はみんな変わっていた。たった数年でも人は変わるというのを理解させられる。

 

アントがそんな事を考えていると、フェイトの様子が若干緊張したものになる。

 

「……えっと、どう変わった、かな?」

 

髪を弄りつつ、どこか期待したような上目遣いで尋ねるフェイト。

 

「ん? どうって……」

 

《ボス》

 

思った事を答えようとした瞬間、ルリから念話が入った。

 

《こういうのはまず容姿を褒めるべきかと》

 

『容姿? なんでだ?』

 

《そういうものだからです》

 

アントは不思議に思ったが、相棒のアドバイスが外れたことは一度もないので従うことにする。

 

「あ〜……綺麗になった、と思う」

 

「っ⁉︎」

 

たった一言。だが期待していたとは言え、本当に言ってくれるとは思っていなかったため、フェイトは耳まで真っ赤に染める結果となった。

 

「そ、そんなことないよ……」

 

フェイトは照れ臭そうに俯いた。

 

「いや、綺麗だろ。なのは達にも負けてない」

 

「………………むう」

 

フェイトの表情が一変して不機嫌そうなものになる。

 

「アント、こういう時に他の女の子の話は良くないと思う」

 

「え? そうなのか?」

 

「そうだよっ」

 

プイッとそっぽを向くフェイト。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。

 

女性経験がゼロのアントにはどうすればいいのか分からない。なんならフェイトが怒っている理由は、男じゃ分からない女の常識を破ったからだとさえ考えている。

 

「わ、悪かったって。そうだ、飯奢るから」

 

するとフェイトはジト目をアントに向けた。

 

「私、アントと違ってそんなので釣られないよ?」

 

「待て、俺なら釣れるみたいな言い方やめろ。まるで俺がバカみたいだろうが」

 

「ふん……‼︎」

 

ますますツーンとしてしまったフェイト。

 

これ以上何か言えば更に悪化しそうだ。

 

そう思ったアントは早々に白旗を上げることにした。

 

「……降参だ。どうすりゃ許してくれんだ?」

 

アントの問いにフェイトは少し考え込むような素振りを見せた。

 

「じゃあ……今度、買い物に付き合って」

 

「買い物? そんなんでいいのか?」

 

「……うん、それでいいよ」

 

「分かった。それくらいならいくらでもやってやるよ」

 

「ホントにっ⁉︎」

 

先程までそっぽを向いていたフェイトだったが、アントが了承するや否や目を輝かせてアントを見つめた。

 

「おう、荷物持ちなら任せとけ」

 

「約束だよ?」

 

「ああ、分かった」

 

フェイトが眩しいほどの笑顔になる。

 

「じゃあ、早く食堂に行こうか? 休憩が終わっちゃう」

 

軽い足取りで歩き出すフェイト。

 

そんなフェイトを見て、アントは安堵の溜息を吐いた。

 

《よかったですね》

 

「ああ、なんとか機嫌を直してくれたようだ」

 

《……え?……いえ、そっちではないのですが……》

 

「あ? じゃあ何が良かったんだ?」

 

《……》

 

当然、ルリはフェイトのような美女とデート出来ることを良かったと言ったのだ。

 

 

アントには前世を含めても女性との交際経験は無い。その上、転生後の人生は酷く荒んだ、血生臭い生活を送ってきた。それ故、常識に誤差が生じてしまっているのだ。

 

 

デートの約束をしたと思っているフェイトに対し、アントの認識は大量に買いたい物があるから男手が必要なのだろう、というものだった。

 

《……いえ、なんでもありません》

 

「なんだ? おかしな奴だな。まぁいい、今日の日替わり定食は何かなっと」

 

軽い駆足でフェイトを追いかけるアント。

 

ルリは既に頭の中が昼食に切り替わっている主人に、吐けるはずもない深い溜息を吐きたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、食堂にて昼食を食べていた二人。

 

アントは雑談ついでにフェイトに相談してみることにした。

 

「暇で仕方ない?」

 

「ああ」

 

「う〜ん、でもアントは局員じゃないから出来る事は絞られるし……」

 

「外出許可さえくれればいいんだけど」

 

「それはダメ」

 

笑顔できっぱりと拒否される。

 

「……あぁ、そう」

 

無理にでも外出したいわけじゃないので外出はアッサリ諦めるアント。

 

「じゃあ何か手伝える事とかないか? このままじゃ暇で死ぬ」

 

「う〜ん……」

 

考え込むフェイト。

 

「なるほどなぁ、要は何かやりたいんやね?」

 

二人の間に突然はやてが割り込んできた。

 

「うおっ⁉︎」

 

「はやて⁉︎ いつの間に?」

 

驚く二人を前にはやては自信満々な笑顔を浮かべた。

 

「ふっふっふ、部隊の仕事のことならこの総部隊長に任せとき‼︎」

 

 

翌日、アントはスターズ、ライトニングの新人達を前に立っていた。

 

「というわけで、本日付で雇われた。新しく教導を担当することになったジョン・スミスだ。気軽にアントと呼んでくれ」

 

「はい‼︎ 質問いいですか?」

 

ビシッと手を挙げるスバル。

 

「なんだ?」

 

「なんでジョン・スミスなのにアントなんですか?」

 

「そっち? 他に気になることがあるでしょ?」

 

スバルの天然発言にティアナの鋭いツッコミが入る。

 

「大人には建前が必要な時があるんだ。よく覚えておくように」

 

「お前はお前で何を言ってるんだ。変なことを教えるんじゃない」

 

アントにもシグナムのツッコミが入る。

このままでは話が進まないのでアントに代わりヴィータが話をまとめ始めた。

 

「あ〜……数日間教導を担当してもらうことになった、アントだ。まぁ、混乱してるだろうが、正式に決まった事だ。こいつにはメインの訓練に対しての付け足し訓練を担当してもらうことになるから留意しておけ」

 

ヴィータが説明を終えるとなのはが新人達の前に出た。

 

「はい、じゃあそういうわけで、今日も一日頑張っていこう‼︎」

 

「「「「はい‼︎」」」」

 

なのはの号令を合図に新人達は訓練を始めるため散って行った。

 

「流石に働いてるだけあるな。すごく副隊長っぽかったぞ。小さいままなのに」

 

「うるせえ‼︎ 喧嘩売ってんのか‼︎」

 

ガアッ‼︎ と声を荒げるヴィータだったが、すぐに副隊長の顔に戻る。

 

「いいか? ダメダメだったら即クビだからな? 教導ってのは強けりゃ出来るもんじゃないんだ」

 

「まぁ、やれるだけやってみるさ。クビになるのは困る」

 

そこへ、エリオがアントのもとへ駆け寄ってきた。

 

「兄さん‼︎ 教導してくれるんですか⁉︎」

 

「おう、流れでな」

 

「それじゃあ手合わせもしてもらえるんですか⁉︎」

 

キラキラと期待に満ちた目でアントに問いかける。その姿は尊敬する兄に成長した自分を褒めてもらいたいという年頃の少年だった。

 

「いや、手合わせはまた今度だな。しばらく別の事で忙しくなる」

 

「そうですか……」

 

しゅん、と目に見えて落ち込むエリオ。それを見たアントはエリオの頭に手を乗せると乱暴に撫でた。

 

「な〜に、なんとなく強くなってるのは分かる。頑張ってるみたいだな。手合わせする時が楽しみだ」

 

するとエリオは先程までと打って変わって笑顔になった。

 

「はい‼︎ 今度こそ兄さんに一撃当てます‼︎」

 

「おい、エリオ。そろそろ訓練に移れ」

 

「あ、はい‼︎ それじゃあ兄さんも頑張ってください‼︎」

 

訓練へ駆けて行くエリオを見ながらヴィータは呆れた表情を浮かべる。

 

「ったく、えらい慕われてるじゃねえか」

 

「くははっ、嬉しい話だ。出会ったばかりの頃とは大違いだもんな」

 

「出会った頃? そういや聞いたことなかったけどよ、エリオとはどうやって知り合ったんだ? っていうかなんで兄さんって呼ばれてんだよ?」

 

「あー、まあ、その辺りの話はまた今度な」

 

アントはヴィータの質問をはぐらかすと歩き始めた。

 

「どこ行くんだ?」

 

「新人達の訓練を見にな。未だに何を教えりゃいいのか分かってないんでね」

 

 

 

 

 

訓練の合間の僅かな休憩時間、座り込んで休んでいるティアナにスバルがボトルを差し出した。

 

「ティア〜、水飲む?」

 

「ありがと、貰うわ」

 

ボトルを受け取り、すぐさま喉に流し込む。カラカラだった喉が潤されていくのを感じた。

 

「ねえねえ、新しい教導官、どう思う?」

 

ティアナが一息ついたのを見計らって、尋ねるスバル。

 

「どうって言われてもね、まだ教導受けてないからなんとも言えないわよ。でも隊長達が認めてるくらいだから強いんじゃない?」

 

「う〜ん……でも大丈夫なのかな? 魔力量はそんなに多くないみたいだけど……」

 

「……そうね、大体Dくらいかしら、でも魔導師ランクがどれくらいなのかによるわよね」

 

「せめて戦ってる姿ぐらい見ておきたいな〜、ガジェットに囲まれた時は必死だったから、アントさんの戦闘見れてないんだよね〜」

 

「……そうね」

 

スバルが言った通り、ティアナもアントの戦闘そのものは見れていない。

 

だがティアナの脳裏には焼き付いている。

 

(……四発ロードした上での正確な射撃。今、思い返して見れば魔力弾はそれぞれのガジェットの同じ部位を撃ち抜いてた。それも、あんなに自然な動きで)

 

それだけで、只者ではないのは明らかだった。

 

「ま、この後で分かるわよ。今は目の前のことに集中しなきゃ」

 

「そうだね。残りの訓練も頑張ろう‼︎」

 

 

 

 

 

やがて、なのは達の訓練は終わり、アントの訓練の時間になった。

 

アントの前にスターズとライトニングの四人が立ち並ぶ。その様子を機動六課の隊長達は遠巻きに見ていた。

 

「それじゃ、始めるか。とりあえず初回って事で何をテーマに教導するのか教えておこうと思ったが……」

 

アントはスターズの二人を見ると困ったように頭を掻いた。

 

「まあ、そうだな。実力もよく分からない奴に教導されるのも不安か」

 

するとアントはスバルに向かって手招きをした。

 

「おい、ちょっとここに立て」

 

「え? あ、はい‼︎」

 

スバルが言われた通りに指定された場所へ立つとアントはスバルと向かい合った。

 

「構えろ、組手するぞ」

 

「組手……ですか?」

 

「ああ、得意分野だろ? ルールは……そうだな、誰がどう見ても負け、ってなったらでいいか。あと、全力でやれ」

 

「えぇ⁉︎ アバウト過ぎませんか⁉︎」

 

「細かいルール考えるのが面倒なんだ。それに、一撃当てたら勝ちとかじゃつまらないだろ?」

 

「は、はぁ……まあ……」

 

「分かったら構えろ。ほら」

 

「は、はい‼︎」

 

勢いに押され、慌てて構えるスバル。

 

「じゃ、始め」

 

開始の合図がかかる。

 

(よく分からないけど……とにかく、全力でって言うなら‼︎)

 

先手はスバルが取った。

 

「うりゃぁぁああ‼︎」

 

凄まじい速度で拳が繰り出される。

 

だがスバルの攻撃は躱されたり、受け流されたりなどして捌かれていく。

 

そこで、キャロが異常に気付いた。

 

「あれ……? その場から動いてなような……?」

 

キャロが言う通り、アントはその場から一歩も動いていなかった。

 

「っ⁉︎」

 

回避行動をとっているはずなのに動かない。

 

今まで経験した事ない相手を前に、一旦距離を取るスバル。

 

「はあ……はあ……」

 

息を切らしているスバルに対して、アントの呼吸は一切乱れていない。それどころか服にシワ一つ作られていない。

 

「じゃあ、次は俺からだな」

 

そう言うと、アントはゆったりとした速度でスバルに近付いていく。

 

「うっ……」

 

スバルは身構え、アントの行動を伺う。

 

やがて、アントがスバルの間合いに入った。その瞬間、スバルはすぐさまアントへ拳を繰り出して──

 

「はい、死んだ」

 

「あ……」

 

拳を突き出した体勢のまま固まるスバル。その喉元にはアントの指先が添えられていた。

 

「うそ……」

 

アントが指を離すと、スバルは地面にへたり込む。

 

「スバル‼︎」

 

慌てて駆け寄るティアナ。

 

「……見えてたのに……」

 

「え……?」

 

「……」

 

呆然としてしまい動かないスバル。

 

「攻撃する瞬間が一番脆くて隙が出来やすい」

 

新人達全員の視線がアントに集まった。

 

「俺みたいに魔法で劣る奴は、こうやって戦うんだ」

 

アントの話が始まる。新人達だけではなく、遠巻きに見ていた隊長達までがアントの話に聞き入った。

 

「俺はコンビネーションとかそう言う集団戦術的な戦い方は得意じゃない。むしろ苦手だ。だが一対多数に陥った時や、相手との相性が悪い時、そういう不利な状況での戦い方ならよく知っている。この時間はそういう個人の戦い方を教えようと思う」

 

アントは話を終えると時計を確認した。

 

「少し早いが今日はこれまで。次回から本格的にやる。以上だ」

 

そう言い残すとアントは立ち去って行った。

 

「凄い……」

 

アントの姿が見えなくなると、スバルはポツリと呟いた。

 

「え?」

 

呆気に取られているティアナの両肩をガバッと掴む。

 

「凄い凄い‼︎ ティア‼︎ アントさんは凄い人だよ‼︎」

 

「ちょ、ちょっとスバル⁉︎」

 

「だって凄いんだよ⁉︎ 見えてたのに、どうにも出来なかった‼︎ あんなに綺麗に負けたの初めてだよ‼︎」

 

「ああ、もう‼︎ いいから落ち着きなさい‼︎」

 

興奮が収まらない様子のスバルをなんとか落ち着かせようとする。

 

一方、キャロは隣にいるエリオがどこか嬉しそうなのに気付いた。

 

「エリオ君、嬉しそうだね?」

 

「うん、兄さんは凄いんだ」

 

どこか誇らしげなエリオ。キャロはそんなエリオを微笑ましげに見ていた。

 

 

 

「まぁ、掴みは及第点ってところだな」

 

ヴィータが言う及第点は十分に合格点に達しているという意味だ。周囲も同意だった。

 

「ふむ、不利な状況での立ち回りか……少し興味があるな。間違いなくアントが一番詳しい分野だろう」

 

「ふふっ、楽しみだね。どんな教導するのかな?」

 

こうして、アントは無事、教導官デビューをやり遂げたのだった。

 

 

 




ステータス的には弱者の部類に入るのに、集団で戦う事なく培った経験だけで戦ってきたアント。

魔導師として強者であるなのは達では知らない事をいっぱい知ってます。
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