「……なんか馬小屋なのに自宅に帰ってきたみたいな安心感だな」
さて感傷に浸るのはこれくらいにして、これからどうするか考えるか。
「そういえば奴ら一通り終わった後、宴をやっていたな……」
そこでハッと彼の頭が閃いた。彼の中で作戦が出来上がっていく。
「クックック、あと少しで馬小屋とはおさらばだ‼︎」
夜:盗賊side
「おい、生存者はもういねーか?」
「へいボス、若い女を残して他は全て殺しました」
「よし、全員に伝えろ宴の準備だ‼︎」
「へい‼︎」
この村も大したことなかったな、まぁ兵士は雑魚なのに収穫は良かったし大成功か。
「ボス、準備できました」
「うむ、今行く」
そこでは宴の準備が整えられ、女達は家族を殺されたことと、自分達の未来が真っ暗だという現実に打ちのめされていた。それとは対照的に盗賊たちは今回の大成功の喜びを今すぐにでも爆発させたいと目を輝かせている。騒いでいないのはボスの到着を待っていたからだろう。
その盗賊たちの中へゆったりとした動作で入っていき差し出された巨大なジョッキを手に持つ。
「野郎共‼︎ 今回は大収穫だ‼︎ 好きなだけ騒いで、贅沢しまくれ‼︎」
「「「「おおーっ‼︎」」」」
こうして宴が始まった。
そして バカ騒ぎする盗賊達を見つめる者が一人
「クククッ、好きなだけ騒げばいい。酔い潰れた時がてめーらの最後だ‼︎」
まったく最初からこうしておけばよかったんだ。奴らが宴を始めるまで隠れきって酔いつぶれた隙に皆殺し、わざわざ真正面から戦う必要なんてなかったな。
(これは頭脳戦、つまりオリ主としてなんらおかしなことはない)
と、自分に言い聞かせる。
その時だ。
「うぃ〜、ヒック。ヤベエ吐きそうだ」
そう言って盗賊の一人が宴の会場から少し離れたところにある樽に近づいてくる。
(ん? 吐きそう? ……やばい‼︎)
そう、今俺はまさにその樽の中に身を潜めている。
(こっちくんな‼︎ こっちくんな‼︎ こっちくんな‼︎)
だが願い虚しく盗賊は樽の蓋を開けそして
「うぉぇええええええ‼︎」
中身を見ることなくリバース‼︎
「ウギャァァアアアアアアア‼︎」
叫び声と共に樽から脱出する‼︎
「なんだ?」
「今、ガキみたいな叫び声が」
「あっ‼︎ ガキだ‼︎ 生き残りがあんなところにいやがった‼︎」
バレた
「なんだガキ一匹かてめーら始末しておけ」
だがボスは特に気にすることなく部下たちに命令する。
「へい‼︎」
「悪く思うなよ、俺たちに見つかったお前が悪い」
だが、盗賊達の言葉は彼の耳には入っていなかった。
「結局‼︎ こーなんのかよっ‼︎」
side:捕らわれた女達
「……うそ……」
叫び声と共に現れた子供を見た時、あの少年の残酷な死を見たくなくて目を瞑っていた。
しかし、聞こえてくるのは少年の悲鳴ではなく、盗賊達の悲鳴だった。恐る恐る目を開くと、そこには100を超える盗賊に怯むことなく釘一本で戦い続ける少年の背中だった。
かすり傷一つ作ることなく、蝶のように舞い蜂のように刺すを体現していた。
彼からすれば何百回も繰り返してきたため今更どうということはないが、それを知らない人にとっては目の前の光景は信じられないものだった。
「あの子は一体⁉︎」
「村にあんな子いたかしら?」
「誰でもいい‼︎ 頑張って‼︎」
しかし、まだ安心はできない。
side:主人公
参った、雑魚どもなら簡単に蹴散らせるが問題はやはりラスボスだ。
俺の少ない魔力量では奴の膨大な魔力で作られた防壁を突破できない。
「くっやるじゃねーか、だが部下達に勝ててもこの俺には勝てんぞ‼︎ おい‼︎ 俺の大剣を持ってこい‼︎」
50人ほど蹴散らした時、こんな声が聞こえてきた。
大剣? そういえば……前回、奴の魔力弾に違和感があったような……
とりあえず囲んでいる奴らは無視してラスボスに突撃してみる。
「なっ‼︎ ぐっ‼︎」
ラスボスはとっさに部下の武器を手に取り俺の攻撃を受け止める。
なんだ? こいつ? 今までほど強くない?
「てめぇ‼︎ 卑怯だぞ‼︎」
そういうことか、こいつがすごいんじゃない、こいつの武器が凄かったのか。
そうと分かれば
「大チャンスだ‼︎」
息をつく間も無く攻撃を続ける。
やはり、防壁がいつもより薄い‼︎ これならギリ貫ける‼︎
「うぐっ‼︎ ウヌヌヌゥゥ‼︎」
「ヤベェ‼︎ ボスがピンチだ‼︎」
「ガキを殺せええ‼︎」
「早くボスの剣持ってこい‼︎」
流石に全部の攻撃は捌き切れない、少しづつ切り傷が増えていく。だが確実にラスボスを追い詰めている。
そこへ大剣を持った部下が走って近づいてくる。
「ボス‼︎」
「早く渡せえええ‼︎」
かなり焦っていたのか部下は大剣をラスボスに放り投げる。
ラスボスの意識が俺から逸れた。
馬鹿め隙だらけだ‼︎
俺は手に持っていた釘を奴の足に突き刺し地面に縫い付ける。
「ぐぅおおおおお⁉︎」
「こいつは俺が使わせてもらう‼︎」
そして飛んで来た大剣をジャンプしながらキャッチし、ラスボスへ振り下ろす。
スパッ
大剣はラスボスを文字通り真っ二つにした。
「「「「「「……………」」」」」」
瞬間、世界が静まり返った。
「うっ、うわぁあああああ⁉︎」
「馬鹿な⁉︎ ボスが負けた⁉︎」
「ひぃぃいいい‼︎ 逃げろ‼︎」
「化け物だ‼︎ あのガキは人間じゃねぇ‼︎」
最初に声を上げたのは生き残った盗賊達だった。
「うそ……」
「私たち助かったの?」
次に声を上げたのは女たちだった。未だに自分達が助かったってことが信じられなかった。
「助かった……っ‼︎」
「うっ、うぅぅぅ‼︎」
だが助かったと確信すると涙が溢れて止まらなくなっていた。
「ゼェゼェハァハァっ、逃すかぁ‼︎ 今まで好き放題やりやがって‼︎」
だがそんな空気を察することなく、今まで受けた苦痛を晴らすため盗賊たちを追いかけに行こうとする。
「待って‼︎」
盗賊達を追いかけようとする彼に女の一人が声を掛ける。
「あなたは一体……何者なんですか?」
「俺?」
なにを聞いてるんだ?
連戦続きで思考がだいぶあやふやになっている彼には、今自分が何を聞かれているのかよくわからなかった。
名前でも答えるか?
せっかくだから前世の名前は捨ててもっとカッコイイ名前を名乗ろう。
「俺の名はア「今がチャンスだ‼︎ 逃げろ‼︎」ント、っておい‼︎」
最高にカッコいい名前を名乗ろうとしてたのにこいつら被せてきやがった!!
「アント……」
「アント様……」
「救世主アント……」
「いや、待てアントじゃない」
なんとか言い直そうとはするが、アントの名が浸透していく。
っていうかアントって確か英語でアリって意味じゃなかったか?
は? アリ? あの幼稚園児に巣ごと潰されるあの虫?
「ふざけんな‼︎ アントじゃねーっ‼︎ 俺の名は「早く持てるだけ金を持って逃げろー‼︎」っ‼︎ ちくしょう‼︎」
まずアイツらを黙らせないと名乗れもしないじゃねーか‼︎
「待ちやがれ‼︎」
「あっ‼︎ まだお礼をしていないのに‼︎」
村の女達は彼を引き止めようとしたが救世主アントは盗賊達を追って行ってしまった。
その後:
「なんだこれは⁉︎」
そう呟く男の名はゼスト・グランガイツ
この世界は管理局の管理下に入るのを拒否していたが、今回国では対処しきれないほどに強い犯罪者に散々大暴れされた挙句、国宝まで奪われたため、管理局の管理下に入るのと引き換えに応援を要請した。
しかし
「例の犯罪者が死亡しているだと?」
「はい、頭部から縦に真っ二つになっています」
「……誰がやったんだ?」
「この集落の目撃者によると推定年齢7歳くらいの黒髪黒目の目つきの悪い少年だったとのことです」
「少年だと⁉︎ 何かの間違いだろう‼︎」
「いえ、目撃証言は全て一致しています。ほぼ間違いなくこの惨状はその少年が一人で作り上げたもようです」
「何? つまりこの100を超える死体の山を作り上げさらにこの世界で国を相手どった犯罪者を真っ二つにしたというわけか?」
「はい、そうなります」
あまりに突拍子のない事態にゼストは溜息をつくしかなかった。
「で? その子供はどこにいる?」
「なんでもアントと名乗り見返りを求めることなく颯爽と去って行ってしまったようです」
「アント……か。はぁ、まるでお伽話だな。わかった。至急その子供を見つけ出せ。相手が人殺しの犯罪者とはいえ殺人は殺人だ。まぁ罪を犯したのが子供である上に正当防衛でもあるから罪はかなり軽くなるだろうがな。それとまだ盗賊の残党がいるはずだ見つけ次第確保しろ」
「はっ‼︎」
side:???
白衣の男がモニターを覗き込む、側では秘書のような女性が立っている。
「おや?」
「どうしましたか? ドクター?」
「どうやらこの前取引した男が死んでしまったらしい」
「というとあの新型インテリジェンスデバイスのテストの件ですか?」
「そうだ、持ち主にどんな影響を与えるかテストしておきたくて色々仕込んでおいたんだがね」
「では、回収に向かいますか?」
「いや、その必要はない。万が一のことを考えてこちらに関する情報は遠隔操作で削除できる。今のあのデバイスはただのやけに高性能なインテリジェンスデバイスだってだけさ」
「了解しました」
「しかし、あの男もデバイスの力に頼っていたとはいえ中々強かったはずなんだがね。一体どんな人物が彼を倒したのか気になるところだ」
「情報を集めますか?」
「うむ、頼んだよ」
厄介な人物に目をつけられたことを彼はまだ知らない。
彼が本当に名乗りたかったのはアブソリュート・ジャッジメントです。ある意味アントで良かったと思います。
これからは彼の名はアントでいきたいと思います。