バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

51 / 70
父親?

 

 

 

アントはすぐさま病院に搬送された。命に関わる怪我ではなかったようで搬送されて翌日の早朝に目を覚ました。

 

アントは目覚めてからは見舞いにきた人達にひたすら謝りっぱなしだった。

 

アリサは病室に入るやいなや、アントが目を覚ましているのを見て、泣きながら怒った。

 

『何度大怪我すれば気が済むのよ‼︎ いい加減にしなさいよこのバカァァ‼︎』

 

『悪かったって‼︎ でも今回は仕方なかったんだ‼︎』

 

『うるさい‼︎ 大怪我したって聞いてどれだけ心配したと思ってるの⁉︎』

 

『ア、アリサちゃん落ち着いて‼︎』

 

フォワードの四人はアントが目覚める前に見舞いに来たようだった。

 

なのはとフェイトはこっ酷くアントを叱ったあと、仕事が残っているようで早々に病室を後にした。

 

はやては守護騎士達とアントの病室に押しかけると、少しの間アントと雑談して安心した様子で帰っていった。

 

ようやく見舞い客が途切れ、一息つけたアントはパタリとベッドに横になった。

 

「疲れた……」

 

《お疲れ様です》

 

「……少し寝る。3時間後ぐらいに起こしてくれ」

 

《了解です》

 

アントは目を閉じた。だが、いつまで経っても眠れそうにない。体勢を変えてみるも一向に改善されそうにない。

 

どうしても、悩みがアントの睡眠を邪魔してくる。

 

《眠れませんか?》

 

「……そうみたいだ」

 

寝るのは諦め、アントは仰向けで天井を見上げ、ゆっくりと口を開いた。

 

「……なあルリ、俺はもう限界なのか?」

 

《っ‼︎》

 

今回ガーラと戦ったことで、アントは不安を抱いていた。

 

「これ以上、魔導師として強くなることはないのか?」

 

主人の問いに、ルリは正直に答えた。

 

《…………ボスならまだまだ成長するでしょう。ですが例のナンバーズを相手にするには魔力の差が開きすぎました。恐らく、そう遠くない未来、こちらの攻撃は一切通用しなくなると思われます》

 

「ッ……‼︎」

 

相棒の返答にアントは歯噛みした。分かってはいたが、受け入れ難い事実だった。

 

「……いや、まだやれる筈だ。今までだって無理を通して切り抜けてきただろうが」

 

《ボス……》

 

ガーラの魔力量は爆発的に増えている。その上、戦闘技術も向上していた。次戦う時は更に強くなっているだろう。

 

そんな奴を相手に、これからどうやって対抗していけばいいのか。

 

何もないアントが唯一持っている力。

 

『死に戻り』

 

もはやそれに縋るしかないのか。何千何万と繰り返せばいずれはどうにかなるだろうか。

 

アントは深い溜息を吐くと首を振った。

 

「……やめだやめだ。頭が痛くなってきた」

 

アントは気分転換のため、未だ痛みの残る身体を引きずって病院の自動販売機へ向かった。

 

自動販売機に辿り着き、何を買うか決めかねていた時だ。

 

なにやら此方をじっと伺う視線を感じた。

 

「…………?」

 

周囲を見回すアント。だが視線を感じるものの誰もアントを見てはいなかった。

 

……考え込み過ぎて厨二的なものでも目覚めたか?

 

アントはゲンナリしつつ、自動販売機へ向きなおる。すると

 

金髪の少女がアントを見上げていた。

 

「うお⁉︎ ──痛ツツッ⁉︎」

 

驚き飛びのくアント。その際、無理に動いたせいで痛みに襲われる。

 

痛みに耐えるようにうずくまるアント。少女はアントに近寄ると、心配そうにアントの顔を覗きこんだ。

 

「?」

 

「……あ、ああ、大丈夫、大丈夫だ。ちょっと驚いただけだ」

 

顔を上げ、改めて少女の姿を目視する。

 

金髪で右目が緑、左目が赤の虹彩異色。推定年齢六歳くらい。病衣を着ていることからおそらく入院患者だろう。

 

「一人か? 両親は?」

 

「?」

 

不思議そうに首を傾げる少女。

 

迷子か……まぁ、放っておけばそのうち親が探しに来るだろ。

 

アントはそう判断すると、立ち上がり改めて自動販売機へ向かう。

 

「さて、なにを買おうか……」

 

ジー

 

「……」

 

ジーー

 

「…………」

 

ジーーーー

 

「……何か飲むか?」

 

パァ‼︎ コクコク‼︎

 

少女の視線に根負けしたアントはリンゴジュースを買い与えた。

 

 

 

その後、アントは広場のベンチにて少女と並んで喉を潤していた。

 

嬉しそうにリンゴジュースを飲む少女。アントはコーヒー牛乳を飲みつつ、どうすればいいかボンヤリと考えていた。

 

ていうかとっとと迎えに来いよ、両親。

 

そんな事を考えながら、アントは溜息混じりに少女に話しかけてみる。

 

「お前の両親はどこにいるんだ?」

 

「?」

 

不思議そうに首を傾げる少女。

 

まぁ、分からねえか。自分が迷子だって認識すらしてなさそうだ。

 

アントは適当に会話してみることにした。

 

「……美味しいか?」

 

「うん‼︎」

 

「そりゃ良かった」

 

すると、少女はアントの真似をするように聞き返してきた。

 

「美味しい?」

 

「ん? ああ、美味しいぞ」

 

「えへへ〜、一緒‼︎」

 

何が嬉しいのか分からないが、少女はニコニコしながらリンゴジュースを見せてくる。

 

「ああ、一緒だな」

 

アントが適当に受け答えしていると、何やら病院が騒がしくなってきた。どうやらよろしくないことが起きたようだ。大勢の患者が避難し始めていた。

 

「火事でも起きたか? 物騒だなぁ」

 

俺達も避難しとくか。

 

そう思いベンチから立ち上がるアント。すると、遠くになのはの姿が見えた。

 

なのはもアントの姿に気付いたようで小走りで駆け寄ってくる。

 

「アント君‼︎ 傷は大丈夫なの?」

 

「治った」

 

「またそうやって嘘つく‼︎ ちゃんと傷が癒えてから退院しなきゃダメなんだからね?」

 

「なに当たり前のこと言ってんだ?」

 

「アント君に限っては当たり前じゃないから言ってるの‼︎ 今まで何度病院抜け出してると思ってるの⁉︎」

 

「それは流石に言い過ぎ…………あれ? そういえばまともに退院したことないな」

 

「やめてね? 今回はちゃんとした退院してね?」

 

そこでなのはがアントの背後にいる少女の存在に気付いた。

 

「その子──」

 

なのはが何か言いかけた直後、上空から聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラが完全武装で降ってきた。

 

「うおっ⁉︎」

 

シャッハは着地すると同時にアントにトンファーを向けた。

 

「その子から離れてください‼︎」

 

「ま、待て待て‼︎ 落ち着け‼︎ 偶然そこで会っただけだ‼︎」

 

「何を言ってるんですか‼︎ いいから離れてください‼︎」

 

「だから誤解だ‼︎ そんな物騒なもの向けるな‼︎」

 

「離れてくださいと言ってるんです‼︎」

 

「とりあえず武装解除しろ‼︎ こっちは怪我人だぞ⁉︎」

 

少女が危険だから離れろと言っているシャッハ。

 

自分は決して誘拐犯ではないと弁明するアント。

 

二人は完全にすれ違っていた。

 

「ははは……」

 

苦笑するなのは。

 

少女はその様子をアントの足にしがみついて眺めていた。

 

 

 

 

 

それから数分後、ようやく互いの認識の擦り合わせが済み、アントは自身が勘違いしていたことを知った。

 

「いやはや、申し訳ない」

 

「いえ、こちらこそ言い方が悪かったです。申し訳ありませんでした」

 

アントとシャッハは互いに頭を下げた。なのははそんな二人を苦笑しながら見ていた。

 

「でも良かった。無事見つかって」

 

なのはは未だなのはとシャッハを警戒している少女に目線を合わせて語りかけた。

 

「初めまして、高町なのはって言います。お名前言える?」

 

なのはの問いかけに、少女は恐る恐る答えた。

 

「……ヴィヴィオ」

 

「ヴィヴィオ、可愛い名前だね。何処か行きたかったの?」

 

「……パパ、探してたの」

 

少女は俯きながらそう呟いた。

 

なのはは一瞬、ハッとした表情になるが、すぐさま少女に笑顔を向けた。

 

「それは大変だね。なら一緒に探そうか」

 

するとヴィヴィオはフルフルと首を振り、アントの方を見た。

 

「パパ……」

 

「ん?」

 

少女は覚束ない足取りでアントの懐に潜り込むと

 

 

きゅう、としがみついた。

 

 

「パパ」

 

その瞬間、周囲の空気が凍りついた。その場にいる全員の視線がアントに集中する。

 

「……いやいやいやいやいや、違う違う。これはあれだ……えーっと……」

 

「パパぁ」

 

必死に弁明するアントに少女は甘えるように頬ずりする。その光景は本当に父親に甘える娘のようだった。

 

「……」

 

何も言えないアント。

 

「「「……」」」

 

誰も言葉を発しない。無言の空間が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

結局、アントは周囲の反対を押し切って退院することにしたのだった。ヴィヴィオをアントから無理に引き離そうとすると泣き叫んでしまうのだ。

 

「シャマルの治癒魔法ならワンチャンあるしな」

 

「流石に無理だと思うよ?」

 

ヴィヴィオは病院で歩き回ったせいか、アントの腕の中で眠っていた。その手はガッシリとアントの服を掴んでおり、離れそうになかった。

 

医師によれば容態は安定しているようなので大丈夫だろうとのことだ。むしろアントの方がよっぽど危険だと嫌味を言われてしまった。

 

「ゼッッ──タイに安静にしなきゃダメだからね?」

 

「分かった分かった」

 

「二回言わないの」

 

「分かった」

 

なのはは適当に返事をするアントに溜息を吐く。

 

「それでどうするの? その子、引き取るの?」

 

アントは悩ましげに頭を掻いた。

 

「……それなんだよなぁ……どーしよ」

 

ヴィヴィオは人造生命体だと聞いている。つまり両親はいない。どうすればいいのかサッパリ分からない。

 

アントが本気で悩んでいると、腕の中の少女が薄く目を開いた。

 

「……ん……パパぁ……」

 

「ああ、起こしちまったか。まだ寝てていいぞ」

 

そう言って少女の頭を撫でると、少女は再び瞼を閉じた。

 

「うにゅ……」

 

幸せそうにまどろむヴィヴィオ。アントは安心させるためにその頭を撫で続ける。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

完全に眠りについたヴィヴィオ。なのははその様子を見て微笑んだ。

 

「なんか本当の父親みたいだね」

 

「そうか?」

 

アントは自身の腕の中で気持ちよさそうに眠る少女を見た。

 

「ま、なるようになるだろ。先のことは未来の俺に任せるよ」

 

 

 

 

アントとなのはは隊舎に到着すると、すぐにはやての呼びかけで聖王教会へ向かうことになった。

 

「……置いていって大丈夫なの?」

 

フェイトは心配そうにアントに問いかける。

 

「大丈夫だろ。ぐっすり眠っていたし、当分起きない筈だ」

 

「アント君も寝てるべきだよ。お医者さんから絶対安静って言われてるのに……」

 

不満気ななのはにアントは苦笑した。

 

「ちょっとくらい大丈夫だ。っていうか今回の会議、俺が参加して大丈夫なんだよな?」

 

「それはクロノ君に確認してあるから大丈夫だけど……」

 

「そうか、なら丁度いい」

 

アントの言葉にフェイトは首を傾げた。

 

「何が丁度いいの?」

 

「俺が戦ってたアイツはクロノも知ってる奴だからな。説明が楽になる」

 

「「⁉︎」」

 

息を飲んで固まるなのは達。

 

だがアントはそんな二人に構うことなく、のんびりとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

聖王教会本部。

 

その一室にカリムとクロノ、そしてはやてが三人の到着を待っていた。

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

ドアがノックされ、カリムが入室を許可する。

 

「失礼いたします」

 

ドアが開き、なのはとフェイトが、そして二人の後からアントが中に入ってくる。

 

凛とした佇まいで、なのはが直立する。

 

「高町なのは、一等空尉であります」

 

カリムに対して敬礼するなのは。

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」

 

「初めまして、ジョン・スミスです。機動六課で教導のバイトしてます」

 

なのはに続いて、フェイトも敬礼する。ついでにアントも敬礼してみる。

 

「あら? ジョン・スミス? クロノ提督から聞いていた名前と違うようですけど……」

 

カリムは確認するようにクロノを見た。クロノは呆れたように溜息をつく。

 

「混乱するから本名を名乗れ、アント。すみません、彼には少々事情がありまして、名前がいくつもあるんです」

 

しっかり自己紹介しろと目で訴えるクロノ。

 

「アント・バーキンです。傭兵やってます」

 

「あ、はい。初めまして。聖王教会、教会騎士団、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」

 

カリムは微笑んで二人を招き入れる。

 

「失礼します」

 

一礼し、なのはがイスに座る。

 

「クロノ提督。少し、お久しぶりです」

 

フェイトはすぐには座らずに、義兄のクロノに敬礼した。

 

「ああ、フェイト執務官」

 

その堅苦しいやりとりを見て、カリムが上品に笑う。

 

「うふふ。お二人共、そう堅くならないで。私達は個人的にも友人だから。いつも通りで平気ですよ」

 

気さくにカリムは言う。

 

「と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで」

 

「平気や」

 

クロノとはやてが、普段通りの口調になる。

 

「じゃあ、クロノ君。久しぶり」

 

ニコッと笑うなのは。

 

「お兄ちゃん、元気だった?」

 

フェイトの言葉に面食らうクロノ。

 

「う……それはよせ!お互い、もういい歳だぞ」

 

フェイトの天然の言葉に、クロノは恥ずかしそうにする。

 

「兄妹関係に年齢はないよ、クロノ」

 

フェイトは気にした様子もなく、笑ってイスに腰をかける。

 

すると、今度はアントがクロノへ挨拶がわりに拳を向けた。

 

「久しぶりだなクロノ」

 

「ああ、そう言う君は相変わらずだな、アント」

 

クロノは拳をコツンと合わせた。

 

「双子が生まれたんだって? 父親になったなら早く言えよ。祝えなかっただろうが」

 

「音信不通になってる奴に、どうやって報告すればいいんだ?」

 

「噂を流すとかあっただろ?」

 

「そんな噂、恥ずかしくて流せないんだが」

 

「はいはい、そこまでや。再会を喜ぶのはええけど、そろそろ本題に入るで?」

 

一通りの顔見せが終わったところで、はやてが本題を切り出した。

 

「さて、昨日の動きについてのまとめと、改めて機動六課設立の裏表について。それから、今後の話や」

 

パチン!

 

はやてが指を鳴らすと自動でカーテンが下がり、外からは覗けなくなった。

 

「六課設立の表向きの理由は、ロストロギア、レリックの対策と独立性の高い少数部隊の実験例」

 

クロノが代表して説明を始めた。

 

「知っての通り六課の後見人は、僕と騎士カリム、それから僕とフェイトの母親で上官、リンディ・ハラオウンだ」

 

モニターに3人の画像が出る。

 

ここまでは、なのはとフェイトも知っている事だ。

 

「それに加えて非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め、協力の約束をしてくれている」

 

次に出された画像を見て、なのはとフェイトは驚いた。

 

時空管理局黎明期の功労者として伝説になっている三提督。

 

その面々が協力してくれると言う事は、かなり大きな事件を想定していると言う事だ。

 

「三提督が協力してくれる理由は、私の能力と関係があります」

 

カリムはモニター前まで移動し、手にしていた紙の束……お札のような物の紐を解いた。

 

「私の能力、プロフェーデン・シュリフテン。これは最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出した予言書の作成を行う事ができます。二つの月の魔力が上手く揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に一度しかできません」

 

札がカリムの周囲を回りだし、なのはとフェイトの前に二枚の札がせり出してきた。

 

「予言の中身も古代ベルカ語で、解釈によって意味が変わる事もある難解な文章。世界に起こる事件をランダムに書き出すだけ」

 

カリムの説明通り、その札に書かれている文字はフェイトでも読む事はできない。

 

フェイトがなのはに目を向けると、彼女も首を横に振った。

 

「解釈ミスも含めれば、的中率や実用性は割とよく当たる占い程度。つまりは、あまり便利な能力ではないんですが」

 

冗談ぽく笑い、カリムは札を纏めて束ねた。

 

「聖王教会はもちろん、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。信用するかどうかは別にして、有識者による予言情報の一つとしてな」

 

そう説明するクロノに、はやては苦笑して肩をすくめる。

 

「ちなみに、地上部隊はこの予言がお嫌いや。実質のトップが、この手のレアスキルとかお嫌いやからな」

 

「レジアス・ゲイズ中将、だね」

 

なのはが聞くと、はやてはコクンと頷く。

 

アントは内心苦笑いをしていた。

 

確かに、レジアスさんは嫌いだよなぁ。そういうレアスキルとか特別な存在。

 

「そんな騎士カリムの予言能力に数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている」

 

クロノがそう言うと、カリムは一枚の札を手にとり、その内容を読み出した。

 

「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。死者達が踊り、なかつ大地の法の塔は空しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船も砕け落ちる」

 

「それって‼︎」

 

「まさか‼︎」

 

なのはとフェイトが同時に声を上げる。

 

「ロストロギアをきっかけに始まる、管理局地上本部の壊滅と……管理局システムの崩壊。そして、この予言にはまだ続きがありました」

 

カリムはもう一枚手に取る。

 

「抗う者、選択せしとき、世界は闇もしくは光に覆われる」

 

「「⁉︎」」

 

なのはとフェイトは驚愕した。

 

「察しの通りです。これは『抗う者』の選択次第では、ミッドチルダは崩壊することを意味していると思われます。詳細は分かりません。文章が短すぎるのと曖昧すぎてこれ以上は解読出来ないんです」

 

カリムの言葉に、室内が静まりかえる。

 

「じゃ、じゃあ、機動六課は……」

 

なのはは、自らの部隊を導く部隊長に目を向ける。

 

「荒唐無稽みたいな話やろ? でも、最近のガジェットの出現、昨日の魔導師以外のSクラス砲撃……そして、ヴィヴィオ」

 

「ヴィヴィオ?」

 

突然出てきたヴィヴィオの名前に、フェイトが聞き返す。

 

「偶然にしては出来過ぎや思わへん?レリックに繋がれた……いや、”古い結晶”に繋がれた少女」

 

「ヴィヴィオがこの一件に関わっているって言うの⁉︎」

 

なのはの声が思わず大きくなる。

 

「……少なくとも私はそう思う。多分、望まなくてもヴィヴィオは事件に巻き込まれる。だからあの子の事は、アント君に任せたいんや」

 

「俺?」

 

突然話を振られ、キョトンとするアント。

 

「一人で寂しい言うんは、私も分かるしな。ヴィータ達がきてくれた時は、スゴい嬉しかった。それに、アント君にえらい懐いてるみたいやしなぁ」

 

はやてはそう言って笑った。

 

「お願いや、アント君。私の家族を守ってくれた時みたいに、ヴィヴィオのことも守って欲しいんよ」

 

アントは真っ直ぐに、はやての目を見つめ返した。

 

「それは依頼か? お願いか?」

 

「お願い、と言いたいところやけどな。アント君は受けた依頼は絶対果たすんやろ? ならこれは”依頼”や」

 

はやての言葉にアントはニヤリと笑った。

 

「分かった。ヴィヴィオの安全が確認できるまでは俺が守る」

 

はやてから依頼を受けたアントは悩ましげに背もたれにもたれかかった。

 

「となると、尚更アイツをどうにかしなきゃなぁ」

 

「アント。報告は聞いているが、お前にその怪我を負わせたのはまさか……」

 

真剣な表情で問いかけるクロノに、アントはコクリと頷いた。

 

「ああ、昔、お前をボコボコにしたアイツだよ」

 

「「「「⁉︎」」」」

 

アントから話される不穏な言葉に、なのは達は眉をひそめた。

 

「そうか……生きていたのか……」

 

険しい表情のクロノに、フェイトはゆっくりと問いかけた。

 

「……何があったの? 一体何者なの?」

 

「……スカリエッティに並ぶ危険人物だ。名はガーラ。スカリエッティの手下で、単身で国を一つ滅ぼしかけた」

 

「「「⁉︎」」」

 

「な、なんやって⁉︎ 本当なんか⁉︎」

 

思わずはやては身を乗り出した。

 

「信じられないだろうが事実だ。あの時、アントが駆けつけてくれなければ、僕は死んでいた」

 

「あの時確実にやったと思ったけどな。完全復活してやがった。その上、更に強くなってやがる」

 

「……要警戒ってわけや。最悪、部隊全員で相手することになるかもしれんな」

 

はやての言葉に全員が同意するように頷いた。

 

だがアントの内心は違うことを考えていた。

 

(これで注意喚起は出来た。なのは達は警戒して動くようになるはずだ)

 

ガーラという危険な存在を知ってもらうのが狙いだった。

 

決着は自分で付けなきゃならない。どれだけ強かろうと、魔導師ではガーラの相手は出来ないからだ。アントのように本来の魔導師から外れた存在でなくては勝てない。

 

だが気がかりが一つ増えてしまった。二つ目の予言だ。

 

「奴に関してはそれでいいけどよ、世界が滅ぶって予言はどうするんだ?」

 

「うーん……まずは『抗う者』を探さなきゃならんなぁ。ここで指してるのは個人なのか、組織なのか……」

 

「ヒントが無さすぎるな。それも含めて、今後の対策の話といこうか」

 

会議は日が暮れるまで行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議を終え、六課の隊舎に帰宅したアント達だったが、なにやら部屋が騒がしい。

 

部屋に入ってみると、ティアナ達がヘトヘトで地面に座り込んでおり、アリサとすずかが部屋の隅でヴィヴィオを必死に宥めていた。

 

どうやら、アントが留守の間にヴィヴィオは目を覚ましてしまったらしい。

 

「パパッ‼︎」

 

アントの姿を見た途端、ダッシュで飛び込んでくるヴィヴィオ。

 

「おかえりなさい……アントさん……。大変だったんですよ? パパがいないって泣いちゃって……」

 

ティアナの非難めいた物言いにアントは苦笑するしかなかった。

 

「あー、悪かった。ヴィヴィオもごめんな。ちょっと用事があったんだ」

 

宥めるようにヴィヴィオの頭を撫でるアント。ヴィヴィオは潤んだ瞳でアントを睨み、ポカポカと叩いた。

 

「置いてったぁ‼︎」

 

ピギャーッと泣きながら抗議してくるヴィヴィオ。

 

「……ん? なんかこの光景、既視感が……」

 

「何か言ったかしら?」

 

「あ、なんでもない」

 

アントはアリサの鋭い視線から逃げるように目を逸らした。

 

「まったく。少しはこの子の身にもなってみなさい。目が覚めたら父親がいなくなってるなんて、すごくショックなことなんだから」

 

「そうだよ? ちゃんと慰めてあげて」

 

アリサとすずかに叱られてしまった。正論過ぎて何も言えない。

 

「パパがヴィヴィオ置いてったぁ……」

 

ヴィヴィオはグスグスと愚図りながら弱々しく抗議する。

 

「そうだな。配慮出来てなかった。ごめんなヴィヴィオ。ただいま」

 

「…………おかえりなさい」

 

ヴィヴィオはギュッとアントに抱きついた。

 

なのは達は微笑ましげにヴィヴィオとアントを見ていた。もはや親子のようにしか見えない。

 

「とりあえず、一件落着やな」

 

「そうだね」

 

そこでふと、はやては気になることを口に出してしまった。

 

「アント君が父親ってことは、母親は誰やろ?」

 

「「「「え?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。