バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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夢叶う

 

 

「くぁぁ〜……」

 

朝日の眩しさで目を覚ましたアント。

 

顔を洗いに行こうと起き上がろうとしたところ、隣で寝ていたヴィヴィオに服を引っ張られた。

 

「うぅ〜……」

 

寝ぼけ眼でアントにしがみつくヴィヴィオ。

 

「……」

 

アントはそっとヴィヴィオの手を服から外し、未だ温もりが残る枕をヴィヴィオに掴ませてみる。

 

「うにゅ……」

 

案の定、ヴィヴィオは枕にしがみつき寝息を立て始めた。

 

「計算通り」

 

《やめてあげてください。これでボスがいなくなってたらまた泣いてしまいますよ?》

 

「ちょっと試してみただけだ。どうせしばらく暇だ。部屋から出る予定もねえよ」

 

アントはスヤスヤと眠るヴィヴィオの頭を撫でる。

 

「ったく、気持ち良さそうに眠りやがって。昨日は大変だったんだからな?」

 

《あれは八割ほどボスが原因かと》

 

「いや、ヴィヴィオだろ」

 

《いえ、ボスです》

 

 

 

時間は聖王教会へ行った日、つまり昨日の晩に遡る。

 

 

 

さて、どうすればいいのやら。

 

(ミッドの法律がしっかりしてるのがちょっと厄介だな……)

 

アントが未だ離れそうにない少女を前に悩んでいると、トントンと肩を叩かれた。

 

「ん?」

 

振り返るとモジモジとしつつ顔を真っ赤にしているなのはがいた。

 

「あ、あの、アント君……その……当面はアント君がヴィヴィオのお父さんをするってことになるよね……?」

 

「まあ、そうなるな」

 

「そ、それならさ、その、アント君がヴィヴィオのお父さんになるなら、お、お母さんも……必要だと思うんだ……だ、だから、わ、私が…………その、ヴィヴィオの──」

 

「全く、本当に仕方ないわねアントは。ヴィヴィオ。私のことはアリサママって呼びなさい」

 

「な⁉︎」

 

アリサに言葉を被されてしまったなのは。

 

「え、えぇ⁉︎ あ、アリサ‼︎ それは、ずるいよ‼︎ ヴィヴィオ、私をフェイトママって呼んでも大丈夫だからね?」

 

「ヴィヴィオ〜、すずかママだよ〜」

 

フェイトとすずかはヴィヴィオに目線を合わせながら語りかける。

 

「?」

 

アントにしがみついたままキョトンとするヴィヴィオ。

 

そこへ先程まで固まっていたなのはが割り込んできた。

 

「ま、待って‼︎ 私が言いかけてたの‼︎ ヴィヴィオの母親役は私がやる‼︎」

 

アントはそんな様子を眺めると、足元のヴィヴィオへポツリと呟いた。

 

「……人気者だなぁ、ヴィヴィオ」

 

「? うん‼︎」

 

よく分かってはなさそうだが、ヴィヴィオは嬉しそうに頷いた。

 

「あちゃ〜、爆弾投げ込んでもうたかな?」

 

困ったように頭を掻くはやて。

 

元凶はコイツか。

 

アントは責めるような視線をはやてに送った。

 

「一体何を言った? いや、とりあえずどうにかしろ、部隊長」

 

「よっしゃ、責任とったるわ。ヴィヴィオ〜、はやてママやで〜」

 

ニコニコ笑いながらヴィヴィオに笑いかけるはやて。

 

そっちかい。

 

心の中でツッコミを入れていると、呆れた様子でこっちを見るティアナの姿が視界に映った。

 

「なんだよ」

 

「……いえ、ただアントさんって、こういうのはダメなんだなぁと」

 

「え? 何がダメなの? ティア」

 

「あんたに関しては最初から分かってるから気にしなくていいわよ」

 

「「?」」

 

スバルとアントは同じタイミングで首を捻った。

 

……とりあえず、事が収まるまで離れとくか。

 

アントはヴィヴィオからそっと離れ、部屋を出ようとした。

 

すると、

 

なのはがアントの右肩をガッと掴んだ。

 

「どこ行くのかな? ここ、アント君の部屋だよ?」

 

「……少し外の空気を吸いに」

 

アントがそう答えると、左肩をフェイトに掴まれた。

 

「当事者が居なくなるのは良くないと思うよ?」

 

「ティアナ達はもう休んでいいで。私達はちょっと時間かかりそうや」

 

「アント、あんたこのまま終わると思ってるのかしら?」

 

「まだ話は終わってないよ?」

 

ズルズルと引きずられ戻されるアント。

 

「わ、分かった。分かったから離してくれ」

 

「分かってないよ。アント君は少しも分かってない。分かってたらあそこで逃げようとはしないよね?」

 

「ちょっと話し合おうね?」

 

部屋に取り残されたアント。すでにティアナ達は部屋を後にしてしまっていた。アントは数時間ほど拘束された。

 

結果、ヴィヴィオが五人ともママと呼ぶようになったことで事態は収束した。

 

 

 

アントは昨日の出来事を思い出して疲れた表情を浮かべつつ首を傾げる。

 

「……やっぱり俺、悪く無いよなぁ?」

 

《……もう私ではどうしようもないですね》

 

ルリが呆れた口調で呟いた。

 

その時、突如部屋にドアホンのチャイムが鳴り響いた。

 

「ん? 誰だこんな朝っぱらから」

 

怪訝な様子でドアを開けると、そこにいたのはスーツ姿のなのはだった。

 

「おはよう、アント君」

 

「なのはか、おはよう。何の用だ?」

 

「ヴィヴィオの様子を見に来たんだけど……まだ寝てるかな?」

 

「ああ、そういうことか。まだ起きそうにな──」

 

「なのはママ‼︎」

 

アントの背後から飛び込んできたヴィヴィオがなのはへ突っ込んだ。

 

「おはよう、ヴィヴィオ。よく眠れた?」

 

「うん‼︎ …………でも起きたらパパが枕になってた」

 

「?」

 

どうやらアントだと思ってたのが枕だったことに気付き探しに来たようだ。

 

「むぅ〜……」

 

ヴィヴィオは少しむくれながらアントを見る。

 

「ハッハッハ」

 

「よく分からないけど、アント君が笑って誤魔化そうとしてるのは分かるよ」

 

なのはは呆れたようにアントを見ると、ヴィヴィオを抱きかかえアントの部屋へ入っていった。

 

「ほらヴィヴィオ、顔を洗ってお着替えしようね」

 

「はーい‼︎」

 

「ヴィヴィオ、準備終わったら朝飯に…………ん?」

 

あまりに自然な流れだったため気付くのが遅れたが、普通は男の部屋に入るのって抵抗あるんじゃないのか?

 

「どうしたのアント君?」

 

不思議そうにこちらを伺うなのは。

 

まぁ、なのはだしな、今更すぎる話か。

 

「いや、なんでもない。悪いな、そういうことやってくれるのは助かる」

 

「母親だもん。これくらいはしなくちゃ。本当は一緒に寝るべきだと思うんだけど……()()ダメだからね」

 

「本当ならなのは達と生活させた方がいいんだけどなぁ」

 

ヴィヴィオは本人の希望もあってアントの部屋で過ごすことになっている。

 

「大丈夫だよ。私達もフォローするから」

 

なのはがやけに頼もしい。

昨日は大変だったが、母親役をやってくれるというのはかなり助かる。エリオとは違い、ヴィヴィオは女の子だ。俺だけでは気配りが足りなくなっていた筈だ。

 

 

 

「じゃあ、そろそろ出勤時間だから行くね? ヴィヴィオのこと、ちゃんと面倒見るんだよ?」

 

「分かってるって」

 

「行ってらしゃい‼︎ なのはママ‼︎」

 

「行ってくるね。ちゃんと朝御飯食べるんだよ?」

 

「うん‼︎」

 

ぎゅ〜っとハグしあうなのはとヴィヴィオ。

 

さて、数日の療養休暇。どうやって過ごそうか……。

 

アントがボンヤリとそんな事を考えていると、いつの間にかなのはがアントの側にいた。

 

「ん? どうした、なの──」

 

少々様子がおかしいので、何事か尋ねようとした時だ、

 

 

アントの頰に唇が押し付けられた。

 

 

「………………は?」

 

唖然としているアントの耳元へ、なのははポツリと囁いた。

 

「行ってきますのキスだよ。夫婦らしくね」

 

なのはは少しアントから離れるといたずらっぽく笑った。

 

「アント君の所為だからね? 私、アント君には我慢しないって決めたから」

 

なのははほんのりと頬を赤らめながら部屋を出て行った。

 

「パパ〜どうしたの? 動いて〜‼︎」

 

ヴィヴィオが押しても引いても動かない。アントはそのまま数十分、固まったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

ようやく復活したアントは、ヴィヴィオを連れて食堂へ向かっていた。

 

すると、同じく食堂へ向かっていたフェイトと遭遇した。

 

「おはようアント、ヴィヴィオ」

 

「あ‼︎ おはようフェイトママ‼︎」

 

「あぁ……」

 

どこか上の空のアント。フェイトは心配そうに尋ねた。

 

「どうしたの? 怪我の具合が悪いの?」

 

「いや、ちょっとな……」

 

「パパね、なのはママがお仕事行ってから変になっちゃったの」

 

「え? なのはが? どういうこと?」

 

フェイトが問うも、アントは質問に答えれる状態でない。

ヴィヴィオは話を続けた。

 

「それでね? ママがほっぺたにチューしたらパパがカチーンってなっちゃったの」

 

「えっ⁉︎」

 

「なぁ⁉︎ おいこら‼︎」

 

慌ててヴィヴィオの口を塞ぐがもう遅かった。

 

「………………キスされたんだ?」

 

俯き、なにやら黒いオーラを出し始めるフェイト。

 

「あ、いや、それは……」

 

「どっち?」

 

「……は?」

 

「どっちの頰にキスされたの?」

 

「な、なんでそんなこと……」

 

「いいから、大事なことなの」

 

有無を言わせない口調で問い詰められる。気圧されたアントは戸惑いつつ答えた。

 

「……右」

 

すると、フェイトはサッとアントへ近寄り、

 

 

左の頬にキスをした。

 

 

「⁉︎」

 

「こ、これで、なのはに負けてないはず……」

 

二人はしばらく無言になってしまった。

 

やがて、沈黙に耐えきれなくなったフェイトは背を向け歩き出した。

 

「じゃ、じゃあ私行くねっ‼︎」

 

朝食を食べにきたはずなのに真逆の方向へ去っていくフェイト。

 

「どうしたのかな? フェイトママ」

 

ヴィヴィオがアントの服の裾を引っ張り問いかける。だがアントから返答はなかった。

 

「あ‼︎ またパパがカチーンってなっちゃった⁉︎」

 

 

 

 

 

 

時は経って昼過ぎ。アントはタバコを吸いながら、ボンヤリと海を眺めていた。

ヴィヴィオはお手伝いさんに預けて部屋で昼寝中だ。

 

「なに黄昏てるのよ。アント」

 

背後から声をかけられる。

 

「……ああ、アリサか。お前こそどうしたんだ? この時間はまだ仕事中だろ?」

 

「休憩よ。気分転換に散歩してたところ。それで? なんで黄昏てるのかしら?」

 

「あー……………実はな」

 

話すべきか躊躇ったが、ちょうど誰かに相談したいと思っていたアントは全てを話した。

 

「……なるほどね、そんなことがあったわけ」

 

「ああ、もうどうすりゃいいのか……」

 

話を聞き終えたアリサはゆっくりと口を開いた。

 

「一つ確認したいんだけど、キスされただけなのね?」

 

「だけってお前………………まぁ、そうだ」

 

「そう、ならよかったわ」

 

「よかった?」

 

アントが怪訝な顔をしていると、アリサは真っ直ぐアントを見つめた。

 

「私、アンタのこと好きだから。ハッキリと言葉で伝えたのは私が初めてってことになるわよね?」

 

「………は?」

 

思考が追いついていない。

 

「別に今すぐ返事が欲しいわけじゃないわよ。アンタのことだから、今までそういう目線で見たことないんでしょ?」

 

アリサはそう言うと、後ずさりしかけていたアントへ迫った。

 

その勢いのよさに若干仰け反るアント。

 

アリサはグイッとアントへ顔を近づけて指を突きつけた。

 

「感謝しなさい。あんたみたいな厄介な奴を好き好んで選ぶ人なんて滅多にいないんだから」

 

「っ……」

 

淡々と語っているように聞こえるが、アリサは首まで真っ赤だった。

アントは言葉を発することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もうわけが分かんねえ」

 

「大変やな〜、もう一杯いくか?」

 

「……ああ」

 

はやてから渡された酒をグイッとあおるアント。

 

アントははやてと二人で飲みに来ていた。はやてに誘われ、酒の力に頼りにきたのだ。ちなみにヴィヴィオははやて経由でなのは達に託されている。

 

「ゴクッ……はぁ〜……」

 

「いい飲みっぷりやなぁ。どれ、私も」

 

コクコクと酒を飲み干すはやて。

 

「ふぅ。様子がおかしいと思ったけど、そういうことやったんやな〜。でもまぁ、のんびり考えればええんちゃう?」

 

「……そういうもんなのか?」

 

「待たせすぎは良くないけど、急ぎすぎてもダメやで? アント君がしっかり考えて答えを出さんと」

 

「答え、ねぇ……」

 

結論は出そうにないものの、はやてにそう言われて随分頭がスッキリしてきた。やはり部隊長をやってるだけあってこういう術を持っているのだろう。

 

 

 

その後、アントとはやては店を後にした。

 

「いや〜、悪いなぁ、奢ってもらっちゃって」

 

「なに、これくらいはしねえと」

 

「……」

 

はやては隣を歩くアントをチラリと伺うと、アントに聞こえないくらいの声でポツリと呟いた。

 

「……やっぱり無理やな」

 

「なんか言ったか?」

 

アントが問いかけると、はやてはふらりとアントに寄りかかった。

咄嗟にはやてを支えるアント。

 

「どうした? 飲みすぎたのか? どっかで水でも買うか?」

 

すると、アントの首にはやての両腕が巻きつけられた。

 

アントの背後で両腕を曲げて、片方は後頭部へ、もう片方は背中に添えられる。

 

「えへへ〜、やっぱりあったかいなぁ」

 

「お、おい……」

 

「……アント君のにおいや」

 

首元に顔を押し付けるように埋められ、スリスリと感触を確かめるように頬ずりをされるアント。

 

「ちょ、おま⁉︎ 酔いすぎだ‼︎」

 

はやての蕩けた瞳と目が合った。かなり近い。

 

「顔、赤いやろ? どっちやと思う?」

 

「な、なんの話だ?」

 

「ホンマに鈍いなぁ。アント君は」

 

はやては溜息をつくと、隠れるように再びアントの首元に顔を埋めた。

 

「私もアント君の悩みのタネの一つっちゅうことや」

 

「は?」

 

「ごめんなぁ〜、ホントは大変そうやから言わん方がいいかもって思ったんやけど、やっぱり無理やった」

 

「……」

 

カラカラと笑うはやて。頬が赤いのは酒だけが理由ではないようだった。

 

 

 

 

 

 

無事はやてを送り届けたアントは、一人ベンチに座り水を飲んでいた。

 

「……酔いが醒めちまった」

 

アントがボンヤリとしていると、目の前にすずかがひょっこりと現れた。

 

「アント君? どうしたの?」

 

「す、すずかか……」

 

ベンチから浮き足立ちになりつつ、すずかを見上げるアント。

 

「あれ? 警戒してる?」

 

「い、いや、別にそういうわけじゃない」

 

「……隣、いい?」

 

「あ、ああ」

 

すずかはアントの隣に座った。

 

しばらく無言で座っていると、すずかが口を開いた。

 

「あ、あのね? その……いきなりで悪いんだけど…………お願いがあるの」

 

「…………………お願い?」

 

身構えるアント。

 

「うん……その、血を……飲ませて欲しいんだけど……ダ、ダメ……かな……?」

 

上目遣いで聞いてくるすずか。アントは安堵のため息をついた。

 

なんだ。血が飲みたくなっただけか。

 

文章にするとヤバイ感じがするが、吸血鬼であるすずかにとっては死活問題だ。

 

「吸血鬼だもんな。死なない程度なら飲んでいいぞ」

 

「‼︎ ありがとうアント君‼︎」

 

すずかはパアッと顔を輝かせ、アントの膝の上に乗った。

 

「……………ん?」

 

なんでわざわざそこに?

 

疑問に思うアントだったが、何故かその疑問を言葉にすることが出来なかった。口が思うように動かせない。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

カプッとアントの首元に噛み付くすずか。それと同時に、アントの背中に両腕がまわされ、抱きしめられる。

 

あれ? なんだ? なんか眠くなって……

 

 

 

気が付いたらアントはベンチに仰向けになっていた。すずかはすでに吸血を終えており、アントに身体を預けたまま、目と鼻の先で此方を伺っていた。

 

「うぉっ⁉︎」

 

「あ…………」

 

バッと起き上がるアント。すずかは慌ててアントから離れた。

 

「ご、ごめんねアント君……」

 

「え? あー、いや、大丈夫だ。うん……そうか、いつの間にか寝てたか……」

 

「ち、違うの‼︎ その、あの……」

 

なにやら言いたげなすずか。

 

「……さ、催眠術、使っちゃってたみたい……」

 

「……………はい?」

 

予想外過ぎるカミングアウトにアントは唖然とした。

 

 

 

アントは知らないが、すずかと遭遇したのは偶然ではない。アリサから話を聞いたすずかは仕事が終わってからずっとアントを探していたのだ。

 

数年前にアントの血の味を知って以来、すずかはずっと我慢してきた。そして二人っきりという状況。吸血鬼の本能が抑えきれなくなっていた。

無意識に、吸血鬼の本能のままに、催眠してしまっていたのだ。

 

 

 

「……」

 

黙り込むアント。すずかはオロオロしていた。

 

「お、怒ってる?」

 

恐る恐る問いかける。

 

「……いや、でもなんか悔しいな。いつかけられたんだ?」

 

「あ、あれ? 悔しい?」

 

「あっさりと催眠されちまったし」

 

「……」

 

拍子抜けしてしまったすずかだったが、すぐにクスリと笑った。

 

「やっぱり変わってないなぁ……普通なら怖がるところだよ?」

 

「……?」

 

心底不思議そうな顔をするアント。

 

「ふふっ、そういうところだよ」

 

「?」

 

脈略のない言葉に疑問符を浮かべるアント。

 

すずかはそんなアントに向けて優しげな笑みを浮かべた。

 

「そういうところが、好きになっちゃったんだから」

 

「なっ⁉︎」

 

本日五度目の不意打ち。それでもやはり、アントは固まってしまった。すると、すずかは固まっているアントに耳打ちする。

 

「アント君、もう一つだけ、謝ることがあるの。その……アント君が催眠にかかってる間、私──」

 

何事か囁くすずか。アントは目を開いて呆然とすることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フラフラと自室に戻ってきたアント。

 

真っ直ぐにベッドへ向かうとパタリと倒れ伏した。

 

《お疲れですね》

 

「……お疲れだ……今日一日が濃すぎる……」

 

《まあ、いくらボスでも、これで分かったでしょう?》

 

「これで分からない奴とか……何処の鈍感系ハーレム野郎だよ……」

 

《その言葉を聞けて安心しました。つい最近まで『なんで気付かないんでしょう、やはり頭がよろしくないのですね』とか『もう一生このままで終わる』と諦めていた私も報われました》

 

「おい待て、いま俺のこと馬鹿にしたよな?」

 

《まさか。私がボスにそんなこと言うはずないでしょう? 強いて言うなら、なんでここまでにならないと気付かなかったのか、理解に苦しみます》

 

「結局小馬鹿にしてんじゃねえか。つーか仕方ないだろ? じゃあ聞くけどよ。俺の相棒になってから十年越えたが、周囲にそういう要素あったか?」

 

《…………皆無でしたね》

 

「だろ? こちとら日々生きるので精一杯だ。こんな状況になるなんて考えもしなかっ────あ」

 

《どうしました?》

 

「………………思い出した……俺……すっごい昔にこういう状況を目指してた時期があったわ」

 

《おや? そうだったのですか? ならよかったではないですか。長年の夢が叶いましたね》

 

「……」

 

アントは頭を抱え、かつての自身の言動を振り返った。

 

 

 

『チートで無双して』

 

死に戻りチートでギリギリだが勝ちを拾い続けて

 

『苦労なんて女の子関係だけ』

 

絶賛苦労中だ。

 

 

 

よかったな、昔の俺。夢が叶ったぞ。

 

 

 

それでこの後どうすればいいんだ? 教えてくれ、マジで。

 

 

 

 

 

 

 




やりすぎた気がする……。
まあ次回からシリアスなので……。

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