バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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忠告

 

 

 

プレシアが本局から訪ねてきた。

 

リインの整備のため、プレシアは決まった日に六課を訪れることになっている。なんでもプレシアしか分からない色々と複雑な部分があるのだとかなんとか。

 

アントの部屋にやってきたプレシアはアントの姿を見ると”あら?”と不思議そうに首を傾げた。

 

「貴方、少し痩せたかしら? やつれてるように見えるわ」

 

「……」

 

アントはここ最近、少々まいっていた。

なのは達のアプローチが日に日に増しているのだ。

嫌というわけではない、ただどう対処したらいいか分からない。アントの経験不足が顕著に出ていた。

 

「パパ〜……」

 

ヴィヴィオがアントの後ろから不安そうにプレシアを見つめている。

 

「ああ、大丈夫だぞ、この人は悪い魔女に見えるけど本当は良い魔女だからな」

 

「喧嘩売ってるのかしら? コホン、初めまして、フェイトの母のプレシアよ」

 

ヴィヴィオは少し考え込んだ。

 

「えと、フェイトママのママ?」

 

「そうよ、賢いわね。貴方のお名前は?」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「ヴィヴィオ。いい名前だわ」

 

プレシアが頭を撫でると、ヴィヴィオは警戒を解いて笑顔になった。

 

「なんでヴィヴィオのこと知ってんだ?」

 

「毎晩フェイトから聞かされてたのよ。貴方、いつの間にかフェイトとそこまでいってたのね。まぁ、フェイトだけじゃないみたいだけど」

 

「ぐっ……」

 

頭の片隅に置いてあった悩みをダイレクトで抉られた。アントの表情がなんとも言えないものになる。

 

プレシアは呆れたようにアントを見た。

 

「この際、五人とも囲っちゃいなさいよ」

 

「何言ってんだアンタ」

 

「悪くないと思うわよ? ミッドで多妻って人は結構いるわ。ほぼ金持ちか女たらしのヒモだけど」

 

「養うか養われるかじゃねえか」

 

今更ヒモなんか死んでもごめんだ。もはや誰かに寄生して生きるとか考えられない。

 

「ああもう、やめだ。行くぞヴィヴィオ」

 

「うん‼︎」

 

「あら? どこへ行くの?」

 

「ヴィヴィオがママに会いたいって言っててな」

 

 

 

 

 

 

 

 

はやて、アリサ、すずかの職場を押しかけた後、なのはとフェイトがいるであろう訓練場を訪れた。

 

すると案の定、なのはとフェイトはそこにいた。

 

「ママ〜‼︎」

 

なのはとフェイトを見るや否や、ヴィヴィオは二人の元へ駆けていった。

 

「ヴィヴィオ! 散歩中かな?」

 

「危ないよ〜、転ばないでね〜」

 

「うん──ぁ⁉︎」

 

フェイトが注意するも、見事にフラグ回収していくヴィヴィオ。

 

「あぁ⁉︎ 大変‼︎」

 

すぐに助けに駆けつけようとしたフェイトを、なのはが遮った。

 

「大丈夫。地面は柔らかいし、綺麗に転んだ。怪我はしてないよ」

 

そう言うと、なのははその場から声をかけた。

 

「ヴィヴィオ〜、大丈夫?」

 

「ふぇ……」

 

涙目で顔を上げるヴィヴィオ。

 

「頑張って、自分で立ってみようか?」

 

「ママぁ……」

 

ポロポロと涙を流すヴィヴィオ。

 

「おいで」

 

「う、うぅ〜……」

 

倒れたままのヴィヴィオを見たプレシアはアントに声をかけた。

 

「助けなくていいのかしら?」

 

「転んだくらいなら大丈夫だろ」

 

即答するアントに若干引き気味のプレシア。

 

「そ、そう……割とスパルタなのね」

 

「そうか? 普通だろ。まぁ、あれは起きそうにないな」

 

アントは倒れたままのヴィヴィオへ近付くと、片手を伸ばしヴィヴィオの服を掴んで起き上がらせた。

 

「今回だけだからな」

 

「パパぁ〜……」

 

ヴィヴィオは潤んだ瞳でアントを見る。アントは指でヴィヴィオの涙を拭った。

 

「簡単に泣くな。舐められちまうぞ」

 

「ひくっ……舐める?」

 

「弱い奴だって思われることだ。それが嫌ならもっと強くなれ」

 

「……???」

 

ヴィヴィオは難しそうに首を捻った。

 

「もう‼︎ アントまで何を言ってるの‼︎」

 

ヴィヴィオは駆け寄って来たフェイトに抱き上げられた。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

「うん」

 

「気を付けてね? ヴィヴィオが怪我なんかしちゃうとママもパパも、きっと泣いちゃうよ?」

 

「ごめんなさい……」

 

「もう〜、フェイトママ、ちょっと甘いよ。ね? アントパパ?」

 

「ああ、もうちょっと厳しくてもいいと思うぞ?」

 

「なのはママもアントパパも厳しすぎです」

 

フェイトは慰めるようにヴィヴィオの頭を撫でる。

 

「……まあ、ゆっくりでいいか」

 

「ヴィヴィオ〜、次は頑張ろうね?」

 

そんな三人の様子を見ていたプレシアやフォワード、そして副隊長達は思った。

 

どう見ても家族だ、と。

 

その時、ルリから念話で連絡が入った。

 

「……了解」

 

「どうしたのアント君?」

 

「いや、ちょっと用事が出来た。少し行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

ブロロロッ

 

とある無人世界をバイクにて疾走するアント。

 

「確かこの辺りのはず……」

 

到着したものの、周囲に人の気配はない。

 

しばらく待つと、ようやくアントを呼び出した本人、レジアスが姿を現した。隣には部下のオーリスを連れている。

 

「珍しいですね? 娘さんを連れてくるなんて──」

 

「動くな」

 

レジアスの忠告と同時に頬を魔力弾が掠めた。一筋の切り傷が頬に浮かび上がった。

アントの目付きが鋭くなった。

 

「……これは一体どういう風の吹き回しで?」

 

「ふん、白々しい。よくもまあノコノコと来たものだ。このスパイが」

 

吐き捨てるように話すレジアス。アントは不思議そうに首を傾げた。

 

「スパイ? 俺が?」

 

「今更惚けても無駄だ。貴様が機動六課に属しているのはとっくに調べがついている。すでにここら一帯は掌握済み。蟻一匹逃げる事は出来ん」

 

「……そうみたいですね」

 

脅しではなさそうだ。レジアスが来た瞬間、いくつかの視線を感じた。おそらくガジェットも混ざっているだろう。

 

アントは両手を挙げた。

 

「降参です。どうすればいいですか?」

 

「デバイスをゆっくり地面に置け。そしてその場からゆっくりと離れろ」

 

「……」

 

アントは言われた通りルリを地面に置き数歩離れた。

 

「機動六課について、知ってることを洗いざらい吐いてもらおうか。そうすれば──」

 

「苦痛なく殺してやる。ですか?」

 

「なっ⁉︎」

 

アントの過激な言葉に、オーリスは驚きの声をあげた。

 

「……安い誤魔化しは無意味のようだ。貴様は管理局員ではない。例え死んだところで誰も気にせん。それに、貴様は知り過ぎた」

 

「っ……」

 

なにやら言いたそうにするオーリスだが、上司かつ父には逆らえないようで、申し訳なさそうな目を伏せた。

 

「クハハッ、そりゃまあ、中々グレーな仕事を依頼されてましたからね」

 

アントは死んだ魚のような目を細めた。

 

「やめておけよ。俺を殺したら後悔するぞ? いろんな意味で」

 

「強がりか? 無駄な足掻きだ」

 

見下したような視線を送ってくるレジアスに、アントはポツリと呟いた。

 

「ジェイル・スカリエッティ」

 

「なっ⁉︎」

 

驚愕で目を見開くレジアス。アントは言葉を重ねた。

 

「マッチポンプで研究成果を押収してから地上で有効活用する。なるほど、単純だがいい考えだ。相手がスカリエッティじゃなければな」

 

「………オーリス、下がれ」

 

「ハッ」

 

レジアスはその場に二人だけになると、アントを睨みつけた。

 

「……何処まで知っている」

 

「俺を狙ってる奴らも下がらせてもらいたいんだけど」

 

「質問に答えろ‼︎ 何処までだと聞いているんだ‼︎」

 

レジアスはかなり焦っているのか、声を荒げて問いただした。

 

「……人造魔導師、及び戦闘機人の研究所、そして──最高評議会。まだ聞くか?」

 

「……いや、いい……」

 

どこか力が抜けたように答えるレジアス。

情報が全て漏れていた。これではここでアントを殺したところでなんの意味もない。

 

「安心してくれよ。まだ誰にも話してない。ただ、忠告をしておきたくてな」

 

「……忠告だと?」

 

「今すぐスカリエッティと手を切った方がいい。アイツは危険だ」

 

レジアスは分かってると言わんばかりに鼻を鳴らした。

 

「ふん、何を今更。それくらいのリスクは百も承知だ」

 

「いいや、分かってない。アンタは何も分かってない。自分は大丈夫なんて言う奴ほど、テメエのケツに火がつくまで何もしないんだ」

 

否定するように首を振るアント。

 

「追い詰められて目の前しか見えなくなってる今のアンタは都合がいい駒だ。スカリエッティからしても、最高評議会からしても」

 

「駒だと? この私が?」

 

「そうだろ? 実際、アンタは最高評議会の言いなりだ。違法研究と引き換えにな」

 

「バカバカしい。手綱を引いてるのは儂だ。それに全ては地上の秩序を守るためだ」

 

「そうなってねえから忠告してやってるんだ。地上は荒れる一方だぞ?」

 

「だからこそ力がいる。スカリエッティの生み出す兵器こそ、平和への近道だ」

 

アントは嘲るように笑い声を上げた。

 

「クハハハッ‼︎ 近道? 逃げ道の間違いだろ? いや、落とし穴があるってわかってる分、逃げ道ですらねえか」

 

「貴様……‼︎」

 

レジアスのコメカミに青筋が浮かんだ。

 

「怒るなよ。別に質量兵器を否定するつもりはない。俺だって偶に使うしな。まぁ、戦闘機人や人造魔導師はちょっとやり過ぎだろって思うけど」

 

アントは口角を吊り上げた。

 

「俺が何より可笑しいのはな、アンタの今の状況だよ。理想通りにならない現実から逃げて、 逃げた先で結局いいように使われている、アンタの今の状況だ」

 

レジアスは怒り心頭といった具合で口調を荒げた。

 

「逃げてなどいない‼︎ 奴らは地上本部の切迫した状況に一切の理解を示さなかった‼︎ だから見切りをつけた‼︎」

 

「その結果、犯罪者になった、てか?」

 

「っ‼︎ 貴様……‼︎」

 

「大嫌いだったよな? 元犯罪者すら雇用する、なりふり構わない本局が。皮肉だよなぁ」

 

せせら笑うアント。

 

「全て必要だからやったことだ‼︎ 貴様のような若造に何が分かる‼︎」

 

「分からねえよ、何も。平和だの、政治的な駆け引きだの、一介の傭兵風情じゃこれっぽっちも分からねえ。でもな、アンタが迷走してるのは分かる。近い将来、アンタは自分が操ってるはずの力に牙を剥かれるって確信してる」

 

「なんだと……?」

 

「裏で作られた力は必ず悪用される。スカリエッティがアンタだけに技術を売りつけると思ってんのか? 今のやり方で力を求めれば、平和ってやつは遠ざかる一方だ」

 

アントの視線に射抜かれ、レジアスはたじろぎ一歩後退した。

 

「っ……」

 

「人を救いたいって言ってただろうが。なら行動で示してくれよ、言葉の真偽ってやつを」

 

「………」

 

 

 

 

レジアスとの会合の後、無事解放されたアントはバイクにて帰路についていた。

 

《驚きました。ボスがあれほど平和について考えているとは》

 

「バカ言え。そんな哲学的なもの考えたこともねえよ。思ったことを言っただけだ」

 

ていうか、とアントはゲンナリとした。

 

「これ、はやてにバレたら怒られるぞ」

 

地上のトップと繋がりがあると知られたら大目玉だろう。

 

アントは溜息を吐いた。

 

《怒られるだけで済めばいいのですが。それにしても、何故罠だと知っていてあの場に行ったのですか?》

 

「ん? まぁ、話をするならあそこしかないと思ってな」

 

《そこまでする必要がありますか? ハッタリが通じたからこそよかったものの、ボスは殺されるところだったのですよ?》

 

「今更命狙われたくらいで怒りやしねえよ。いいじゃねえか、偶には感情に流されて動いてもよ。あとはいい方向に向かうのを祈るだけだ。ダメだった時は、俺に人を見る目がなかったってだけだ」

 

飄々と答える主人に、ルリは呆れた。

 

《変人ですね、ボスは》

 

「変人で結構。俺は気にしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部、レジアスは椅子に座って外の景色を眺めていた。

 

「中将?」

 

オーリスが恐る恐る声をかける。すると

 

バンッ‼︎

 

「っ⁉︎」

 

レジアスは苛立たしげに机を殴った。

 

「……若造が‼︎ 偉そうに説教までしおって……‼︎」

 

レジアスは席を立つとオーリスへ視線を送った。

 

「オーリス、準備をしておけ」

 

「え? あ、はい。公開意見陳述会の件ですね?」

 

「違う。最高評議会と縁を切る準備だ」

 

「え……?」

 

唖然とするオーリス。

 

「儂は儂のやり方で地上を守る。権力者共の顔色を伺い、膝を屈するのはウンザリだ。もはや手足になってやるつもりはない」

 

「は、はい‼︎」

 

オーリスは嬉しそうに返事をした。

 

レジアスはアントから渡された情報に目を通す。

 

「ふん、予言は好かん。内容が曖昧過ぎる。これでは防衛の強化をするくらいしか出来んではないか」

 

以前までは少しも相手にしなかった予言。未だ信じてはいないものの、レジアスは大きく一歩前進したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

スカリエッティのアジト

 

訓練室にて。自身が破壊したガジェットの山の中、ガーラは一人佇んでいた。

 

「ガーラ? いるのか?」

 

ドアが開かれ、チンクが入ってきた。いつまで経っても集合しないガーラを呼びにきたのだ。

 

「遅いぞ。すでにみんな集まっている」

 

「……ああ」

 

どこか上の空で返事をするガーラ。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや……なにやら奇妙な事が起きていてな……」

 

「奇妙な事?」

 

ガーラは先程まで振るっていた自身の拳を見つめる。

 

「学んだ覚えのない技術が身についているのだ」

 

チンクは眉をひそめた。

 

「……たしかに、それは妙だな。一度、ドクターに相談してみた方が……」

 

ガーラは気を取り直すように首を振った。

 

「いや、大丈夫だろう。相談するほどのことではない。それにドクターは忙しいからな」

 

ガーラは部屋の出入り口へ向かっていった。

 

「私もすぐに向かう。悪いが先に行っておいてくれ」

 

ドアが閉まり、ガーラの姿が見えなくなる。

 

 

「…………『私』?」

 

 

チンクは一人、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

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