バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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令和一発目です。
本当は1日目に投稿したかったんですが……。
それではどうぞ。


敗北

 

 

ゼストはアントを前に険しい表情を浮かべた。

 

空中戦は苦手に見えた。

 

空を飛ぶには魔力がいる。攻撃するのにも魔力がいる。そして、アント・バーキンの魔力は少ない。

 

決着はすぐつく筈だった。

 

だが、そうはならなかった。

 

「はぁぁああ‼︎」

 

炎の槍と薙刀が交わる。

 

ガキィン‼︎ ザシュッ‼︎

 

「ぐぅっ‼︎」

 

受け流しきれなかった攻撃がアントを掠める。すでにアントはいくつかの傷を負っていた。

 

ゼストは所々傷を負い、息を荒げているアントに語りかけた。

 

「お前は強い。不利な状況下でよく戦った。だがこれまでだ。ここで引かなければ死んでしまうぞ」

 

どちらが優勢なのかは明らかだった。諦めて引いて欲しかった。

 

だが──

 

アントは血の混じった唾をペッと吐き、死んだ魚のような目をゼストに向ける。

 

「もう十分だ」

 

その一言を呟くと同時に、アントは薙刀を手に周囲のガジェットを足場にしてゼストへ迫った。

 

ゼストは炎が纏った槍を一振りしアントを薙ぎ払う。だが振るった槍は薙刀によって受け流された。

 

炎の槍がアントのスレスレを通過する。アントは空中で一回転しゼストを斬りつけた。

 

「ぬうっ‼︎」

 

仰け反り躱すゼスト。アントは薙刀を刀に変化させ、足場を発生させると、仰け反り無防備になっているゼストを斬りつけた。

 

「くっ‼︎」

 

咄嗟にバリアを張り刀を防ぐ。

 

「神速」

 

アントの姿が一瞬ブレる。目にも留まらぬ速さでアントの刃がバリアで守られていない箇所を斬った。

 

「ガッ……⁉︎」

 

『旦那っ⁉︎ クソッ‼︎』

 

切り裂かれるゼスト。アギトはゼストを守るために炎の玉を複数個アントに放った。

だがロクに狙いを定めれていなかったためか、炎はスレスレで回避された。

 

アントは少し間合いを取り、武器を薙刀に戻すと、ゼストへ振り下ろした。

 

「ぐっ‼︎ ぬぅっ‼︎」

 

槍を振り、アントを武器ごと薙ぎ払うゼスト。

 

その瞬間、アントの姿がゼストの視界から消えた。ゼストは違和感を感じた。攻撃を当てたはずなのに手応えがなかったのだ。

 

『旦那‼︎ 槍の先だ‼︎』

 

「何っ⁉︎」

 

アギトに言われ、すぐさま視線を槍の切っ先へ向けると、炎が纏う槍の穂先にアントが魔力を纏った手で熱を耐えながら掴まっていた。

 

銃口はこちらに向けられている。

 

「くっ⁉︎」

 

「カートリッジロード──デトロイトバスター」

 

ゼストの姿が銀色の砲撃に包まれる。

 

『旦那ぁ⁉︎』

 

悲鳴を上げるアギト。

 

光が晴れると、ボロボロになったゼストの姿が現れた。ギリギリでバリアを張れたものの、かなりのダメージを負ってしまっていた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

『旦那‼︎ 大丈夫か⁉︎』

 

「……ああ……」

 

アギトを安心させるため、なんとか言葉を発したゼストだったが、実際はかなりギリギリだった。

 

ゼストは視線をアントに向けた。

 

……普通じゃない。咄嗟の判断力もそうだが、此方の戦い方を全て読んでいるかのような立ち回りだった。この短時間で全て見透かされたのだろうか。

 

打つ手なし。

 

圧倒的に有利な状況で、何も出来ない。此方の攻撃が通用しない。

 

「っ……⁉︎」

 

目の前に佇む男が、とてつもなく恐ろしいものに見えてくる。

 

なるほど……あのスカリエッティが警戒するわけだ。

 

「アント・バーキン…………アント、か……」

 

昔担当した事件で聞いた名前だった。

どこからともなく現れ、凶悪な犯罪者達から人々を救い姿を消した少年。結局見つけることは出来ず、きっと見間違いか何かだったのだろうと当時は処理した。

 

もしかしたら──

 

「君が…………」

 

だがゼストの疑問が口に出されることはなかった。雲の中から複数の魔力弾がゼストに迫ってきたのだ。

 

「っ⁉︎」

 

魔力弾を回避するゼスト。だが魔力弾は鉄球となり再び襲いかかってきた。

 

「くっ‼︎」

 

咄嗟にバリアを張り防御する。

 

「無事かアント‼︎」

 

『すいません‼︎ 遅れたのです‼︎』

 

アントの側にリインとユニゾンしたヴィータが並び立った。

 

「いや、大丈夫だ。正直助かった」

 

二対一。その上、こちらは傷を負っている。

 

潮時か……。

 

「引くぞ、アギト」

 

『え⁉︎ で、でも……‼︎』

 

「これ以上は無理だ」

 

『うぅ…………クソォ…………クソォ‼︎ ならせめて‼︎』

 

ゼストとアギトのユニゾンが切れるのとほぼ同時に、アントとヴィータの頭上に巨大な火球が浮かび上がった。

 

「こいつを……‼︎ こいつだけでも……‼︎」

 

アギトの怒りがアントに向けられていた。

 

「っ⁉︎ アイゼン‼︎」

 

グラーフアイゼンの後方の噴射口から魔力を噴出し、ハンマー投げのように高速回転しながらアギトへ迫るヴィータ。

 

《フルドライブ》

 

寿命を削るフルドライブを使用し、ゼストは一瞬でアギトとヴィータの間に割り込んだ。

 

ゼストの槍がハンマーに叩きつけられ、ヴィータは完全に制止された。

 

「なっ⁉︎」

 

驚愕するヴィータ。ゼストはヴィータを攻撃をしようとしたが、アントの放った魔力弾によって阻止された。

 

魔力弾を回避し、少し離れたゼストはアギトに指示を出した。

 

「……やれ、アギト」

 

その瞬間、炎の玉が眩い光と共に爆発した。

 

「「っ⁉︎」」

 

咄嗟に視界を覆う二人。

 

視界が晴れると、すでにゼストの姿はなかった。

 

「クソッ‼︎ 逃げられた‼︎」

 

悔しがるヴィータ。アントはゼストの追跡は無理だと判断すると、本部の方へ視線を向けた。

 

本部は周囲をガジェットに取り囲まれ、完全に閉じ込められていた。

 

 

 

 

 

 

その頃、地下ではスバル達がナンバーズたちと相対していた。実力はほぼ五分といった感じだが、今のところスバルたちが善戦しているようだ。

 

「ちっ‼︎ ちょこまかと‼︎」

 

憎々しげにエリオを睨む赤い髪の短髪に黄色の瞳の少女、ノーヴェと、同じ色の瞳をした少女、ウェンディだ。彼女の操るフローターマインは、服にかすっただけでも爆裂するという能力を持っているが、それらは一つもエリオに当たっていない。

 

「ウェンディ‼︎ そんな奴さっさとしとめろよ‼︎ このグズ‼︎」

 

ノーヴェは苛立ちの声を漏らすと、スバルやギンガのウイングロードとよく似たエアライナーを駆使して攻撃を仕掛ける。

 

「もらった‼︎」

 

ノーヴェがティアナに飛びかかった。ティアナの反応は少し遅れ、強力な蹴りがティアナに直撃した。

 

だが、彼女の姿は攻撃が当たると同時に消えた。

 

「なっ⁉︎」

 

「幻影⁉︎」

 

二人が周りを見ると、既に周りを大量の幻影に包囲されていた。

 

そこから少しはなれたところに、ティアナとキャロの姿が見られた。彼女達はその顔を苦悶に矢がませている。幻術は普通の魔法よりも魔力消費が激しいため、長く維持することは出来ないのだ。

 

「あたし等のことを騙すほど高度な幻術なんて、この幻術使い、戦闘機人の扱い方を知ってる⁉︎」

 

「ハッ‼︎ 幻術だろうがなんだろうが、要は全部ぶっ潰しゃいいだけの話だろうが‼︎」

 

驚愕の声を漏らすウェンディに対し、ノーヴェはイライラとした様子で腕を構える。しかし、そのとき、ジャリッという音が彼女の耳に入り、ノーヴェはそちらを振り向くが、既に遅かった。

 

「うおおおおおお‼︎」

 

「ぐあっ⁉︎」

 

スバルがマッハキャリバーを駆り、高速の拳をノーヴェに打ち込み、彼女は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

「ノーヴェ‼︎ っ‼︎」

 

吹き飛ばされたノーヴェを案じ、ウェンディが声を上げるも、ウェンディにも雷撃が纏ったストラーダが迫っていた。

 

「はああああああ‼︎」

 

「ちっ‼︎」

 

負けじと応戦するが、弾丸を生成する暇がなく、ライジングボードを構えた瞬間にストラーダと衝突した。

 

「サンダー……レイジ‼︎」

 

直撃は免れたが、それでも彼女の周りを取り巻いていたガジェットはエリオの技の余波で生み出された雷で無残に破壊された。

 

その爆風が彼女に及び、ウェンディもまたノーヴェと同じように吹き飛ばされてしまった。

 

「撤退‼︎」

 

その機に乗じて幻術を維持していたティアナが号令をかけ、四人と四人の幻術達は方々に散っていった。

 

後に残ったのは恨めしそうな表情のノーヴェと、吹き飛ばされたとき痛めたのか、左腕を押さえているウェンデイの姿だった。

 

その時、二人に通信が入った。

 

「ノーヴェ、ウェンディ。チンクだ。ちょっとこっちを手伝え。今、もう一機の確保対象、タイプ0ファーストの方と戦闘中だ」

 

長い銀髪に、黒の眼帯をした黄色い瞳の少女、チンクを映すモニターにはスバルの姉であるギンガの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

ヴィータと別れたアントは本部に入り込み、フォワード達の増援に向かっていた。

 

「……今どこ走ってるんだ?」

 

《地上三階です。そのまま真っ直ぐお進み下さい》

 

本部の内部構造を予めインプットしていたルリの案内に従い道を行く。

 

《ボス、前方に複数人の反応ありです》

 

「っ……」

 

すぐさま柱の影に身を潜め、様子を伺うアント。

 

確かに三人ほどいる。暗がりのため顔はよく見えないが、シルエットは分かる。

一人は気を失って地面に倒れていた。残りの二人、声色からして男と女は、向かい合い話をしていた。

 

「まったく。手間かけさせてくれるわね。大人しく殺されればいいのに」

 

女性は鉤爪のような物を男に突きつける。男はすでに怪我をしているようで、腹部の傷を抑えていた。

 

「それが評議会の決定かっ……‼︎」

 

怒りを孕んだ声が響き渡る。

 

聞き覚えのある声だった。

 

(……レジアスさん?)

 

アントは柱の影から少し身を乗り出し、二人の会話を聞きやすくする。

 

「当然でしょう? 離反した貴方に、もはや価値なんてないわ。大人しく従っていればもう少し長生き出来たでしょうけど」

 

「儂は今まで最高評議会に尽くしてきたんだぞ‼︎」

 

「でももう尽くす気はないんでしょ? ならもういらないのよ。ゴミは処分しなきゃね」

 

冷酷に淡々と語る女性。

 

「…………ハハ……ハハハハハハハハハ‼︎」

 

レジアスは黙り込んでいたが、突如大声で笑い始めた。

 

「……何がおかしいの? 死の恐怖で頭がおかしくなったのかしら?」

 

「これが笑わずにいられるか。儂は道を間違えた。どう足掻こうとも死ぬ運命だったようだ」

 

だが、とレジアスは言葉を続け微笑みを浮かべた。

 

「最後の最後に正しい選択を出来た。儂は久し振りに、心の底から自分の判断が正しかったと思えたぞ」

 

後悔はない。レジアスは死を受け入れていた。

 

「そう、でも残念ね。その判断は死期を早めただけ。もう用済みよ。評議会にとっても、ドクターにとっても」

 

明確な殺気。

 

アントは柱の影から飛び出し殺気を出している女性を蹴り飛ばした。

 

「カハッ⁉︎」

 

吹っ飛び壁に叩きつけられる女性。アントの背後でレジアスが驚きの声を上げた。

 

「アント……か? 貴様……なぜここに……」

 

驚いた様子でアントを見る。

 

アントは返事をしようとしたが、攻撃を察知し膝を曲げしゃがみこんだ。

 

先程までアントの上半身があった場所にバインドが生じる。

 

「はぁ‼︎」

 

暗闇の中から、先程吹き飛ばした女性が鉤爪のような形状をしたピアッシングネイルを手に攻撃を仕掛けてくる。

 

アントは手首をガシッと掴み攻撃を防ぐと、顔を上げ女性を見た。

 

「久しぶりだなぁ、ドゥーエ」

 

「……久しぶりね、アント・バーキン。出来ることならもう会いたくなかったわ」

 

女性の姿が歪む。

服装がナンバーズのスーツ姿へと変化し、髪の色は若干霞んだ金髪になった。

 

「折角苦労してここまで誘い出したのに台無しよ。貴方に関わるとロクなことにならないわね」

 

「今回は偶然だ。それに前回襲ってきたのはお前らだろうが」

 

 

数年前、アントは四人の戦闘機人達と戦った。

別人に変身出来るドゥーエ、超高速立体起動をするトーレ、大規模幻覚を得意とするクアットロ、金属を爆弾に変えるチンク。トリッキーな能力を使ってくる彼女達にアントは苦労した。

 

だが初見殺しに秀でている彼女達にとって、死に戻りの能力者は相性が最悪だった。

 

 

ドゥーエはかつて襲撃した時のことを思い出したのか苦い顔をする。

 

「……最悪の気分だったわ。打つ手全てを読まれて、何も出来なかった。悔しくて仕方がなかったのに、それ以上に貴方が恐ろしかった。でも──」

 

言葉を切り、甘ったるい声でフフッと笑うドゥーエ。

 

「楽しみだわ。絶望に打ちひしがれた時、貴方はどんな表情をするのかしら?」

 

ドゥーエはそう言い残すと闇に溶けるように消えていった。

 

……絶望……か。

 

アントが考えていると、レジアスが意識朦朧としているオーリスに肩を貸しながら近付いてきた。

 

「貴様がなぜここにいるのかは分からんが、感謝する。助かった」

 

頭を下げるレジアス。

 

「……え?」

 

レジアスらしくない行動に、アントは驚きの声を上げた。

 

「その様子だとどこかに向かっている途中だったようだな。儂等のことはいい、早く行ってやれ」

 

そう言うと、レジアスは娘を気遣いつつ歩きだした。アントは思わず聞いてしまった。

 

「レジアスさん、なんか変わりました?」

 

アントの問いに、レジアスは顔だけアントへ向け、笑みを浮かべた。

 

「変わったのではない。思い出しただけだ。危うく、またどこかの若造に笑われるところだった」

 

そう言って笑うレジアスは、地上の英雄と呼ぶのに相応しい姿だった。

 

アントに背を向け去っていくレジアス。

 

「……笑わねえよ。俺はアンタを尊敬してるからな」

 

アントの口元に笑みが浮かんだ。

 

その時、聞き覚えのある声が念話で入ってきた。

 

『ス……ル‼︎ 先行しすぎ‼︎』

 

『ごめ……‼︎ でも大丈夫……から‼︎』

 

妨害のせいでノイズが酷いが、間違いなくティアナとスバルの声だった。なにやら焦っているようだ。

 

「ルリ‼︎ 場所は分かるか?」

 

《分析中です…………分析完了。最短ルートを案内出来ます》

 

「案内しろ‼︎」

 

《了解です》

 

 

 

 

 

 

スバルは凄まじい速度で移動していた。いつまで経ってもギンガと連絡が取れない不安がスバルを焦らせる。

 

ギン姉……ギン姉……‼︎

 

少し開けた場所に辿り着いたスバル。

 

そこで目に入ったのは、

 

床に血を滴らせ、気を失い乱暴に髪を掴まれているギンガの姿だった。

 

「あ……あ……」

 

スバルの瞳が金色に変化する。

 

「アァァァアアアア!!!!!」

 

「「「⁉︎」」」

 

凄まじいエネルギーを放出しながら、スバルは姉を取り返すため、三人の戦闘機人へ突っ込んでいった。

 

「くっ‼︎」

 

食い止めようとノーヴェが魔力弾をぶつけるも、スバルは少しも速度を落とすことなくノーヴェに殴りかかった。

 

「ァァアアア!!!!」

 

「ぐぅっ⁉︎」

 

張られたバリアは一瞬で砕けた。咄嗟にスバルの拳に蹴りを叩きこむノーヴェ。

 

結果、二人は共に吹っ飛び、壁に叩きつけられた。

 

「ガァッ⁉︎」

 

「グゥッ⁉︎」

 

戦況は不利だと判断したチンクは妹二人を守るようにスバルの前に立ちはだかった。

 

「ここは姉に任せろ。お前達は先に行け」

 

「了解っす‼︎」

 

「……でも、チンク姉一人じゃ……」

 

「侮るな。姉ならば触れずに戦える」

 

爆弾に変化させたナイフをいくつかスバルに投げつけ爆発させる。

 

「行くっすよ‼︎ ノーヴェ‼︎」

 

「っ‼︎ ……あぁ」

 

ギンガを連れて去っていくウェンディとノーヴェ。

 

「ギン姉ぇ!!!!」

 

「行かせん‼︎」

 

スバルはすぐさま追いかけようとするが、行く手をチンクに阻まれてしまった。

 

「っ‼︎ 邪魔を……するなぁぁあああ‼︎」

 

「くっ‼︎」

 

いくつものナイフがスバルに放たれるも、スバルは物ともせず高速で接近し、渾身の一撃をチンクに叩き込んだ。

 

「う……ぐぅ……‼︎」

 

チンクの張ったバリアはガリガリと削られ、数秒ともたず破壊されてしまった。

 

スバルの拳がチンクの胴体に突き刺さった。

 

「ガッ⁉︎」

 

地面を抉りながら転がっていくチンク。スバルはすぐさま逃げた二人を追いかけようとした。

 

「い……行かせない……‼︎」

 

膨大な量の爆弾ナイフがスバルを襲う。

 

地に倒れたまま様子を伺っていたチンクだったが、煙の中の人影を見て目を見張った。

 

スバルは立ってはいるものの、すでにボロボロだった。バリアジャケットは吹き飛び、腕の皮膚は剥がれ、機械のような部位が露わになっていた。

 

だが、そんな状態になっても尚、スバルはギンガを取り戻そうとしていた。

 

「返せよ……ギン姉を……返せよぉ……‼︎」

 

迫るスバルを前に、チンクはなんとか逃れようとするが、ダメージが大きく上手く動けない。

 

「セインさん到着‼︎」

 

地面からセインが現れた。チンクの救出に来たのだ。

 

「助かっ──っ⁉︎ ダメだ‼︎ 避けろセイン‼︎」

 

セインを見上げていたチンクの瞳に、セインの背後で薙刀を振りかざしている人物が映った。

 

警告は間に合わなかった。セインへ薙刀が振り下ろされる。

 

「ガッ⁉︎」

 

叩きつけられ、地面を跳ねるように転がっていくセイン。

 

「この前会ったな。確か……セインだっけか?」

 

アントは薙刀を肩に担ぎ地面に着地した。ルリによる最短コースを全速力で突っ走ってきたのだ。

 

「アント・バーキン……⁉︎ 騎士ゼストは敗れたのか……⁉︎」

 

「チンクか。お前もここに来てたんだな」

 

チンクは冷や汗を流しつつセインに念話を送った。

 

『逃げろセイン‼︎ こいつ相手では分が悪い‼︎』

 

『ぐっ……うぅ……で、でも……チンク姉は……』

 

『私は大丈夫だ‼︎ 急げ‼︎ 奴の意識が私に向いているうちに‼︎』

 

『っ……ごめん』

 

地面に潜っていくセイン。

 

「逃がさねえよ」

 

アントは武器を銃に変えると、セインに銃口を向けた。

 

それを見たチンクは自身の掌にナイフを出現させた。

 

「っ‼︎」

 

アントはすぐさま意識をチンクに向け、ナイフを蹴り飛ばした。

 

だがナイフは爆発することはなかった。

 

「……やられた……ブラフか」

 

時間を稼がれた。すでにセインの姿はどこにも見えなかった。

 

アントが銃をしまうと、倒れそうになっていたスバルを支えた。

 

「おい、しっかりしろ」

 

「……アントさん……ギン姉が……ギン姉が……」

 

弱々しくアントの服を掴み、喘ぐように訴えるスバル。

 

「ギンガ? ギンガがどうした? 何があった?」

 

その時、ふとスバルの機械が剥き出しの腕が目に入った。

 

「これは……」

 

アントは理解した。スバルが戦闘機人だったのなら、姉であるギンガも戦闘機人のはずだ。あのマッドサイエンティストが欲しがってもおかしくない。

 

「……間に合わなかったか」

 

《ボス……》

 

アントは悔しげに唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

全てが終結したのは夜が明けてからだった。ギンガは攫われ、スバルも重傷を負い、ヴィヴィオも攫われた。不幸中の幸いは六課のスタッフに死者が出なかったことだろう。

 

しかし、六課の隊舎は焼け焦げ崩落していた。すぐの復旧は不可能だった。

 

ボロボロになった六課で、アントは一つのぬいぐるみを見つけた。

 

それはヴィヴィオが肌身離さず持っていたお気に入りのウサギのぬいぐるみだった。

 

「……」

 

アントは煤に汚れたそれを拾い上げ、煤を払う。

 

「……ごめんなさい……私……」

 

「っ……う……」

 

背後ですずかとアリサが涙を流していた。

 

「……お前らは悪くねえよ。アイツに襲われたんじゃあどうにもならねえさ」

 

 

意識のある局員達から聞いた。ヴィヴィオを攫ったのは召喚士の少女と召喚獣、そして灰色の髪の大男だったらしい。

 

エリオはその二人に遭遇したらしく、連れ去られるヴィヴィオを救い出そうとしたものの、大男とガリューという召喚獣によって大ダメージを負わされ海に墜落させられたそうだ。

 

間違いなくガーラだ。主力がいない六課から、確実にヴィヴィオを連れ去るためにやってきたのだ。

 

あの化け物を相手では、残された局員達どころか、エリオや守護騎士二人でも為す術なかっただろう。

 

ましてや一般人であるアリサとすずかなどは以ての外だった。

 

 

アリサはポロポロと流れる涙を必死に堪えようとしていた。

 

「っでも‼︎ 私達は母親なのに……‼︎ 何にも出来なかった……‼︎ あの子は私達の名前を叫んで──」

 

己の無力さに涙を流す二人。

アントはアリサとすずかの頭に手を置いた。

 

「まだ終わってねえよ。ヴィヴィオは絶対に助け出す」

 

アントの視線は鋭いものになっていた。

 

 

 

 

 

 





十連休が終わる……。
もう少し投稿できると思ったのに……。
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