本部襲撃の翌日、アントはスバルが入院している病室へと向かっていた。
数回ノックした後中に入ると、スバルと一緒にティアナもそこにいた。
「スバル、けがは大丈夫か?」
「あ、はい‼︎ 大丈夫です‼︎ もう殆ど治りましたから‼︎」
アントに気付いたスバルは腕を掲げ、元気であることをアピールするがまだギンガを攫われたという心の傷は直っていないようで、時折悲しげな表情をしていた。
「悪い、スバル。俺がもっと早く気付いていれば」
「アントさんが謝ることじゃないですよ‼︎ 私がもっと速く辿り着けていれば……」
顔を俯かせながらスバルは首を振った。
アントはスバルが戦闘機人だった事実に触れるべきか一瞬躊躇うも、今はその話をするべきではないと判断し話を逸らすことにした。
「マッハキャリバーの様子はどうだ?」
「ダメージは大きかったみたいですけど修復できるみたいです。私が無理させちゃって……」
「そうか……。まぁ、ちゃんと謝っておけよ。相棒にヘソを曲げられるとかなり厄介だぞ」
《ボス、それは私のことですか?》
「もちろん違う」
《いま嘘をつきましたね?》
「……」
黙り込むアント。スバルはルリとアントのやり取りに苦笑しつつ頷いた。
「あははは……。はい、そうします」
アントは側で控えていたティアナに視線を向けた。
「ティアナ、スバルのことしっかり支えてやれよ」
「わかりました」
当然分かってますと頷くティアナ。
そうしてスバルの無事を確認したアントは病室を後にした。
「……あの二人も大丈夫そうだな」
《そうですね。きっと立ち直ることでしょう》
「となるとあとは……」
その時、エリオの見舞いに来ていたキャロと出くわした。
「あ、こんにちは。アントさん」
「よ。今帰りか?」
「はい。アントさんもですか?」
「まあな。全員大丈夫そうだし、そろそろ帰ろうと思ってたところだ。ちょうどいい、乗ってけ」
「え、でも……」
「気にすんな。ついでだしな」
キャロを乗せたバイクが中々のスピードで走り抜けていった。
「……」
「何か悩み事か?」
「え?」
「顔に出てるぞ」
「っ……⁉︎」
アントにそう言われて、思わず自身の顔に手をやるキャロ。やがてキャロは俯き暫くとするとポツポツと話し出した。
「……不安なんです。六課の隊舎が燃えていて、エリオ君が傷ついて、自分の感情が制御できなくなってヴォルテールを召喚してしまって、もしかしたらまた同じことをやってしまうかもしれないことが不安でたまらないんです」
「確かに、自分の力が制御できてないってのは怖いわな」
「……はい、それにあの子……ルーちゃんは孤独な目をしてました。なんとかしてあの子を孤独から助けてあげたいんです」
「助けてあげたい……か。昔なのはも似たようなことを言ってたな」
「え?」
アントの言葉に思わず視線を向けるキャロ。
「俺が言えるのは、とりあえずねじ伏せろ、話はそれからだ」
「ね、ねじ……⁉︎」
「自分より弱い奴の言葉なんて聞くわけないだろ? どうしてもお前のわがまま通したいなら相手を屈服させるしかない」
「え、えぇ……」
“それでいいんでしょうか……”、と頭を捻る。
「そうだ、悩みついでに一つ頼んでいいか?」
「え? えっと……頼み……ですか?」
「ああ。エリオの側にいてやってくれ。ずっとな」
「………………え? えぇ⁉︎」
一瞬で顔を真っ赤にし慌てふためくキャロ。
「あいつは頭がいいし戦いのセンスもズバ抜けてるが、ちょっと真っ直ぐ過ぎて危なっかしくてな。キャロが付くててくれりゃあ安心だ。いつまでも俺が側についててやるわけにはいかないからな」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんなこと言われても……」
「クハハハッ、そりゃ困るか。ま、返事はいらねえよ。頭の片隅にでも置いといてくれ」
「………えと……その……はい」
何が何だか理解できないまま、流されるように頷くキャロ。アントはそれ以上口を開くことはなく、二人は帰路に着いた。
それから数日後、ほぼ全員の傷は癒え機動六課はアースラを本部にして活動をしていた。
これは意見陳述会以降、スカリエッティが表立って行動するようになっていたため、動きながらスカリエッティの動向を探れるようにするためでもあった。
「──このように、スカリエッティ達は地上本部の各拠点を潰して回っているようです。既に多くの被害が出ていますが地上本部はまだスカリエッティ達の拠点を割り出せていないようです」
機動六課メンバーはブリーフィングルームに集まり現状報告を行なっていた。
シグナムが投影モニタを使いながらはやてに報告すると、はやてもそれに頷きながら皆に告げた。
「奴等の拠点探しは今、ロッサとシスターシャッハが組んで探ってくれとる。ロッサの報告からするともう少しで割り出せそうなんやけど、まだ確証にはいたってないみたいや。他に何かあるか?」
はやての聞き返しに皆が首を振る。
「じゃあ、今日はこれでお終いや。近いうちに大きな戦闘があるのは確実や。せやから皆休めるうちに休んでな」
はやての号令に従い、それぞれ自分達の部屋に戻っていった。
「ふぅ……」
機動六課メンバーに混ざって会議に参加していたアントは椅子にもたれかかり息を吐いた。
「やっぱりこういう堅苦しい会議は苦手だ」
「お疲れ、アント君」
「ごめんね。でもアントも聞いておいた方がいいと思ったから」
フェイトとなのはがアントを労う。普段であれば局員ではないアントは会議に参加しないようにしていた。だが非常事態である上に、六課のメンバーからすれば親しい間柄でもあるアントにも聞いておいて欲しい事柄であったため参加が認められた。
「重要なことを言ってるのは分かるんだけどなぁ……」
数日間、ろくに動くことすら出来ていない。なのにスカリエッティ達は好き放題やっている。
アントは苦い表情を浮かべた。
「もう少しの辛抱だよ」
「そうだね。それまで準備だってしなきゃだしね」
「慌てても仕方ない、か。エリオー、この後時間あるか? 少し身体を動かしたいんだ」
椅子から立ち上がりつつエリオに声をかける。
「あ、はい‼︎ 大丈夫です‼︎」
タタタッ、と駆け足で近寄ってきたエリオ。それを確認したアントはエリオと共にブリーフィングルームを去っていった。
「「……」」
なのはとフェイトはそんなアントを心配そうに見送った。
「……なのは……」
「うん……」
フェイトの言葉に頷くなのは。
アントの振る舞いは普段通りだった。だからこそ、二人は心配でたまらなかった。
アントは強い。戦闘能力が高いというだけではなく、心身ともに強い。愚痴を吐くことは何度もあったが、弱音を吐いているのは見たことがなかった。その強さに二人は何度も救われてきた。
でも……
「ヴィヴィオが連れ去られて落ち着いていられる筈ないよ……」
二人はどんどん湧き上がってくる不安を搔き消すことは出来なかった。
・
・
・
ガキン‼︎ ガッ‼︎ ヒュッ‼︎
トレーニングルームにて、アントとエリオは槍を手にぶつかり合っていた。
「ハァッ‼︎」
気合と共にストラーダによる光速の突きを放つエリオ。アントはそれを刃先で滑らせるとそのままエリオに回転しながら肉薄し、側頭部に蹴りを叩き込む寸前で止めた。
「あ……」
呆然と目の前のアントを見るエリオ。その頬からは冷や汗が流れている。
「ま、参りました……」
「ふぅ……」
アントは足を下ろすと、踵を返し壁際に置いてあったスポーツドリンクをエリオに放り投げた。
「少し休憩にしよう」
「はい」
エリオは言うとアントの隣に腰掛けた。
「やっぱり兄さんは強いですね。まだまだ追いつけそうにないです」
「いや、エリオはかなり強いぞ。足りないのは経験だけだ。あと数年もすりゃあ俺を追い越すだろうさ」
「そんな……僕なんてまだまだで……」
先日のことを思い出したのか、表情を曇らせるエリオ。
「あれは気にすんな。勝負なんて時の運だしな。勝つときは勝つし、負けるときは負ける。どれだけ訓練してもどうにもならないことだってある」
「兄さん……それだと僕達がしてきたことが無駄だと言ってるように聞こえるんですけど……」
「……」
アントはバツが悪そうに頬を掻いた。
「ま、まあとにかく、そんなに気負うなって話だ」
「……」
呆れたような視線を送っていたエリオだが、ふと真剣な表情でアントに声をかけた。
「兄さん」
「ん?」
「……勝てるんですか? あの化け物に」
「化け物?」
アントが不思議そうに聞き返すと、エリオのスポーツドリンクを持つ手が若干震え始めた。
「……兄さんから話は聞いていました。ですが僕は認識が甘かったんです。隊長達と同格くらいを想像していました。でも相対して分かりました。あれは……次元が違い過ぎます」
エリオの表情が青ざめる。
「あの日、連れ去られて行くヴィヴィオを見て、僕は槍を手に突撃したんです。ですが、ヴィヴィオを連れ去ろうとするあの男の視線がこちらを捉えた時……僕は動けなくなりました」
エリオはその時のことを思い出したのか、恐怖と悔しさの混ざった表情を浮かべた。
「きっと僕から戦意がなくなったのを感じ取ったんでしょう。握られていた拳が開かれて、僕は平手ではたき落とされました。ですが手加減されてなお、その威力は凄まじいものでした」
そこでエリオは言葉を切ると、顔を上げ真剣な目でアントを見た。
「……相手は兄さんを狙ってます。お願いです、兄さん。逃げてください。あれは絶対に挑んではいけない相手です」
たった一人の家族、兄を案じての言葉だった。
黙って話を聞いていたアントは静かに口を開いた。
「勝てねえ奴なんかいなかった」
「え?」
「百を超える賊だろうと、荒れ狂う火山だろうと、国を破壊しかけた化け物だろうと、世界を吹き飛ばすロストロギアだろうと、結局はどうにかなった。奴だって人間だ、勝てない道理はない」
「ですが‼︎」
アントはエリオの頭に手を置くと乱暴に撫でた。
「大丈夫だ、無理無茶無謀なら慣れてるからな。あいつは俺が相手する。だから気にせず自分がやるべき事をやれ、な?」
エリオの位置からアントの表情を見ることは出来なかったが、エリオは兄から発せられる鋭い気配を肌で感じ取っていた。
スカリエッティのアジト。
ウーノは一人複数のモニターを操作していた。
「器の状態は極めて良好。これでしたら今すぐにでもレリックを発動できそうです」
手を動かしたまま、モニターの男へ声をかける。
『ククッ、そうかね。それは素晴らしい。ゼストとルーテシアには感謝しなくてはね。あの二人から集めたデータがあったからこそ、聖王の器は完成したのだからね』
「この聖王の揺かごを動かすために、膨大な時間をかけ準備をしてきた。夢が……叶う時ですね」
『クククッ、まだまだだよ、ウーノ。古代ベルカの叡智の結晶を、ゆりかごを手にしてやっと始まるんだ。誰にも邪魔されない楽しい夢が』
狂気に満ちた表情を浮かべていたスカリエッティだったが、ふと視線をモニターへ戻す。
『ガーラの方はどうなっているかな?』
「レリックの調整は完了しました。今は皆と同様にデータを蓄積中です」
『そうかね……。あぁ、待ち遠しいね』
「力の継承を目的として作られたレリック……私としては少々不安も残ります」
『心配はいらない。あれの構造は全て理解した上で完璧に制御しているんだからね。万が一にも暴走することなどないさ』
スカリエッティの口が三日月に歪められる。
『本当に、楽しみだ』
薄暗い空間。そこには複数のチューブに繋がれたカプセルが一つだけポツンと置いてある。ナンバーズ達が使っているカプセルとは明らかに形状の違うものだった。
カプセルの中ではガーラが静かに眠っていた。順調にデータが蓄積されていくなか、その胸の奥では埋め込まれているレリックが怪しげな光を発していた。
コポポッ……
調整が済むまで目覚めるはずがないにも拘らず、ガーラは虚ろな瞳を薄く開いた。
『…………………オリ……ヴィエ……』
ーーー
数日後、アースラにアラートが鳴り響いた。スカリエッティ達が動き出したのだ。
お待たせしました……。最近忙しさに拍車がかかってまして……。
そして話の都合上、ここで切らざるを得ませんでした。次はもう少し早く投稿できるよう努力します。