バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

57 / 70

お待たせしました……。





死に戻り

 

 

アラートが艦内に鳴り響く中、いち早くブリッジに到着したはやてがシャーリーに問いかけた。

 

「状況は⁉︎」

 

「まだ明確な被害は出ていません‼︎ しかし、ガジェットとナンバーズ達の数人は市街地へと向かっています‼︎」

 

モニターを確認したはやては苦々しい表情を浮かべた。

 

「いやな感じで分散しとる……隊長たちを出すわけにもいかんか……ッ!」

 

「アコース査察官から通信です‼︎」

 

「繋いでッ‼︎」

 

はやての指示によりモニターの一つがヴェロッサを映し出した。ヴェロッサはどことなく焦った表情ではやてに呼びかける。

 

『はやて、こちらでスカリエッティのアジトを発見した。だけど予想以上に敵の数が多くてね、今はシスターシャッハが叩き潰してるけど時間の問題だ。教会からも戦力の派遣を頼んだけど、そちらからも戦力を送ってくれないかな?』

 

「了解や、すぐに向かわせるから持ちこたえて」

 

『助かるよ──っ⁉︎』

 

ヴェロッサの表情が驚愕のものに変わった。

 

「ヴェロッサ⁉︎ どないしたん──」

 

「部隊長‼︎ これをッ‼︎」

 

何があったのか問おうとするより早く、ブリッジのメインモニターに何が起きたのか映し出された。

 

「なんや……これ……」

 

首都クラナガンからさほど離れていない森林地帯。木々が倒れ、地面が隆起し森林は破壊されていった。

 

そして、割れた地面に見える金と藍色の装甲。明らかに人工的で巨大な構造物がゆっくりとした速度で森の中から浮かび上がった。

 

『やぁ、ごきげんよう。管理局の諸君』

 

ミッドチルダにスカリエッティの声が響き渡る。

 

『見えるかな、あの船が。あれこそが、古代ベルカの遺産であり、私の望む世界を作り上げる ”聖王のゆりかご” だ』

 

モニターの映像が切り替わり画面の端に少女の姿が映った。

 

ヴィヴィオはその小さな身体には不釣り合いな巨大な玉座に座らされていた。

そして、その玉座の背後からは幾本ものチューブが四方に張り巡らされ、何かを彼女から吸い上げている様子だった。

 

『長らく待たせたね。これが()()()()()だ』

 

スカリエッティは口角を吊り上げ、まるで誰かを歓迎するかのように両手を広げた。

 

『来たまえ。 待っているよ。フハハハハハハハ‼︎』

 

「……」

 

アースラの一室、モニターを見ていたアントはスカリエッティの映像が消えるとゆらりと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

巨大船、聖王のゆりかごが浮上してすでに数十分。

アースラでの緊急ブリーフィングのために、六課のメンバーは会議室に集まっていた。

 

「状況は予想していた以上に最悪な方向や。ジェイル・スカリエッティの思惑は何なのか不明。 だけど、あの巨大船が予想されるポイント、二つの月の魔力が満ちる場所に辿り着いたら、ミッドチルダの市民の安全が脅かされる」

 

「巨大船のポイント到達阻止のために次元航行艦隊も出撃してる。今も、航空部隊がゆりかご周辺に展開しているガジェットの排除に向かってるはず」

 

「ゆりかごだけじゃない、スカリエッティのアジトの制圧と、地上本部に向かっている戦闘機人の捕縛。やることはいっぱいあるけど、高濃度のAMF環境下での戦闘を行える魔導師はまだそんなに多くない」

 

「そこで、機動六課を三つのチームに編成する。まず本部に向かってる戦闘機人、それはスバルたちに。別ルートから本部に向かっている魔導士……、騎士ゼストの方は、シグナムとリインが」

 

「アジトには私が、ゆりかごには……」

 

「私とはやて部隊長、そしてヴィータ副隊長が」

 

なのはがメンバーを確定しようとすると、アントが手を挙げた。

 

「いや、俺も行く」

 

瞬間、場が静かになった。

 

やがて、おずおずと言った感じではやてが口を開いた。

 

「……アント君、気持ちは分かるで? でもゆりかごの内部はこれまでとは比にならない密度のAMFに満ちてるはずや。そんな中に魔力量が少ないアント君が飛び込んでいったら……」

 

「命がけなのはお前らも同じだろ?」

 

「そ、そうやけど……でもアント君の場合は私達より……」

 

「頼む」

 

アントは真っ直ぐにはやてを見た。はやては悩んでいたがやがて根負けした。

 

「……分かった。でも無理だけはせんでな? いざって時は撤退も頭に入れて行動するように。これはアント君だけやなくてみんなにも意識して欲しいことや」

 

全員が頷いたのを確認したはやてはもう一度皆の方に向き直り言い切った。

 

「これより十分後に全員出撃や。各自準備を整えていくように。これが最後の戦いや。気張って行くで‼︎」

 

「「「「はい‼︎」」」」

 

「「「「了解‼︎」」」」

 

 

 

 

 

 

 

空を悠然と飛ぶ船”聖王のゆりかご”。

その周辺はまさに激戦区にふさわしい様相を呈していた。

 

休む暇もなく襲い掛かってくるガジェットⅡ型。

 

空をも覆いつくさんばかりにゆりかごの砲門から放たれる紫の砲撃。

 

航空魔導師達に指示を出しながら、はやては飛行するガジェットの編隊を撃ち落していく。

 

なのは、ヴィータ率いる航空魔導師達とアントははやてが切り開いてくれた道を使いゆりかご内部へと辿り着いていた。

 

だが潜入した瞬間、三人は身体が重くなる感覚に襲われた。

 

「やっぱり……」

 

「AMFだ……しかもかなり濃いぞ、ガジェットとかシャレにならねぇ」

 

なのはとヴィータは顔を見合わせながら苦々しい表情を浮かべる。

 

「最後の舞台っていうだけのことは──ん?」

 

アントは壁の一部の作りに違和感を抱き眉をひそめた。

 

「アント君? 何か見つけたの?」

 

なのはの問いかけに、アントは首を振った。

 

「いや、気のせいだった」

 

周囲の状況を確認したヴィータは口を開く。

 

「なのは。アタシは駆動炉を潰してくる。いくら大昔に猛威を振るった戦艦でも駆動炉さえ潰しちまえばなんとかなんだろ。なのははヴィヴィオのところに行ってくれ。アントは……」

 

「先に退路を確保しておく。何が起きるか分からないからな。とりあえずそれが終わったらお前らのサポートに向かうわ」

 

「分かった」

 

「頼む」

 

方針は決まった。なのはは真剣な表情で二人を見た。

 

「ヴィータちゃん、アント君、無理はしないでね」

 

「おう」

 

「互いにな」

 

なのはとヴィータが全速力で去ったのを見届けると、アントは先程目についた壁に近寄り軽く触れた。

 

「さてと」

 

目の前の壁は割れ、自動ドアのようにスッと開いた。

 

「俺もやることやらなきゃな」

 

発見したのは隠し扉。それもこれまで何度か嵌めるのに使われた、アントでなければ気付けない隠し扉だった。

 

《まず間違いなく罠です》

 

「だろうな」

 

《それでも行きますか?》

 

「行くしかねえだろ?」

 

アントが通過した瞬間、扉は閉まり目の前に道が示された。

 

道は枝分かれすることなく、真っ直ぐな一本道だった。進めば進むほどAMFは薄くなっていく。薄くなっていくにつれ、目的の場所に近づいているのだと認識させられる。

 

やがてアントは開けた場所に出た。

 

中央には──数本のチューブで繋がれたガーラが立っていた。

 

アントはガーラの姿を目視すると、すぐさま刀を手にまっすぐ斬りかかった。

 

ガーラの首をかっ切ろうとした瞬間、アントの視界は一回転していた。

 

「なッ……⁉︎」

 

長年の経験による反射で咄嗟に受け身を取りダメージを分散させていくアント。

 

立ち直り顔を上げた瞬間、目の前にガーラの巨大な拳が迫っていた。

 

「クッ⁉︎」

 

とっさに身を仰け反らせこれを躱すと、地面に両手をついて全身のバネを目一杯使った蹴りをお見舞いする。

 

蹴りが直撃する寸前、ガーラの肘が間に割り込みガードされた。

 

「ッ‼︎ 野郎‼︎」

 

防御されるやいなや、至近距離から魔力弾を放つ。するとガーラは身を捻りながら半歩足を下げて回避しアントから距離をとった。

 

離れざま、ガーラの瞳がアントを捉えた。

 

どこかチグハグな。アントを見ているのに見ていないかのような瞳だった。

 

「っ……‼︎」

 

アントは続けて数発撃った。

 

だがレールガンはガーラに当たらなかった。直撃する数メートル手前で弾かれたかのように逸れてしまうのだ。まるでアントがよく使う砲撃対策のように。

 

「クソッ‼︎」

 

今度は薙刀を手に突きを繰り出すアント。

 

ガーラは表情を変えることなく刃先を片手で掴んだ。

 

防がれることを想定していたアントはすぐさま薙刀を持つ手を滑らせガーラに肉薄し顔面を殴りつけた。

 

バキィッ‼︎

 

手応えはあった。だがガーラは少しも揺らぐことなく平然としていた。

 

「なっ⁉︎」

 

目を見開くアントの顎めがけて膝蹴りが繰り出される。

 

「クッ……‼︎」

 

迫る攻撃を身体を捻って回避すると、間髪入れずガーラの拳がアントの頭上から迫っていた。

 

速い。それに体勢がよくない。これは回避できない。

 

瞬時に判断しルリに指示を出す。

 

「カートリッジロード‼︎」

 

解放された魔力が瞬時に銃口に集まっていく。

 

「デトロイトバスター‼︎」

 

拳が振り下ろされると同時に砲撃を放った。

 

魔力と拳が衝突する。

 

だが拳は砲撃をぶち抜き、アントを捉えた。

 

「ガッ──」

 

アントは地面を跳ねるように吹き飛ぶと、背後の壁に衝突した。

 

ドッゴォォン!!!

 

「……カ……ハ……ッ」

 

消し飛びそうになる意識を必死に繫ぎ止める。ルリによる防御がなかったら既に致命傷だった。

 

(……ふざけてやがる)

 

自身の紙装甲は身をもって知っている。だが砲撃を真正面からぶち当ててこの威力。たった一撃で気力も体力も吹き飛ばされてしまった。

 

指先がピクリとも動かない。まるで身体がこれ以上戦うのを拒否しているかのようだ。

 

ガーラは攻撃の手を緩める気はないようで、拳を地面に叩きつけ激しく隆起させた。

 

ガーラを中心に巨大な衝撃波が生じる。

 

マズイ……‼︎

 

避けようがない。アントは成すすべなく衝撃波を食らった。

 

「グッ……ウッ……‼︎」

 

血を吐きつつ、更にめり込んだ。

 

そこへ更にガーラから小刻みに衝撃波が放たれた。

 

「ガッ……グッ……ゴハッ……」

 

脳が揺らされ、骨も数本折られる。

 

あまりの激痛に意識を失うことも出来ない。視点がハッキリしない瞳でガーラを見た。

 

「……」

 

ガーラは無表情のまま構えると、握りしめた拳を引き、目にも留まらぬ速さでアントに迫った。

 

「ッ──‼︎」

 

身体の中心が砕かれる感覚と共に、アントは更に壁にめり込んだ。

 

《ボス──‼︎》

 

 

 

アントは意識を失った。

 

 

 

……

 

《……‼︎ ……‼︎》

 

誰かが呼んでいる。アントの意識が微かな声を拾い上げた。

 

《ボ──‼︎ ボス‼︎ 目を覚ましてください‼︎》

 

頭に響く念話がはっきりと聞こえるようになってきた。

 

アントは微かに目を開いた。

 

ここはどこだ……? 俺は何をしてるんだ?

 

「ぐっ……うぅ……」

 

《ボスッ‼︎》

 

身体を動かそうとするも、全身に痛みが走る。あまりの痛みに思わず呻き声が出ると、ルリが喜びの声を上げた。

 

「ここ……は……?」

 

薄く目を開くと、戦闘の跡が残る景色が広がっていた。

 

それを見た瞬間、アントの脳は一気に覚醒した。

 

「ガーラはっ……⁉︎ ガーラはどこに行った……⁉︎」

 

《落ち着いてください‼︎ あまり動かれては……》

 

「答えろ‼︎ ぐぅっ……‼︎ 奴は……どこに行った……‼︎」

 

声を荒げたことで痛みが走る。だがそんなことを言っている場合ではない。

 

《ガーラは……ボスが動かなくなったのを確認すると壁を破り何処かへ立ち去ってしまいました》

 

「なんだと……⁉︎」

 

顔を上げ周囲を見回す。確かに壁には巨大な穴が空いていた。

 

(トドメを刺すことなく去った……?)

 

あまりにガーラらしくない、不自然な事実にアントは嫌な予感がした。

 

「クソッ……‼︎ 俺はどれだけ意識を失ってた……⁉︎」

 

《およそ三分程です》

 

「なら……まだ追い付くっ……‼︎」

 

全身を軋ませながら立ち上がるアント。

 

《危険です‼︎ 今のボスはギリギリの状態です‼︎ 運良く生き残っただけにすぎません‼︎》

 

「……こちとら……慣れてんだよ」

 

刀を杖代わりにし、身体を引きずりガーラを追う。

 

やがて、アントはスカリエッティが映像に映していた場所、王座の間に辿り着き──目を見開いた。

 

「なの……は……?」

 

そこにはヴィヴィオを守るように力無く覆い被さるなのはがいた。

 

傷を負い、ボロボロになっているなのはの下から、ヴィヴィオが必死に呼びかけていた。

 

「ママ‼︎ 起きて‼︎ ママッ‼︎」

 

二人から少し離れた位置にはガーラがいた。ゆったりとした速度で二人に迫っていた。

 

「オリヴィエ……」

 

「ガーラッ……‼︎」

 

近寄らせはしないとアントが駆け寄ろうとした、その時

 

「……ぐ……ふ……」

 

アントの腹部を強烈な熱が襲った。

 

目線を落とすと体から刃が突き出ていた。

 

「ふふっ、流石にしぶといわね。ガーラお兄様にあれだけコテンパンにやられてまだ動けるなんて。ドクターの忠告通り備えておいてよかったわ」

 

目線を背後に向けると、口の端を釣り上げたドゥーエがいた。

 

「知識、無敵の要塞、そして最強。全て揃ったわ。貴方のお陰よ、アント・バーキン。でももう用無し。使い終わったガラクタは処分しなくちゃね」

 

腹部に刺さっていた刃が引き抜かれた。

 

「ガッ……‼︎」

 

膝から崩れ落ち倒れこむ。アントの瞳に泣きじゃくるヴィヴィオの姿が映った。

 

「っ⁉︎ パパッ‼︎ パパァッ‼︎」

 

アントの存在に気付いたヴィヴィオは、必死に呼びかけた。

 

もはやアントには声を出す体力は残っていない。意識は徐々に薄れていった。

 

「フフッ……アーハッハッハハハハハ‼︎」

 

ドゥーエの心底楽しそうに笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

………

 

 

「はっ──⁉︎ はぁ……はぁ……」

 

アントが目を覚ますと、そこはアースラで使用していた自室だった。

 

《おはようございます、ボス》

 

「……あ、ああ……」

 

自室にいることを認識すると、アントは呼吸を落ち着かせ目線をカレンダーに移した。スカリエッティが襲撃してくる数日前に戻っていた。

 

《ボス? 如何されました?》

 

「……」

 

アントは答えることなくベッドに座りこめかみを抑えた。

 

これからどうするか。

 

しばらく考え込んでいたアントだったが、ふと顔を上げルリに聞いた。

 

「ルリ、犯罪者と面会するためには誰の許可が必要か分かるか?」

 

 

 

 

 

アントは執務官であるフェイトに取り次いでもらい、とある人物と数分間の面会許可をもらった。

留置所の一室にて少しの間待っていると、目当ての人物がやってきた。

 

アントはミラーの向こう側の人物に声をかけた。

 

「少しやつれたか? チンク」

 

「……貴様に話すことなど何もない」

 

チンクは不機嫌そうに答えた。

 

「そう言うな。俺だって忙しいのにわざわざここまで来たんだ」

 

返事の代わりに鋭い視線で返される。

 

「言っておくが、私は死んでも口を割らん。もし私がドクターへの人質になると考えているなら大間違いだ。ドクターはもう止まらない」

 

その表情からは硬い意志が感じられる。それに対し、アントは軽く首を振った。

 

「そうじゃない。俺が知りたいのはお前らのアジトとかそういうのじゃないんだ。別のことだ」

 

「……?」

 

アントの言葉に怪訝な表情を浮かべるチンク。

 

「単刀直入に聞くぞ。ガーラの身に何が起きてる?」

 

「っ⁉︎ なっ──⁉︎」

 

なにやら言いかけるもすぐに飲み込み、すぐさま口を閉じた。明らかに動揺していた。

 

「なんか知ってるんだな?」

 

「……」

 

しばらく俯き悩む素振りを見せていたチンクだったが、やがて顔を上げ真っ直ぐにアントを見た。

 

「……それを知ったら、どうするんだ? ガーラを殺すのか?」

 

「それをこれから決めるんだよ」

 

「っ……‼︎」

 

チンクは驚いた様子でアントを凝視すると、やがてポツリポツリと語り始めた。

 

「……異変を感じたのはかなり前からだ。ガーラがドクターと二人でラボに引きこもるようになってから時折言葉遣いが別のものになることがあった」

 

「……」

 

「違和感を覚えた私はドクターに相談した。ガーラの様子がおかしいと。するとドクターは全て教えてくれた」

 

チンクは言葉を切ると重々しく口を開いた。

 

「覇王の技の継承。ガーラに使われているレリックは古代ベルカ時代の人間が当時最強と呼ばれた覇王の力を兵器として運用するために作られたものだ。だがその力はあまりに強大すぎて誰にも扱えなかった。ドクターの手によって徹底的に強化されたガーラ以外はな」

 

「っ……‼︎」

 

あの時のレリックだ。昔、ジジイと発見して掠め取られたあれが、それほどの兵器だとは思わなかった。

 

「兄はレリックに刻まれていた覇王の記憶から、その技を自分に合うように調節していたんだ。その過程で覇王の記憶も一緒に取り込んでしまっていた」

 

「……つまりなんだ? あれは覇王そのものってわけか?」

 

アントの質問に対し、チンクは静かに首を振った。

 

「分からない……混ざっている感じではあるが、ガーラがどれくらい自分を保てているのか私には分からない。妹である私ですら、だ」

 

話は終わり、しばらく沈黙が流れた。

 

「……混ざってる、か。厄介なもんに手え出しやがって」

 

アントは深い溜息を吐く。

 

そろそろ面会時間が終わる。必要なことは聞けた。

 

席を立ち、去ろうとしたところでチンクに声をかけられた。

 

「待ってくれ! お前は殺すでも、倒すでもなく、”これから決める” と言ったな。なら──」

 

チンクはミラーの向こうで頭を下げた。

 

「頼む……ガーラを……兄を救ってくれ……! これ以上、ガーラが壊れていくのは見ていられない……‼︎」

 

震える声で助けを求めるチンク。アントは驚き目を見開いたが、すぐに死んだ魚のような目を細めた。

 

「……ふざけんな。やりたい放題やった挙句、助けてくれなんざ都合がいいにもほどがあるぜ」

 

冷たい声だった。チンクの身が恐れるように震えた。だがそれでも頭を下げるのをやめなかった。

 

 

 

アントは部屋を出た。背後ではチンクがずっと頭を下げ続けていた。

 

 

 

 

……

 

 

 

ガーラの中には二つの意思があった。

 

一つは勝利に固執したガーラの意思、そしてもう一つは、聖王を求める覇王の意思。

 

まだまだ情報は足りていない。だったら、やることは一つだ。

 

何千回繰り返してもいい。その中のたった一回勝てばいいのだ。

 

「あれれ〜? おかしいっすね〜? 機動六課の連中は見当たらないっすよ?」

 

「一人でのこのこやってきたというわけか。どうやってここを発見したのかは知らんが、一人だけだと言うなら好都合だ」

 

「チンク姉の仇……‼︎」

 

「「……」」

 

周囲は数え切れない数のガジェット、そして目の前にはナンバーズが勢ぞろいしていた。

 

これからこいつらを切り抜け完全に覚醒される前にガーラを倒さなくてはならない。

 

それが無理そうならまた別の手段を考えるだけだ。時間はある。それも膨大に。

 

「さぁて」

 

刀を手にし、低く構える。

 

「死ぬか」

 

途方もなく長く、短い戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 





ようやく時間ができました……。

結局約一ヶ月かかってしまって申し訳ないです……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。