バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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凶悪な反撃

 

 

繰り返した。

 

アントは何度も繰り返した。

 

無数の魔力弾に貫かれた。

 

幾千もの刃に斬られた。

 

何度も何度も敗北を重ねた。

 

そして──

 

「……グッ……はぁ……はぁ……」

 

足下には無数のガジェットの残骸、そしてナンバーズ達が倒れていた。

 

「……はぁ……はぁ……やっと、か」

 

血で霞む目をこすった瞬間、アントは膝から崩れ落ちた。

 

《ボス‼︎》

 

「クハハ……流石に、ちとキツかったみたいだな……」

 

力なく笑みを浮かべた、その時だ。

 

浮遊感がアントを襲った。

 

「うおっ……⁉︎」

 

《ボス‼︎ ゆりかごが浮上しています‼︎》

 

「なっ……⁉︎ このタイミングでか⁉︎」

 

アントが驚愕していると、背後からコツコツと足音が鳴り響いた。

 

「っ……‼︎」

 

ガーラではない。足音が軽すぎる。

 

アントは刀を杖代わりにフラフラと立ち上がり背後に視線を向け、目を見開いた。

 

そこにいたのは金髪に緑と赤の瞳を持った女だった。その表情からはなんの感情も伺えない。

 

「ヴィヴィオ……?」

 

思わずアントが呟いた瞬間、モニターにクアットロが映った。

 

『大当たり! ふふふっ』

 

モニターのクアットロはニンマリと笑みを浮かべていた。

 

『驚いたわ。まさかあの戦力差を覆すなんてね。ほんと、危険な男。念のため準備しておいてよかったわ』

 

「おい、一体何したんだ……?」

 

『そうねぇ、見た方が早いかしら? ──陛下、目の前にいる男は貴方の家族の仇です。殺しちゃってください』

 

「なっ……⁉︎」

 

クアットロがそう言うと、先程まで無感情だったヴィヴィオの瞳から憎しみの感情が吹き出した。

 

「……返して」

 

拳を構えてアントに迫るヴィヴィオ。

 

「返してよっ‼︎」

 

ドゴォッ‼︎

 

「グフッ──⁉︎」

 

殴り飛ばされ地面を転がるアント。

 

「ゴホッ……ケホッ……なんだ……こりゃあ……」

 

とてつもなく鋭い一撃だった。後方に飛んで衝撃を殺したが、それでも多大なダメージを与えられた。

 

『流石に聖王の一撃は堪えたみたいね。これから娘に殺される気分はどうかしら?』

 

「……聖……王?」

 

初めての状況だった。ヴィヴィオはゆりかごを動かす鍵であり、戦力ではないと思い込んでいた。

 

だが今回、全てのガジェットを葬りナンバーズ達を倒したことで相手は切り札を切ってきた。

 

覇王と聖王。二人の王を相手にしなくてはならない。

 

「……無理ゲーにも……程があるだろ」

 

驚愕を通り越して呆れるアントの目の前にヴィヴィオの拳が迫る。

 

「はぁぁああ‼︎」

 

「ッ⁉︎」

 

咄嗟に自身の拳を叩きつけて逸らしたが、すぐさま放たれた蹴りがアントに命中する。

 

「ガッ──‼︎」

 

再び地面を転がるアント。

 

ヴィヴィオは宙に飛び上がり、拳を掲げてトドメを刺しにかかった。

 

朦朧とする意識の中、振り下ろされる拳に手を伸ばす。

 

──ビキッ‼︎

 

「ガッ⁉︎」

 

関節が軋み、全身が悲鳴を上げる。限界はすでに超えていた。

 

だが──

 

「ぐ、ぬぅっ‼︎」

 

ガシィッ‼︎

 

歯を食いしばり、渾身の力でヴィヴィオの手首を掴んだ。

 

拳は目と鼻の先で、ギリギリで止まった。

 

「っ⁉︎」

 

ヴィヴィオは目を見開き腕を引こうとするが、ビクともしなかった。

 

驚愕するヴィヴィオに対し、アントはニヤリと口の端を吊り上げた。

 

「クハハ……反抗期か? 大分早いなぁ……」

 

「どうして……」

 

笑みを浮かべるアントに、思わずといった様子でヴィヴィオが問う。

 

「お前を、人殺しになんてさせるかよ……。とっとと終わらせて帰るぞ」

 

「っ⁉︎」

 

ヴィヴィオの腕から力が抜けた。

 

「………………パパ」

 

ヴィヴィオの口からその言葉が溢れた瞬間、轟音と共に壁が破壊され、とてつもない衝撃波が二人を襲った。

 

「なっ……⁉︎」

 

「うっ……‼︎」

 

二人は別々の方向に吹き飛ばされた。

 

吹き飛んだ拍子に破壊された壁が視界に映った。

 

「ガーラ……‼︎」

 

そこには、砂煙を纏ったガーラがいた。

 

『ふふっ、ここまで頑張ってたけど、もう終わりよ。ガーラお兄様が目覚めたわ。お兄様、ちょっと待っててくださる? このゴミ虫が絶望する顔を見たいの』

 

ピタッとガーラの動きが止まった。どうやらガーラも制御下にあるようだ。

 

「グッ……う……」

 

アントは倒れたままヴィヴィオを見た。

 

「パパ……」

 

不安気な瞳と目が合う。アントは頬を歪め無理矢理笑顔を作った。

 

「ちょっとだけ待ってろ。次はすぐに終わらせてやるからな」

 

『はぁ? ぷっ、あははははっ‼︎』

 

クアットロの馬鹿にした笑い声が響いた。

 

『馬鹿ねぇ? この状況でまだどうにかできると思ってるの? とうとう頭がおかしくなっちゃったのかしら?』

 

「クハハハッ……お前じゃ一生分からねえよ、引きこもりメガネ」

 

『なぁっ⁉︎』

 

憎まれ口を叩かれ、クアットロは口元をヒクヒクとさせた。

 

『まだそんな減らず口を叩く余裕があるのねぇっ‼︎ もういいわ。陛下、やっちゃってください‼︎』

 

「えッ⁉︎ いや……‼︎ やめて……‼︎」

 

ヴィヴィオは必死に抵抗していたが、身体は勝手に動いてしまう。

 

わざわざヴィヴィオにやらせるあたり、とことん性格が悪い。死の間際までアントを苦しめるつもりのようだ。

 

「それには及ばねえよ」

 

アントは膝立ちになると、刀を銃に変えながらゆっくりと持ち上げ

 

ガチャッ

 

自身のコメカミに銃口を当てた。

 

『な⁉︎ 何を⁉︎』

 

「パパっ……⁉︎」

 

《ボスッ⁉︎ それは──⁉︎》

 

周囲が驚愕する中、アントは相棒に頼みごとをする。

 

「ルリ、一発だ」

 

──即死で頼む。

 

《っ……………了解です》

 

ルリは苦渋の決断をした。

 

──悪いな、ルリ。

 

内心で相棒に謝罪し、引き金に力を込めた。

 

「……今まで散々死んできたがよ、こんな死に方は初めてだ」

 

乾いた音が鳴り響き、アントの身体が傾いていく。

 

「ダメェッ‼︎」

 

悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

……次はもっと上手くやる。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

時間は戻った。スカリエッティが動き出す数日前へ。

 

 

 

ティアナとスバルはいつまで経っても会議に来ないアントを探していた。

 

「アントさん、どこに行ったのかしら。部屋にはいなかったし……」

 

「食堂かな?」

 

「かもしれないわね」

 

二人がしばらく探し回っていると、廊下を歩いているアントを発見した。

 

「あ‼︎ いた!」

 

「ほんとだ! アントさーん‼︎」

 

二人に声をかけられ、アントは立ち止まり振り返る。

 

「ああ、ティアナにスバルか。なんか用か?」

 

「忘れたんですか? 会議、始まってますよ?」

 

そう言うティアナにアントは如何にも今思い出したという風に頭を掻く。

 

「あー、悪い、今回は欠席で頼む。ちょっと用事ができてな」

 

「用事?」

 

聞き返してきたのはティアナでもスバルでもない。

 

ピタッと動きを止めたアントが声がした方に視線を向けると、そこにはフェイトがいた。

 

「……フェイト? なんでここに?」

 

「なんでって、アントを探してたんだよ。連絡しても返事がなかったから」

 

「……そう、か」

 

(おかしい……今まではこの時間にフェイトが通ることはなかった筈だ)

 

いつまでも黙ったままのアントにフェイトは訝しみ問いかける。

 

「アント、参加しないの? これからの方針とかも話し合うのに?」

 

「あぁ、まあな」

 

アントは必死に動揺を押し殺すように努めた。だがフェイトの表情は次第に険しいものに変わっていく。

 

「どんな用事か聞いてもいいかな?」

 

「落ち着けって。そんな尋問するようなことじゃねえだろ? 会議の内容なら後でちゃんと確認するから──」

 

「誤魔化さないで」

 

フェイトはピシャリと言い放つと、アントを真正面から見つめた。

 

「アント、何か隠してる?」

 

「なにも隠してなんかいねえよ。用ってのはあれだ、ちょっと無限書庫に調べ物に行くだけだ」

 

アントは肩をすくめて答えた。だがフェイトは納得していないようで口を開きかける。

 

「でも──」

 

「もういいだろ? 俺は管理局の人間じゃねえ。参加しなくても問題ないはずだ」

 

突き放すように無理矢理話を終わらせ、アントは背を向ける。

 

「あ……」

 

アントを追うように手を伸ばすフェイト。

 

だが、伸ばした手は空を切った。

 

ティアナとスバルは慌てた様子でフェイトに声をかけた。

 

「……や、やっぱりアントさんも不安なんですよ。だから……えっと、その……」

 

「も、戻ったらもう一度話してみましょう……?」

 

二人の言葉にフェイトは難しい表情を浮かべる。

 

「……ううん。多分だけど、それじゃダメだと思う」

 

アントが去った方向に決意のこもった視線を向けた。

 

「バルディッシュ、大至急皆に連絡して」

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

アントは無限書庫──ではなく整備室にいた。

 

淡々とルリの整備をするアント。

 

刀、薙刀、短刀、銃、次々と変形させ軽く素振りをしたり構えてみたりする。

 

《ボス、なのは達に全て明かしましょう。お話を聞く限り……》

 

「勝率は低いってか?」

 

《いいえ、ゼロです》

 

「まじか、ゼロか」

 

驚きの声を上げつつ、アントは整備する手を止めない。

 

《……ボス》

 

「聞こえてるっての。そう言われるのは分かってたってだけだ」

 

ルリの心配を他所に、銃を手で回し調子を確認する。

 

「よし」

 

ルリを待機状態に戻すと、持っていく道具の不備がないか確認を始める。

 

「やっぱり。フェイトちゃんの推測通りだったね」

 

「……?」

 

背後から声が響く。

 

アントが振り返ると、そこにはなのはだけでなく機動六課のメンバー全員が揃っていた。

 

「なんでいるんだ? 会議じゃなかったのか?」

 

「アント君こそ。無限書庫じゃなかったの?」

 

「……ルリの整備忘れててな。無限書庫にはこの後行く予定だ」

 

「嘘。これから戦いに行くんだよね?」

 

「そんなわけねえだろ。どこ行きゃいいのかも分からねえのによ」

 

「じゃあその手に持ってるカートリッジは何?」

 

整備してる最中だったカートリッジを指摘され、アントは一瞬言葉に詰まった。

 

「……これか? これは常備してる物だ。いつ何が起きるか分からねえからな」

 

カートリッジを懐にしまいなのはの脇を通り抜けようとした、その時。

 

「いい加減にして‼︎」

 

なのはがアントの胸倉を掴み、そのまま壁に押さえつけた。

 

「うぐっ……」

 

アントは抑えつけられたまま、表情を険しくして告げる。

 

「……放せ」

 

「放さない‼︎」

 

「ただちょっと出かけるだけだ」

 

「そうじゃないことくらい分かるよ‼︎ もう昔の私達じゃない‼︎ 戦いに行くんだよね? 私達も戦う‼︎」

 

アントはため息混じりに頭を掻いた。

 

「時間がねえんだよ。頼むから放してくれ」

 

「なら皆で行く、一人でなんて行かせない‼︎」

 

「後で全部話す。だから──ぐっ⁉︎」

 

それでも逃げようとするアントだったが、掴む手に力が籠められ強引に遮られた。

 

「アント君は間違ってる‼︎ それで全部解決したって嬉しくない‼︎」

 

「ッ……」

 

たじろぐアントの側にフェイトが歩み寄った。

 

「昔からそうだったよね? 気が付いたらフラッといなくなって、全部解決した頃にはアントはいつもボロボロだった」

 

アントの目にフェイトの優しい笑顔が映る。

 

「今度は私達にも背負わせて? どんなに逃げても追いかけるよ。絶対に一人になんてさせない」

 

「ッ……」

 

耐えられず視線を逸らすと、少し哀しげな表情を浮かべたアリサとすずかが目に映った。

 

「……もしかしたら言って貰えるまで待つのが正しいのかもしれないわね。……でも、私もあんたも相当頑固だから。このままじゃダメ。だからもう待たないことにしたわ」

 

「アント君が辛い時には私達がいるから、きっと助けになる。だから、それを忘れないで」

 

真っ直ぐな笑みを浮かべ、二人はアントの顔を優しく挟む。

 

「……」

 

思わず口を開きかけたアントだったが、慌てて首を振り視線を逸らす。

 

「……隠してることなんかねえよ」

 

その場から逃げようとするも、はやてと守護騎士達が逃げ道を塞いだ。

 

「私達は今まで何度も救われてきたんや。どんな窮地からも、どんな困難からも。私達はアント君を信じとるよ。だから今度は私達を信じてえな」

 

「言ったろ、力になるってよ。それに二人の仇打ちもしなきゃいけねえしな」

 

「如何なる敵も斬り伏せてみせよう」

 

「お前に拾われた命だ。ここで使わなくていつ使うというんだ?」

 

「水臭いですよ‼︎ アントさん‼︎」

 

アントの前にフォワードメンバー達も集まる。

 

「まだまだ未熟ですけど、私達の力も使ってください!」

 

「兄さん‼︎ 皆で戦いましょう!」

 

少しの間、アントは俯き黙りこくっていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「……死ぬかも知れねえんだぞ?」

 

「覚悟の上だよ」

 

「でもなのは。お前は一回……」

 

「アント君」

 

決意のこもった、力強い瞳と目が合う。

 

言葉にしなくとも分かった。こうなった時のなのははテコでも意思を変えない。

 

根負けしたアントは諦めたように大きく息を吐いた。

 

「……分かった、俺の負けだ。全部話す」

 

 

 

 

アントは話した。スカリエッティ達のこと、ゆりかごのこと、覇王と聖王のこと、そして──死に戻りのことを。

 

「……繰り返したの?」

 

「ああ」

 

「何度も?」

 

「そうだ」

 

「今ままでもそうやったんか?」

 

「まあ、そうだな」

 

「「「「「……」」」」」

 

全員が何も言えなかった。死に続けるということがどれほど苦痛なのか、想像すら出来なかった。

 

「とにかく、そういうわけだ。ゆりかごの場所もスカリエッティのアジトも把握してる。奇襲すりゃあ勝ち目も十分にっ⁉︎」

 

突如、なのは達に抱きつかれ、身動き一つできなくなった。

 

「バカ……なんでもっと早く言ってくれなかったの……」

 

なのはも、フェイトも、はやても、すずかも、アリサも、全員が涙を流していた。

 

当然と言えば当然だった。自分達の知らない所で、たった一人で戦っていた。その苦しみを考えると居ても立っても居られなかった。

 

「ごめんね……ありがとう……」

 

「……あ、ああ……」

 

死ぬ事が当たり前になってしまっていたアントは戸惑う事しか出来ない。だが、なのは達にとっては違う。どうせ死に戻るからと、命をそんな風に考えられるわけがないのだ。

 

「もう死なせへん。これっきりで終わらせるからな」

 

はやては顔を上げアントから離れると、部隊長としてのはやてに切り替わった。

 

「さあ皆‼︎ 戦闘準備や‼︎ 今度はこっちから仕掛けるで‼︎」

 

「「「「「了解‼︎」」」」」

 

命令が下され、機動六課は慌ただしく動き始めた。

 

《これは初めてですか? ボス?》

 

『まあな』

 

《なぜもっと早く話さなかったのですか?》

 

『……目の前で死なれると、かなりキツイからな』

 

《ご自分の死より、ですか》

 

『……かもな。あんな経験はもう懲り懲りだ』

 

アントはなのは達を見て自然と笑みを浮かべた。

 

『だいぶ肩が軽くなった。あとはガーラをどうするか、だ』

 

するとその時、リインがアントに近寄ってきた。

 

「アント、少しいいか?」

 

「ん? ああ、大丈夫だ。どうした?」

 

「ちょっと一緒に来て欲しい」

 

 

 

 

 

………

 

 

 

アジトにて、スカリエッティはモニターでガーラの様子を確認していた。

 

「もうじきだ……もうじきで私の理想郷が完成する‼︎」

 

悦に浸り、愛おしげにモニターを撫でていた、その時。

 

『ドクター‼︎ ドクター‼︎ 大変です‼︎』

 

慌てた様子のウーノがモニターに映った。

 

「おや? どうしたんだいそんなに慌てて」

 

『管理局が‼︎ 機動六課を中心に攻め込んできました‼︎』

 

「なに⁉︎」

 

すぐさまアジトの出入り口付近の映像を映し出すと、大勢の局員達がフェイト・テスタロッサを筆頭に雪崩れ込んで来ていた。

 

「バカな……‼︎」

 

いずれは見つかることは想定していた。だがあまりに早すぎる。

 

「……見つかってしまったものは仕方ないね。ウーノ、ゆりかごを起動させるんだ。少々早いが問題なく動かせる筈だ」

 

『それが……』

 

「どうしたんだい?」

 

『すでに局員達がゆりかご内部に侵入しています。ただ今ガジェット達と戦闘中です』

 

「なっ⁉︎」

 

目を見開き驚愕する。信じられずモニターで確認するも、ウーノの言っていた通りだった。

 

「何故……ゆりかごが……」

 

呆然とモニターを見ていたが、すぐさま指示を出した。

 

「ナンバーズ達をすぐに向かわせたまえ‼︎ ゆりかごを起動させてガーラが目覚めるまでの時間を稼ぐんだ‼︎」

 

『了解です‼︎』

 

ウーノがモニターから消えた。

 

「何故だ……」

 

その時、ゆりかごを映すモニターに憎い相手が映った。

 

「アント・バーキン……君を相手にするといつも計算が狂う……‼︎」

 

 

………

 

 

本来、戦いとは情報戦だ。戦闘スタイル、クセ、弱点、それらを戦いながら、もしくは事前調査などして収集していく。

 

だが、今回に至ってはその過程は存在しない。幾度も死に戻りをしてきたアントが、スカリエッティ達の全てを知っているからだ。文字通り、()()知られているのだ。

 

つまり、何が言いたいのかというと、凶悪な反撃が始まったということだ。

 

 

 

 

「ちょ⁉︎ ありえねえっすよ‼︎ なんで私達の連携が全部読まれてるんすか⁉︎」

 

ゆりかご防衛のため、打って出ていたナンバーズのウェンディは悲鳴を上げていた。

 

ティアナとスバルの二人を分断しようとして失敗したものの、此方はナンバーズが三人にギンガもいる。まず負けはしないと思っていた。

 

だが、

 

「スバル‼︎ 今よ‼︎」

 

「一撃必倒‼︎ ディバイン……バスタァァアア‼︎」

 

ティアナによってうまく誘導されたディード、ノーヴェ、ギンガの三人は、スバルから放たれる大威力砲撃を至近距離から叩き込まれた。

 

「うあぁああああ!⁉︎」

 

「くうっ⁉︎」

 

「……‼︎」

 

師であるなのはの技を確かに受け継いだスバルの砲撃はまさに『一撃必倒』の名にふさわしく、三人を一撃で昏倒させた。

 

「そんな……⁉︎」

 

「残念だったわね」

 

「っ⁉︎」

 

間一髪でティアナのダガーを防ぐウェンディ。だがティアナの余裕は崩れない。

 

「色んなことを教わった。そして、ダガーの使い方もその一つ‼︎」

 

巧みに繰り出されたダガーがウェンディを切り裂いた。

 

「っ……‼︎」

 

力なく倒れ伏すウェンディをしっかりと拘束すると、相棒に声をかけた。

 

「スバル‼︎ 急ぐわよ‼︎」

 

「うん‼︎ 全速力で‼︎」

 

二人は未だ浮上したてのゆりかごへ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

旧市街の廃墟ビル屋上ではエリオとキャロがそれぞれ、ガリュー、ルーテシアと戦闘していた。

 

「エリオくん‼︎」

 

「うん‼︎ 行くよ、ガリュー‼︎ これで君を止めてみせる‼︎」

 

エリオの足元に魔法陣が展開されストラーダからも魔力が放出される。ガリューは力任せに振り下ろされた槍を受け止めたものの、床が砕け落ち落下していく。

 

「⁉︎」

 

「はぁあああ‼︎」

 

憧れ、目指したのはアント、師匠はシグナムだ。奇をてらった動き、強烈な一撃、二人から教わった全てが、一連の動作に集約していた。

 

「紫電一閃‼︎」

 

空中であるためなす術がなく、エリオの一撃をモロに喰らい、ガリューは地面に落ち意識を失った。

 

エリオがガリューとの戦闘を終えたとき、キャロもまたルーテシアとの戦いを終わらせようとしていた。

 

フリードの放ったブラストフレアと、ルーテシアの二体の地雷王の放った雷撃がぶつかり合っている。別の場所でも白天王とヴォルテールが互いの砲撃をぶつけ合っている。

 

「ルーちゃん……‼︎」

 

自らの召喚獣たちがぶつかり合う中、二人も負けじと魔力を送り続ける。しかし、その時ルーテシアのデバイスに亀裂が生じた。

 

その好機を見逃さず、キャロはもてる魔力を限界まで引き出し最後の一押しを仕掛けた。それにより、ヴォルテールは白天王に競り勝ち。フリードも地雷王に打ち勝った。

 

だが、競り負けたルーテシアは仰向けに倒れ、気を失ってしまった。

 

その結果、主人が居なくなったことで召喚獣達が混乱してしまう。

 

「このままここにいたら危ない……フリード‼︎」

 

キャロが呼ぶと、フリードは咆哮をしキャロとルーテシアを背に乗せた。途中、エリオも乗せ三人は召喚獣たちから距離を置いた。

 

「キャロ、ルーの召喚獣達は……」

 

「うん。ルーちゃんの精神状態が不安定になってるのもそうだけど、主からの信号が送られなくなって凄く混乱してる」

 

「じゃあ何とか止めないと!」

 

「白天王の方はヴォルテールがとどめてくれるから、エリオ君は地雷王の攻撃を止めて。私とフリードもサポートをするから!!」

 

「了解‼︎」

 

エリオは立ち上がると、ストラーダを構えた。フリードとヴォルテールもまた自身のやるべきことに了解したのか大きく吼えた。

 

 

 

 

 

シグナムは、地上本部の中にてゼストとレジアスの行く末を見守っていた。ゼストとレジアスは語り合った。決して殺そうとした訳ではなかったのだ、ただそれでも突き進むしかなかった。己の理想の成れの果て、犯した罪は全て償うと。レジアスは頭を下げて謝罪する。

 

ゼストはしばらく黙り込んでいたが、やがてフッと表情を緩めた。

 

「……ようやく、心残りがなくなった」

 

すると、ゼストは苦しそうに胸を押さえ、次の瞬間には少量であるが吐血をした。

 

「ゼスト殿!」

 

「フフ……やはりもう長くはないか。……シグナムよ、最後に頼みがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「アギトの……ロードとなってはくれまいか?」

 

その瞬間、アギトの表情が強張った。

 

「何言ってんだよ旦那‼︎ アタシのロードはアンタしか‼︎」

 

「強がるなアギト。残念ながら私とお前では魔力の質が違う。それに、初めてシグナムと対峙した時、お前は内心でシグナムが自分に適していると感じていただろう? お前ももう私に縛られることはない。好きなように生きろ」

 

「……!」

 

アギトは口を噤んでしまった。

 

しかし、ゼストの体はもう限界が近いようで、彼はまたしても血を吐いた。

 

「それと、彼に……アントに伝えて欲しい、ありがとうと」

 

「アントに……?」

 

訝しむシグナムに、ゼストは優しい笑みを向ける。

 

「話は終わりだ。早く行くといい。彼が待っているんだろう?」

 

「……はい」

 

シグナムは静かに返事をすると踵を返し、部屋から立ち去ろうとする。それに従うようにアギトも目尻に涙を溜め彼女に続く。

 

やがて、炎を纏って空へと登っていくシグナムを見送りゼストは改めてレジアスと向かい合う。

 

「随分変わったものだ。一体誰の影響だろうな?」

 

「……」

 

レジアスは窓からゆりかごを見上げる。

 

「変わらざるを得んだろう。あんな若造に気付かされてはな」

 

 

 

 

 

 

ヴィータとはやては駆動炉への道を進んでいた。何度かガジェットが出てくるが、リイン、ツヴァイとユニゾンしているヴィータとはやての魔法により軽く一掃されていた。

 

「よっしゃ、どんどん行くで‼︎ リイン‼︎ ツヴァイ‼︎ ヴィータ‼︎」

 

『はい‼︎』

 

『はいです‼︎』

 

「おう‼︎」

 

はやては砲撃を放ちながら心の中で呟く。

 

(ちょっと待っててな、アント君。すぐにそっちに行くからな)

 

 

 

 

 

スカリエッティのアジトではフェイトがすでに二人のナンバーズとの戦闘を終わらせていた。トーレとセッテは力なく倒れ伏している。

 

「ジェイル・スカリエッティ、貴方を逮捕します」

 

刃先を向けられているにも関わらず、スカリエッティはフェイトを見ていなかった。

 

「ふは……フハハハハ‼︎ アント・バーキン、やはり君は興味が絶えない。こんなことなら初めて知ったあの日から行動しておけばよかった」

 

「っ‼︎ 貴方のせいでどれだけアントがっ‼︎」

 

思い人が苦しんだ元凶に、フェイトは憤りを隠せなかった。だがスカリエッティはそれでもフェイトを見ない。

 

「思えば長い付き合いだ。幼少の頃に私のデバイスを奪い去り、少年期には私の最高傑作を打破し、それからずっと争い続けた」

 

そこで、ようやくスカリエッティはフェイトを見た。

 

「もはや君には興味がない。いや、正確にはこれから始まる舞台の結末が気になって仕方がないのだよ」

 

「……貴方は一体何を目的にこんな事を」

 

本気で理解出来ないと、フェイトは問いかける。

 

「……目的、か。そんなもの、ないのかもしれないね」

 

「え……?」

 

「私は私の理想とする世界を作りたかったのだと思っていた。だが、どうやら少し違ったらしい」

 

スカリエッティはモニターに映るガーラを愛おしげに撫でる。

 

「どんな形であれ、物語には決着をつけなくてはならない。そうだろう? ガーラ」

 

 

 

 

 





ようやくここまで来ました。あと二〜三話ほどで一区切りということになります。なかなか思うように投稿出来ませんでしたが、ここまでありがとうございました‼︎
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