バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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お待たせしました! やはり秋から冬は忙しくなりがちですね。執筆する余力が奪われていました…。
なにはともあれ番外編開始です!




番外編
Vividを少しだけ 前編


 

 

 

大都市クラナガン。

 

この大都市には多くのビルが立ち並んでいる。そんなビル街から少し外れた住宅街にて、一軒の喫茶店が経営されていた。

 

喫茶店の名は『碧(アオイ)』。店主が言うには義父に名付けてもらったそうだ。

 

あまり広くはない店内。流れるBGMにはクラシックやバラード調のジャズが使われており、どことなくレトロな雰囲気だ。

 

出される品はどれも絶品であり、中でもシュークリームはよくお土産に持ち帰りされるほどのものだった。

 

が、店主が突発的に店を休む変わり者であるのと、店が都心部から少し離れているせいか知名度はそこまで高くないのが玉にキズ。

 

そんな喫茶店の店主であるアントはキッチンにて娘の友人二人のために料理を作っていた。

 

エビ、貝、イカ、グリンピースなどなど、色鮮やかな具材たっぷりのご飯の上に、半月の形に整えられたオムレツが乗っけられる。

 

「「わぁ〜……!」」

 

二人の少女、リオとコロナは目を輝かせた。

 

見るからに柔らかそうなオムレツにナイフが差し込まれると、切れ目からトロトロの卵と、ほどよく溶けたチーズが溢れ出し皿を埋め尽くした。更にそこにハヤシソースがかかり──完成だ。

 

「はい、特製シーフードオムライス二つね」

 

ゴクリ……。

 

目の前に差し出された料理に自然と喉が鳴る。

少女達は一口分のオムライスが乗ったスプーンをゆっくりと口に運んだ。

 

「「ッ!! とろとろ〜〜……!」」

 

頬に手を当て美味しそうに食べるリオとコロナ。手が止まらないのか次々と口に運ぶ。

 

「クハハハッ、いい食いっぷりだ」

 

「……パパ〜……私の分は……?」

 

「忘れてねえよ、ほら」

 

「わーいっ‼︎」

 

美味しそうにご飯を頬張る三人を見ると、アントは楽しげに微笑んだ。

 

 

 

食事が趣味になると、いつしか経験を活かして自分で料理を作るようになる事があるという。アントがまさにそれであり、喫茶『碧』ではそんな店主の気まぐれ料理が突発的にメニューに並ぶ。

 

 

 

 

「「「ごちそうさまでした!!」」」

 

「はい、お粗末様でした」

 

アントは三人の皿をテキパキと片付けていった。

 

「いいなぁ〜、ヴィヴィオ。毎日こんなに美味しい御飯が食べられるなんて」

 

羨ましげにヴィヴィオを見るリオ。そんな視線にヴィヴィオは苦笑いを浮かべた。

 

「あはは……。それが……ウチじゃなかなか食べられなくて……」

 

「え?」

 

 

 

アントが夕飯を作ろうものなら なのは達は拗ねて口を聞かなくなったり、いじけてしまったりするのだ。夫婦仲が良い証ではあるのだろうが、乙女心はアントには未だ難しい話だった。

 

 

 

「パパだけは何年経っても変わらない気がする」

 

「「?」」

 

リオとコロナが首を傾げていると、三人のテーブルにシュークリームとコーヒーが置かれた。

 

「はい、デザート。コーヒーは熱いから気を付けるように」

 

「あ! ありがとうございます!」

 

「これが例の……!」

 

リオとコロナは先程までの話を忘れ、さっそくシュークリームを一口かじる。すると

 

「美味しい〜!!!」

 

「コーヒーにすっごく合う!!」

 

やがて三人は食後の一杯を飲みながらホッと一息ついた。

 

「落ち着く……」

 

「うん」

 

「動けなくなるよね」

 

食事の満足度もさることながら、お店の雰囲気が心を落ち着かせる。まさに快適な環境が作られていた。喫茶店としては申し分ない。なのに──

 

「なんでお客さん増えないんだろうね」

 

「ちょ! ヴィヴィオ……!」

 

「はっはっは」

 

「なんで誇らしげなんですか……」

 

確かにブログなどでは高い評価の喫茶店なのだが、それに反して知名度が低い。その証拠にリオもコロナもヴィヴィオに連れられるまで知らなかった。

 

「いやいや、これくらいでちょうどいいさ」

 

常連さんもいるしなぁ、とそこそこに賑わう店内を眺めなから飄々と答えるアント。どうやら本気でそう思っているようだ。

 

「店長さん、少しいいかい?」

 

「はい、ただいま」

 

常連客に呼ばれたアントはスタスタと客達のテーブルに向かう。

 

「最近冷え性でねぇ」

 

「大変ですね。ハーブティーを入れましょう」

 

「次の新作はいつ頃ですか?」

 

「来週末には出しますよ。お楽しみに」

 

お互いに見知った仲であるため、性別、年齢関係なくアントは全員を相手に談笑を始めるのだった。

 

「……やっぱりヴィヴィオのお父さんってどこか変わってるよね?」

 

「うん、変わってるよ?」

 

「え、ええ〜……」

 

なにせヴィヴィオが幼少期の頃からこの調子なのだ。筋金入りである。

 

 

やがて時刻は正午を過ぎ、ヴィヴィオ達の鍛錬の時間になった。

 

「もう行くのか?」

 

「うん。ノーヴェと約束してるから」

 

「そうか、怪我には気を付けろよ。殴り合いもほどほどにな」

 

「殴り合いじゃないよ‼︎ ストライクアーツ‼︎」

 

「同じだろ?」

 

「全然違うよ!」

 

プンプンと怒るヴィヴィオ。アントは珍しく複雑な表情を浮かべた。

 

「……わざわざそんな危ないスポーツしなくてもいいんじゃないか?」

 

「いいの! 楽しいんだから!」

 

「いや、でもなあ……」

 

「じゃあ、行ってくるね!」

 

これ以上うるさい事を言われないようにか、ヴィヴィオはさっさと店を出ていってしまった。

 

《行ってしまいましたね》

 

「ああ……」

 

普段わがままを言わないため、やりたいことをやらせてあげたいとは思っている。だが格闘技をやりたがるとは……。

 

(……絶対なのは達の影響だよな)

 

《いえ、間違いなくボスの影響ですよ?》

 

「心を読むな」

 

 

そんなこんなで、そこそこ成功している喫茶店経営に、たまに地雷は踏むものの夫婦仲も良好、そしてこうして娘の事で思い悩む日々、まさしく平和そのものだった。

 

 

 

 

 

「……怖いわあ、平和すぎて怖いわあ」

 

仕事も終わり一家団欒の時間、アントはソファーでグダグダしながらポツリと呟いた。

 

「どうしたん?いきなり?」

 

その真横に座っていたはやてが不思議そうに問いかける。

 

「いやな? ここ最近何もないんだよ」

 

「?」

 

「いや、だから、その……当たり前だったものがなくなったような……」

 

「???」

 

《つまるところ、平和過ぎて落ち着かない、ということです》

 

「そう、それ」

 

「えぇ〜?」

 

はやては呆れたような声をあげた。

 

「難儀やなぁ。素直に受け止めればいいのに」

 

「いやわかってる。頭じゃわかってるんだ。でもなんか嫌な予感がする」

 

《ボス、いい加減に平和に慣れてください。普通は事件に巻き込まれること自体が稀なんですから》

 

「そう……か、うん、そうだよな。今が普通なんだもんな」

 

「そういうことや。というかこんな美人な嫁さんがおるんやから毎日がハッピーやろ?」

 

そう言ってはやてはアントの肩に頭を乗せた。アントは苦笑しつつされるがままだ。

 

「自分で言うか? 普通」

 

「だって事実やし」

 

ゴロゴロと甘えるはやてを宥めつつ、アントはふと思ったことを口にだした。

 

「たまには二人でどっか出かけるか?」

 

「え?」

 

目をパチクリさせて驚くはやて。アントにしてはかなり珍しい提案だった。

 

「まあ都合が合えば」

 

「行く」

 

「即答だな」

 

グイッと身を乗り出すはやてを抑えるも、勢いは止めきれない。

 

「だってそうやろ⁉︎ いきなりどうしたん⁉︎ さては偽物か⁉︎」

 

「本物だわ。驚きすぎだろ」

 

アントの頬をグイグイ引っ張っていたはやてだったがすぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、久しぶりやなあ、二人きりなんて。楽しみにしてるで?」

 

「ああ、まあ、楽しみにしとけよ」

 

その時、ふと背後に視線を感じ振り返ったアントの目に此方をじっと見つめるなのは達が見えた。

 

「あーあー、私も誘われたいなー」

 

「あら、来週の日曜日、私暇だわ」

 

「たまには息抜きしたいなー」

 

「コホン、コホン……?」

 

待っている。流石のアントでも分かる。これは一人ずつ誘わなきゃいけないパターンだ。

 

《よかったですね。これで当分は苦労するというものです》

 

『……こういうことじゃないんだよなぁ』

 

 

 

 

苦労といってもこの程度。そしてそんな日常に一人の少女が飛び込んでくることになるのを、この時のアントはまだ知らなかった。

 

 

 

 

ある日、アントはクロノ、ユーノと呑みに行き、酔ってベロンベロンになったクロノをエイミィへ、ユーノを数年前から付き合っているという彼女のところへ送り届けていた。

 

「やっぱりお役所仕事は疲れるのかねぇ。二人とも弱くはないはずなのにな」

 

《仕方ないでしょう二人とも高い地位におりますから》

 

「ザフィーラも今日は忙しいって断られちまったしなぁ」

 

そうしてアントが一人夜道を歩いていると、

 

「喫茶『碧』の店主、アント・バーキンさんとお見受けします」

 

「ん?」

 

突如頭上から声をかけられ、見上げると街灯の上に銀髪の女が立っていた。顔はバイザーで隠されていて見えない。

 

「……俺は確かにアント・バーキンだが……お前さんは?」

 

女は街灯から飛び降りアントの前に立つと即座に構えた。

 

「私はハイディ・E・S・イングヴァルト。アント・バーキンさん、あなたにここで決闘を申し込みます」

 

「……ん? なんでだ? 俺、お前さんに何かやったか?」

 

女の容姿をじっと見つめて記憶を掘り返すアント。だが女は静かに首を振った。

 

「いいえ、なにも。ただ私の納得がいかないだけです」

 

「ほう、なるほど。でも俺に戦う理由はないしなぁ」

 

「では無理やりにでも戦ってもらいます」

 

そう言うと女は拳を強く握りしめた。強い意志を感じる。随分と固執されてしまったようだ。

 

その時、ふとアントは女の構えに既視感を覚えた。

 

「……ん? その構え──」

 

「はぁぁああ!」

 

だがアントの言葉を無視して、女は勢いよくアントに殴りかかった。

 

アントは女の手首をガッシリと掴み攻撃を防いだ。

 

「なっ……!?」

 

「うん……やっぱり見覚えがあるな」

 

女はすぐに手を振りほどくと、次々に攻撃を繰り出す。

 

「はて……どこで見たんだっけか……」

 

過去の記憶を掘り返しながら全て避けるアント。女はそんな眼中にないといった様子のアントに苛立ちを覚えた。

 

「っ‼︎ なら‼︎」

 

四方八方から放たれたバインドがアントを捕らえた。

 

「覇王──断空拳‼︎」

 

女の拳が魔力を纏って振り下ろされる、が、それより速くレールガンが女を貫いた。

 

「ガッ……あ……」

 

女は崩れ落ち、地面に倒れた。

 

感情が高ぶり集中が乱れた隙をつき、片手だけバインドから逃していたのだった。

 

《お疲れ様です。相変わらず意表を突くのがお得意ですね》

 

「その言い方やめい。立派な戦術だぞ? それよりも」

 

視線を移すと地面に倒れた女が少女の姿になっていた。変身魔法が解けたようだ。

 

「さて、どうしたもんか。とりあえずティアナに引き渡して……ん?」

 

少女の側に手紙らしき物が落ちていた。片隅には “アント・バーキン殿へ” と書かれている。

 

「今どき手紙?しかも俺宛?」

 

他人の手紙を見るのは少し抵抗があったものの、少しでも事情を知るためなのだから仕方がないとアントは封を切った。

 

「……」

 

やがて手紙を読み終えたアントは渋い表情を浮かべた。

 

《どうかされましたか?》

 

「あの野郎……また面倒ごと押し付けてきやがった。しかもまたベルカだってよ。呪われてんのか、俺は?」

 

大きく溜息を吐くと、地面に伸びている少女を脇に抱え、道を歩きながら なのは達に今日は帰らないという連絡をしておくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

アインハルトが目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。

 

「っ……!? ここは……」

 

「よう起きたか」

 

「っ⁉︎」

 

背後から声をかけられ、慌てた様子でアインハルトがパッと視線を向けると、目の前にマグカップが差し出された。

 

「飲むといい。少しは落ち着く」

 

しばらく警戒していたアインハルトだったが、敵意は感じられなかったためおずおずとマグカップを受け取った。

 

「ありがとう……ございます……」

 

チビチビとココアを飲むアインハルト。アントはタイミングを見計らって話を始めた。

 

「俺はアント・バーキン、この店の店主だ」

 

「……知ってます」

 

「まあ落ち着け、まずは自己紹介からだ。これは社会の基本だぞ?」

 

どこかトゲがある話し方をするアインハルトに、アントはそっちの番だと促した。

 

「……ハイディ・E・S・イングヴァルトです」

 

不貞腐れたようで、かなり短い自己紹介だったが、アントは軽く頷くと口を開いた。

 

「さて、ここからが本題だ。なんで俺を襲った?」

 

「……」

 

アントは一向に口を開きそうにないアインハルトの目前に先程拾った手紙を突きつけた。

 

「っ!? それは!!」

 

「悪いが読ませてもらった。どんな事情で俺を訪ねてきたのかは分かったが、ここに俺を襲えとは書いてなかったぞ?」

 

すると、アインハルトは観念したように重々しく口を開いた。

 

「……師父が……負けるはずがありません」

 

「……あぁ、なるほど。そういうことか」

 

その一言でアントは全て理解した。

はぁ……、と大きく溜息を吐くアント。

 

 

簡潔に言うと、手紙の差出人はガーラだった。

 

手紙の内容はというと、アインハルトは古代ベルカ時代にあったシュトゥラ王国の国王「覇王イングヴァルト」の末裔であり、一族に稀に現れる覇王の身体資質と記憶を受け継いだ存在にして、古代ベルカの格闘術「覇王流(カイザーアーツ)」の継承者らしい。

 

そしてその記憶というのが厄介で、アインハルトはもう晴らすことのできない覇王の無念の想いを抱えて苦しんでおり、それゆえ己が最強であることを実証するまで自分は心から笑ってはいけないという戒めを科していた。

 

そんな苦しみからか、アインハルトは裏社会に入り込んでしまう。そしてそこで偶然ガーラに出会った。ガーラはすぐに表社会に帰そうとしたのだが、覇王の記憶を知っていたガーラは放っておくことが出来ずアインハルトを弟子にしたのだそうだ。

 

だが自分では心の隙間を埋めることが出来ない。このままではアインハルトは裏社会に骨を埋めることになってしまう。そう危惧したガーラはアインハルトが二度と裏社会に来ることがないようアントに託すことにした、とのことだった。

 

 

 

「師父……ねえ?」

 

「なんですか。師父を馬鹿にしたら許しませんよ?」

 

キッとアントを睨むアインハルト。この様子から察するにだいぶ慕っているようだ。

 

『はあ……ったく。なんだかんだ言ってお人好しだよなぁ、アイツ』

 

《それで? どうされますか?》

 

『どうって……放っておくわけにもいかないだろ?』

 

アントは未だ猫のように警戒しているアインハルトを見る。

 

「よし分かった。とりあえず、しばらくウチで働いてもらおうか」

 

「な⁉︎ なんで──」

 

「拒否してもいいけどな。師匠の顔に泥を塗ることになるぞ?」

 

「くっ……‼︎」

 

悔しげではあるものの一応言うことは聞いてくれるようだ。

 

《何かいいお考えが?》

 

『そんなのねえよ。とりあえず探るしかねえだろ? ま、未来のことは未来の俺に任せるよ』

 

《了解です。平和だろうとボスはボスのようですね》

 

 

未だに此方を睨みつけるアインハルト。どうやら一筋縄ではいかなさそうだ。まあやれるだけのことはやってみるか。

 

こうしてアントは少々厄介な従業員を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






尊敬する師匠がどこぞの喫茶店の店長に負けたなんて認めたくないものです。アインハルトはかなりアントを嫌っています。

さて次回の更新はいつになるのか全くの未定ですが、空いた時間で執筆を続けているので待っていただけると幸いです! では、よいお年を!


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