バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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コロナで大変な今日この頃。マスクが買えなくて外へ出られない方達の暇潰しになればいいなと思います。




日常(2)

 

 

 

「えー続きまして、エントリーナンバー3‼︎ アリサ・バニングス〜‼︎」

 

パチパチパチパチパチ‼︎

 

「……別にエントリーしたわけじゃないけど」

 

「ここは空気を読んでえや」

 

 

 

case:3 アリサ

 

私はよくアントに頼まれてミッドチルダと地球の法律の違いを教えている。

 

この日は私の家で勉強会を行なっていた。

 

「大体こんなところね。そろそろ休憩にしましょ」

 

私が教材を閉じると、アントは力なく背もたれに寄りかかった。

 

「……ぐおお……頭パンクするぞ、これ」

 

「大袈裟。この程度ならすぐ覚えられるわよ」

 

「……もしかして天才か?」

 

「知らなかったの? もしかしなくても天才よ」

 

「恐れ入りました……」

 

机に突っ伏し頭を下げてくるアント。

 

「ま、冗談はさておき結局は効率ね。スケジュール管理はちゃんと出来てるの?」

 

「ん?」

 

「その顔はやってないわね」

 

「いや、脳内で出来上がってるぞ」

 

「それは出来てないって言うのよ。仕方ないから管理してあげるわ」

 

「……その言い回しはなんか恐怖を感じるんだが」

 

「なんならアントが自立出来るまで養ってあげるわよ? そうすればスケジュールとか関係ないもの」

 

冗談でアントをからかうのは結構楽しい。だから私はいつも通りの反応がくると思っていた。

 

でも──

 

「……いや、それは違うな」

 

そう言うとアントはいきなり椅子から立ち上がり鋭い視線で私を見た。

 

「え? アント? どうしたの?」

 

「女に任せっきりなんて男が立たない。そうだろ?」

 

「え、あ……えっと……」

 

怒った様子で近付いてくるアントに私は少しずつ後退していく。

 

「その……ごめんなさ──」

 

壁際まで追い詰められ、私は咄嗟に謝罪すると──

 

ドンッ‼︎

 

「きゃっ⁉︎」

 

私の顔の真横の壁にアントの掌が叩きつけられた。私は恐る恐るアントを見上げた。

 

「俺が支える。この先何があっても」

 

「ひうっ……‼︎」

 

小さな声のはずなのに力強い言葉だった。

 

「あ……う……えっと……」

 

私がたじろいでいると、アントは先程までの真剣な表情から揶揄うような笑みへガラッと変わった。

 

「どうだ? びっくりしたか?」

 

「へ?」

 

「ハハハッ‼︎ ドッキリ大成功、だな」

 

カラカラと笑うアント。私はもう何がなんだかわからなかった。

 

「な、な、な……‼︎」

 

「いやー、壁ドンなんて迷信だと思ってたけど馬鹿に出来ねえなあ」

 

未だに笑い続けるアントを見て、次第に状況を理解した私は拳を握りしめた。

 

「っ〜〜〜〜!!!!」

 

「ハハハッ──あ、ちょ、ま、待て‼︎」

 

私は全力でアントを叩きのめした。

 

 

 

ようやく鬱憤が晴れた私は喉が渇いたので床に倒れ伏しているアントを放って部屋を出ることにした。

 

「ア……アリサ……」

 

「なによ」

 

倒れたままのアントに私は冷たい視線を向ける。

 

「……言っておくが、さっき言ったことは冗談じゃないからな?」

 

「ッ……そう」

 

素っ気ない返事をし、私は部屋を出た。

 

足早く部屋から離れ、一刻もはやく顔の火照りを冷ますためキッチンへ向かう。

 

「……くう……やられた」

 

そういう事をしてくるんなら私だって考えがある。たっぷりと時間をかけて仕返してやろうと私は心に誓った。

 

 

 

………

 

 

「「「「…………」」」」

 

「ど、どうしたのよ。黙ってないで何か言いなさいよ」

 

焦るアリサに四人は羨ましげな視線を送る。

 

「言われてみたいなあ」

 

「うん」

 

「あのアリサちゃんがタジタジなんか」

 

「いいなあ……」

 

四人からの羨ましいコールを受けるアリサ。

 

「いや、そのタジタジってわけじゃ……」

 

反論するも効果は薄い。ならばとアリサは話を変えることにした。

 

「そ、そうだわ、すずか‼︎ 確かこの前やけに機嫌良かったわよね?」

 

「え? そんな日あったっけ?」

 

「惚けても無駄よ。この前地球から帰ってきた時スキップまでしてたじゃない。何かあったでしょ?」

 

「あ……」

 

何やら思い当たる節があったような様子のすずか。当然はやてはそんな挙動を見逃さなかった。

 

「詳しく話してもらおか?」

 

「え……う……アリサちゃん……っ‼︎」

 

まんまと話題を変えたアリサを恨めしげに睨むすずか。アリサはそっぽを向いて視線を逸らしていた。

 

「ほれほれ、いいから話してみい?」

 

「うう……分かったよ……」

 

「はやて、ノリがおっさんみたいになってるよ」

 

「調子が出てきたみたいなの」

 

 

 

case:4 すずか

 

 

以前地球に帰っときのこと。

 

「いいすずか? 私達吸血鬼はとても力が強いの」

 

「え? うん、そうだね」

 

突然話があるとお姉ちゃんに言われた時はなんだろうと思ったけど、お姉ちゃんは真剣な表情で私を見つめていたので何も言わずに話を聞くことにする。

 

「必要ないかもと思ったけど、一応念押ししておくわね」

 

「う、うん」

 

普段と全然様子が違うお姉ちゃんに私はグッと身構えた。

 

「くれぐれもアント君を襲ったりしないようにね? まだ若いんだから」

 

「こふっ⁉︎ ケホッ……‼︎ ケホッ……‼︎」

 

予想の斜め上の言葉に身構えていたのにも関わらず咳き込んでしまった。

 

「ちょ、いきなり何を……」

 

「真面目な話よ。吸血鬼とは本来相手を襲う存在なの。時に気に入った標的を魅了なんてしたりしてね。その本能は強力よ。すずかも何度か経験してるはず」

 

「う……そ、それは……うん……」

 

何度か心当たりがあった私は素直に認めた。

 

「ちなみに私はそれを利用して恭也を射止めたわ」

 

「えぇっ⁉︎」

 

「結果生まれたのが雫よ」

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

姪っ子の誕生秘話をこんな形でカミングアウトされるとは思わなかった。

 

「まあ要は上手く使いこなしなさいってことよ」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

結局私はお姉ちゃんの忠告に内心モヤモヤしつつ理解したつもりで話を終えた。

 

 

 

「はぁ〜…」

 

お姉ちゃんに忠告されて以来ため息が止まらない。あんな事を言われたら意識してしまうに決まってる。

ましてやアント君は今頑張っている最中。私が邪魔になるのは絶対に嫌だ。なんとかして忘れなくては。

 

「どうした? ため息なんて吐いて」

 

「……」

 

アント君が淹れたてのコーヒーをテーブルに置きながら尋ねてくる。

 

内心のモヤモヤを抱えつつ、私はアント君の元を訪れていた。

 

……ちょっと様子を見に来ただけであって、別にお姉ちゃんにあんな事言われたからじゃない。絶対に。

 

「ううん。ちょっとお仕事で悩んでてて」

 

「デバイス関連か? 大変そうだなあ」

 

「まあね。技術は日々進化してるから」

 

「なんなら俺が教えてやろうか?」

 

「え⁉︎」

 

アント君が付きっきりで…………ってダメ‼︎ アント君だって忙しいんだからそんな迷惑はかけられない‼︎ ここはちゃんと断らなきゃ──

 

「なんてな。俺が教えられるわけがない。とっくに知識量じゃ負けてるしな」

 

ハッハッハと笑うアント君。

 

………………イラッ。

 

「……じゃあ何なら教えくれるの?」

 

「へ?」

 

ズイッとアント君の方へ身を乗り出す。

 

「……それとも教えてあげようか?」

 

「す、すずか?」

 

顔が近い。いつの間にかこんなにすぐ近くまで寄ってしまった。

 

「「……」」

 

少しの間、お互いに無言で見つめあった。言葉に詰まった訳ではなく、視線が外せないのだ。

 

いけない。ちょっとした意趣返しのつもりだったのに吸血鬼の本能が出てきつつある。きっと催眠してしまった。もうどうにもならない。

 

「アント──」

 

口を開きかけたその時、

 

アント君が手で私の口を塞いだ。

 

「ん……⁉︎」

 

「悪い。落ち着くまで待ってくれ」

 

私から少し離れ若干息を荒くするアント君。正気に戻った私はすぐさま謝罪した。

 

「ご、ごめんなさい‼︎ 私また魅了を使って……」

 

「……気にすんな。もう大丈夫だ。気合でねじ伏せた」

 

「き、気合……?」

 

吸血鬼の催眠って気合でどうにかなるものだっけ?

 

とにかくよかった。ちょっぴり残念だけど催眠なんてやはり良くない。

 

私は安心して胸を撫で下ろした。

 

「すずか」

 

名前を呼ばれ改めて顔を上げた瞬間、何かに口を塞がれた。

 

数秒後、長いような短い時間が過ぎ私が呆然としているとアント君が自身の口を押さえつつ視線を逸らした。

 

「……今はこれで勘弁してくれ」

 

「……」

 

先程の出来事が何度も脳内でリピートされる。

 

吸血鬼が魅了されちゃった……。

 

恥ずかしいやら嬉しいやらで私はしばらく混乱しっぱなしだった。

 

 

 

………

 

 

「スケベ」

 

「スケベ」

 

「スケベ」

 

「スケベ吸血鬼」

 

「はうう……」

 

小さくなるすずかだが四人は容赦しなかった。

 

「すずか、あんた……」

 

「うう……」

 

「私もアント君に頼んでみる」

 

「なのは⁉︎ どさくさに紛れて何言ってるの⁉︎」

 

しばらく騒いだ後、はやてはやれやれと言った感じで息を吐いた。

 

「ふう……まあええわ。これで全員の恥ずかしいエピソード聞けたし、そろそろ帰ろか」

 

「うう……」

 

「なんでこんなことに……」

 

と疲れ気味の四人に恨めしげな視線を向けられつつはやてが席を立ちかけたその時、

 

『はやてちゃん。今大丈夫?』

 

「ん? シャマル? 大丈夫やで。どしたん?」

 

通話が入り、はやては思わずその場で聞き返してしまった。

 

『この前アントと二人で遠征調査に行ったわよね? その時の報告だけど一応アントの分も用意しなきゃならなくなって……』

 

「あ、う、そ、そうなんか。ちょっと今忙しいからその話はまた後で聞くな?」

 

『え? でもさっき大丈夫って……』

 

「ええから‼︎ ほな後でな‼︎」

 

プツッ。

 

強引に通話を切り作り笑いを四人に向けるはやて。

 

「さて、じゃあ店でよか。長居し過ぎたわ」

 

「はやて」

 

「っ……⁉︎」

 

絶対に逃がさないという意思が四人からはやてへ送られる。

 

「怪しいと思った」

 

「私達だけってのは不公平だよね?」

 

「白状するの」

 

全員に迫られはやてはたじろぎ後退した。

 

「う、うう……堪忍してやぁ……ちょっとみんなの話聞いてみたかっただけで……。それにみんなと比べれば大した話でもないし……」

 

「はやて、話しなさい」

 

「……はい」

 

有無を言わさない空気にはやては頷くしか出来なかった。

 

 

 

case:5 はやて

 

実は少し前にリンディさんからとある世界の調査を頼まれた。

なんでもテロリストによって壊滅しかけた国らしく、その復興具合を見てきて欲しいとのことだった。

 

その国は管理局と関わりの深いとあるフリーの魔導師と縁があるらしく、その魔導師を連れて行くといいと助言を受けた。

 

『それが俺ってわけか』

 

モニターに映るアント君は納得したように腕を組んだ。

 

「頼むわ。私はその国に土地勘がないし、アント君なら護衛役として最適やろ?」

 

「その日ならちょうど空いてるし大丈夫だ。それにしても魔導師としての仕事は久しぶりだなぁ」

 

見るからに傭兵モードに入ったアント君に私は内心手を合わせて謝った。

 

実は調査というのは建前で実際は仕事にかこつけた休暇だった。目的の世界は犯罪率も低く安全と言える世界。簡単すぎる仕事だ。

私があまりに働き過ぎているのでクロノ君とリンディさんが気を遣ってくれたのだ。

 

「にしても関わりのある世界ってどれのことだ? 仕事柄色んな世界行ったんだが」

 

「あ、それに関しては大丈夫らしいで。アント君なら行けば分かるって」

 

「ふーん。まあそういうことなら気楽に行こうかね」

 

よかった。上手く誘えた。

 

 

 

そうして私達は目的の国に到着した。

いざ入国すると、先に手続きを終えたアント君が広場の中央で呆然と立ち尽くしていた。

 

「どうしたんや? 何かあったんか?」

 

「……」

 

アント君の視線の先を見ると拳銃と剣を持った少年の銅像が建っていた。

 

「ん? なんでやろ? どっかで見たことあるような気がするなあ」

 

土台に書いてあった説明によると数年前にどこからともなく現れ、国を壊滅しかけた怪物をたった一人で撃退した英雄らしい。

 

私は思わず感嘆の声を上げた。

 

「へぇー‼︎ そんなスーパーヒーローみたいな人がおったんやねえ」

 

私が驚いていると、アント君はクルリと銅像に背を向けた。

 

「そうだな。さて、飯でも食い行くか」

 

アント君はそう言いながらスタスタと歩き出してしまった。

 

「え? あ、ちょ、速い速い⁉︎ 待ってえなアント君‼︎」

 

私は息を切らしかけながらもアント君について行った。逃げるように早足で歩くアント君を追いかけるのはとても大変だった。

 

こうしてちょっと変な事はあったけど特に問題なく一日目は終わった。

調査は五日かけて行う予定のため、私達は四泊五日することになっていた。

 

 

………

 

 

「ちょっと待って」

 

「ん?」

 

「いや、ん? じゃなくて。まさかとは思うけど部屋は……」

 

「一緒やな」

 

グンッと部屋の室温が下がった。はやてに冷たい視線が突き刺さる。

 

「ちょ、落ち着いてや‼︎ 一線は超えてないんや‼︎ ただ部屋が一つしか空いてなかっただけで……‼︎」

 

「本当に何もなかったの?」

 

「……ベッドに潜り込んだくらいや」

 

「「「「アウト」」」」

 

空気が更に冷たくなった。

 

「待って‼︎ ごめんて‼︎ 寝ぼけとったんや‼︎ 夜肌寒くてつい‼︎」

 

頭を下げるはやてに四人は疑惑の視線を送る。

 

「まあいいわ。それよりまだなんかありそうね。早く話を続けなさい」

 

「うう……」

 

 

………

 

 

一応仕事で来ていたため特に何かあったわけではなかった。

 

そして四日目の朝。

最初は互いに少しぎこちなかったものの結局は慣れ、自然体で生活できるまでに至っていた。

 

「やべっ、寝過ごした!」

 

「なんややっと起きたんか」

 

「悪い。すぐ準備する」

 

バタバタと忙しない朝。私達はいそいそと朝食を食べる。

 

「今日は早く帰れるのか?」

 

「んー、遅くはならないと思うで」

 

「なら夕食はどっか食べに行くか」

 

「ええなあ。ちょっと気になるお店あるしそこ行こうや」

 

やがて支度を終えた私は部屋の扉付近でアント君を待った。

 

「慌てつつ忘れ物はせんようにな」

 

「慌てたら何か忘れちまいそうなんだがな、っと。準備完了、よし行く──ぐえっ⁉︎」

 

私は慌ただしく出ようとするアント君の首根っこを抑えた。

 

「な、なんだよ」

 

「行ってきますのチュー忘れとるで」

 

「忘れるというか今までやってないだろ。なんでいきなり」

 

「そんな些細な事はどうでもいいやろ。ほれ」

 

ん、と顔を上げる。アント君は目を閉じていても分かるほど躊躇っていた。

 

それでも頑なに動かない私に根負けしたアント君は軽く触れる程度のキスをした。

 

「……これでいいのか?」

 

「ふふっ、合格や。よし行こか‼︎」

 

この日の仕事はやけに捗った。

 

 

………

 

 

「「「「ギルティ」」」」

 

「うぐっ……⁉︎」

 

全員の判決がはやてに下される。当然の有罪だった。

 

「完全に新婚じゃないの」

 

「人のこと言えないね」

 

「はやてちゃんだからね」

 

「……」

 

無言で俯いていたはやてだったがすぐにパッと顔を上げた。

 

「で、でもみんなも似たようなことしとったやんか」

 

「「「「……」」」」

 

その事実には誰も何も言えなかった。五人は顔を見合わせ軽く微笑んだ。

 

「まあこの話はここまでって事で」

 

「そうだね」

 

「文句は言いっこなしね」

 

「そろそろお仕事に戻らないと」

 

「今日はこの辺でお開きってことにしようや」

 

こうして各々の仕事場へ戻って行った。

内心では次にアントに会った時に事の次第を問い詰めようと考えながら。

 

 

 





「へくしょい‼︎」

「パパ、風邪?」

「んー? いや、大丈夫だ。これは誰かが俺のいい噂をしてるに違いない」

《ポジティブは結構ですが、ボスは基本的に不特定多数の人間に嫌われていることをお忘れなく》

「やめろ。別に悲しくないのになんか泣けてくる」

「ヴィヴィオは大好きだよ」

「ありがとなー、お前はいい子だ。とびきり美味いもん食わせてやろう」

「わーい!」

《ボス、私も大好きなので整備をお願いします》

「それ言っとけばいいと思ったら大間違いだからな?」


……

次回は別の人を中心に書いてみようと思います。
皆さんもお身体に気をつけて。
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