バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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時系列としてはvividが始まる前です。

※ 完全にオリジナルストーリーです。原作の設定を大きく変えています。



傷だらけのならず者 : 前編

 

 

 

そこは管理局の力が及ばない管理外世界、お世辞にも治安がいいとは言えない世界だった。少しでも人通りが少ない場所に行けばカツアゲ、強盗が行われ、大声では言えないような危険な薬の取引なども行われている、マフィア達に支配された悪党達の楽園だ。

 

そんな街中を一台の車が走り抜けていた。

 

運転しているのは眼帯をした斬り傷だらけの男、ガーラだ。その風貌は見事に悪徳の街に馴染んでいる。

 

「ここか……」

 

目的のビルの前へ降り立つと、複数人の黒服がガーラの前に立ち塞がった。

 

「失礼、ご用件は? 特にご用がないなら早急にこの場を立ち去ることをお勧めします」

 

「用ならある」

 

ガーラは目にも留まらない速度で男の顎を打ち抜いた。先程まで丁寧口調で威圧していた男は力なく崩れ落ちた。

 

「なっ!?」

 

「貴様っ!!」

 

懐に手を入れ武器を取り出そうとした男達だったが、瞬時に顎を打ち抜かれ力なく崩れ落ちた。ガーラは気絶させなかった黒服の胸倉を掴み上げる。

 

「答えろ。サイモンはどこだ?」

 

「だ、誰が答えるかバカめ!!」

 

「そうか」

 

ドゴォンッ!!!

 

答えるのを拒否した男は容赦なく地面に叩きつけられた。

 

「ア……ガ……ガ……」

 

ピクピクと痙攣する男を尻目に、ガーラは物陰に隠れ一部始終を見ていたひ弱そうな黒服に問いかけた。

 

「サイモンはどこか、お前は答えるだろう?」

 

「さ、最上階だ、です……」

 

「ご苦労」

 

ガーラは答えた男を軽い一撃で気絶させると、まっすぐ最上階を目指した。

 

 

 

最上階の一際豪華な扉を開くと、高級なスーツに身を包んだ男がガーラを出迎えた。

 

「やあやあ! 君が単身で乗り込んできた勇者かな?」

 

「お前がサイモンか」

 

「まあ、落ち着きたまえ。私は称賛したいのだよ。我々を襲撃するような骨のある男は君が初めてでね」

 

「お前がサイモンなのかと聞いている」

 

手を広げて歓迎する男をガーラは一切構うことなく問い続ける。するとサイモンはニコニコとした表情を一転させ不愉快な表情を浮かべた。

 

「私は寛大な対応をしているはずだ。大切な部下を傷付けた君を許し、乗り込んできた理由によっては部下に迎えようと……」

 

「時間稼ぎはやめておけ。無駄なことだ」

 

ガーラは壁に手を突っ込むと隣の部屋で奇襲のタイミングを伺っていた部下の一人を引きずりだした。

 

「コイツ以外にも大勢の気配を感じる。これだけ部下が集まってくるということは影武者ではなさそうだな」

 

引き摺り出した男を放り捨て、ガーラはサイモンに迫った。サイモンは呆れたように首を振る。

 

「やれやれ、どうやらただのバカのようだ」

 

サイモンが合図を出すと、部屋に部下達が雪崩れ込みガーラにデバイスを向けた。

 

「こうなっては私が本物であろうと関係ないだろう? おい、このバカを痛ぶって殺せ」

 

「はっ」

 

ガーラを囲う男達の中から一際大柄な男が歩み寄った。人を殴り慣れたゴツゴツした手といい面構えといい、戦場を知っている軍人崩れだ。そこらのゴロツキでは束になっても相手にならないだろう。

 

男はニタニタと笑みを浮かべながら両手にデバイスを纏わせる。

 

「ククッ、お前はもう生きて帰れない。呪うなら──」

 

「邪魔だ」

 

そう言うや否や、目にも止まらない鋭い回し蹴りが男の横面に決まった。男は宙を二回、三回と回転し力なく地面に落ちた。

 

「「「「…………」」」」

 

「は…………?」

 

全幅の信頼を寄せていた手駒があっさりやられた。サイモンは倒れたまま起き上がろうとしない部下を唖然と見つめていた。

 

ガーラはそんなサイモンの胸ぐらを掴み、窓の外へぶら下げた。

 

「ひ、ひぃぃぃいいい!?!?」

 

空中に浮くことになったサイモンは唯一の支えであるガーラの手を必死に掴む。手を離されてはたまらない部下達はガーラに手出しが出来ない。

 

「や、やめろ! 死んでしまう!!」

 

「だろうな」

 

淡々と答えるガーラにサイモンは顔面を蒼白にした。

 

「頼む助けてくれ!!」

 

「ならば質問に答えろ。ここ最近、強力なロストロギアを仕入れたはずだ。どこにある?」

 

「っ!?」

 

驚きで目を見開くサイモンをガーラは再度問いただした。

 

「どこにあるのかと聞いているんだ。近々売りにだす予定なのは知っている」

 

「う、ぐ……それは……しかし……」

 

ガーラはなかなか答えないサイモンに対し、徐々に掴む力を緩めていった。

 

「ま、待ってくれ!! 分かった!! 話す!!」

 

目の前の男が本気で手放そうとしていることを察したサイモンは慌てて口を割った。

 

 

ガーラはサイモンが示した通り、隠し扉をくぐってビルの地下へ向かっていた。

 

今回、ガーラはとある国の工作員に依頼されロストロギアの確保に向かっていた。世界を燃やし尽くすと言われるほど凶悪な兵器だという情報を掴んだものの、危険な組織の本拠地であるため手が出せず、急遽ガーラに依頼したとのことだった。

 

(本拠地の真下に置いているとなると、余程大事な商品なのだろうな)

 

物々しい扉を慎重に開き、中の様子を伺う。

 

「これは……」

 

厳重に封印されたロストロギアを予想していたガーラだったが、その部屋には少女が一人いるだけだった。

 

「……どなたですか?」

 

警戒心を露わにする少女。ガーラは動揺を隠せなかった。

 

「一体……どういうことだ?」

 

騙されたかという考えもよぎったが、こんな場所に監禁されている時点でただの少女でないことは確かだった。

 

「……やむを得まい」

 

なんであれ早急にこの場を離れなくてはならない。うかうかしていると国中から増援が集まってしまう。

 

「え? ちょっと!? 何をするんですか!?」

 

ガーラは騒ぐ少女を問答無用で抱え上げ、その場を後にするのだった。

 

 

「貴方、一体なんなんですか!? 私をどうするつもりですか!?」

 

助手席で騒ぐ少女。だが構っている暇はなかった。

 

「話は後だ。少し荒くなるぞ」

 

「え?」

 

ガーラは強引に少女のシートベルトを閉めると、バックミラーに映る数台のバイクや車を確認する。

 

想定より早い対応にガーラは小さく舌打ちする。

 

「口を開くな。舌を噛むぞ」

 

「きゃあっ!?」

 

アクセル全開で急加速すると、後方にいた全ての車両が同じく急加速した。

 

「ッ!?」

 

巧みなハンドル捌きで障害物を躱しつつ疾走する。後方からは容赦なく魔力弾が襲ってくる。

 

「ッ!? ッッ!? ッッッ!?!?」

 

「落ち着け。当たりはせん」

 

少女は舌を噛んだのか涙目でガーラを睨み、無言の抗議を伝えていた。ガーラは状況を推察する。

 

(非殺傷設定の魔法だな。死なれるわけにはいかないということか。これは本物と見て間違いなさそうだ)

 

少女をチラ見し、自身の判断が間違っていないと確信したガーラは急遽進行方向を変えた。

 

「ッ〜〜〜〜!?!?」

 

突如強力な横の重力に晒され目を回す少女。ガーラは躊躇なくハンドルを操作する。

 

車は包囲網を突破し国の外へ出た。だが外へ出た瞬間、上空から魔道士とヘリコプターが襲いかかってきた。

 

「……ここまで用意周到とはな」

 

上空からの攻撃に対処しながら半ば感心するガーラ。縦横無尽に駆け抜けていたが、とうとう上空も地上も完全に包囲され追い詰められてしまった。

 

「っ……」

 

ジワジワと狭まる包囲網を前に少女は怯えた様子でガーラを見上げた。

 

「大丈夫だ。もう十分時間は稼げた」

 

懐から取り出した装置のスイッチを押すと、車の真下の地面が輝き出した。異常を察したマフィア達は慌てて阻止しようとするがもう遅い。

 

光が収まると、ガーラと少女の姿はその場から消え失せていた。

 

 

…………

 

 

「ふむ、上手くいったな」

 

予定通り、待ち合わせしている空き家に転移したガーラは満足げに転送装置をしまう。

 

それは産みの親であるスカリエッティがナンバーズ達に持たせていた装置だった。転送のエネルギーを貯めるのに多少時間がかかるため国外に設置し、いつでも使用できるようにしていたのだ。

 

「さて」

 

ガーラが視線を向けると、少女はガーラを睨んでいた。

 

「随分嫌われたものだ」

 

「……あそこから連れ出してくれたことには感謝しています。ですが貴方の目的がハッキリしないかぎり信用できません」

 

少女がトゲトゲしく告げた直後、どこからか声が響いた。

 

「その必要はありません」

 

「っ!?」

 

突如現れたスーツ姿の男にビクッと怯える少女。男はガーラに歩み寄ると軽く頭を下げた。

 

「ご苦労様です。時間ピッタリですね」

 

「ああ」

 

スーツ男の名はマーク・エガートン。今回ガーラに依頼したとある国の工作員だ。

 

「流石ですね。貴方を信じて良かった」

 

「相変わらず心にもないことを言う奴だ」

 

マークの賞賛を軽く受け流すガーラ。正直あまり長い時間話したい相手ではない。

 

信じたなどと言いつつ、あの国にはこの男の部下達が潜んでいた。場合によってはガーラを囮にして目的を果たす手筈だったのだろう。当然それらについては一切話されていない。

 

信用ならない連中だが金払いだけはいいのだ。今回の依頼も達成出来ると判断したから受けた。

 

「これは依頼料です、お受け取りください。次もよろしくお願いしますね」

 

マークはアタッシュケースを開き、金があることを示しガーラの足下に置くと、もう用は済んだと少女の手を引いた。

 

「い、嫌……!!」

 

「大人しくしなさい。貴方のような危険な兵器は我が国で管理する必要があるのです」

 

抵抗する少女を苛立った様子のマークが少々強引に手を引く。

 

ガーラは少女の手を引くマークの手を掴んだ。

 

「え……」

 

少女は驚いた様子でガーラを見上げた。マークは訝しげにガーラを見る。

 

「……なんの真似ですか?」

 

「まだ俺は何も納得していないのでな」

 

手を捻り上げ少女から手を離させる。

 

「グゥッ!?」

 

マークはガーラの手を振り払い憎々しげにガーラを睨む。

 

「………ガーラ・ウェスカー、情に流されましたか? このような契約違反をしていては今後の傭兵稼業に支障がでるのでは?」

 

「先に契約を違えたのはそちらの方だ。俺は危険なロストロギアとしか聞かされていないぞ。隠していることも含め、全て説明してもらおうか」

 

「その必要はありません。貴方はただ仕事をこなせばいいのです。さあ、大人しくこちらに渡してください」

 

「断る。俺はこの少女を兵器として扱うつもりはない」

 

「……残念です」

 

ガーラが完全に敵になったと判断したのか、周囲から複数の魔導師が現れた。全員がデバイスを向け、いつでも攻撃できるようになっている。

 

背後で少女が息を飲むのを感じとりながら、ガーラは魔導師達を冷静に観察する。

 

「随分と腕が立ちそうな兵士達だな」

 

「当然です。我々が先程まで貴方が相手していたマフィア以下だと思っていたなら大間違いです。我が国は奴等の組織力を恐れたのであって、個人の武勇程度なら取るに足らないのですよ?」

 

その言葉と共にジリジリと魔導師達が迫ってくる。

 

「貴方にはここで──死んで貰います」

 

魔道士達が一斉に魔法を放とうとした瞬間、

 

 

ドゴォォン!!

 

 

何者かが天井を突き破りガーラとマークの間に降り立った。

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

ガーラとマークは咄嗟にその人物から距離を取る。飛び込んできたのは異様な雰囲気を漂わせる男だった。

 

その表情からは一切感情が感じられない。まるで機械のようだった。

 

「ッ!! ダメッ!!」

 

少女が叫ぶが、男は一切構うことなくマークの方を振り向き

 

──両手を鎌状に変化させマークを切り裂いた。

 

「ガッ……!?」

 

「隊長ッ!? クソッ!!」

 

流石鍛えられた兵士と言うべきか。魔導士達はすぐに反応し襲撃者の男を撃ち抜いた。

 

男は壁に叩きつけられ、地面に倒れ伏した。身体には無数の穴が空いている。間違いなく即死だろう──ただの人間であったなら。

 

「致命的な損傷。これ以上の行動は不可能と判断します」

 

「「「「っ!?」」」」

 

瀕死の重傷にも関わらず淡々と呟く男。それを聞いた少女は顔面を蒼白にした。

 

「逃げてっ!!」

 

少女の警告も虚しく、男は一番近くにいた魔導師に飛びかかり

 

──凄まじい轟音と共に自爆した。

 

「「「「っ!?」」」」

 

炎が収まると、そこには男も魔導師の影もなく、黒い煤が残るだけだった。

 

「あ……ああ……そんな……また……」

 

少女はへたり込み、爆心地を呆然と見つめ泣きそうな表情を浮かべる。ガーラは目の前で起きた出来事に驚きを隠せなかった。

 

「これは……」

 

肉体を自在に変化させ、戦闘不能と判断するや否や敵を巻き込み自爆。ガーラは突如現れた()()の存在を知っていた。

 

かつてクアットロから『昆虫並みの知能しか持たないおかしな兵器』と評された、古代ベルカ時代に作られた人間の屍を利用した殺戮兵器。

 

「マリアージュ……!」

 

吹き飛んだ屋根から無表情の男女が次々と降り立ってくる。

 

「不味いっ!!」

 

ガーラは少女を抱え、立ち塞がるマリアージュ達の壁を体当たりでこじ開ける。下手に攻撃して自爆されようものなら爆発が連鎖してしまう。

 

次々と刃を突き立てられつつもなんとか脱出した直後、空き家が大爆発を起こした。

 

凄まじい爆風と爆炎が周囲の物を全て薙ぎ払っていく。

 

「クッ!!」

 

ガーラは手に魔力を纏わせ爆風を切り裂いた。ガーラと少女の周囲を残し、辺り一帯が吹き飛ばされてしまった。

 

「……これは想像以上だな」

 

少女は意識を失っている。今の爆破のショックか、それとも別の要因か。

 

「兎にも角にも、一度落ち着く必要が──むっ?」

 

ガーラは自身の後頭部目掛けて迫っていた魔力弾を握り潰した。

 

射線の先を凝視すると、かなり遠くの建物に人影を見つけた。

 

人影は此方の様子を眺めていたが、ふと姿を消してしまった。確信は持てないが、装いからして某国の手の者でもないようだ。マフィアの追手はあり得ない、此方を特定するのが早すぎる。

 

(これは第三勢力の介入と考える方が妥当だろうな……)

 

……厄介なことになった。

 

ガーラは何もなくなった荒野で一人ごちた。

 

 

 

 

 

 

 


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