スランプ気味で気付けばこんなに遅くなってしまいました。長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
部下から奪還失敗の報告を聞き、男は怒り狂っていた。
「クソッ!! 役立たずめ!! そもそもマフィアなんかと取引したのが間違いだったんだ! 金にがめいついクズ共め!」
トレディア・グラーゼが悪態を吐いていると、側で控えていた部下と思わしき女性が口を開いた。
「落ち着いてください。まだ最悪の事態ではありません。どうやらまだ某国の手に渡ってはいないようです」
「……なに? それは本当か?」
「はい、確かな情報です。この映像をご覧ください」
モニターにはマリアージュ達を相手に奮闘するガーラと少女が映っていた。
「男の名はガーラ・ウェスカー、職業傭兵です。この男が現在、対象を連れて逃亡しています。早急にマフィアへこの情報を流しましょう。メンツを潰された以上、彼らが追わないわけがありません」
「流石だ! やはり君だけは有能だな! よし、それでいこう!」
トレディアは落ち着きを取り戻し椅子に座り直した。
「ふう……一時はどうなるかと思ったが、これで一安心だ」
「安心するにはまだ早いのでは?」
「たかが一人の傭兵だろう? 何ができるっていうんだ。それに君なら居場所は簡単に割り出せるはずだ」
安心し切った様子のトレディアとは対照的に、女はモニターに映るガーラを鋭い視線で睨みつけていた。
…………
少女はひたすら歩いていた。前を行くのは自分をマフィアから攫った男だ。男は少女に何も説明することなく、ただ「着いてこい」と告げるだけでそれ以上語ろうとしなかった。
命じられた通り歩いていた少女だったが、いつまでも黙ったままの男に耐えられずとうとう口を開いた。
「あの……」
「なんだ?」
「えと……」
声をかけたものの、あまりに無愛想な返しに萎縮し言葉が続かない。男は少女を一瞥すると無愛想なまま声をかけた。
「聞きたいことがあるなら今のうちに聞いておけ。いつ追っ手が来るか分からんからな」
そう促され、少女はゆっくりと口を開いた。
「……今、どこに向かっているんですか?」
「隠れ家だ。とりあえず身を落ち着かせる必要があるのでな」
相変わらずの無愛想ではあるものの、一応聞けば答えてくれることに少女は少し安心して質問を重ねた。
「貴方は何者なんですか?」
「そうか、まだ名乗っていなかったな。俺の名はガーラ・ウェスカー、傭兵をやっている」
「傭兵……? では誰かに雇われて私を連れているんですか?」
「いや、これは誰の依頼も受けていない。俺の意思だ」
「……ではどうして私を助けてくれたんですか?」
少女の問いにガーラは少し考えこみポツリと答えた。
「気まぐれだ」
「…………………え?」
唖然とする少女を置いて、ガーラはスタスタと歩いて行ってしまう。少女は必死に追いかけて問い詰めた。
「ま、待ってください! 気まぐれってなんですか!?」
「何と言われてもな。それ以外に理由はない」
「そんなはずがないでしょう!? それでは納得出来ません」
「そうか。それは残念だ」
取り付く島もない様子のガーラにとうとう少女の感情が爆発した。
「ッ……ふざけないでください!!」
言葉を荒げる少女の声にようやくガーラは足を止めた。
「……私に近寄ってくる人達は皆、私の力を利用するか、私を恐れ排除しようとするかのどちらかです。貴方は……どちらなのですか?」
「どちらでもないな。俺はお前の力に微塵の興味も恐怖もない」
「……」
少女は真っ直ぐにガーラの目を見つめ、やがて俯き声を絞り出した。
「どちらでもないと言うのなら……貴方を信じていいんですか……?」
声に不安を滲ませながら小さく震え返答を待つ少女に、ガーラは無言で人差し指を向け魔力を収束させた。
「っ………」
少女の顔が絶望で歪むと同時に、眩い光と共に放たれた魔力弾が少女の背後まで迫っていた男を撃ち抜いた。
「え……?」
驚き固まる少女の前にガーラが庇うように立ち塞がった。
「勝手に決めろ。信じられようと信じられまいと、俺がやる事は変わらん」
ガーラの正面一帯は武器を持った兵達に覆われ、更には背後からも此方へ向かってくる足音がする。
「っ!?」
真っ青になる少女。ガーラの正面にいる敵は既に此方へ魔力弾を撃ち出している。絶対絶命な状況だった。
だがガーラは一切表情を変える事なく、瞬時に周囲を把握し魔力の纏った腕を一振りした。無造作に放たれた無数の魔力弾は迫っていた敵の攻撃を掻き消しつつ全ての襲撃者を貫いた。
「うそ……」
敵は全滅。少女は無意識に唾を飲み、ガーラの背を見つめた。
「もう大丈夫だ。何も心配はいらない」
「っ……!」
『大丈夫』と言われ、安心したのか。少女は俯いたまま涙を流した。
「う……くぅ……うぅ……」
ガーラは泣き続ける少女を黙って見守っていた。やがて少女は涙を拭い顔を上げた。
「……あの、聞いてもらっていいですか?」
「言ってみろ」
ガーラは拒絶することなく、少女が話すのを待った。少女は覚悟を決めガーラを見つめた。
「私の名前はイクスヴェリア。マリンガーデンの地下にある遺跡で1000年ほど眠っていました。古代ベルカ・ガレア王国を治めていた王です。このまま私といれば間違いなく貴方は間違いなく今以上の危険に巻き込まれます。そのうえで……無理を承知で申し上げます」
少女は言葉を区切り頭を下げた。
「……助けて下さい。私にはやらなくてはいけない事があるんです」
「構わん。元よりそのつもりだ」
「へ……?」
即答されたイクスは気の抜けた声が出てしまった。
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、そう言っている」
「……………私1000年眠っていたのですが?」
「それは今聞いたが?」
「元王なんです」
「それも聞いたな」
「……その、もう少し葛藤があっても……」
「なぜ悩まねばならんのだ? やる事は変わらんといっただろう?」
一切表情に変化がないガーラにイクスは安堵しつつ拍子抜けと言った様子で肩を落とした。
「結構勇気を出したのですが……」
ぶつぶつと呟くイクスにガーラは変なものを見るような視線を向け歩き出した。
「行くぞ。ここに留まるのは不味い」
「は、はい!」
イクスは慌ててガーラの背を追うのだった。
……………
それから二人は追っ手を撒くためにいくつかの世界を跨いだ。
再び敵に囲まれたり、予測不能な事態に巻き込まれたり、あまりに無愛想なガーラに苦労しながらもなんとか切り抜けてきた。
そうして苦労して辿り着いた場所を前にして、イクスは唖然としていた。
「……ここは……?」
目の前にあるのは『碧』と書かれた看板を掲げる一軒家だ。扉の隙間からはいい匂いが漂っている。
思っていた目的地とのあまりの違いに思わず問いかけると、ガーラは相変わらずの様子で答えた。
「喫茶店だ。分かりやすく言うなら食事処だな」
「………隠れ家に向かうと聞いていたのですが……?」
「予定変更だ。念押しで幾つか世界をまたいだにも関わらず捕捉されたのでな。敵の追跡能力は思いの外高い」
「……それなら尚更なぜここに?」
「ここにいるのは唯一俺と肩を並べる男だからな」
「え……?」
ガーラは再び固まるイクスに構わず事なく扉を開けた。
ベルが客が来たことを知らせると、愛想のいい店主が出迎えた。
「いらっしゃいま──」
笑顔で出迎えた店主だったが、ガーラを視認した瞬間先程の愛想が嘘かのように不機嫌そうな表情を浮かべた。
「なんだお前か」
「不躾だな。それが客に対する態度か?」
「客なら客らしい格好で来いや。変な噂立てられたらどうすんだ」
「この店は見てくれで客を選ぶのか」
「その通りだ。どの客を神にするかは俺が決めてる」
「ふっ、傲慢だな」
イクスは初めて見るガーラの笑みに驚きながら、二人のやり取りを眺めていた。
確かに気心の知れた同士に見えるが、ガーラが同格と言うほどの相手には見えなかった。
「大体お前──」
そこまで言いかけた時、店主の視線がイクスを捉え目を見開いた。
「ガーラお前っ!? やっちまったのか!?」
「やっていない。少し静かにしろ」
「ああそうかい、なら何も言わなくていい。何も言わずに自首してこい。いや、やっぱり俺が連れて行く。どうせ捕まるなら俺の手柄に」
「その時は貴様も道連れだな。そして変な演技をするな。貴様は微塵も動揺していないだろう?」
「動揺しちゃいないが驚いてはいるぞ? まあとりあえず」
店主は親指で店内の席を差した。
「客なら何か注文しな」
「うむ、そうさせてもらおう。この娘には適当に作ってくれ」
「はいよ」
「えっ? えっ?」
いきなり話が進み流されるままに席に着くイクス。気付いた時には目の前にいい匂いを漂わせる黄金の山が現れていた。
「はいお待ちどおさん。オムライスだ」
「あ……えっと……その……」
イクスはアントを注視していたが、すぐさま目の前に出された見た事もない料理に目を惹かれてしまう。
「……」
おずおずとスプーンを手に取り一口分ほど掬い口へ運ぶと、イクスの瞳が輝いた。
「美味しいですッ!!」
「クハハハッ、そりゃよかった」
夢中で料理を食べるイクスの隣でガーラはコーヒーを啜り一息ついていた。この数日で一番のんびりした時間だった。
・
・
・
「で? なにがあったんだ?」
食事を終えた頃合いを見計らって店主が問いかけてきた。イクスはガーラの方を見た。
「大丈夫だ。こいつは信用できる」
「……はい。それでは」
イクスはこれまでの経緯、そして自分の出自を明かした。話を聞き終えた店主は目を見開いた。
「1000年寝てたベルカ時代の王!? マジで言ってるのか!?」
驚く店主を見てイクスはガーラへジト目を向けた。
「なんだ?」
「貴方もこれぐらい反応するべきです」
「驚かなかったから無反応だったのだが」
「むぅ……そもそも普段から感情の変化が分かりにくいんですが」
「それは察しろ」
「むぅぅ……!!」
あまりに素っ気ないガーラに頬を膨らませるイクス。
二人のやり取りを見ていた店主は意外そうな様子でガーラに声をかけた。
「珍しいな。お前がここまで打ち解けるなんて」
「勝手に懐かれただけだ」
「クハハッ、別に嫌でもねえだろうに」
店主はガーラを笑い飛ばすとイクスの方を向いた。
「話は分かった。俺も出来るだけ協力しよう。俺の名前はアント・バーキン、この店のマスターだ。よろしくな」
「は、はい! イクスです! よろしくお願いします!」
自己紹介を終え、アントはイクスへ再確認した。
「で、マリアージュだっけか? それを狙って三つの勢力が追ってきてるってことでいいんだな?」
「はい、正確にはマリアージュのコアを生成できる私を狙ってです。その上マリアージュも制御出来ているわけではなく……」
「好き勝手に暴れながらお前さんを探しているというわけか」
アントは考え込む素振りをし軽く頷いた。
「よく分かった。疲れてるだろ? とりあえず今日はもう休みな。奥の部屋使っていいぞ。つきあたり右の部屋だ」
「あ、はい。すみません、ではお借りします」
イクスはアントに案内されるまま立ち上がりフラフラと部屋へ向かった。ずいぶん疲れが溜まっていたようだ。
「ああ、ゆっくりするといい」
そう声をかけ、イクスの姿が見えなくなった途端、アントの鋭い視線がガーラへ向いた。
「さて、詳しく聞かせてもらおうか。何を隠してんだ?」
「流石に話が早くて助かるな」
ガーラは思わず笑みを浮かべた。
「舐めんな。それくらい察せる。大方あの娘の前じゃ話せないことなんだろ? とっとと話せよ」
「では俺の知ってる情報から話すとしよう」
ガーラはコーヒーを飲み終え、改めて口を開いた。
「黒幕はイクスを欲しがってる革命家だ。トレディア・グラーゼという男でな。戦争の悲惨さを全ての次元世界に知らしめるという目的で動いている。世界を戦争と殺戮で染めたいのだそうだ」
トレディアという男の情報にアントは眉を顰めた。
「平和に生きてる奴らが憎いってことか。迷惑な野郎だな」
「だが行動力は本物だ。現に奴の同志は多く、実行の一歩手前だったからな」
ガーラの言葉にアントは訝しげな視線を送る。
「なんでそんなに詳しいんだ? あの娘から聞いた話じゃ何に追われてるのかは分からないってことだったはずだが?」
「簡単だ。俺は随分前からあの娘を知っている。トレディアとドクターは協定を結んでいたからな」
「なに!?」
アントは思わず身構えた。スカリエッティが関わったとしたら絶対にロクなことにならないからだ。
ガーラは落ち着かせるような手振りをし話を続けた。
「協定の内容はもしも冥王を手に入れたら協力しろというものでな。当時のドクターはマリアージュに興味がなく、口裏を合わせるだけで一切協力することはなかった」
それを聞いたアントはホッと息を吐いた。
「……ひやっとさせやがって。危うく話がややこしくなるところだったぞ?」
「ククッ、ああ、その通りだな」
ガーラは愉快そうに笑った。アントは渋い表情を浮かべつつ話を進める。
「変な要素もないみたいだし、黒幕まで分かってるってんなら話は簡単だな。このまま俺を通してトレディアってのを管理局に通報すればいい」
「いや、この件は俺一人で終わらせる。貴様にはあの娘を少しの間預かって欲しい。トレディアを潰し終えたら信用できる管理局員に引き渡してくれ」
淡々と告げるガーラ。普通なら信じられない事だがアントはやっぱりそうくるかと頭を掻いた。
「まあその方が早く片が着くしな。もう目星はついてんのか?」
「当然だ」
ガーラは自身のデバイスから地図を映し出した。
「奴の居場所は既に把握していた。目的が分かってるうえに何度も襲撃を受けていれば猿でも推測できる」
「世界規模の人探しを猿が出来るとは思えないぞ。それじゃあマリアージュは? 他の勢力も解決してないだろ?」
「これまでの襲撃からしてマリアージュはトレディアに協力しているはずだ。乗り込めば嫌でも敵対するだろう。奴らさえどうにかなれば解決したも同然だ。他の勢力は管理局の保護下にあるイクスに手を出すほど考えなしではない」
「攻め込む算段は?」
「ある。建物の構造図も入手済みだ」
ほぼ完全に準備を終えていたガーラにアントは苦笑いを浮かべた。
「……残った問題があの娘の身の安全だけだったってわけか。思い出したぜ、この詰将棋みたいな感じ」
アントは当時を思い出し顔を顰めたあと、了解したと頷いた。
「そういうことなら任せな。ここは管理局のお膝元だ。そうそう騒ぎは起こせないはずだ」
「ああ、俺もそう思うが念のため注意しておいてくれ。今回の相手は一筋縄ではいかない予感が──!?」
突然、ガーラはカウンターの裏へ飛び込んだ。アントもほぼ同時に頭を下げた直後、店の窓が光り無数の魔力弾が撃ち込まれた。
「仕掛けてくるとは思ったが真昼間からとはな!!」
「おい!! 思ってた以上にイカれてるぞ!! トレディアって奴はよ!!」
弾幕は喫茶店の壁を根こそぎ吹き飛ばし、店内を木っ端微塵にした。
「ガーラ!! お前はイクスのとこへ行けっ!! ここは俺が引き受ける!」
「すまない!」
ガーラが動き出そうとした瞬間、弾幕が止み背後から冷たい声が響いた。
「動かないでください。貴方が指先一つ動かしたら撃てと命じてあります」
風通しのよくなった出入り口から一人の女が入ってきた。ガーラはその姿を見てポツリと呟いた。
「マリアージュ……か」
初めてイクスを連れた日にガーラを遠距離射撃していた女だった。
「ようやくイクスから離れてくれましたね。この時を待っていましたよ。ああ、それと私を害するのもオススメしません。この店を吹き飛ばしたいと言うのなら話は別ですが」
「……お前達はイクスを生かして手に入れたいのではないのか? これ以上撃てば巻き込んでしまうぞ」
「ええ、ですが貴方ならイクスを死なせるような行動はしないと信じています。賢明な判断を、ガーラ・ウェスカー。当然もう一人のお連れ様も同様です」
「……」
こっそり動こうとしていたのがバレたアントはピタリと動きを止め大人しく両手を上に挙げた。
ガーラは目の前のマリアージュを険しい視線で睨みつけた。
言っていることに嘘はない。その証拠にマリアージュは此方の指先まで注意深く観察し、瞬き一つしない。
「な、何があったんですか!?」
突然の轟音に驚き奥の部屋から出てきたイクスは目の前の光景に目を見開いた。
「ッ……!? 貴方は……!」
硬直するイクスをマリアージュは丁寧な所作で頭を下げた。当然ガーラを警戒しながらだ。
「お迎えに上がりました、陛下」
「……私のせいで……こんな……」
全て理解したイクスは膝をつき小さく首を振った。
「もうやめて……! この人達に危害を加えないで……!!」
「全ては貴方の意思次第ですよ」
「……それはつまり、私がそちらに行けばいいのですね?」
「ええ、その通りです」
マリアージュの言葉にイクスは立ち上がり堪えるような様子で告げた。
「……約束しなさい。この方達に危害は加えないと」
「約束致します。元々そちらの方々に用はないので」
感情のない表情で約束するマリアージュ。
「……わかりました」
イクスはゆっくりとマリアージュの元へ向かった。
「待て──」
ガーラは声をかけようとしたが、マリアージュの手はすでにイクスの肩に添えられていた。
「っ……」
何も言えなくなったガーラにイクスは丁寧に頭を下げた。
「……ありがとうございました。貴方に出会えて、凄く嬉しかったです」
マリアージュはイクスを連れて店外へ出ると部下の一人に引き渡した。
「抑えておきなさい」
「はっ」
そして再び振り返ると自身の手のひらに刃を突き立て、滴る液体を店内へ飛ばした。
「っ!?!?」
イクスは血相を変え止めようとしたが時すでに遅く、店は轟音と共に激しく燃え上がった。
「なんでっっっ!!! 約束と違いますっ!!」
抑えつけられながら悲痛の叫びをあげるイクス。マリアージュは手の傷口を布で塞ぎ淡々と告げた。
「必要なことなのです。あの男は脅威、ここで確実に消しておかねばなりません」
「嘘つきっ!!!!」
涙を流し暴れるイクスをマリアージュは乱雑に抱え上げ、部下へ命令を下した。
「撃ち続けなさい。骨一つ残らないように」
「嫌っ!!! やめて!!」
暴れるイクスを連れマリアージュは数名の部下と共にその場を去った。
残った兵士達は命令通り全てのカートリッジを使い切った。
「ここまでやる必要があるんですか? 中にいるのはたかが傭兵なんでしょう?」
「さあな。だが命令ならば従うしかないだろう」
「俺、あの女苦手なんですよね……そもそも信用できるかどうかも……」
「やめておけ。ボスが同志だと言うのだからそうなんだ。変に勘繰るとお前もこうなるぞ?」
「あはは、それは勘弁です。では撤退しますか。そろそろ管理局が騒ぎ出す頃だ」
「ああ、そうだな。──撃ち方止め!! 撤退だ!」
粗方撃ち終え帰還しようとしたその時、
炎が割れ、二つの影が浮かび上がった。
「「「っ!?」」」
兵士達は武器を構え直そうとしたが、魔力弾に撃ち落とされてしまった。
人影は段々と大きくなり、炎の中から二人の男が現れた。
「聞いたかアント? 奴ら帰るつもりのようだ」
鬼のような形相で冷たい声を発するガーラ。
「そりゃ愉快な話だな、ええおい? ちょうど店内の風通しが良くなったところでよぉ。ゆっくりしていきな、
怒りを滲ませながら悪魔のような笑みを浮かべるアント。
兵士達は一切に逃げ出した。誰一人として立ち向かおうという勇者はいなかった。
当然、無事逃げ切れる者も誰一人としていなかった。
・
・
・
人で出来た山を前にガーラはタバコを取り出し一服していた。
「……俺にもくれよ」
「ああ」
アントはガーラからタバコを受け取ると煙を肺へ送り込み大きく息を吐いた。
「で、どうする?」
死んだ魚のような目を細めながら問いかけるアント。それは『これからどうする?』という質問ではなく、どこまでやるかの『どうする?』だった。
ガーラは地図を映し出し、凶暴さを秘めた視線を地図上の目的地へ向けた。
「当然、殲滅だ」
手に持っていたタバコが握り潰される。硬く丸められたタバコはまるで小石のように跳ねながら地面を転がっていった。