やっぱり切り方がわからない……
「ほら、アント。男の子だろう?気張んな」
「うぎぎぎ……」
今俺は腕立てをしている。あと一回でちょうど500回になる。
「うぉぉおおお‼︎」
渾身の力を振り絞り500回目をやり遂げた
「よし、やっと半分だね」
ベシャァァッ
「あっ‼︎ 気を抜くんじゃないよ、やり直しだ」
「ふざけんな‼︎ 1000回もできるわけないだろうが‼︎」
「ぬるいこと言ってんじゃないよ。まだ子供だから1000回だけにしてやってるんだ。本来なら1万回やるのさ」
「できるかぁっ‼︎」
なんでこんなことになったんだ‼︎
回想:
「怪我もだいぶ治ってきたね、そろそろリハビリがてら薪でも集めて来てもらおうか」
「は? 俺が薪なんて拾うわけねーだろーが。完治したらすぐこんな寂れたところおさらばだ」
「なんだい命の恩人に借りを返そうとは思わないのかい?」
「へっ借りだぁ? むしろオリ主たるこの俺を治療できたってことを光栄に思いな‼︎ クソババア‼︎」
「なんて恩知らずな子供だ。親の顔が見てみたいねぇ」
「親なんざいねーよ‼︎ バーカ‼︎ んなもんいたってなんの役にも立たねえだろーが‼︎」
この世界で新たなスタートをした俺に親なんて面倒な存在は必要ない。それに前世でもいてもいなくてもどうでもいい存在だった。
「……そうかい」
俺の言葉を聞いたババアはそう言って黙り込んだ。
俺の完璧な反論にグゥの音も出ないようだ。
「武器を持って表に出な」
そう言うとババアは杖を片手に外へ出て行った。
「は?」
外に出るとババアが庭にあった花瓶を脇に寄せている。
「さて、私に勝ったら近くの国まで送って食うのに困らない程度の路銀もくれてやる。ただし私に負けたらしばらく私の手伝いをしてもらうよ」
何言ってんだ? なんで俺がいきなりババアと戦う展開になってんだ??
「親なんていらないなんてセリフ、生きるのに困らないくらい力を持ってから言うんだね。どっから来て今までどんな生活してたか知らないけど今のあんたはただの世間知らずのガキだよ」
カッチーン
ババアのくせにオリ主たる俺に説教垂れるつもりか?
「はぁっ⁉︎ いいだろう、相手してやる‼︎ 後悔したっておそいからな‼︎」
そう言ってアントは大剣を振りかぶる
一振りで終わらせてやる‼︎
渾身の力で振り下ろされた大剣はババアの指に挟まれ動かなくなった。
「な⁉︎」
指で摘んだ⁉︎ しかも動かねえ⁉︎
「やれやれ、まだ始める合図もしていないのにせっかちだね」
杖で喉を突かれる。
「ゴハッ‼︎」
続けて胴体に5回ほど杖が刺さる。
「ウゴゴゴッ‼︎」
摘んでいた剣を離し空いた手で胸ぐらを掴み投げ飛ばされ、木に叩きつけられる。
「アベシッ‼︎」
「ふうっ基礎がまるでなっていない、動きはすべて我流だね?チンピラ相手なら十分戦えるだろうが本物の強者に出くわしたらアッサリ殺されちまうねぇ」
……なんだこのババア……まるで動きが読めなかった……
「さて約束通りまずは薪拾いをしてもらおうか」
「俺……は約束……した覚えは……ねぇ……っ‼︎」
「逃げたきゃ逃げても構わないよ、ここまで無様にやられて逃げ出すような軟弱者に用はないからねぇ」
逃げる? このオリ主たる俺が?
「逃げる……かよババア……っ‼︎ 今……この場で……俺を仕留めないこと……後悔させてやる……‼︎」
「そんだけダメージを負ってまだそんな憎まれ口を叩けるんなら上等さ、ならとっとと起き上がって薪を拾ってきておくれ」
ババアはそう言い残し家に戻って行った。
その日から俺とババアの二人暮らしが始まった。
「くそっ……おい‼︎ この俺が薪を集めて来てやったんだ‼︎ 光栄に思いやがれ‼︎」
「ありがとね、そこに置いといてくれ。次は料理を手伝ってもらおうか」
「……おい、今その鍋の中で煮てるのはなんだ?」
「冬眠中だった蝉の幼虫と蛇の卵だね」
「また虫か‼︎ なんでことごとく幼虫を入れるんだ‼︎ しかも蛇の卵ってなんだ‼︎ 普通の肉を食わせろぉ‼︎」
「狩猟は疲れるんだよ、それに冬眠中の虫は栄養を蓄えてるのさ」
「この植物はブレと言って傷薬になるのさ」
「これはなんだ?」
「おっ、いいところに目をつけたね、少しかじってみな」
「?」
ハムッ
「うごぉおおお‼︎」
「それはカラミと言って煎じずにかじるととんでもない辛さで味覚がしばらく無くなるのさ」
「そんにゃもにょ食わしぇるな‼︎」
「こっちを食べてごらん」
ババアが口になんかの薬草を突っ込む。
「ブハッ‼︎」
「それはニガミと言って煎じずに食べるとしばらく味覚が鋭くなり、とんでもない苦味になっちまうのさ」
「うぉえええ‼︎ だから‼︎ おぇえええ‼︎ 食わせんな‼︎」
「何事も経験さ、それに味覚は治ったろう?」
「そういうことを言いたいんじゃねぇ‼︎」
「勉強の時間だよ」
「はぁ⁉︎ なんで勉強なんかしなくちゃいけなんだよ‼︎」
「知らないよりは知ってることが多い方がいいさ。まずは蝉の一生について」
「使わねーよ‼︎ そんな知識‼︎」
「あんたは魔力操作が下手だねぇ」
「るせぇ‼︎ 魔力の練習なんかやり方知らねぇんだよ‼︎」
「これから毎朝魔力の小球を操りな、まずは八の字を描くんだ」
「くっ‼︎」
「随分大きな八の字だねぇ、もっと小さくできないのかい?」
「そのうちできんだよ‼︎」
「なんで勝てねぇんだ……」
「朝にやることの追加だね、基礎体力と筋トレと素振りもやんなきゃねぇ」
「そんなにできるかぁ‼︎」
「やる前から諦めんじゃないよ、ちなみに素振りは剣、槍、短刀、銃の4種類やるんだよ」
「多っ‼︎ なんでだ‼︎ 普通一種類でいいだろうが‼︎」
「あんた才能無いからねぇ、一つにこだわることなく広く浅くだ」
「やかましいわ‼︎」
そして、今に至る。
「……997……998……999……1000!!」
「よくやり遂げたね、飲みなスポーツドリンクだ」
「……ゼェ……ゼェ……ゴクッ」
「虫が浮いてんのに動揺しなくなったねぇ」
「慣れるわ……ボケッ‼︎ ……食全部虫だ……‼︎」
「なんだいつまらんね、まぁいい準備しな。出かけるよ、大剣も持ってきな」
「…….どこに行くんだよ?」
「王都さ、調味料の買い足しにね」
ブロロロロロッ‼︎
ギュオン‼︎
「……」
「なんだい? やけに静かだね?」
ヘルメット越しに問いかける。
「驚いてんだよ‼︎ 飛ばしすぎだろ⁉︎ ていうかババア、バイク運転できたのかよ‼︎」
驚くのも当然だ。乗ってるバイクはスーパースポーツ、いわゆる大型バイクである。
サイドカーに乗りながら抗議する。
「当たり前さ、若い頃はハヤブサなんて呼ばれてたからねぇ」
「誰が呼んだんだよ⁉︎ 前々から思っていたがてめえ何者だ‼︎」
「女の秘密を軽々しく聞くんじゃないよ」
「女というか妖怪だろーが‼︎」
王都:
「着いたよ」
「随分遠かったな、あの速度で3時間はかかったぞ。にしても王都と言うだけあって栄えているんだな」
そこは高い城壁で覆われていたが、城壁の中は近代日本みたいな光景が広がっている。
「こっちだ付いて来な」
向かったのは出店のようなところだった。そこではハゲ親父が客寄せしている。
「おお、ヨネ婆さん、また調味料かい? おや? その子供は?」
「私の孫だよアントって言うんだ。ほら挨拶しな」
「誰がお前の孫だ‼︎ クソババア‼︎ そして俺の名はアントじゃ……」
ボカッ
「痛っ‼︎ 何しやがる‼︎」
「悪いね、見ての通りのクソガキなんだ」
「はっはっは‼︎ 元気があっていいじゃないか、それにヨネ婆さんの若い頃そっくりだ。孫ってことはヤンクルの息子か」
「……そうなるね」
は? ヤンクル? 誰だ?
「そんなことはどうでもいいだろう? いつもので頼むよ」
「はいよ」
ハゲ親父は手際よく調味料をまとめる
「ほら、重たいから気を付けてな」
「持ちなアント」
「俺⁉︎ 大剣持ってて手がふさがってんだよ‼︎」
「そうかい、なら首にかけるよ」
「やめろ‼︎ ってか重い‼︎ 調味料だよな?どんだけ買ってんだ‼︎」
「半年分さ、その程度でぴーぴーいうんじゃないよ。次に行こうか」
そこから色々な場所へ行った、服屋、肉屋、本屋。
「次で最後さ、がんばりな」
「ざけんな‼︎ 全部俺が持ってんじゃねーか‼︎」
ババアは俺に構うことなく先に行く。
「あっ‼︎ おい‼︎ 待てよ‼︎」
着いたのは色々なデバイスがケースに並べられた小綺麗な小屋だった
「おーい‼︎ 生きてるかい?」
「ハイハイ、生きてるよ。今行くから少し待っておくれ」
ババアと同じくらいのババアが出てきた。
「あんたかい、久しぶりじゃないか。まだ生きていたんだね、ヨネ」
「それは私のセリフさ、ミリ。今日は孫のデバイスを直して欲しいんだ」
「孫? デバイス? この子供のデバイスかい? 見た感じ7歳くらいじゃないか、まだ早いんじゃないかい?」
「おい‼︎ 舐めてんじゃねえよ‼︎ 俺にケチつける気か? クソババア‼︎」
「……驚いた、昔のあんたそっくりじゃないか。血は受け継がれるもんだねぇ」
「うるさいよ、とっととこれを直しな」
「あっ‼︎ ババア、俺の剣になにしやがる‼︎」
「この壊れて役に立たないデバイスを直してやろうってんだ。黙って見てな」
「これかい? ……うーむ、直りそうだが時間がかかりそうだね2時間後くらいに取りに来な」
「頼んだよ」
「あっ……おいっまた勝手に……」
抗議するがいつも通りババアは俺の意見を無視する。
デバイスを預け特にすることもなく散歩することにした。
「なあ、ババアあんたヨネって名前だったんだな」
「言ったことなかったかい? そうさ、私の名はヨネ・バーキンだよ」
今までずっと気になってたことを聞いてみる。
「なぁ、あんた本当に何者なんだ?なんでそんなに強いんだ?」
「なんだい、私の昔話でも聞きたいのかい? あんまり自分語りは好きじゃないんだけどね。まぁ暇つぶしに少しくらい話してやろうかね」
ババアは懐かしそうに語り出す
私は15歳の時、この国とは別の国で志願して兵士になったのさ。当時は戦時でね、女でも当たり前のように前線に送られたんだ。
私は訓練で高い評価をうけていたから激戦区に送られた。その時に一緒の部隊にいたのがさっき会ったミリさ。
「生きて帰れるかな?」
ミリは不安そうにヨネに聞いた
「戦う前から弱気なこと言ってんじゃないわよ‼︎ 見苦しい‼︎ 私にかかればたとえ千の軍勢でも軽く蹴散らしてやるわ‼︎」
「なんで新兵なのにそんなに自信満々なのよあんた……」
この後、私は敵の大将を討ち取った。その功績で上官に目をつけられてね、特殊部隊に配属されたのさ。そして配属されてから3年で私は特殊部隊のエースになっていた。
「逃げろーっ‼︎ 戦鬼だ‼︎ 戦鬼が出たぞ‼︎」
その頃には私は二つ名までつけられるほどになっていた。
「あーっはっはっは‼︎ その程度なの? 所詮はモブ兵士どもね‼︎ 逃げるくらいなら最初から挑んでくるんじゃないわよ‼︎」
だがいくら戦争で最強を誇ろうとも天災には敵わない。
私の祖国は饑饉に襲われ弱ってるところを周囲の国に攻められた。
味方してくれる国なんて一つもなかったよ。敵を作りすぎたのさ、誰彼構わず噛みつき続けた報いが来たんだろうね。
「戦鬼‼︎ 降伏しろ‼︎ お前達に勝ち目はない‼︎」
「うるさいわね‼︎ ちょっと優位になったくらいで吠えるんじゃないわよ‼︎ このモブ‼︎ 豚のエサくらいしか出来ないくせに‼︎」
「待って‼︎ ヨネ‼︎ 挑発しないで‼︎ 死んじゃう‼︎ 私達死んじゃう‼︎」
追い詰められた私達は祖国を捨てこの国に逃げて来た。その後祖国は滅び、敵国は生き残りを探しているって噂を聞いたね。
そしてこの国で私は旦那に出会った。旦那は私の事情を知って簡単には見つけにくい場所に家を建てた。私の家が遠い理由はこういうわけさ。
「どうだい? 暇つぶしにはなったろう?」
語り終えたババアはこちらに問いかけてくる。
「ふん、たいした話じゃなかったな」
「そうかい、そいつは悪かったね」
「なあ、ババアの旦那はどこにいんだ?」
「死んだよ、子供が生まれて5年後にね。事故死だった、落石に潰されちまったのさ」
「そいつは情けない死に様だな」
「本当にね、これからだって時に死んじまって私があの子を育てんのにどんだけ苦労したか」
「じゃあ、あんたの息子……えっと、確かヤンクルだったか?そいつはどこに……」
息子について聞こうとした時、ババアは何か聞いてるかのように空を見上げる。
「おや、もうそんな時間かい? ああ、わかった今行くよ」
「アント、どうやらデバイスができたようだ。行くよ」
そう言うとババアはサッサッと進んで行く。
「遅かったじゃないか、ほら出来たよ。やれやれなんだい?このデバイス。とんでもない高性能じゃないか、これを作った奴は天才というか変態だね」
俺の剣がネックレスみたいになっていた。
「おいっ‼︎ 剣じゃなくなってるじゃねーか⁉︎ 騙しやがったなババア‼︎ この場でぶち殺して……」
ベシッ
「ウギャッ」
「バカ晒してんじゃないよ、デバイスについてはとっくに教えておいただろうに」
「軽々しく叩いてんじゃねえ‼︎ ぶち殺すぞ‼︎」
飛びかかるがヨネ婆さんは軽くあしらう。
「本当、昔のあんたにソックリだね」
するとミリ婆さんの手元のデバイスからこえがする。
《初めまして、ボス》
「おおっ、なんだ?このデバイスから声が……」
「インテリジェンスデバイスだったのかい、随分いいものもってたんだね」
「少し変だったがね、不自然なほどデータが存在していなかった」
だがアントはすでに話を聞いていない。
「これが俺の武器か……」
《ボス、私に名前を下さい》
「名前?俺が決めんの?」
「そうさ、お前が決めてやんな」
名前か……今度こそカッコいい名前を……
「ルリでいいんじゃないかい? 」
「ルリ? はっババアはネーミングセンスが腐っちまって……」
《ルリ、登録しました》
「あっ待てっ‼︎ 違うっ‼︎ 復唱だから‼︎ 今のババアが言ったの復唱しただけだから‼︎」
「ははっルリか、いい名前じゃないか」
「これからアントを支えてやりなルリ」
《はい、よろしくお願いします。ボス》
「あぁぁああああ‼︎」
「たくっ、もっとカッコイイ名前を付けたかったのによ」
「いつまでも終わったことを愚痴ってんじゃないよ、器の小さい奴だね」
「てめーのせいだろうがっ‼︎ クソババア‼︎ そもそもなんでルリだ‼︎」
「アリの一種にルリアリっていうのがいてね……」
「またアリ⁉︎ なんだそのアリ縛り‼︎ アリに一体どんな思入れがあるんだよ‼︎」
《ボス、どうか落ち着いてください》
「るせぇっ‼︎ もういい‼︎ とっとと帰るぞ‼︎」
アントは怒り心頭といった感じでバイクへ駆け寄る
「やれやれ……うっ‼︎ ゴホッ‼︎」
アントの子供っぽい姿に呆れていた時、突然咳が出た。とっさに口元を手で押さえ、ヨネ婆さんが手を見ると、少量の血が付いていた。
「……もう、そろそろかもね……」
どこか寂し気な様子で自分の血を見つめる。
「おいっ‼︎ ババア‼︎ とろいんだよ‼︎ サッサと来い‼︎」
アントの呼びかけにハッと顔上げ血を拭う。
「年寄りを急かすんじゃないよ‼︎ まったく……」
ルリを手に入れてから半年後
「随分様になって来たねぇ」
「ハーハッハッハ‼︎ どうだ‼︎ もうババアにも負けねぇ‼︎」
《お見事です。ボス》
「おい、早速勝負しやがれババア‼︎ 今なら勝てる‼︎」
「今日は無理だよ、明日なら相手してやる」
「おいっ‼︎ 俺は今やりたいんだよ‼︎」
「そうは言っても無理なもんは無理さ、今日はやることがあるんだ」
《ボス、楽しみはとっておくべきだと思います。それに今日はすでにお疲れのようですし万全の状態で臨みましょう》
「ちっ‼︎ しょうがねーな‼︎ 今日のところは勘弁してやるよ。感謝しなババア‼︎」
「はいはい、ありがとうね。とっとと汗を流してきな」
その日の夜はいつもと同じようになる筈だった。だが
アントとルリ、ヨネ婆さんは……
死んだ
ヨネ婆さんは昔自分以外の人間を見下していました。
アントを強くなるように世話することにしたのは過去の自分に重ねていたのかもしれません。