逆十字の天使 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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夜明けの星

しかも。

 

(待てよ……傷が塞がって……再生、してねえか……!?)

 

壊れかけた《固有礼装(デバイス)》で。

心臓にまで及ぶような大傷だけでなく、今まで与えた傷すらも魔力が覆い塞いでいく。

その下でも恐らく組織の再生が始まっているのだろう……あれではもうダメージなど残ってはいまい。

───目の前にいるあれは何だ?

戦慄に固まるベルモンドの眼前。

天を仰ぐように、顔面が横に割れたような大口でヨルは笑った。

 

「ははははははははは!!

ひゃははははははははははは!!!

何だそうかそうだったのか!俺は最初から自分の意思で戦っていたのか!!

神とは己の中にいるものだったのか!!

死を厭(いと)わぬに足る揺るぎない信念それこそが神!

それを得ることこそが神託であり光であるという事だった訳(わけ)だ!!

最高だ何って素晴らしいことだ!!

理解したぞ何も変わらない!

しかし行動の全てには俺の意思が通る!

世を正しく想う《神》を探し出そう!

不条理を前に歯軋りする者を《光》で照らし、新たな《神》の芽を育もう!!

 

 

───今からそれを!天命と呼ぼう!!!」

 

 

世界が爆発したようだった。

狂ったように笑うヨルの背中から、空間を轟かせる衝撃と共に星空の柱が出現した。

それらは三対の歪な翼。

頭上に天輪すら出現させたその姿は、ベルモンドの目には皮肉にも神話の中の熾天使のように見えた。

まるで神に反旗を翻し、奈落の底の主となったどこまでも穢れたかつての天使の姿に。

 

感じたことのない力が溢れている。

その全てに神経が通っていくのがわかる。

そうか───これは試練だったのだ。

自分が日本へ行き、そしてここで死の間際に立ったことは、自分が《使徒》としてさらに上の段階に進むための壁だったのだ。

全ての道が繋がる清々しさにヨルは思わず息を吐いた。

そして目の前には、悪でありながらも自分をさらに昇華させる贄となった男がいる。

ベルモンド。

自分の胸に刻んだ名前に、もう一つその名を加えよう。

自分への疑問を産み出してくれた黒鉄王馬。

自分のルーツを思い出させてくれた黒鉄一輝。

そして自分が進む大きな足掛かりの一つとなった目の前の男に、生涯にわたり感謝を捧げよう。

 

穏やかな、ある種の慈愛すら感じる声でヨルはベルモンドに微笑んだ。

 

 

 

 

「もういいぞ。死ね」

 

 

 

 

 

 

化物、と。

小さく呟いたベルモンドの一言が、暴虐の嵐に呑まれて消えた。

 

 

 

固有霊装《原罪の聖痕(エスティグマ)》。

 

その力の本質は『狂信』。

 

本人の置かれた環境や精神状態に呼応して力が増減し、それに応じて膂力、防御、治癒、解毒・解呪など様々な『加護』を与える。

 

因果干渉系の能力と言われているようだが、正確には不明。

彼は公に記録の残る身分ではない上に己の能力を詳しく人に話すということもせず、能力の幅が広すぎる為に彼の能力について詳しく知っている者はほぼいなかった。

故に彼の能力は後々も不明な点が多く、表や裏で囁かれているその正体は憶測で様々な説がある。

上に記した情報が最も確度が高いとされているが、それが正解なのかは本人にしかわからない。

 

 

 

荒野の果て。

 

命の気配を叩き潰した暴虐的な静寂の中。

 

記す運命は希望か、それとも混沌か───

 

 

───後に《黙示録》と呼ばれることになる魔人が、星の歴史に一つ目の足跡を付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海を跨いだ遥か遠く。

 

 

 

 

天を貫く剣の山で。

 

 

 

 

一人の純白が、顔を上げた。

 

 

 

 

【了】

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