村雨のこころ   作:玖渚真白

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side:自分の話を、牡丹編に組み込む為、話数を変更しました。
11月28日更新


牡丹編:8

村雨という刀は、個を得てからかなり長い年月を生きてきた。それは刀になる前の個を忘れ去る程の年月を。

だが、思い出というものは不思議なもので、心が動くと湧き出る記憶、それに連なる記憶。

 

何を言いたいかというと、要は暫くの間忘れていた気持ちを、不意に思い出してしまい、村雨自身がもてあましているということだ。

刀に性別がないように、村雨も今ではほとんど性別という概念、思想を忘れていた。それこそ、主の性別に合わせられるように中性的な存在となっていたのだ。

(……まさか、推しへの愛を思い出すなんて…どうすればいいの、あぁ、めっちゃ動いてる。どうしよう、幻滅されないようにしなくては)

などと無表情の向こうで考えているなど、牡丹や見つめられている薬研は気づかない。

 

こんのすけへの説明を粗方済ませた薬研は、他の本丸で似た事がないかと話を進めている。

ちらりと自分に注がれる村雨の瞳が不安げに揺れるのが、まさか感動やら推しへの動揺やらだとは思うまい。

 

「そうですね…まず、女性の刀剣の存在は、まったくないとは言えないようです」

「そうなのか?」

 

予想外な答えがこんのすけから返ってくる。

牡丹の本丸や、知り合いの本丸では起こってなかったが、実は本当に極少数ではあるが女性として顕現した例を政府は把握していた。

 

「サーバーが異なるので、詳細までは不明ですが、何振りか女形での顕現が報告されています。…村雨殿」

「……なに」

「申し訳ありませんが、少しあなたについて教えていただけますか?」

 

簡単な自己紹介を求めるこんのすけに、村雨は素直にうなずいた。

 

「村雨、は村雨という。いつ打たれたかは、もう昔過ぎて思い出せないけど、確か、村が日照り続きで困っていたところに願掛けで村雨という名をつけたら、本当に雨が降ったことから、願いを叶える刀と言われている」

「まぁ、お願いを?」

「うん、気まぐれに叶えることも多いけど…願い次第かな」

 

すごいわねぇと笑う牡丹だが、薬研は少し眉を潜めた。

それは村雨から漂う妖気に対して。

 

「なぁ、そんな気配をしてるんだ。良いことばっかりって訳じゃないよな」

「……村雨は願いを叶える。その結果が良いことでも、悪いことでも…責任は願いを蒔いたものが刈り取ることになる」

「ということは、災厄となりえることもあるということでしょうか?」

「そうかも……でも、牡丹はそんなお願いを村雨にするの?」

 

村雨の質問に、薬研はからりと笑って言った。

 

「ないな」

 

こんのすけも便乗して。

 

「ないですねぇ」

 

そんな反応をされた牡丹は、あら、そうかしらぁと頬に手を当てて首を傾げているが、村雨からもこの主は人の不幸を願うようには見えなかった。

 

「なら問題ない」

 

そういうものかとこんのすけと薬研はお互いを見たが、まぁ良いかとため息をつくのだった。

 

「とりあえず、願いを叶える村雨って刀剣のデータはあるのか?」

「いま確認しますので、少々おまちください」

 

目を伏せるこんのすけは、村雨の目からはぬいぐるみのように見えている。できることならあの毛並みを堪能したいとすら考えているが、村雨とこんのすけの間には薬研がおり、下手に手を出せないので、仕方がなく残り少ない茶を啜るのだった。

 

こんのすけはちょこんとお座りした状態で、検索をかける。こんのすけのアクセスできるサーバー、複数ある他のサーバーへのアクセス権のあるこんのすけへの検索依頼、政府の個人データベースからのイレギュラー対応履歴など。しかし、結果は……

 

「申し訳ありません、いろいろ確認してみましたが、村雨殿の顕現履歴は見当たりませんでした……」

 

しょんぼりと耳を伏せてしまったこんのすけ。その姿に我慢できず、ずい、とこんのすけに近づき頭を撫でるのは、無表情な村雨である。

 

「しかたない。それに村雨は村雨という個だから想定内。願いを叶える刀がそこらへんにいっぱい転がっている方が問題だと思う」

 

その手つきはどこかぎこちないが、優しいものだった。

村雨の内心は、隙あり触れた!もっふもふー!……というのは内緒。

 

「ふふっ、ありがとうございます。───こうなってしまえば、あとは審神者さまと村雨殿との話し合い次第かと…」

「鴇はなんていってるんだ?」

「とき?」

 

聞き覚えのない名前に村雨はこんのすけの背を撫でながら薬研に声をかけた。

 

「あぁ、鴇ってのはうちの本丸の運営担当をしてる人間だ。今回の件も、念のためやつに意見を聞いといた方がなにかと良いだろうと思ってな」

「ふぅん。その鴇って人間は、牡丹より上なの?」

「うーん、上…というより、なぁ大将」

「そうねぇ、いろいろ助けてくれるお友達かしら」

「いや、それもちょっとな……」

「あら?私はお友達と思っていたのだけど、違うのかしら…」

 

ちょっとしょんぼりしてしまった老婆に、薬研は苦笑し、こんのすけはくすくすと笑っていた。

 

「鴇殿からは、審神者さまにおまかせする、とだけ。

政府からも村雨殿という新たな仲間が加わってくださると大変助かりますが、それはご本人さまに判断を御委ねします、とのことです」

「長年審神者をやってきたかいがあるってもんだな、たいしょ」

 

にんまりも笑って腕を組んだ薬研。牡丹はあらあらうふふと笑っていた。運営担当にも、政府からも信頼をされている様子に、なぜかこんのすけが、どやぁとして胸をはっているので、村雨はすかさず上がった顎のしたに手をやり、もふもふとくすぐった。

 

「はぅ、む、村雨どの…そこはぁぁ…」

こしょこしょと擽る村雨にこんのすけはふにゃりと力が抜けたようだ。

「こんのすけは可愛いね。毛づやも良いし」

 

最後に垂れた耳を触ってから手を離すと、にっこりとこんのすけはは笑い、毛繕いならおまかせください!と村雨を見上げて言うのだった。

 

 


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