村雨のこころ   作:玖渚真白

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牡丹編:1

ふと、誰かに呼ばれた気がした。

それはどこか懐かしく、暖かく、優しい声で───

 

こちらに、どうぞこちらにお出でください

どうかお力を御貸しください

過去を守り、未来に繋げる為の戦いに

どうか…どうか……

 

その求める声に、村雨は思う。

あぁ、村雨にそれを求めるの…?

それが望みなの…

まだ村雨は望みを叶え続ける必要があるの?

 

信乃が最後の主であると思っていたが、村雨はどうやら、まだ必要とされているらしい。

 

折れた刀であるはずの村雨は、どこか漠然と、そう思考した。

 

 

───ならば、答えよう

───この村雨を求める次なる主の元へ

 

 

**************

 

のどかな本丸。

小さな短刀達が庭で遊ぶ声と、それを眺める太刀達。そこの主である御歳80を越えるおばあちゃん審神者である牡丹は、毎日の日課である鍛刀を行っていた。

今日の近侍は、薬研藤四郎。短刀だが、どこか大人びた漢らしい少年とともに資材を指定し、力をそそぐ。

いつも通り、出来上がりの時間を確認したとき、牡丹は異変に気づいた。

 

「……あら?」

「どうした、大将?」

 

時間を確認していた牡丹の声に振り返り、薬研も数字の並ぶ板を覗きこんだ。

そこに並ぶ時間は13時間。

見たことのない時間に、眉をひそめる。

 

「故障…とかじゃないみたいだな」

 

時間がたつにつれ、正しく減っていく時間に、首をかしげる。ちらりと隣にいる主を見うかがえば、同様に首を傾げつつ不思議そうな表情をしていることが見てとれた。

 

「新しい刀については、特に連絡もいただいてないものねぇ…どなたなのかしら?」

「手伝い札、使うか?」

「そうねぇ…そうしましょうか」

 

それを見て、薬研は手伝い札を牡丹に渡した。板で出来たそれを使うことであっという間に刀が一振り、できあがった。

それは緩やか曲線をえがく、漆黒の太刀。それに手をかざして牡丹は祈った。

 

 

こちらに、どうぞこちらにお出でください

どうかお力を御貸しください

過去を守り、未来に繋げる為の戦いに

どうか…どうか……

 

 

これまで、多くの刀剣を喚んだが、いつもと異なる感覚に、不思議な思いが広がる。

しかし、それを深く考える前に、桜の花びらがぶわりと舞った。

 

「村雨は村雨という。対価と引き換えに主の望みを叶える刀…きみが村雨を喚んだ主なの?」

 

そこに現れた人の形をした刀剣は、漆黒の長い髪をなびかせて、金色の瞳を牡丹へと向けた。

それは、あまり馴染みのない、いわゆる女型の姿。声から察するに、男士ではなく女士。

 

「あらあら、女性の方かしら?」

「…性別はない。見た目が女性なのは、きみが女性だから…?」

「あらまぁ…」

 

驚いた様子の牡丹だが、すぐににっこりと笑顔を浮かべた。

 

「私はこの本丸の審神者、牡丹(ぼたん)と申します」

「牡丹…審神者…始めにいっておくけど、村雨は付喪神とは外れた存在だから、たぶん、他の刀剣とはいろいろ異なるよ」

「ふふ、確かに 見目や力が違うのですね…」

 

かぶりをふった牡丹は、自分の本丸にいる他刀剣達を思いだし、目の前に佇む村雨と比較する。神というより、妖刀のような怪しげな気配。されど、どことなく柔なか気配は確かに人とは異なる存在感を放っていた。

 

「ひとまず、お話をしませんか?」

 

ふんわりと朗らかに笑みを浮かべる老婆に、村雨は頭をふった。

 

「大将、俺は何か飲み物でももってこよう。居間で良いか?」

「ええ、お願いね」

 

傍らで控えていた薬研は、ぼんやり佇む村雨を眺めたあと、部屋をあとにする。どこか面倒がおきそうだと感じつつ、はて、今日の茶菓子はなんだっただろうと思考をめぐらせるのだった。

 

 

 

 

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