転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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「メリークリスマス!まだイヴだし原義的にはまだイヴですらないけど!」


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ユメの続き


「あっはっはっはっはっ!今読んでも意味が分からないなぁ、『ボーボボ』は!」

 

 木造の校舎が備える教室、その一室が如き空間に、哄笑が響いた。

 その空間は、世界と世界の狭間にある空間。それぞれの世界が概念的に存在するため、惑星のようにその光を観測するといった事はできない。光学的に捉えられるのは真っ暗闇のみ。そんな暗闇の中に、そのルールに囚われる事なく、実体としてぽつんと浮かぶ教室1つ分だけの空間。実に端的かつ雑に付けられたその名は、『狭間空間』。

 その空間の創造者・維持者たる男が、八倉海(カイ・ヤグラ)が、その哄笑を響かせていたのだ。漫画『ボボボーボ・ボーボボ』を読みながら。

 

「って、こんな事している場合じゃないんだよなぁ……」

 

 カイは読んでいた『ボボボーボ・ボーボボ』第3巻を投げ捨てた。

 そして、その1冊はカイが寝そべるベッド替わり、机4つ並べたそれの周りに放置された、漫画の山に加わる事となる。

 

「はぁぁああ……。次行くとこ、全然決まんないや……」

 

 そう。カイはこれでも、次に行く世界を探していたのである。候補を洗い出すためにない事を逃避した(創造した)漫画を読みふけり、途中でその目的を半ば放棄して読書に集中していたが、これでも探していたのである。

 

「あれから何日経ったけか……」

 

 最初の転移、『転生したらスライムだった件』の世界で目的が失敗に終わってから、早幾日。

 残念ながら、この『狭間空間』における時間の流れが特殊であるため、厳密な経過時間を明記する事はできない。カイの体感時間で、少なくとも1ヵ月は経っていないと、願いたいところだ。ただ、カイ自身300年を超えて生きているため、その体感時間も正直当てにしづらい。

 

「ああ……。なんだか静江ちゃんが恋しくなってきちゃった……。何処かに居ないかなぁ、ああいう、後輩にできそうな子。もう、次に行く世界そこで良いや……」

 

 井沢静江、唯一の後輩である彼女が居た時の記憶に思いを馳せ、もう自分の目的とか一旦どうでも良いやと寂しさに駆られながら、カイは寝返りを打った。

 そうして目に入ったのが、丁度頭の横に置かれていた漫画、『BLEACH』である。

 

「うーん……、『BLEACH』かぁ……。僕の感覚的には最終章がアニメ化中で話題的にはホットだし、主人公の黒崎一護(チャン一)も嫌いじゃないんだけど……。チャン一、割と曇らせ要素が多いから、僕的『異常(アブノーマル)』判定は割とギリギリなんだよなぁ……」

 

 カイは『BLEACH』第60巻をパラパラとめくりながら、次行くべき世界か寸評する。

 カイの目的は、完膚なきまでの敗北をする事。そして、その目的を果たすために求めているのが、世界に愛された強者、とびっきりの『異常(アブノーマル)』。凄く頭の悪い要約をすれば、ご都合主義満天のチート主人公である。

 その点だけで言えば、『BLEACH』の主人公は合格だろう。まさしく世界に愛され、世界を救う存在として運命づけられた存在であり、カイ基準で言えば『異常(アブノーマル)』と言って差し支えないのだから。

 ただ、チート主人公と言えるかは、正直微妙なところなのだ。『BLEACH』の主人公・黒崎一護は、何度も苦戦を強いられている。持っているポテンシャルは作中最高なのだが、どうにも最強とは言いづらい。

 その点で言えば、カイを打ち倒す『異常(アブノーマル)』としては合格を上げられない。

 しかし、それは現段階での話だ。カイは、自分が接触する事で主人公を成長させる事に、1度成功を果たしている。リムル・テンペストが『異常性(アブノーマル)』スキルを得た事、それがその成功を示している。

 簡単な話、主人公の強さは後からどうとでもできる事を、カイは分かっているのだ。

 

「あんまり贅沢を言ってたら決まらないんだけど。僕今新しい後輩が欲しい気分なんだよね。『BLEACH』に僕の後輩にできそうな子って、居たっけかな?」

 

 今重視している部分、後輩にできるキャラが居るか、『過負荷(マイナス)』覚醒が期待できる人物が居るかどうか。カイはそこに焦点を当てた。

 でも、感触は良くない。

 

「悪役って言えば藍染惣右介(ヨン様)だけど、彼も普通に『異常(アブノーマル)』側だよね。後、個人的に彼が『過負荷(マイナス)』に目覚めるのは解釈違いだし……。幸運がマイナスな子っていうと、ある意味でチャン一がそうだけど。彼を『過負荷(マイナス)』にしちゃうのは本末転倒だし……。ただ単に試練をたくさん与えられてるキャラは多いけど、生まれながらの負け役って言うと―――」

 

 生まれながらの負け役、『過負荷(マイナス)』の素養がある人物は『BLEACH』に存在しない。カイがそう結論付けようとした、その時である。

 『狭間空間』が、まるで何かに激突されたように、大きく揺れた。

 

「何だっ!?―――っ」

 

 大きく揺れた事で、ショートでもしたように電灯が爆ぜ、そうして不安定になった蛍光灯が爆ぜたために尖った部分を先にして落ちてくる。落ちる先がカイの右目で、見事に深々と突き刺さるのだから、さすがは幸運値マイナスと言ったところか。

 

「全く、自分の拠点で死ぬとは思わなかったよ。ま、オールイズファンタジー(全部幻想)なんだけどさ」

 

 毎度の如く、カイは過負荷(マイナス)幻実当避(オールイズファンタジー)』で死んだ現実から逃避し、九死を一生に上書きした。

 やれやれと溜息を零しながら、大きく揺れた原因を探るべく、窓から外を眺める。

 

「…………。誰だぁ?僕の『狭間空間』に干渉してきた相手は」

 

 カイは、窓から下を見て、『狭間空間』が何者かに干渉された事を察した。

 何せ、教室1個分しかないはずの空間に、他の教室どころか校舎が生え、あまつさえ校庭まで広がっているのだから。

 そう。『狭間空間』は教室1個分の空間から、校庭付き校舎に変貌させられたのだ。校庭から先の空間は相変わらず暗闇が広がっているが。幸いな事に、校庭と暗闇の境が見えない壁で区切られ、空気が漏れ出ていたり、校庭の土がどんどん零れていったりはしていない。

 

 変貌させられた『狭間空間』を観察している最中、足音が響く。人間が走っているような音だ。しかも、扉を勢いよく開けているような音も聞こえる。増えた教室の扉を開け放って行っているのだろう事が、カイにも容易に想像できる。

 

「……僕を探してるって事かな?」

 

 『狭間空間』を変貌させた相手が、この空間に干渉してきた相手が、自分を探している。カイはその事に、期待感を膨らませていた。

 ここに干渉できる程の相手が、自分を探している。その相手は、敵かもしれない。自分を倒し得る程の、自分に完膚なきまでの敗北をくれる程の敵かもしれない、と。

 残念ながら、その期待が叶う事はない。いつものように、望みの叶わない存在(マイナス)故に。

 

「もう!ここは何処なのよ!誰も居ない―――……の?」

 

 足音の発生源がカイの居る教室の扉を開け放ち、その姿をカイに曝して、固まった。

 奇しくもカイと似たように何処ぞのブレザー制服を身に纏った、少し紫がかった黒いセミロングをストレートに広げた、高校生程の少女。

 彼女は、まさか此処にヒトが居るとは思っていなかったようで、こうしてカイというヒトの存在をその目にするのは、予想外だったのだ。

 つまり、これは、『狭間空間』に干渉した事も、そもそもここに至った事も、彼女にとって予想外の事態。

 

「……く、くくく。……あーはっはっはっはっはっはっはっはっ!」

 

 ただしそれはカイにとっても同じ事だ。

 カイもこの少女と出会うのは、予想外の事態だった。

 しかしそれは同時に、望外の好機でもある。

 

「え、えっと……。貴方は……?」

 

「おっと、これは失礼。初めまして。僕は八倉海(やぐら かい)。『七転び八起き』の『八』に、『胸倉』の『倉』、『陸海空』の『海』で、八倉海」

 

 混乱と脅えで扉の影に隠れようとする少女へ、カイは優しく声を掛け、ゆっくりと傍に寄った。

 そうして、カイは少女へと手を差し出すのだ。

 

「ようこそ、茜雫(せんな)。歓迎するよ?」

 

 劇場版『BLEACH』、『MEMORIES OF NOBODY』のヒロインたるその少女に。自分の後輩となり得る、茜雫という少女に。

 

 この日、この邂逅で以って、彼の行く先は決定するのだった。

 

 

 

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