今回から友人に勧められた書き溜め投稿をしようと思ってます。なので、4000字前後で二・三日に1本出せると思います。
それではどうぞ
第7話 ただで終わらない歓迎会
反乱軍襲撃から数日、ルクスは雑用の依頼を受け、浴場の清掃をしていた。
しかし、その表情は迷いが見て取れた。
「はぁ、僕ってこんな幸せでいいんでしょうか?」
「・・・・・・どうした?藪から棒に」
呟かれた言葉は、隣で同じく清掃していジークに届いていた。
「旧帝国の王子である僕が、雑用の仕事をせずに、こんな所で生活してていいのかなって、思ったんです」
百年に渡り圧政を敷いてきたアーカディア帝国。その王子が、契約を全うしないで、毎日規則正しい生活、そして、今まで十全と言えなかった
このことにルクスは、こんな待遇を受けていいものかと、疑問を感じていた。
「はぁ・・・・・・、お前は馬鹿か?」
「な、何で!?」
だが、その悩みはジークに馬鹿と切り捨てられた。
「あのな、旧帝国の王子つってもよ、お前は直接関与してないんだろ?ならば、己となんの関わりがある。なぜ、他人の言動に影を受ける?それにお前は、『咎人』として雑用を引き受けてきた。それどころか、旧帝国を滅ぼした『黒き英雄』だろ?ホントはもっと堂々としていいはずなんだ。だというのに、何も知らないこの国の民は、お前に心無い罵声を浴びせる。お前は対価を払ってる。なら気にするな」
ジークの口から出た言葉は、紛れもない本心だった。
“自己愛”に至るよりも昔、まだ
「ジーク先生・・・・・・でも、僕は──」
「悩むなとは言わん。ただ、今はそれでいいだろ?」
それでも葛藤しようとするルクスに、ジークは諭す。
悩んでればいい、前を見れないのならばそれでいいのだ。それが人間というモノだから。
ならば、そう。
「そう、ですね」
先程よりもスッキリとした表情を浮かべるルクスは、今を楽しむことを心に決めた。
迷いが少し薄れたことで、作業速度が上がった浴場に、二つの気配が近づく。
「わあ!ご、ごめんなさい!今はまだ清掃中で──」
「・・・・・・何をしてるんですか?兄さん」
「って、アイリ?」
開け放たれた扉から急いで顔を逸らし、弁明を始めるルクス。それをジト目で追求する妹のアイリと、従者のノクト。そして、その三人を生暖かい目で見つめるジーク。
何とも奇妙な光景が広がっていた。
特にジークは旧知の仲に見られたら、本物かと疑われるレベルである。
「裸の女生徒じゃなくて残念でしか?」
「べ、別にそんなんじゃないよ!?」
「どうせなら、久しぶりに一緒に入りますか?」
「Yes. 家族の団欒も大切です。」
「入らないからね!」
初々しい反応をするルクスをからかう二人。
ジークは完全に置いてきぼりである。
解せぬとか聞こえてきても気のせいだ。
「それで、何の用か知らんが、話があるのは雑用王子の方だろ?なら俺は先にあがるぞ」
「え?あの、ジーク先生!僕を見捨てるんですか!?」
「ご愁傷様。後で酒を奢ってやるよ。だから精々頑張れよ」
「飲めませんからね!?」
知らぬが仏。触らぬ神に祟りなし。
関係ない己はさっさと撤退しよう。
そんなゲスさが滲み出るジークは、ルクスをスケープゴートにして、逃げ出していた。
ルクスは飲めないのに酒を奢ると、約束を残して。
それを横目で見たアイリは本題を伝える。
「兄さん、この後時間がありますか?」
「この後?清掃が終われば何もないけど──」
「なら、食堂に来てください。忘れないで下さいね。」
「分かった。けど、どうして?」
要件を伝えられ、それを了承するが、なぜ食堂に来て欲しいのかをルクスは尋ねる。
だが──、
「それは、来てからのお楽しみです」
アイリは答えてくれなかった。
妹というのは、なぜ、いつだって悪戯をするのか。それは永遠に、
「・・・・・・それと、ここからは内密にお願いします」
話はそれだけで終わりではなかった。
強ばった表情を浮かべ、少し声のトーンを落とすアイリ。
それにはルクスも顔を引き締める。
「・・・・・・それは、どういうこと?」
「エーレンブルグ先生に気をつけてください。学園長に聞きましたが、彼の素性には謎が多いんです。生身で
「分かった。僕の方でも少し探ってみるよ」
このことは、学園長とこの場にいる三人だけの秘密であることもアイリは伝えた。
「ふっ、やはり感がいい。気を付けなきゃバレちまうかもな」
扉の裏で、男が聞いているとも知らずに──。
●〇●〇●〇●〇●〇
『ルクス君!正式入学おめでとう!』
「・・・・・・えっと、これはどういうことですか?」
アイリに指定された時間に食堂を訪れると、主に2年生の生徒達に祝われていた。
「ささやかながら、君の歓迎会だ。元王子の君をもてなすにしては少し粗末だが、そこは目を瞑ってくれ」
「皆で料理を作ったんだよー。あ、私のは食べなくていいよ、すごい下手だから」
何でも、反乱軍の襲撃から助けてもらったお礼と、正式な入学決定のお祝いを兼ねた歓迎会らしい。
少し離れたテーブルには、レリィやライグリィ、ジークなどの教官陣もいた。
昼間っから酒を飲んでいるように見えるが、気にしたら負けだ。どうせ、このあとの授業はすべて
「こ、この度は大儀であったぞ、これは私達なりのお礼だ。・・・・・・改めてようこそ、ルクス・アーカディア。私達はお前を歓迎する。存分に──」
リーシャの慣れていない畏まったかつ、有難いお言葉は、ノクトの茶々入れにより崩れ去った。
歓迎会の主役であるルクスを置いて、勝手に料理に手をつけるフィルフィや、本当にお嬢様かと疑ってしまうほど、思い思いに騒ぐ彼女達。
だが、その顔には笑顔が浮かんでいる。
この笑顔を守れてよかったと、ルクスは心の底から安堵した。
▲△▲△▲△
他愛ない話を続け騒ぐこと数十分、いやらしい笑みを浮かべたレリィがルクスに近づいてくる。
その後ろでは、ライグリィとジークが少しニヤついていた。
絶対ろくなもんじゃない。
「ねえ、ルクス君。最近、貴方への雑用依頼がすごく多くてね?ちらほらと不満の声も上がってきてるのよ」
「はあ・・・・・・すいません。僕の体はひとつしかないもので──」
嫌な予感を察知したルクスは、今すぐ逃げ出せないか考える。
自分の周りには多数の生徒、入口付近にも何名か・・・・・・逃げ場はなかった。
「そこで、不満を解消するためにひとつの
「
「そう、これよ」
そう言ってレリィは、懐から赤い紙を取り出してルクスに見せた。
「ルクス君の1週間優先依頼書よ。今からこれの争奪戦をしてもらうわ」
「え?えぇぇええぇえッ!?」
意味を理解したルクスは叫ぶ。
つまりこれを取られたら1週間、無茶なお願いをされる可能性があるということだ。
「制限時間は1時間。
周りにいた生徒達の目が怪しく煌めく。
・・・・・・完全に狙っている。
「用意はいいかしら?それじゃあ──開始!」
『きゃあぁぁああぁあぁあっ!』
「勘弁して下さいっ!」
開始の合図と同時に駆け寄ってくる生徒達。
それを見てルクスは、慌てて逃げ出していた。
「哀れ、雑用王子。骨は拾ってやる」
※死んでません。
手元で十字架を切り、黙祷を始めるジーク。
「あら、そんな事をしていて良いのかしら?」
「は?どういうことだ」
言われたことの意味が分からず、聞き返すジーク。
そんな彼に、レリィは真実を教えた。
「あの依頼書、貴方にも効力があるのよ。だから、ルクス君が取られたら、貴方も依頼を受ける義務が発生するの」
「いや待て、聞いてないぞ!そもそも、俺に依頼する物好きなんて──」
初めて知ったことに驚愕するも、自分に依頼は来ないと淡い期待を抱く。
しかし、レリィはその期待を打ち砕く。
「容姿は悪くないし、実力もある。多少粗暴なところが目立つけど、分からないところは放課後に真摯に教える。・・・・・・優良物件じゃないかしら?」
意外に評価が高いことに内心驚きつつ、ジークはどんどんと顔を青ざめていった。
「え、なに?てことは──」
「確実に依頼されるでしょうね」
「・・・・・・拒否権は?」
「給料減らすわ」
「横暴だ!」
雇い主の権力を振るわれ、逃げ場をなくされたジーク。
最早、ルクスを助けるなりして、依頼書が誰かの手に渡ることを、阻止しなければいけなくなった。
「じゃあ、頑張ってね」
「おのれ、学園長ぉ!」
にこやかな笑みを浮かべ、手を振る学園長。
それに恨み言を言いながらも、駆け出すジーク。
今頃ルクスは、リーシャから逃げている頃だろう。
中庭まで来たジークは、辺りを見回しながら愚痴を零す。
「あのアマ、いつか覚えてろ」
仕事とはいえ、色んなやつに殺意を覚えることに危機感を感じたが、“自己愛”であるのだからどうでもいいかと割り切った。
そして、二階の一室の窓が開いているのが目に付いた。
(行ってみるか。誰かいれば御の字だろ)
そう考えたジークは、地を蹴り、ひとっ飛びで窓枠に足をかける。
そこが何の部屋かは当然知らない。
「よう、雑用王子のを見な──」
「え?」
「は?」
本棚の側で下着姿で固まるクルルシファー。装衣に着替えるところだったのか、下着を外しかけている何名かの女生徒。
そう、ここは更衣室だ。
「・・・・・・ああ、悪ぃ」
『きゃあぁぁああぁあぁあっ!』
至って普通に返し、顔を背けるジーク。
見られた女生徒達は、手当たり次第に物を投げるが、見えてないにも関わらず全て躱された。
「一つ質問がある。雑用王子を見なかったか?」
「見てないわよ変態!」
「失礼な。お前らみたいなどこにでもいるような貧相な体を見たって、何も思わねぇよ」
色々なところに喧嘩を売っていくジーク。
下着を見てその言い様はあんまりではないか。
「見てないんならそれでいい。──じゃあの」
本棚の物陰に件の雑用王子がいるのだが、汚物を見たと本気で思っているジークは、一刻もここから立ち去りたくて、その可能性を完全に忘れていた。
「くっそ、マジでどこにいやがるんだあのガキ」
ゴオォンゴオォン!
探すこと数分、争奪戦終了を告げる鐘が鳴った。
「終わっちまったか。誰の手にも渡ってないことを祈るぞ」
優先依頼書の行く末を祈るジークだが、無情にもクルルシファーの手に落ちていたことを知るのは、もう少し先のことだ。
聡明な彼女に駆け引きをされてちょっと焦ることになるのを、まだ彼は知らない。
はい、また遅くなって申し訳ありません。
部活の大会があったり、書き溜めをしてました(全く進んでませんが)
次回は三日後だと思います。予定なので投稿されてるかもなー程度に認識していてください。
では、次幕の