IS〜古都国最凶と蛇と成りて舞う一夏〜   作:第八天黒鴉

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いつも通りの不定期ですね
申し訳ございません(初手安定の謝罪)

ちょっと英雄の方々と人理修復したり、同人書いたりしてました。
後、第四次聖杯戦争にもちょっかいかけたりしてたんで・・・・・・
クソみたいな言い訳ですね、はい。

それではどうぞ


第10話 厄災の目的は・・・・・・

遺跡(ルイン)探索があった日の夜、ルクスの部屋でアイリは一人、月を見上げていた。

 

「兄さんは超がつくほどのお人好しですが貴方も大概ですよ、クルルシファーさん。貴方は兄さんのことを何も分かっていません」

 

瞑目して呟くアイリの耳に扉を叩く音が響く。

その音と共にジークフリートが入ってきた。

 

「よう、雑用王子。ぐっすりして・・・・・・いないな、行ったか?」

「はい、つい先程ですが目が覚めて飛び出していきましたよ」

「そうか、別にこれといって用があった訳でもなし、邪魔したな」

 

ルクスが既に決闘に向かったことを聞き、内心舌打ちしながらも『死を想え(メメント・モリ)』として彼らに邪魔し(ちょっかいを掛け)ようと足早にここを去ろうとするが、アイリに呼び止められた。

 

「貴方はどうするのですか、エーレンブルグ先生?」

「・・・・・・どういう意味だ?」

「いえ、リーシャ様達も決闘の場に向かうようですし、貴方はどうするのかな、と、ちょっとした興味です」

ルクス(アイツ)には《バハムート》がある。神装機竜の使えない俺が加勢しても意味を成さん。だが、見物には行くさ」

 

見据える様なアイリの視線に若干驚きながらも、肩を竦めておどけてみせる。

やがて、視線から含みが消えのを感じると、ジークは再び歩き出す。体裁上味方であるが故に、一応手を挙げてじゃあなと意思表示をしておく。

 

(雑用王子の妹、文官候補として優秀であっても小娘と侮ったか・・・・・・。アレにはヒントを与えすぎると早々に気付かれるな。・・・・・・事が動き出すまでは警戒しておくか)

部屋から幾許か離れるとジークは心の中で彼女との会話を反芻し、思考する。

彼女は聡い、侮るなかれ。注意せよと・・・・・・。

ジークの中でアイリが有象無象の(ゴミ)から(ゴミ)にランクアップした瞬間である。因みにルクスは羽虫(ゴミ虫)である。蛇足ではあるが依頼主(クライアント)ですら“ちょっと他よりはマトモな知性ある豚”程度にしか思っていない。

 

・・・・・・少し他者の認識が低すぎではなかろうか?

昔はもっと優しかった筈なのに・・・・・・。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

時をほぼ同じくして決闘の場にて。

そこには悠然と構える者と地に伏した者、今まさに暴威を振るわんとする者の三つの神装機竜の影があった。

地に伏しているのはクルルシファーと《ファヴニール》であり、バルゼリッドとの勝負に敗北したことを意味している。

ユミル教国で如何に天才と持て囃されようと、殺し合ったこともない強がっているだけの小娘に過ぎず、腐っても戦場を知る『王国の覇者』に勝てる道理は初めからなかったのだ。

 

バルゼリッドにとってクルルシファーとの決闘は児戯しかなく、勝てると分かっている相手にわざわざ希望を見せただけであった。

 

「まさか、ここまで愚かだったとはな『黒き英雄』!」

「・・・・・・ルクス・アーカディア。現時刻を持って、決闘に途中参加致します」

 

言うが早いか《アジ・ダハーカ》に肉薄したルクスは『烙印剣(カオスブランド)』を横へ振るう。しかし、どれほど速くとも正面からの剣閃では届かない。それをバルゼリッドは冷静にハルバードで対処し、お返しとばかりに『双頭の顎(デビルズクロー)』の砲撃を放つ。

砲撃をすぐさまステップの要領で躱し、ルクスは一度距離をとる。

 

この一合の攻防で二人は理解する。ただでは勝てぬと。だが、負けるわけにはいかない。各々の目的の為に。

バルゼリッドは傲慢な自信家ではあるが、一人の将としても優秀である。ただ、ジーク(アレ)が規格外すぎるのだ。簡単に勝てぬことを理解したが故に、策を練る。確実に、《バハムート》の神装を奪えるように。

 

その後も両者の激突は続くが、勝負は互角に見えてバルゼリッドが有利であった。ルクスは飛翔型の最大の利点である空中での高速軌道が、活かしきれていないのだ。《バハムート》には近接装備しかなく《アジ・ダハーカ》には遠距離装備が存在している点が大きい。

 

ルクスが攻撃を当てるには近づかねばならず、近づけば陸戦型の得意距離であり、離れれば一方的に砲撃を受けるのみとなる。一種の膠着状態に陥った戦況に変化をもたらしたのは、なんとバルゼリッドであった。

 

バルゼリッドは『双頭の顎(デビルズクロー)』の砲口を、戦闘不能でまともに動けずにいたクルルシファーへと向けた。

 

「・・・・・・ッ!?」

 

バルゼリッドの成さんとすることを理解したルクスは、全力で彼女を守るために砲口の正面へと割って入った。

引き金を躊躇なく引いて放たれる熱線。殺すつもりはなかったのかその威力は障壁を僅かに貫通した程度であったが、バルゼリッドの狙いは消耗ではない。

 

隙だ。数秒程度でもいい。奴を止められる隙が欲しかったのだ。

強者の戦いにおいて隙は命取りと成り得る。だからこそバルゼリッドはルクスの隙を作ることにした。それにルクスはまんまと嵌り、神装を奪うチャンスが生まれた。

 

「《千の魔術(アヴェスタ)》」

「なっ!・・・・・・しまっ──!?」

 

気付いた時にはもう遅く、《バハムート》の腕には『竜尾鋼線(ワイヤーテール)』が巻き付いており、その先は《アジ・ダハーカ》へと繋がっていた。

バルゼリッドの顔に浮かんだ笑みが濃くなるのが分かる。この男はあの女を見捨てられない。騙されているとわかっていても助けてしまう程のお人好し。遅れてでも決闘に参加したのが何よりの証拠。それを瞬時に見抜き、策へ転じた手腕。すぐには実行せず、タイミングを見計らう慧眼。どれをとっても間違いなく首席に相応しいものだった。

 

 

だが、それだけだ──。

近くで見ていた『死を想え(メメント・モリ)』には糞が茶番を演じて、羽虫(ゴミ虫)が付き合っているだけに過ぎなかった。

あらゆる物を利用しようとする点は評価する。しかし、そこに第三者や人柄しか存在しない時点で論外。見るに堪えぬ即興劇でしかない。

俺ならば雑用王子の目の前で貧乳を殺して、降伏を要求。飲まなければ()()()()()()()()()()()()()()リーシャ達(塵屑共)を殺すと脅せばいい。そして神装機竜を解除したところを刺し殺すべきだ。

たったこれだけの作業に何故策を講じる必要があるのか理解ができない。

 

この男は悪鬼外道の畜生ですら躊躇う様なことを考え、あまつさえ何ら疑問を抱いた様子などなかった。

破綻した思考の男は()()()()()()()()()()()()を眺めながら何かを乞うかのように想いを馳せていた。

そう、『死を想え(メメント・モリ)』は現在空中にいる。それはつまり神装機竜を纏っているということだ。だというのに、近くに待機しているノクトのレーダーには()()()()()()。戦闘領域にいる四機目の装甲機竜(ドラグライド)の反応を誰も補足していない。いや、できない。

この機体が、迷彩を使っているが故に──。

 

あれから三十分ほど経っただろうか、バルゼリッドは機体性能で、ルクスは技術をもって一進一退の攻防を続けていた。

男であり、機竜適性で劣るバルゼリッドはこのままでは負けることを悟る。

故に、勝てないのであれば勝てるようにすればいい。即ち、ルクスの懐柔へと方針を変えたのであった。

 

終末神獣(ラグナレク)は知っているな、没落王子?」

「・・・・・・遺跡(ルイン)にそれぞれ一体ずついるという大型の幻神獣(アビス)──それがどうかしましたか?」

 

バルゼリッドの問い掛けに不意打ちを警戒しながらも答えるルクス。

そんなルクスにバルゼリッドは、素晴らしく栄誉であるかのように、声高らかに宣言した。

 

「俺はな、この国に迫るその終末神獣(ラグナレク)を倒してやろうというのだぞ?そのためには、一刻も早く遺跡(ルイン)から新たな武器を発掘せねばならん。クルルシファー(ソイツ)はその道具に過ぎん」

「何が言いたい?バルゼリッド・クロイツァー」

「負けを認めろ、ルクス・アーカディア。そうすれば貴様の今までの不敬は許してやろう。なんなら、そこの女を好きに抱いて犯しても構わん。・・・・・・まあ、俺がたっぷりと楽しんだ後にだがな」

 

人を人として扱おうとも思わない発言。

どこまでも下衆で腐った男尊女卑の思考。

それを聞いたルクスは腸が煮えくり返りそうな思いであった。認めてはいけない、許してはいけない。

何も守れなかった僕だけど、それでも譲れない意地があるのだと言うように。

 

「もういいわ、ルクス君!もう、やめて・・・!」

 

剣を握る手に力が入り、《バハムート》の装甲が震え、不気味な駆動音を上げているルクスへと、クルルシファーは叫ぶ。

 

「これ以上、私のせいで貴方が傷つくのは見たくない!──お願いだから・・・私を道具と言って、そうすれば・・・・・・もしかしたら、なんて期待せずにいられるから・・・・・・っ!」

 

聞く者が心苦しくなるような悲痛な叫び。家族から疎遠にされ、バルゼリッドに罵られ、それでも見捨てずに戦うルクスに期待などしたくないと、諦めさせてほしいと訴えるクルルシファー。

だが、ルクスは見捨てない。何があっても、これ以上取りこぼさないと誓ったから。

 

「クルルシファーさん・・・・・・。貴方は人だ。僕らと同じ、立派な人間です。そして僕は、貴方の恋人だ!」

 

軋む装甲で剣を上段に構え、しっかりと断言するルクス。そこに羞恥心など欠片もなく、彼女を尊重する優しき言葉であった。

 

「はっ、暴走寸前の機体で何が出来る、没落王子!」

 

勝った。

勝利を確信したバルゼリッドは哄笑を上げつつも、油断せずに《竜鱗装盾(オート・シェルド)》と《暴食(リロード・オン・ファイア)》の重ねがけで絶対の布陣を取る。

暴食(リロード・オン・ファイア)》を十全に扱えないバルゼリッドはルクスの即撃のような離れ業はできない。ならば始めから防御にまわせばいい。合理的であり、堅実な判断だ。

 

(くっだらねぇなぁ、おい。別に(ゴミ)が人かどうかとか、どうでもいいからさっさと終わらせてくれます?どうせどっちが勝っても俺が潰すんだし、できれば面倒が少ない方で──)

 

ずっとつまらなそうに見ていたジークは、待ってましたと言わんばかりに結果を催促する中、ルクスは暴走寸前の《バハムート》で突貫する。

 

「っ!?『強制超過(リコイル・バースト)』」

 

バルゼリッドの障壁に《烙印剣(カオスブランド)》が当たる瞬間、何かに気づいたルクスは推進器を全力で稼働させ、斜め上へと、即ちジークのいる場所へ振り下ろした。

 

「『慟哭・空踏』、『零落・狂化』」

 

『慟哭・空踏』。調律の応用で障壁の性質を受け止めるでも、受け流すでもなく、跳ね返すことに変質させ、相手の攻撃を弾く技。

だが、『強制超過(リコイル・バースト)』の威力はそれだけでかき消せるはずもないが、この神装機竜の持つ特殊武装の能力がそれを可能とする。

長刀の能力は大きく分けて三つ。増幅、圧縮、放出。この三つのうちの増幅はエネルギーを何十倍にも跳ね上げる程の性能を誇り、刀身に障壁を纏わせれば『強制超過(リコイル・バースト)』を防ぎきることができる。

そして今回、『慟哭・空踏』が弾く方向は自分側。つまり、長刀の方が弾かれるように調律している。これにより、本来は地面を抉りとるほどの衝撃を、全て遠心力へと変えられている。

この時に右翼だけ推進器を稼働させることで更に加速。

莫大な遠心力に加え、『強制超過(リコイル・バースト)』と名前が違うだけで同じ技、『零落・狂化』を使用し上段から振り下ろし、地面に叩き付ける。

この一連の動作、僅か二秒ほど。

 

始めから当たるとは思っていなかったのか、ルクスは直ぐに後退していた。ジーク自身も一撃で終わらせるつもりなどなかったのか、かなり手を抜いていた。

本気で殺す気であれば絶対必中の技術を使っていたし、そもそも先の一連の動作に、もう一つ、二つ技を使っていた。

侮蔑の篭もった笑みを貼り付けながら、ジークは軽い口調で口を開く。

 

「へえ、よく俺がここにいるって分かったな?」

「・・・・・・ほんの少しだけ、貴方から殺気が漏れていました」

 

ルクスの返答にジークは余程驚いたのか固まってしまった。顔は隠れて見えないが、フードの下でジークは目を丸くしていた。

殺気に気付かれたことではなく、自分が殺気を出していたことに──。

 

「あなたのその神装機竜の神装は“光の屈折、もしくはそれに準ずるもの”じゃないですか?だからあの時も、五年前も、近くに接近するまで気付けなかった・・・・・・」

 

動きを止めているジークへルクスは問う。今まで限りなく近ずかれなければ気づけなかった理由を、それに対する自分の推測を。

だが──、

 

「くはッ、はははははははは!」

 

ジークは嘲笑を上げる。自信満々に間違った解答をする間抜けを馬鹿にするような笑みをルクスへ向ける。

 

「少ない情報でそこまで考えられるとは賞賛に値するよ。だが、大した読みだがハズレだ!俺の神装はそんな甘っちょろいもんじゃねぇ!冥土の土産に教えてやる。・・・・・・《千の魔術(アヴェスタ)》」

「馬鹿な!《アジ・ダハーカ》の神装だと!?」

「神装《蛇王の叡智(ヴァスケイ)》──()()()()()()()()使()()()()()()()()神装だよ」

 

動きが見えないほどの速度でルクスへ肉迫したジークは、左手を翳し神装の名を発する。それは強奪。《アジ・ダハーカ》の神装にして全神装機竜にとって脅威たり得るもの。

ルクスの《バハムート》の出力が落ちるのを感じる。エネルギーを奪われたらしい。

それを理解したルクスは剣を横薙ぎに振るい、距離を取った。

 

「ふむ、今思えば俺達は一度も名を名乗ったことがなかったな。」

「そうですね。それが何か?」

「つれないねぇ。まあいいさ。じゃあ、改めて、名乗れよ小僧(ガキ)。戦の作法だ、聞いてやる」

 

あくまでも自分が上だと主張するような高圧的な態度を崩さないジーク。

それに対し、ルクスの返答は冷たかった。

 

「貴方に名乗る義理も義務もない」

「そう睨むなよ『黒き英雄』。そんじゃあ、自己紹介だ。俺とて本名を名乗る訳にはいかんのでね、通り名で悪いな。──俺の名は『死を想え(メメント・モリ)』、フリーの傭兵をやっている。記憶する栄誉をくれてやる塵虫(ゴミ虫)共」

「・・・・・・ルクス・アーカディア。元旧帝国第七皇子で、今は『咎人』だ」

 

人を下に見る態度は変わらないが、相手が名乗ったのならばと自分も名乗るルクス。ジーク本人としても特に意味はなく、故郷の名残だろう。

 

「『死を想え(メメント・モリ)』・・・・・・、聞いたことがある。報酬次第でどんな依頼もこなすイカれた傭兵。誰であろうと関係なく殺す狂人と聞くが、そいつが『銀の厄災』とはな。成程、言い得て妙だな」

「知っているのか、バルゼリッド」

「噂程度だがな。最初は名無しの傭兵で目立った活動もしていなかったらしい。だが、どうにかして連絡を取れればどんな依頼でも達成してくれるとかな」

 

死を想え(メメント・モリ)』の存在を知っていたバルゼリッドは内心戦慄する。この男の最凶の噂、通り名の意味を知っているから。

 

「この男が報酬として要求するのは前金だ。それが決して法外な訳じゃない。むしろ依頼の難易度を考えれば安い。だが、問題はそこではなく後金にある。」

「後金で法外な額を請求するだけなら問題には──」

「違うぞ没落王子。あいつが依頼達成の暁に求めるのは──依頼主の命だ。依頼主が男だろうが女だろうが、善人であっても悪人であっても、必ず殺している。」

「なッ!?全員をっ!?」

 

バルゼリッドによって告げられた真実にルクスは驚愕する。依頼主を殺す傭兵など常軌を逸しているからだ。

 

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ。ただ、俺に連絡を取れる時点でまともな奴がいねぇから殺してんだろうが。全員浅ましい汚職だらけだったぜ?」

 

ジークの言う通り、絶対に殺す訳ではない。万が一失せ物探しの依頼が来ればちょこっとお金を貰うだけで殺しはしない。ジークにはジークの基準がある。ただ、それを満たせた人物がいないだけに過ぎない。

一度、神装機竜持ちの機竜使い(ドラグナイト)数名で返り討ちにしようとした貴族がいたが、虐殺されて無惨な状態だったと言う。この男に依頼をするということは死を覚悟せねばならない。

故に、付いた通り名が──

 

「『死を(メメント・)・・・想え(モリ)』」

「貴方が本当に『死を想え(メメント・モリ)』なのだとしたら何が目的だ?」

 

機竜も纏っておらず、その圧倒的なまでの威圧感に恐怖してしまったのか、地にへたりこんだクルルシファーが呆然と呟き、ルクスは最大の警戒を見せる。

 

「依頼主の目的ねぇ。何でも新王国に良からぬことを企む連中が不法入国したらしくてね、そいつ等と繋がってるヤツを潰せって言われてんのよ。まあ、どこの国が不法入国したのかは目星がついてるんだけどな」

「数年前から誰も連絡が取れなくなり、遂に死んだかと思われた傭兵が今更何を・・・・・・」

「これでも傭兵だからな、信頼は必要なんだよ。一つの依頼を受けている間は他の依頼は受けないようにしているんだ。」

 

今度はこの言葉にルクスが驚いた。他者を塵屑(ゴミクズ)と罵る男が信頼の必要性を知っていることに。

 

「俺ってなぁ、争いとか嫌いな性分だしさぁ?好き好んで塵屑(ゴミクズ)に触りたい奴なんていないだろ?円滑に仕事が進むことに異論はない訳でぇ、俺って優しいし?アフターケアもしっかりしておくべだとおもんだなこれが」

 

──ああ、いつもの『銀の厄災』だった。

三度目の邂逅にして既にこの男の在り方を理解したルクスは、何が言いたいのか纏まっていない支離滅裂な発言から、彼の言わんとすることを理解して辟易とした。

 

「前回は顔見せってことで来たけどよぉ、今日は乱入する気なんか微塵もなかったんだぜ?さっきも言ったけど争いとか御免だし、面倒事は避けたい主義でしてね?」

「──後ろがガラ空きだぞ、『死を想え(メメント・モリ)』!」

 

突如聞こえた鋭い声。いつの間にか隙を伺っていたバルゼリッドが背後からハルバードを振り下ろしてくる。

 

「昔から思うのだが、何故そんな見え透いた攻撃が通じると思うのだ?」

 

左に逆手で持ち直した長刀を背後に突き刺す。長刀は寸分狂わずハルバードを弾き、その一瞬を使い右足で回し蹴りを放つ。

後退したバルゼリッドとの距離を一瞬で詰め、右手に持った長刀から左足の装甲の関節部へと一撃が振るわれた。

 

「『生剝(いきはぎ)』」

「くっ、有り得ん!関節部を一撃で当てるだと!?」

許多ノ罪ト(そこはのつみと)法リ別ケテ(のっとりわけて)─『生膚断(いきはだたち)』『死膚断(しにはだたち)』」

 

続けて振るわれた剣閃は計四回。先の二回は右手と右足の装甲を斬り落とし、後の二回は左足と胴体の生身を斬り裂いた。

 

「がッ、あぁぁあぁああぁあッ!?くっ、はあ、はあ。この俺がこうも簡単に──」

「安心しろバルバトス。おm「それは違う奴だぞ!というか、二文字しか当っていないぞ!」・・・口を挟むなよ。──取り敢えずテメェは殺さないで新王国の情報源にしろって依頼主に言われてんだ」

 

生身を斬られたことで想像を絶する痛みが身体中を蹂躙する。耐えようと思っても肉体が本能的に拒否反応を起こし、思うように動かない。しかし、ジークのボケには痛みを無視してでもツッコまなければならない気がした。

 

「言われてるけど、別に死んでなければちょっとぐらいはいいだろ」

 

碌でもないことを企むような笑みを見せるジークはバルゼリッドへと近ずき・・・・・・腕を思いっきり踏み潰した。

 

「あ、あぁァァぁああアぁアァぁっ!?」

 

筋肉は断裂し、血管は破裂。肉の押し潰れる音と骨の砕ける音が響く。つまるところ、腕が千切れたのだ。その痛みは温室育ちの貴族には耐えられるものではない。この世界のどこに日常的に腕が千切れる痛みを味わう人間がいるという?

そのまま、足も一本踏み潰そうとすると──、

 

「やめろォッ!」

「はっ、貴様が気にすることか?敵だろ?」

「それでも、目の前で殺されていい理由になんかならない!」

「自分は殺すくせに他人が殺すのは怒るのか?貴様も大概腐ってるな?」

「こんな、こんなことをして、貴方の仲間は悲しまないんですか!?貴方にだって信じて、信頼して、守りたい人がいるんじゃないんですかっ!?」

 

横薙ぎに振るわれた剣を長刀を縦にして受け止めつつ問答する。

ルクスは叫ぶ。守るべき人の為に戦うべきだと。

ジークは嗤う。守らない人を消しているのだと。

 

「信じる?信頼?ああ、知っているとも、理解しているとも、誰よりも。何故ならそれが──俺が何より求めたものに他ならない。俺の信用も、信頼も、もう既に向けるべき相手がいる。ならば他に向ける余地がどこにあると言う?」

「な・・・に?」

「俺が守りたいモノはごく少数。俺は最凶だが弱いから。そいつ等を守るのに精一杯なんだよ。だからこそ、他を気にする余裕などないんだよ」

「は、はっははははは!面白いものが聞けたよオタクら」

「・・・・・・誰だ」

 

決闘場に突如、笑いが響く。それは、ルクスやクルルシファーには聞き覚えがあるもので──、

 

「名乗る程の者じゃないが一応、()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

建造物の影から姿を見せた男はそう名乗る。

 

「ああ、続けてどうぞ。俺のことは気にせずに。そこらの石ころとでも思ってくれていい」

 

ルクス達は気づいていないがジークフリートは目の前にいる『死を想え(メメント・モリ)』である。ならば、彼は一体誰だ?

 

「・・・・・・もう一度問います。貴方の目的は何ですか?」

 

何故、彼がこんな近くまで来ているのか疑問であったが、その事は頭の隅に追いやり、聞きたいことを問う。

 

「あ?さっきも言っただろ?新王国に変な奴らが──」

「いいえ違います。雇い主ではなく、貴方個人の目的を聞いているんです。」

 

ジークの話を途中で切り否定する。個人的の目的がある筈だと。

 

「──なんでそう思った・・・・・・?」

「まだ、これで三度目ですが何となく分かります。傭兵をしているのも、今ここにいるのも別の目的がある。人を(ゴミ)と断じる貴方が人の下に就くほどの理由がある筈です」

「・・・・・・」

 

ルクスが確信を込めて言い放った途端、今まで絶対に崩すことのなかった笑みが消えた。

無表情でルクスを見つめるジーク。

緊張が高まり、ルクスの背中には冷や汗が流れる。

瞬間、ルクスの視界からジークが消える。

 

「・・・・・・平穏だよ」

「ルクス君っ!」

「ッ!?」

 

ジークの声とクルルシファーの叫びが重なって聞こえた刹那、反射的に身を翻す。

背後から、空ぶった長刀が地面に叩き付けられ、砕け散る。

 

「金も、地位も、名誉も何もかも、そんなものはどうだっていい。一日を生きるのに必死でも構わない」

 

淡々と紡がれる言葉と共に振るわれる剣閃は一撃が重く、受け止める度に装甲が軋みをあげる。

 

「ただ、アイツらがいてくれればそれで満足だった。俺は平穏な日常こそを焦がれ、徹頭徹尾それのみを求めた」

 

その言葉は決して冷たくはない。だが、温かさも感じられない。一つのことに従事する機械のようでもあるそれは、無我の境地とも言えた。

一体どれだけ追い求めれば熱を失うというのだ。

 

「それが、貴方の目的・・・・・・」

「そうだ、傭兵などその為の情報源に過ぎん。未だ殆ど、誰がどこにいるかも分からんが、遂に一人は新王国にいることが分かった。ようやくだ、ようやく見つけたんだ」

 

ジークの語尾が強くなっていくのがルクスには分かった。如何に熱を失っていようが、すぐ近くにいることがわかって気持ちが抑えられないのだろう。初めてルクスは、彼の人間らしいところを見た気がした。

 

「だからよォ、お前に関わっている暇なんかねぇんだ。『零落・狂化』」

 

ジークの神装機竜が軋みをあげながら長刀を上段から振り下ろす。『強制超過(リコイルバースト)』と同種のものだと判断したルクスは、僅かに後退してギリギリで躱す。

振り下ろした勢いを殺さずに反時計回りに一回転したジークはそのまま横に薙ぎ払う。今度は受け止めようとしたルクスだったが、()()()()()()()()()()()ことに気づき、咄嗟に上昇して回避した。

再び空ぶった長刀が建造物を粉々に粉砕する。

 

「まさか、『強制超過(リコイルバースト)』を連発したのか!?そんなこと出来る筈がない!」

「はっ!そりゃテメェらだからだろうが。原理的に言えば、全力の肉体操作を精神操作で抑え、力を蓄えてから一気に放出する。いわば抑制と解放だ。」

 

常人ならば機体が吹っ飛ぶような負荷を掛けていながら、素知らぬ顔をして挑発するジーク。これは彼のとある能力と神装機竜の性能が高いからこそできる荒技であった。

 

「本来ならば人間は同時に複数のことを考えることはできねぇ。できたとしても20%程まで思考低下するそうだ。だが、俺の同時思考能力(マルチタスク)と情報処理能力はそれを可能にする。」

「っ!そうか!そういうことか!」

 

そこまで言われてルクスも理解する。『強制超過(リコイルバースト)』を連発?いいや、一度しか使っていない。

 

「『強制超過(リコイルバースト)』が単調な動きしかできないのは精神操作に思考を取られすぎるせいだ。つまり、俺は精神操作をしながらでも複雑な思考をすることができるって訳だ!」

 

分かりやすく言うならば、肉体操作を抑える精神操作のON/OFFを切り替えつつ、他の精神操作を行えるということだ。

 

「さて、と。お前を殺すなとは言われたが──」

 

そう言つつジークは再び姿を消す。ルクスは自分の周囲を警戒しつつ、いつでも剣を振るえるようにしている。

 

「──お前を殺すなとは言われていない。死ね」

「ッ!?」

 

クルルシファーの背後にいつの間にかいたジークは何の躊躇もなく長刀をを振り下ろした。

それは正しく奇跡だろう。機竜を纏っていても躱すことはほぼ不可能なそれを、本能的に飛び退くことで事なきを得たのだから。

だが、ジークは躱されたことよりも、クルルシファーが生きていることに逆上した。

 

「何で生きてんだッ!俺が死ねって言ったんだ、死ねよォ!」

 

今度は技も何もなく無造作に長刀が振るわれる。

 

「クルルシファーさん!」

 

ルクスが辛うじて防ぎ、お互いに押し返す。勢いに逆らわず距離をとる両者。

 

「《暴食(リロード・オン・ファイア)》」

 

異口同音に放たれる《バハムート》の神装の名。先の五秒間の圧縮により、お互いは減速する筈であったが、ジークはむしろ加速していた。

 

「なっ!?」

「俺の神装がただ真似するだけだとでも思ったかこの(カス)ゥ!」

 

『零落・狂化』は解除した筈なのに、そうではないかと錯覚するほどの重い一撃。後の五秒間による加速が始まるとやはりジークもそれ以上に加速した。

上下左右からの剣閃に何とか付いて行くルクスだが、反撃は一度しかできず、それも上回る速度で防がれて終わった。

 

「この速さは、貴方の本来の神装という訳ですか」

「神装《蛇王の叡智(ヴァスケイ)》に含まれる俺の機体専用の神装、《蛇神の諸王(ナーガラージャ)》だ。能力は至ってシンプル、機体性能強化倍加で、負荷も倍加だ」

 

機竜の性能を三倍強化すると機体の負荷が約二倍になるという強力だが、簡単に死に至る危険な神装。

 

「そして──、機体性能五倍で負荷三倍だ。ゴホッ、ガァッ」

 

そう言ったジークはかなりの量を吐血した。抑えた手が赤く染まる。黒いコートに血が滲む。流石の『銀の厄災』と言えど、負荷三倍は無茶だったらしい。

 

「それ以上は死にますよ!もう戦うのはやめましょう!」

「はぁ?俺ァ、敵だぞ?情けのつもりか?・・・・・・でもまあ、確かに辛いもんがある。だから、撤退する前に一つ聞かせろ」

「何でしょうか」

「お前は帝国の皇子でありながら常に奪われる側だった。何故憎まない。何故許せた。何故笑っていられる?」

 

ジークではなく◾️が五年前から気になっていたこと。似た境遇であるはずなのに、自分のようにならなかったルクスへ感じていた疑問。

 

「それは、大切な仲間がいるからです。復讐なんかより優先すべき、守りたい人達が、僕を支えたくれたから」

 

そう言ってルクスは◾️へと優しく微笑んだ。

 

「・・・・・・何故だ、何故だなぜだナゼダなぜだなぜだ何故だナゼダァ!答えろ没落王子!俺と同じく奪われてきたお前が!俺よりも弱いお前が!何故平和に笑っていられるんだァ!奪われたから、奪い返してやろうと必死になった俺は何も取り返せていないのに、臆病にも隠れていたお前は守りたいものに溢れている!俺とお前、何が違う!」

 

初めてジークの仮面が完全に剥がれた。◾️としての叫びがルクスへと突き刺さる。手からこぼれるのなら何度でもすくい上げてみせようと誓った己は、結局何も守れなかったというのに、ただ責任から逃れようと逃げてきた臆病者が、まるで定められていたかのように仲間に恵まれていった。

そんな現実を直視したくない、認めたくないという慟哭を隠すように、狂い叫ぶ。言葉と共に振るわれた連撃は精細さを欠いておりルクスでも軽く流せた。

 

「貴方は他者を見なかったんだ!自分に差し伸ばされた手を払って、独りで足掻いてたんだ!僕だって、みんなが居てくれたから今の僕があるんだ!独りじゃ何もできないから!貴方は守れなかったんだ!」

 

◾️の慟哭に対し、ルクスは力の限り叫ぶ。自分一人の力なんかじゃないと。こんな臆病者を信じてくれたから今の自分がいるんだと。今、目の前の真実に向き合えと、二度と失わないと誓った意志をぶつける。

 

「・・・・・・そうか、なら、きっと、俺達は・・・・・・結局、何も守れないんだろうな」

 

先程の激情が嘘のように落ち着いたジークは長刀を逆袈裟斬りに振るった。そこから放たれたのは先の二度の邂逅で猛威を奮ったエネルギーの奔流。即ち、放出である。

 

「ガハッ、グッ」

「死なないように手加減はした、じゃあな」

「ルクス君っ!」

 

闇に飲まれ、遠退いて行く意識の片隅にそんな声が聞こえた。

銀の流星は紫の残影を残し、飛び立って行った。

彼のいた場所に煙草の吸殻を残して──。

 

 

●〇●〇●〇●〇●〇

 

 

決闘場から少し離れた洞窟にて、銀の機竜が鎮座していた。

そこは表に出せない『銀の厄災』の神装機竜の簡易格納庫兼拠点であった。

 

【と、まあ、これが今回のことの顛末だな】

【最後の方、なんか端折っていないか、貴様?】

【・・・・・・何の事かな?】

 

自分がみっともなく叫んだ所を誤魔化して伝えると、やはりバレた。だが、そのまま押し通す。

 

【んで?これからはどうすんだ?お前のことだから現状維持なんてつまらんことは言わんよな?】

【話を逸らしたな貴様・・・・・・。まあいい、お前は次に奴らが動いた場合、絶対に手を出すな。『黒き英雄』達だけの実力を見ておきたい】

【構わんが、ジークフリートとしてなら手を出していいのか?】

【好きにしろ。やりすぎなければ勝手にするがいい】

 

威圧的な雰囲気に一切流されずに話を進める両者。ジークの隣には同じ顔をしたもう一人のジークフリートがいる。

 

【特殊武装で偽の器を作って一人二役を演じたのだろうが、その為だけに《魔楽聖唱(ヘルクァイア)》を使うとはな。やはり貴様は頭のネジが欠けた間抜けらしい】

【お前、マジ覚えてろよ、お前】

 

この男、依頼主を知性ある豚程度とか言っている割に、何だかんだで楽しそうである。

 

 

 

 

 

 




もっと早く、それこそ初投稿の時に言うべきだったと思います。
私はこの小説を趣味で書いておりますので、学校や他のゲーム、バイトなどを優先させて頂いています。
皆様に早く、良い物を読んでもらいたいのは山々ですが、書かねばという強迫観念で書いていると駄文を書いてしまうのは目に見えているので、書きたい時に少しずつ今も書いています。
これからもスタイルを変えるつもりはありません。
説明・投稿が遅くなり、大変申し訳ありません。
こんな自分勝手な私ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

では、次幕の悲喜劇(シェイクスピア)をご期待あれ
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