明日書こう、明日書こうと、悪い癖が出ました。
と、まあ、言い訳は置いといて。
どうしてこうなった・・・・・・。
キャラが勝手にとはこういうことを言うんだと、なんか勝手に納得してます。
それではどうぞ
程よい陽射しが照りつけ、気持ちのいい風がそよぐ校内戦前日の昼。ルクスはリーシャやクルルシファーに誘われ外のベンチで昼食をとっていた。
そしてその後ろの草薮では、『
「あーあ、いいご身分だねェ。俺がレーション食ってるっていうのにアイツはお手製弁当とは。この差はなんなんだ一体?」
耳を澄ますとどうやらフィルフィもいるらしい。それぞれが作った料理をルクスに食べてもらっているのか、明るい会話が聞こえてくる。
何やらほとんど料理をしたことがないらしく、手伝ってもらったと自信なさげに言う彼女達。
愛されてるねェ・・・と、独り言ちる。
って、そうじゃねぇよ。目的はこんなどうでもいい恋愛モドキを見に来たわけじゃねぇ。ちゃっちゃと済ませますかな。
「よお、傷はもういいのかよ雑用王子。」
「っ!?あ、貴方は!」
突如目の前に現れた黒ローブの男に驚きを隠せない四名だったが、直ぐに切り替えて警戒をあらわにする。
「貴様、何の用だ。とうとう私達の始末でも命じられたか!」
「落ち着けよ、今日は別に
「その言葉を信じられると思うか?」
「落ち着いてお姫様。本当に始末するつもりならとっくにやられてるわ。少なくとも別件のはずよ」
噛みつくリーシャと諌めるクルルシファー。何だかいいコンビになりそうだとどうでもいいことを思いつつ、面倒だと確信する。
やっぱ一人の時に声をかけるべきだったと後悔する。
「そっちの蒼髪は冷静だな。血気盛んなお姫様とか、この国の未来は大丈夫か?」
「と、取り敢えず落ち着きましょう。それで貴方は一体何の用ですか?」
「簡単なことだ。今回の件、俺は介入しない。お前ら全員で頑張れって、依頼主からのご指示だよ」
肩を竦めた『
「今回の件って、
無言で首肯を返す。
「なぜ貴様がルクスが
そう言ってリーシャは
「待って、ここで争うのはやめた方がいい。最悪、学園の生徒全員を巻き込むことになるわ」
「ホントに冷静だねオタク。それに引き換え・・・・・・」
言いつつジークは今にも斬りかかって来そうなリーシャへ視線をむける。
「貴様には言われたくないな。勝手に激情した挙句、ルクスを斬った貴様には」
「それを言われると辛いな。俺だって反省してるんだ。どうせ最後には失うんだし、気にすることもなかったなってよ」
言い返された言葉には苦笑を返すしかなかった。
「この前も言ってましたよね、何も守れないって。どういう意味ですか?」
「そのまんまさ。俺もお前も、大切なもの程切り捨てられない。だから守りきれない、失っちまうのさ」
そう言った彼からは悲壮感が漂い、これ以上踏み込むことを戸惑わせる。
「まあ、仕事はこんくらいにして、こっからは個人的な要件だ。お前・・・・・・既知感を感じたことはあるか?」
「既知・・・感?」
男の雰囲気が変わる。あるゆるものを射抜く視線がルクスに突き刺さる。
「知らないか。ってことはまだコイツはこっち側じゃねぇのか」
「え・・・・・・?何か言いましたか?」
「いや、こっちの話だ。」
聞き返すが、有無を言わさぬ圧力で黙殺される。
男とて何故こんなことを口にしてるのか理解していない。
だが、言わねばならぬと思った。そうすることが当然だと心が叫んだ。
なぜなら現状に、男は
「デジャブるんだよ。何しても、何食っても新鮮な驚きを感じられねぇ。いつ起こるのかも分からねぇ。こんなこと前にもあったな、この話前にもしたなって、そう思っちまうんだよ」
今、尚感じられる既知感に、男は欠けていたものが取り戻される予感がしても、より一層の不快感により塗り潰される。
何かを欲している、心が何かを求めている。
いっそ狂ってしまいそうな程の飢餓。
それを感じた男は既知を続ければ答えが分かると信じて、既知に苦しみながらもその通りに動くしかなかった。
男から発する狂気に思わず後退りをしてしまう。
それもまた当然のこと。既知感とは常人に耐えられるようなものではないのだから。
「なあ、雑用王子。もし、自分の記憶に違和感を感じたら記憶の場所へ行け。そこに答えはあるはずだ。そして、お前が既知感を感じた時がこの時代の終わりだ」
「何故それを僕に教える」
「これは親切じゃねぇ。忠告だ」
半ば確信して、男は告げる。
時代の終わりを。待ち受けるのは新たな時代。
新たな支配者の選定は既に始まっている。
「さて、用件は済んだしそろそろ帰ろうと思うのだが、さっきから無言の視線が痛いんだがピンクいの?」
「・・・・・・敵意を感じなかったから見てただけ」
今まで一言も話さなかったフィルフィが口を開いた。
何やら彼女なりの意図があったようだが男にも読めなかった、と言うより表情が全然変わらないから分からなかった。
「はあ、お前らほんっと面倒な奴が多いな。俺はそろそろお暇するが──っとそうだ、ひとつ忘れてた。
言い残した男は姿を消す。目の前から、一瞬にして。
意味深な言葉。それが意味すること。
謎は多くとも一つだけはっきりしている。
争いは終わらない。
それこそが人の業なれば──
●〇●〇●〇●〇●〇
ローブを脱ぎ、いつものジークとしての姿に戻った男は、石畳の道を歩きながら先程の会話を思い出し疑問を抱く。
この俺がまともな会話を成立させてる?
何故だ?
疑問を感じても晴らす術を持たないジークはより深い思考へ潜る。既に周囲のことなど頭になく、あるのは底知れぬざわめき。
──お前、さっきは随分とまともな会話をしていたな。他者を
突如頭に響く声。知っている声だ。
何故ならそれは、他ならぬ己の声なのだから。
何かに魂を引っ張られる脱力感が襲う。
気がついた頃には暗闇の中にただ一人、自分だけが朧気に見える。
そして、目の前には十六歳ほどの幼き少年が
「お前・・・誰だ。いや、それよりも何故お前がいる──何で
そう、間違えようもない。その憎たらしい面は紛れもなく昔の俺だ。ここがどこだとかどうでもいい。昔の自分が目の前にいることの方が重要だ。
本能が警報を鳴らす。これ以上考えるなと、現実を見るなと訴える。
しかし、一度抱いた疑問は消えることなく侵食する。疑念を晴らしたいという好奇心が進めてはいけない歩を進める。
──何故も何も俺はお前だからだ。お前の抱いた渇望のひとつ、“自己愛”こそが俺だよ
ノイズのかかった下劣な声と共に発せられる事実。
そうだ。確か俺はこの時だったはずだ。他者を認識しなくなっていったのは。
──別にお前は他人を
やめろ
──お前はただ怖いだけだ。失うことが
やめろ
──失うことが怖くて、また失うかもしれないって、他人と関わることが怖くなった
それを俺に見せるな
──だからお前は壁を作った。元々どうでもいいと思っていた連中を、
それ以上、俺に踏み込むな・・・・・・!
──失うことは怖いよなァ。自分のことが守りたいよなァ。・・・・・・諦めろよ、お前はそういう宿星の下に生まれたんだ
やめろォォォ!
──認めちまえよ、大事なものを失うこの世界なんかぶっ壊したいんだろ?それこそが自己愛だ。
クハハハハハハハァ!
ああ、そうだ。他人なんか
怖かっただけだ。情が湧いてしまえば、失うことが辛くなる。だから認識しないようにしてたんだ。
自分はコイツらを守る義務などないって思わなきゃ、心の平穏が保てなかった。
俺はただ、争うことなく静かに暮らせればよかった・・・・・・!
誰か、誰か俺を助けてくれよッ・・・・・・!
──自覚しろよ、自分の存在意義を。間に合わなくなるぞ、アレの目覚めはもうすぐだ
意識が暗転する刹那、少年の全身にノイズがかかり、金髪で褐色肌の童子が見えたような気がした。
「ッ!?・・・・・・あ?」
気がつくと自分の部屋の前に立っていた。どうやらかなり深く考え込んでいたらしい。
だが不思議となにやら清々しい気分だった。まるで溜め込んでいたものを吐き出したような、そんな気分だった。
「明日は本番だし、幸先がいいな。機体の細工も終わった、金髪巨乳の弱点も調べ終えた。よし、寝るか」
既に準備は上々、あとは成るように成るのみ。
目指すは勝利。それ以外の結果など見えないのだから
「勝つのは俺だ」
勝利を願う家族愛の少女へと、そう宣言した。
●〇●〇●〇●〇●〇
校内戦当日、早速ペア決めで揉めるルクス達。結局クジ引きでフィルフィとルクスが組み、残った二人が組むらしい。
三者三様と言うべき反応を魅せる彼女たちは放っておいて敵情視察に勤しむことにしよう。
一般戦と『
リーシャとクルルシファーは初戦からセリス・シャリスペアと当たるから情報を引き出してみせると息巻いていた。
正直、実力を正当に評価して負けることは目に見えているが、彼女達の名誉のために口を噤んでおく。
結果から言うと、まあ、負けた。
予想以上に食い下がっていたし、即興とは思えない連携も見せた。それにはセリスも素直に賞賛の声を上げ、トドメの一撃をお見舞していた。
「僕、ちょっと二人の様子を見てきます!」
「あ、おい、今行くのはやめた方が──」
一応声をかけるジークだったが、ルクスは聞く耳を持たずに走り去っていく。
・・・・・・数秒後に悲鳴と乾いた音が聞こえてきたが俺のせいじゃない。
【続いての試合、サニア・レミスト選手、ジークフリート・エーレンブルグ選手、準備をお願いします。】
「さて、行きますかね」
その後の試合も恙無く進み、少し眠くなってくる。そんな時、ちょうどよく竜声による召集がかかり規定の場所へと移動する。機体の調子は確かめた。
問題はない、勝利は目前だ。
「これより個人戦第六試合、サニア・レミスト対ジークフリート・エーレンブルグの試合を執り行う。両者、接続を!」
「───来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」
サニアは剣を掲げ
だが、それを目にしたジークはその場を動こうとせず、
「エーレンブルグ教官?早く接続を」
いつまでも機竜を召喚しないジークに疑問を感じてライグリィは声をかけるが、帰ってきた答えは予想と違ってその場にいる全員を驚愕するものだった。
「まあ、待ってくれよ。一つ言いたいことがある」
「どうしました?今更ハンデが欲しいとでも言うつもりですか?」
ジークの煮え切らない態度に業を煮やしたのかサニアは挑発してくる。最もそんなものが通用するようならば、ジークは傭兵など出来ずにそこらで野垂れ死んでいる。
「逆だよ、ハンデをやる。好きなだけ出てこいよ。俺に勝てたら人数分ポイントをくれてやる。俺が勝っても一人分でいい、最高の条件じゃないか?何なら、俺が負けたら死んでもいい」
彼が口にしたことは自分を圧倒的不利に追い詰める自滅行為。冗談か?否、この男がそんなくだらないことを口になどしない。
暗に『お前一人だと役不足だから好きなだけ仲間を呼べよ、もっとも負けるつもりなど欠けらもないがな』と言っているだけだ。
無謀?自殺行為?否、否、断じて否。この男の目に敗北はない。不可能を成し遂げるだけの強烈な決意がある。不屈の精神が、この男ならやってしまうという凄味を出している。
演習場が彼の圧力に呑まれそうになったところで無知蒙昧な愚か者が舞台へあがる。
「馬鹿にするのもいい加減にしなさい!」
「いくら男とて、適性が低い
そう口々に出てきたのは五名。合計六名が彼の前に敵として立ちはだかる。慢心はしない、己の全力を以て相手を叩き潰す。全ては勝利をこの手に掴むため。
「───来たれ、不死なる象徴の竜。連鎖する大地の牙と化せ、《エクス・ワイアーム》」
口にしたのは
「なッ!?
「貴方は《ワイバーン》ではなくって!?」
先方から発する困惑の声など既に殆ど届いていない。だが、答えてやってもいいかと思い、返答を口にする。
「おかしなことじゃないだろ?誰が、何時、飛翔型が俺の本気って言ったんだよォ!俺の本気は元々
隙無く構える様はぎこちなさを感じさせない自然な物。嘘をついていないことを雄弁に物語っていた。
「本当にいいのか、エーレンブルグ教官」
「構わない、初めてくれライグリィ教官」
考え直すよう促すが悠然と構えるジークから無駄だと判断すると、短く嘆息をついてから気持ちを切り替えた。
「それでは、
開始の合図と共に車輪を駆動させ戦場を駆ける。
敵構成は飛翔型 三、陸戦型 二、特装型 一。
バランスが取れた構成だ。しかし、故に崩しやすい。初めに狙うは目の前にいる《ドレイク》。これを潰せば激的に戦況は変わるだろう。迷彩などを持つ存在を先に潰すのは戦いのセオリー言っても過言ではない。
「させません!」
だからこそこうして《ワイバーン》がカバーに入る。それこそジークは狙っていた。上段から飛び掛って振り下ろさんとする一撃は接触する瞬間、《エクス・ワイアーム》の挙動ごとブレ、《ワイバーン》を駆る女生徒に横から重い衝撃が走る。
「きゃぁっ!?」
何が起こったのか理解していない。だが、周りで見ていた者も理解しきれていない。
確かに剣は防がれそうになっていた。しかし、ジークの挙動はまるで地面を蹴ったかのように空中で加速し、懐に潜り込んでからの右脚蹴りを放ったのだ。
「一体どうやって!?陸戦型は飛べないはずなのに!」
「教えるか、バーカァ!」
近づくのは得策ではない判断した女生徒達は
まともに示し合わせずにこれだけ迅速な行動が取れるあたり、伊達に『
いやいや、この程度で勝ちを譲るわけねぇだろ。
もちっと工夫しろや、こんな風に!
いつの間にか両手に
「これなら!」
そう言って何本か
「甘いってぇの!」
同じようにジークは投げ返す。お互いの
「馬鹿な!?私たちの動きが読めるとでも言うのか!」
「これで、どうかしら!」
動揺の声が上がるとほぼ同時、背後から迫る気配と声。迷彩を使って近づいた《ドレイク》が剣を振るう。誰もがこれなら一撃入っただろうと思ったのも束の間、
「『
超高速の突きが後ろを見ずに突き出される。咄嗟に回避を取ろうとしても最早遅く、右肩の
「そんな!?これすら対応するというの!?」
ジークの表情に焦りはない。あと数分で
それから十数分、戦況は半場膠着状態と化している。未だ一度も攻撃を当てる事が出来ていない女生徒と、有効打を全て邪魔されて決定打に欠けるジーク。《エクス・ワイアーム》の活動限界など既に超えている。いつ強制解除が起こってもおかしくない臨界状態。
それでも尚、闘志は揺るがない。諦めるものかとその両眼に裂帛の意志を携えている。だからこそ、次善の策を打つ。
「はあ、参った、降参だ。俺の負けだよ、全く予想以上だ、油断した」
肩を大きく竦めて手を上げる。降参の合図のつもりだ。次いでとばかりに手に持っていた
訝しながらも少しずつ近づく《ワイアーム》を纏う女生徒。
もう少し近づけ・・・・・・。
「約束通り、殺してくれて構わんぞ」
「流石にそこまではしません、大人しく機竜を解除してください」
もっとだ、そのまま近づけ。
「どうせならあんたらにトドメを刺されて負けるって名誉をくれよ」
そこまで言われて信じてしまったのか《ワイアーム》はジークの目と鼻の先に立つ。
そこで異変に気づいたのはサニアだ。ジークの表情が負けを認めた悔しそうなものではなく、価値を確信して口角がつり上がっていることにハッとする。
「待って!今すぐその男から離れなさい!」
「え•・・・・・?」
言うが早いか《ワイアーム》は異音と共に切り裂かれる。下から上へ、逆袈裟斬りによって左装甲腕を切り跳ねる。
「ちっ、余計なことをしてんじゃねぇぞォ!」
左手に持った
陸戦型は空を飛べないのだから当然の戦法である筈だ。しかし、そんな常識知ったことかと、不条理を打ち砕く一つの刃はそこにいた。
「『慟哭・空踏』」
呟いた彼は一度跳躍すると二度、三度と
次々と常識を砕かれ唖然とするも直ぐ様行動に移したサニアは賞賛されるべきであった。
「堕ちろォ!『
空気全てが地面とでも言いたげな無茶苦茶な軌道を以て背後に回ったジークは、推進器の片翼を切り落とすことで自由落下をさせる。
それだけでは終わらないと鋭い眼光でサニアを射抜き、
「『
防ぐことは不可能だと本能が察したサニアは斜めに
「さあ、第二ラウンドと行こうか!」
陸戦型の常識を粉々にしたジークに多対一のセオリーは通じず、損壊した機体が二機もいるという状況で終始押されていた。
「危ない!足元を見て!」
左装甲腕をなくした《ワイアーム》を纏う女生徒に声をかける《ワイバーン》。そこは先程ジークによって穴を開けられた場所。平時ならばなんの問題もないが平衡感覚をなくしたと言える《ワイアーム》ではバランスを保てず転倒してしまう。
「余所見をする余裕があるのか?」
救援に向かおうとする《ワイバーン》へと『空踏』で接近し、今出せる全霊の一撃をぶちかます。
「斬り落とせ!『雷切』ィィ!」
その途方もない威力の代償か、一度で
地面に着地した途端、射撃しようとするがその手が止まる。ジークの──いや、《エクス・ワイアーム》の装甲腕には装甲の六割が吹き飛び、ボロボロとなった《ワイバーン》が掴まれている。
「撃てねぇか?撃てねぇよなァ。大事なお仲間だもんなァ。はっ!仲良しこよしやってんじゃねぇぞォ!甘めぇんだよテメェら!」
ジークは挑発する。そんな甘さでは真に大事なものを守れないことを知っているから。どこかで妥協しなきゃ取り返しのつかないことになるぞと解らせてやるために。
「俺に勝つんじゃねぇのか!最初の威勢はどこに消えちまったんだ、アァ!?」
温室育ちの貴族には理解できないとわかっていても、やはり言わなければ自分の気が済まない。己という悪を倒して見せろと、お前達にはそれが出来るはずだと、さもなければ失うのみ。
「どうしたどうしたァ!攻撃の手が緩いぞォ!そんなもんじゃ守れねぇ──」
「はぁッ!」
《ワイバーン》を持って死角となっていた場所から接近したサニアは横一閃。見えていなくとも障壁で防御される筈の一閃は、防がれることなくジークの薬指と中指の間を抉り、そのまま肘まで骨ごと斬り裂いた。
「きゃあぁぁああぁあぁッ!?」
骨が砕かれる不快な音と共に大量の血が飛び散る。その現状を見て顔を蒼くする者、嘔吐する者、卒倒する者と様々だがアイリは悲痛な面持ちでジークを見つめ、祈っていた。どうか無事であって欲しいと、兄以外に抱かなかった感情を彼に感じながら。
「はっ、ようやくまともに入ったな。これでお前らは善戦しましたって箔が付いたなァ!」
嘘だ。本当は防御しなかったのではなく、出来なかった。最早ジークと《エクス・ワイアーム》に障壁を張る余力すらなかった。
しかし、代わりにひとつ確信が持てた。
コイツ、自分がやった割に動揺が少ねぇ。この学園の生徒ならありえないことだ。
つまり、このサニア・レミストとかいう奴は学園の生徒じゃねぇなァ!
「救護班今すぐ担架を──」
「要らねぇよ!まだ終わってねぇ。そうだ、その意気だ。守りたいなら死ぬ気で殺らなきゃなァ」
ライグリィが救護班を呼ぼうとするが要らんと突っぱねる。
とっくに限界を超えて肉体はズタボロ。いくつか血管は破裂しているし、筋肉断裂の音も聞こえた。正常な骨を探す方が難しいぐらい骨も砕けた。場所によっては文字通りの粉々だろう。
それに伴い、全身を駆け巡り続ける激痛。今すぐ叫びあげたいほどのそれを
これで敗北?──いいや、否!
まだ終わらない、まだ終われない。
昔、祖国で平和に暮らしていた頃に初めて解読した古文書。それに記されていたのは子供には難しい英雄譚。だが、当時既に精神が大人びていた自分は理解できた。
遥か昔に生きていたとされる一人の英雄。『悪の敵』になりたいと願った男は幼き自分にはカッコよく見えて、何よりも憧れた。
自分は彼のようにはなれない。悪が何より許容できないわけでも、民のためにと滅私奉公の精神など持っているわけでもない。
それでも、その生き方を真似出来ずとも、在り方ならば。どんな苦境だとしても諦めないその精神ならば、自分にだって真似できる筈だ!
あの『光の英雄』にできて、俺にできない筈はない。
「諦めて下さい、エーレンブルグ教官」
「いいや、
決死の覚悟で放たれた一言でジークから考えるのも馬鹿らしくなる闘志が湧き上がる。不屈の意思は尚も上昇し、そこにいるだけで押し潰されると錯覚するほどの重圧を放ち続ける。
限界など知ったことか、気合いでいくらでも超えてみせよう。
死ぬ?否、ここで終わるつもりなど微塵もない。
ここに降誕するのは英雄などではない。
故に、紡がれるのは英雄譚ではなく、
只人による邁進劇だ。
獣と化した男に不可能はない。ここにいるのは英雄ではないが限りなく近いもの。
本能が全力で逃亡を推奨する。
これはダメだ。人が勝てる相手ではない。
恐れ戦き、離れようとするが、何かによって背後から突き飛ばさる。
「今度は一体なんなんだ!?」
後ろを見た彼女達の視界には何も映らない。
視線を戻そうとした時には横にいた筈の《ドレイク》が消えている。
《ドレイク》がいた場所にはワイヤーのようなものが通っている。片方は《エクス・ワイアーム》の腰部装甲と繋がっていて、まるで尻尾のようだった。もう片方は演習場の端にある壁に突き刺さっており、そこには《ドレイク》が強制解除された生徒が倒れている。
「まさか、今の一撃でやったのか!?」
慌てたように
その間に彼は腕の応急処置をする。自分の服を破いて操縦桿と腕を巻き付けて固定するだけという粗末なそれは、動かせればそれでいいと言っているようなものだった。
そして、射撃が止んだ瞬間、彼は大きく跳躍する。
目で追っていたはずなのに彼女たちの視界から彼は消える。
「『
人間の無意識に己の存在を滑り込ませたジークは見えていても認識できない。だから今まで目の前から消えたように見えていたのだ。
獣のような動きで背後に回ると
また一人、確実に急所を刺したことで《ワイアーム》が強制解除される。
最早狂乱した残りの四名は我武者羅に撃ちまくる。
ジークは被弾するが知ったことかと肉薄する。
「ひッ!?ッッッッッッ!?!?」
声にならない悲鳴を上げた《ワイバーン》を纏う女生徒は
それは確実に装甲を剥がし強制解除まで無理矢理持っていく。ヘッドギアの竜を模した頭部は紅い眼光を放ち、残り三名を睨みつける。
「あ、悪魔めッ!」
「化け物が・・・・・・!」
「だ、誰か、助けて・・・・・・ッ!」
「どうとでも言うがいい。俺は負けない、何があっても。“勝つのは俺だ”」
そう言い残して彼女達は半ば意地の特攻をかける。
それに敬意を評したジークは正面からぶつかり、
情けも容赦もない無慈悲な蹂躙。
「今すぐ担架を!彼を医務室へ!急げ!」
ジークが《エクス・ワイアーム》を解除して静まり返ったこの場に最初に響いたのはライグリィの凛とした声。しかし、焦っているのかいつもより声を荒らげている。
「不要だと言っている。彼女達を運んでやれ」
そういうジークだが彼の方がよっぽど酷く、唇の端から血が垂れている。臓器も幾らかやられている証拠だろう。
先程よりは鳴りを潜めているが、刺し突く雰囲気はまだ残っている為、救護班も迂闊に近づきたくなかった。左腕を抑えながらジークは数秒、どこかを見つめそのまま演習場を後にした。
見つめていた先、それはお願いをしてきたアイリがいた。
アイリは何が彼をそこまで駆り立てるのか酷く気になった。思考の七、八割はそれで埋め尽くされていると言っても過言ではない。
そして、彼の助けになりたいと思う自分がいることに気付かずにいた。
●〇●〇●〇●〇●〇
演習場から少し離れたところにある井戸。本来は訓練の汗を軽く流すためにあるのだが、そこでジークはブチギレていた。
「クッソがァァァ!!痛ってぇじゃねぇか!何回か死んでたぞあれ!」
さっきまでの厳格な雰囲気はどこへやら、いつもの調子に戻った彼は痛みで悶絶して当たり散らしている。
尤も、どちらが素の言動かと聞かれればさっきまでの方と答えよう。
この全てを小馬鹿にした態度は心を守る過程で無意識に作りだした仮面の性格。本来は冗談は好まず、敵であろうが相応の志を持つ者、努力をする者に敬意を払う真面目な性格である。
故に、泣いている子がいれば味方になるし、
虐げられた者がいれば助けに入る好漢と言える。
今はその当時の面影が少ししかないだけで決して冷徹ではない。アイリのお願いを聞いたことからもそれは伺えるはずだ。信じて欲しい。
「身体、大丈夫?」
「あぁ?大丈夫に見えたらお前は相当頭がイカレてるぞ」
突然聞こえた声に当たり前のように返したがよく考えよう。
・・・・・・今俺は誰に返事をした?
嘘だと信じて声の聞こえた方をゆっくりと向く。
そこにはいつも通り眠そうな──なんてことはない真面目は表情でこっちをジッと見つめるフィルフィの姿があった。
「ウオォォォッ!?学園長の妹!?」
素っ頓狂な声が出たが許して欲しい。
後ろにいつの間にか立たれていたら誰だって驚くだろ。
「な、何でてめぇがここにいる?」
「先生がこっちに歩いてくるの、見えたから」
どうやらバッチリここまで来たことを見ていたらしい。ということは必然、最初の愚痴も聞こえていたわけだ。
「クソっ、敵意がない奴は本当にやりにくい」
「・・・・・・どうして嘘をつくの?」
「──は、はあ?一体なんのことだ?」
ギクリとするジーク。まさか気づかれたかとも思うが、カマ掛けかもしれないと敢えて平静を取り繕う。
「先生、『
「俺が伝説の傭兵だァ?何かのまちが──」
「気づいてるから嘘つかなくていいよ。後、多分アイリちゃんも気づいてると思うよ」
自分の発言をバッサリ切られ断言される。この子、結構強引なところもあるんだなと思いつつ、サラッと流しそうになった重要な部分を聞き返す。
「あの子も気づいてるってマジ?」
無言で頷くフィルフィ。この状況で嘘を言う理由もメリットもないことからほぼ確実に真実と言っていいだろう。俺の経験と勘が囁いている。
「ウッソだろ、うわー、マジかよ。じゃあ金を渡してお願いしてきたのってそういう──何それ、逃げ場ないじゃん」
つまり、彼女は依頼達成の暁に殺される覚悟の上だってことだろ?何それ、絶対殺せないじゃん。というか殺させないわ、そんな健気な子。
お兄ちゃんちょっと嬉しいわー。そういう子に育ってくれてほんと嬉しいわー。
驚愕の事実に本気で現実逃避を始めたジークの左腕を、フィルフィは思いっきり摘む。
それはもう酷い激痛が襲い掛かる。
「痛ったァ!?ッッ〜〜〜〜、そうだった。まだ治していないんだったな」
「それ、治るの?」
「ああ、問題ない」
敵意がない相手にはかなり警戒心が薄いらしい。
「ちょっと離れとけ。───覚醒せよ、恩恵授ける叡智の蛇神。破滅と安寧を与えたまえ《■■■》」
接続されたのは銀色の神装機竜。旧帝国と新王国のどちらにも恐れらる傭兵、『
「《
神装機竜の装甲の隙間、紫色の光が漏れるそこから大量の粒子が溢れる。
それこそ、反乱軍百機、
破裂した血管が、断裂した筋肉が、砕けた骨が、グチャグチャになった内臓が、元通りに修復されていく。初めからなかったかのように跡すら残らず傷は消えた。
元素変換・粒子操作
それがこの粒子の正体。あらゆる元素へと変換できる粒子は核爆発を起こすことも可能だった。尤もそれは、実験として適当に元素変換をしていたら発生した現象で、偶然の産物でもあった。
しかし、いくら元素変換ができても常人では傷を癒せない。それは常人では肉体を構成する物質、質量を把握しきれないからだ。
だが、ジークはそれを成し遂げた。必要なことだったから何度も書物を読み返して記憶した。
故に、ジークは何の問題もなく肉体を再構成できる。
「まあ、こんなもんだろ。おい、天然娘。このことは絶対誰にも言うなよ」
「分かった、絶対誰にも言わない」
「イマイチ信用ができな──ってお前・・・・・・何だ、お前も存外こっち側か」
信用しきれないジークはフィルフィの顔を覗き込むが、何か分かったのか疑うことをやめて信用することにした。
彼女は絶対誰にも言わない。その保証がアレにはあった。
いつもより長くなったし、難産でした。
そして、どうしてこうなった(二度目)
いや、ほんと。何でですかね?
死にかけでも諦めない精神を持った結果、トンチキが生まれ始めたんですけど。
何はともあれ、ヒロイン化が進むアイリとオリ主を認めてくれそうなフィルフィの2人でした(チャンチャン)
あ、
・・・・・・《エクス・ワイアーム》の
最後に、感想ください!(切実)
一言でも、励みになりますんで!
では、次幕の