キリが悪いです。
それではどうぞ
「うあわあぁぁあぁあっ!」
建物の外へ抜けたルクスは、土の道を疾走する。
二機の機竜から逃れられたと思ったのも束の間。
特装汎用機竜《ドレイク》を纏った3人目の少女──ノクトが追いかけてきた。
飛翔型の《ワイバーン》、陸戦型の《ワイアーム》に対し、特装型に分類される《ドレイク》は、迷彩、索敵、支援、補助、修復など特殊機能を備えた機体は、基本性能こそやや低めだが、特定状況下では他の二種を凌駕する。
頭部に装着したゴーグルにより、暗闇の中でもはっきりとルクスを視認できるため、ノクトは正確に追いかけてきた。
「止まりない。止まらなければ撃ちます。止まってくれれば優しく撃ちます。」
冷静な口調で有り得ないことを口走るノクト。
スピードは言うまでもなく、ノクトの方が速いが、ルクスは木々の多い茂みを縫うようにして走ることで追走の勢いを削いでいた。
そんな彼女に振り向かずに訪ねた。
「優しくって、どういうこと!?」
「Yes.死なないといいなぁ。的な意味です」
「気持ちだけの問題だったんだ!?」
「Yes.あと、なるべく苦しまないといいなぁ。的な意味でもあります」
「何でもう殺してもやむなしって空気なの!?」
ルクスに止まれない理由ができた。
止まったらほぼ確実に殺されるだろう。
あと、正体がバレたらとんでもないことになるだろう。
「Yes.──なら、仕方ありませんね」
物騒な呟きを漏らすと共に
対
トリガーを引く気配を察したルクスは斜め前方へ飛ぶ。
姿を隠すための暗闇から、明るく照らされた正門への道へ。
そこには、通り道を照らすための篝火があった。
「ッ・・・・・!?」
瞬間、ノクトは装甲のゴーグルを、自分の手で遮った。
感度を上げた視界では眩し過ぎたからだ。
「Yes.《ドレイク》特性は知っているようですね。ですが、それだけじゃ──」
すぐに《ドレイク》の視界感度を調整し、再び
「──!?」
眼前に火が迫っていた。
篝火の一部であった、一本の薪。それを掴んだルクスが、後方のノクトに向けて投げていたのだ。
「くうっ・・・・」
慌てて装甲腕を振るい、薪を弾く。
本来、攻撃にもならない目眩しの投擲。
だが、急停止した僅かな隙に正門近くの道に辿り着く。
ちょうどそのとき、ノクト達と同じ制服を着た少女が、ゆっくりと正門から女子寮へ歩いてきた。
巻き添えにする危険がある以上、撃つことはできない。
頭の片隅でそう考えながら、ノクトは驚愕していた。
「どうして?有り得ない・・・・、です」
いくら手加減をしていたとはいえ、生身で機竜使い三人から逃げおおせるとは思えない。
「何者ですか?あの少年は──」
「よかった、これで何とか──」
背後でノクトが銃を下ろすのを、ルクスは軽く振り返って確認する。
このまま逃げていいわけないのだが、背に腹はかえられないんだろう。
そう思ったとき、気づけば目の前に少女がいた。
美しい少女だった。
すらりとした細身の身体と、端正な顔立ちに、冷たい瞳。
まるで完璧な美術品のように、そこに立っていた。
「追わなくていいわ。私が止めるから」
「クルルシファー、さん・・・」
目の前の少女は、軽く右手を上げて、後方のノクトに声をかける。
あまりに迷いのない動作に、ルクスは思わず足を止めてしまった。
「はぁ、はぁ・・・・。あの・・・・これは、誤解で──」
建物から聞こえてくる悲鳴を背に誤解を解こうとする。
「ええ、分かっているわ。随分可愛らしい覗き魔で、痴漢の下着ドロなのね。まだ子供じゃない」
「えっ・・・!?いや、違・・・・、僕は──」
すっかり誤解されてしまっているが、それよりも気になることがある。
動揺しつつも、気にしてることを言われルクスはカチンときていた。
確かに、同年代と比べたら小柄だが、目の前の少女と同じ年頃のはずだ。
なのに──。
「・・・・・これでも僕は十七歳なんだけど?そりゃ、顔は幼いって、よく言われるけど──」
自らの置かれた状況を忘れ、ルクスは反論する。
妖精のような少女は、ふいに悲しげな表情を見せた。
「・・・・・そう。でもごめんなさい。いくら子供でも、犯罪者を見逃すわけにはいかないのよ。」
「こ、子供子供って、さっきから人が気にしてることをっ・・・・!?」
この
これでもルクスは、毎日牛乳を飲んでいるのに身長が全く伸びないことを、割と本気で危惧しているのだ。
いきなり大浴場に突っ込んで言い訳できてない自分が全面的に悪いのは分かる。
それでも、子供扱いされて全く気にしないほど大人になりきれていないのだ。これは、本人のプライドの問題だった。
白兵戦の訓練だって、それなりに積んできたつもりだ。
なら──。
その子供でもそれなりにできるってところを見せようと意気込む。
もちろん、ビビりなルクスに女性に手を上げる気概など、ある筈もないので、逃げに
「・・・・・・はっ!」
気合を込めて、ルクスは勝負を仕掛ける。
フェイントを左にかけ、ターンして右へ。
抜きさった、とルクスが確信した瞬間──、
「──甘いわね」
クルルシファーと呼ばれた少女の声と同時に、天地が逆転した。
「え──!?」
疑問を感じる間をなく、全身に衝撃が走る。
それが、クルルシファーに投げ飛ばされた衝撃だと気づくのにそう時間は掛からなかった。
「それじゃ、後は任せたわ。私はお風呂に行ってくるけど、もう覗き魔はいないわよね?」
淡々とした声が聞こえた直後、ルクスの視界が暗転する。
こうして、自身に降りかかった不幸を、経験と知識で乗り越えようとしたルクスの逃走劇は、呆気なく幕を閉じた。
これでプロローグは終了です。
次回から本格的に始まると思います。
それでは、
また次回会えることを楽しみにしています。