IS〜古都国最凶と蛇と成りて舞う一夏〜   作:第八天黒鴉

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はい。
今回から物語が動き出します。

感想なんかを頂けたら嬉しいな〜、
とか思ってます。
誤字脱字報告も待ってます。

それではどうぞ


第1章〜再会する『黒き英雄』と『銀の厄災』〜
第1話 巡り逢う者・動き出す歯車


翌日───城塞都市(クロスフィード)

 

「ここが新王国の城塞都市(クロスフィード)か。初めて来たけど、案外広いもんだな」

 

朝から賑わいを見せ始める街に、一人の大柄な男が立っていた。

この国では珍しい黒髪黒目に、これまた珍しい黒コートを着込み、物珍しそうに辺りを見回している。

目立ちそうなものだが、何故か人々は彼に目を向けない。

まるで──、

()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて、と。あの野郎に渡された紙によると、仕事場は王立士官学園(アカデミー)の機竜整備士で、偽名はジークフリート・エーレンブルグ。・・・・語呂悪くねぇか?──ん?えっと、『採用面接があるからあとは自分でどうにかしろ』、だと?巫山戯(ふざけ)んなよ」

 

何とも無責任な物言いに若干苛立ちながらも、男─ジークフリートは歩き出す。

 

「仕事は仕事だ。しっかりこなしますかね。先ずは王立士官学園(アカデミー)に向かうか」

 

そう言いながら、人混みに紛れるように姿を消した。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

「はぁ・・・・やっちゃったなぁ」

 

薄暗い地下室で目を覚ましたルクスはそう言葉をこぼした。

石壁と鉄格子で囲われた、簡素な独房。

手枷や足枷は付けられていなかったが、所持品は全て没収されていた。

腰に差していた二本の機攻殻剣(ソード・デバイス)はもちろん。ナイフや工具一式などの、逃亡の手助けになりそうなものもなくなっている。

 

「まいったなぁ。今日も仕事の予約が入ってたのに・・・・、」

 

ため息を一つして、よくよく考えればそれどころではないことに気づく。

 

「ていうか、僕の正体も完全にバレたよなぁ・・・・」

 

ルクスの特徴的な白銀の髪。そして、新王国の恩赦を受けた『咎人』を示す、黒い首輪。

これだけで、既に素性は特定されてしまっただろう。

永きに渡り圧政を敷いたアーカディア旧帝国。

その生き残りの皇族であるルクスに課せられた釈放の条件とは、「あらゆる国民の雑用を引き受ける」というものだった。

雑用の内容は多岐にわたるが、『便利なヤツだ』と認められ、一ヶ月後のスケジュールまでみっちり詰まっていた。

今回も新しい依頼をこなすため、ある場所に向かう予定だったのだが──。

 

「どうみても、仕事に間に合わないよなぁ・・・・」

 

唯一没収されなかった手帳を見ながら、ルクスはぼやく

 

「一度約束した仕事をすっぽかすと、借金がまた増えちゃうしなぁ。一体どうしたら──」

「お目覚めかな?王子様」

「うわっ・・・・!?」

 

ふいに聞こえたこえに、ルクスはドキッとする。

声のした方に目を向けると、いつの間にか一人の少女が立っていた。

一部を黒のリボンでくくった金髪と、剣先のように鋭い真紅の瞳。

白を基調とした制服に身を包み、どこか影のある笑みを見せている。

 

「えっと、君は──」

 

やや身長が低めのルクスより、更に小柄な少女。

にも関わらず、少女の存在感は恐ろしく強かった。

不敵で、絶対的で、強烈な自身をまとっている。

 

「昨晩は助けてくれてありがとう。ついでに、素晴らしい口説き文句だったぞ?思わず惚れてしまいそうになるほどにな」

「・・・・ああっ!?」

 

瞬間、ルクスは声を上げる。

昨晩、ルクスが浴場に落ちた際に、勢いで組み伏せてしまった、(くだん)の少女だった。

少女の怒気を孕んだ気配に、ルクスは冷や汗が流れた。

 

「ふっ。まあお前に言いたいことは死ぬ程あるけどな。その前に学園長から話があるそうだ。ついて来い」

 

金髪の少女は牢の鍵を開けながら告げる。

 

「・・・・学園長、って?」

「ほう。純朴そうな顔をして、口も立つようだな。知らずに忍び込んだとでも言うつもりか?この学園(アカデミー)の女子寮に」

「え、ええぇぇえぇえっ!?」

 

少女の返答にルクスは驚きの声を上げる。

慌てて手帳を開き、今日の日付を確認する。

 

【仕事場】城塞都市(クロスフィード)王立士官学園(アカデミー)

【依頼主】学園長、レリィ・アイングラム

【仕事内容】新王国・第4機竜格納庫の機竜整備

 

「ま、まさかここって。僕が今回、働きに来る予定だった──」

 

アティスマータ新王国が設立した、機竜使い(ドラグナイト)の女学園。

昨日、襲い掛かってきた少女達が、機竜を使っていたのはそのせいか。

それに、今更気づいたルクスが、半ば呆然と立ち竦んでいると、

 

「リーズシャルテ・アティスマータ」

「え・・・・?」

「私の名だよ。新王国第一王女──通称、朱の戦姫。お前の帝国を五年前に滅ぼした新王国の姫だ。よろしくな、()()()

 

ぽん、とにこやかに少女から肩を叩かれる。

その目は半分笑っていなかったが。

 

「ええぇぇえぇぇえっ!?」

 

再び、ルクスの絶叫が地下室に反響した。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

「それじゃ結局、今回のは不幸な事故、ということでいいのよね?ルクス・アーカディア君?」

 

学園長室へ通されたルクスはこれまでの経緯を話すと同時に、仕事場であるこの学園の説明を、学園長のレリィから受けていた。

ここは、新王国が管理する、機竜使い(ドラグナイト)士官候補生の学園。

いわゆる士官を育成する場所であり──。

 

装甲機竜(ドラグライド)に携わる人間を育成する学園、ですか・・・?」

「そういうことになるわね」

 

装甲機竜(ドラグライド)構造(メカニズム)はまだ殆ど解明されていない。

遺跡(ルイン)で発掘された古代兵器であることと、ある事情によって、遺跡(ルイン)の調査自体が中々進んでいないのが主な原因だ。

だがそれでも、『技術が解明しきれていない』という理由から使用を控えるには、あまりに途方もない力を秘めていた。

 

装甲機竜(ドラグライド)が、遺跡(ルイン)より発見されて十余年。私達女性は旧帝国が敷いてきた男尊女卑の風潮と制度により、その使用は、ほとんど禁じられていたわ。でも──」

 

レリィが言葉を区切ったところで、ルクスの隣に立っていたリーズシャルテが口を開く。

 

「五年前のクーデターで新王国が設立したのを境に、その認識は一変。操縦に使う運動適性はともかく、機体制御自体の相性適性は、女の方が遥かに上というデータが報告され、以後、専門の育成機関で、他国に負けない機竜使い(ドラグナイト)の士官を揃えるべく、その育成に力を注いでいる──というわけだな」

「ええ、その通りです」

 

その辺の事情や、機竜使い(ドラグナイト)の育成機関があることはくらいは、ルクスも知っていた。

 

「で、でも、何で僕なんかが呼ばれたんですか?」

 

仕事の依頼について、困惑した表情で聞くと──、

 

「あらあら。かの『無敗の最弱』ともあろうものが、随分と謙遜するのね」

 

『無敗の最弱』とは、王都のコロシアムで定期的に行われる公式模擬戦(トーナメント)

戦績によっては賞金も出るその場で、最多の出場回数を誇り、その戦闘スタイルからルクスに付けられた異名であるが──。

 

「この学園でも屈指の実力を使い手であるリーズシャルテさんにも劣らない実力でしょう?決して場違いな仕事じゃないと思うけれど?」

「ほう・・・・」

 

レリィの言葉が不服だったのか、リーズシャルテの肩がぴくっと震える。

 

(あ、これ。地雷踏んだかも・・・・)

「そ、そういうことじゃなくて、ここって女学園ですし、僕が仕事なんて──」

「残念だけど、人手が足りないのよ」

 

ルクスが反論する前にレリィが答える。

 

機竜使い(ドラグナイト)の歴史はまだ浅いでしょう?長年、装甲機竜(ドラグライド)を独占してた旧帝国の使い手は、大半がクーデターで死んでしまったし。となれば、不本意といえど、男の協力者を招くしかないのよ。機竜整備士も機竜使い(ドラグナイト)もね」

「・・・・僕は、整備の方はほとんどできませんよ?」

「これから覚えてくれればいいわ。使い手として予備知識があるだけでも貴重なのよ」

 

レリィは即答する。何がなんでもここで仕事をして貰いたいようだ。

まるで、婚期目前の女が男を狙う、必死さのような執念を感じる。

 

「この学園の敷地内にある、新王国第4機竜格納庫。あなたの働き口はそこだから、今日から週三回、通ってもらうわ。汚れるし、重労働だし、怪我の危険もあるわ。良家のお嬢様達にそんな仕事させられないでしょう。あなたも男冥利(おとこみょうり)に尽きると思わない?それに、整備士が一人住み込みで増える予定だから安心して」

 

からかうような声で、レリィは微笑んだ。

 

「・・・・・・・」

(相変わらず、強引な人だなぁ・・・)

 

と、ルクスは苦笑いを浮かべる。

内心でため息をついてると、レリィはひとつ、深呼吸をして、

 

機竜使い(ドラグナイト)としてのお仕事も、考えているから、それもいずれ──ね」

 

そう、話がまとまろうとしたとき、

 

「学園長。少しいいか?」

 

ふいに、リーズシャルテが手を突き出し、話に割り込んできた。

 

「話は分かった。だが、()()はまだ、この男を認めたわけではないのだが?」

 

その口端は、微かな笑みを作っていた。

 

「・・・・・・」

 

ほんとにお姫様何だろうか、この子。などと、失礼なことを考えるルクスをよそに──、

 

「私の疑いは晴れていないぞ。この男は覗き魔、痴漢、下着ドロの変態で犯罪者だ。そんな『男』をこの学園で働かせるなど有り得ないな。というか、先ずは軍に突き出す方が先だ。司法の場で裁かれ、臭い飯を数年食ってから外の空気を吸うがいい!」

「い、いえっ、ですからそれは誤解で──!?」

 

ルクスは反論しようとするが、一睨みされただけで、口を噤んだ。

 

「なるほど、猫を追って偶然風呂場に乱入したと言っていたな。だが、それはどう証明する気なんだ?学園長。信用に足らない犯罪者を匿うのは、かえって危険だと思うが?」

 

「そうねぇ。私は付き合いがあったから、ルクス君のことはよく知っているけど──」

レリィは、苦笑しながら答える。

 

「今回の騒ぎを、本当に偶然起こしたと、断言はこれっぽっちもできないものね」

「そこは断言してくださいよ!?」

 

やや涙目で、ルクスは訴える。

ここに味方はいないようだ。

 

「でも実際、故意かどうかと言われると、誰にも証明できないのよね。なら、本件の被害者でもあり、二年の首席であるリーズシャルテさん。彼の処分は、あなたの裁量に任せてもよろしいかしら?」

「えええっ!?」

(何で任せちゃうんですか!?)

 

という魂の叫びは、誰にも聞かれることなく、ルクスの中で消化される。

ルクスは新王国設立時の恩赦として、仮釈放されてはいるが、同時に交わした契約で、国家予算の五分の一に相当する額の借金を負わされている。

そんな『咎人』のルクスが、更に犯罪者になるのは、とても都合が悪いのだが──。

 

「ふっ」

 

ルクスが慌てるのを見たリーズシャルテは、小さく鼻で笑い、

 

「じゃあ、そうだな。ではお前にも一度、名誉挽回の機会をくれてやろう」

「・・・・えっ?」

「お前が本当に『男』の機竜使い(ドラグナイト)として、この学園で働くほどの価値があるヤツか。単なる変態じゃないのか。その気概と実力を私が試してやる。」

「それは、あまりにも横暴な勝負だな。新王国の姫さんよぉ?」

『っ!?』

 

突如、学園長室に響く若い男の声。

全員が入口に顔を向けると、扉はいつの間にか開いており、一人の男と少し離れたところに学園の生徒が大勢立っていた。

 

「貴様、何者だ!侵入者かっ!」

 

リーズシャルテが、男に問うと──。

 

「あ?・・・・整備士の面接に来たモンだ。門番には話を通してるぞ」

 

そう言って、男は許可証を掲げた。

 

「あら、もうそんな時間?ごめんなさいね少し、待ってもらえるかしら?」

「・・・・私が横暴とはどういうことだ?」

 

レリィは悪びれずに答え、リーズシャルテが先程の男の発言に突っかかる。

 

「どうもこうもねぇよ。てめぇは試すと言った。それはつまり、そこの雑用王子が勝とうが負けようが、認めないと言えばそれでお終いなんだよ。」

 

確かにその通りだが、リーズシャルテがそんな大人気(おとなげ)ないことをするとも思えない。と、ルクスは感じた。

 

「・・・・いいだろう。私に勝てば無罪放免で働いてよし。勝負は装甲機竜(ドラグライド)を使った短時間一騎打ちの模擬戦。それでいいな?」

 

最後の一言は部屋の外にいた生徒達に向けて放たれたものだろう。

 

「学園の皆に伝えろ。観客は多いほどいいぞ。新王国の姫が、旧帝国の王子をやっつける見世物はな」

 

きゃああああっ。

と、それを聞いた女生徒たちは楽しそうな声を上げて去っていく。

 

「自信満々だねぇ?負けたときに恥ずかしいぞ」

「いちいち癪に障る男だな・・・・、貴様は」

 

いやらしい笑みを見せる男に、一言残してから部屋から出ていくリーズシャルテ。

 

(何か、この二人の喧嘩みたいになっちゃってない・・・?)

 

話に置いてかれ、ルクスは諦めつつも苦笑する。

 

「ところで、ルクス君。彼の面接があるから、貴方にも出ていってもらわなきゃなんだけど、決闘の前に寄って欲しい場所があるの」

「えっと・・・・どこにですか?」

「すぐ近くの応接室よ。あなたの妹さんが、そこで待ってるわ」

「──えっ?」

 

驚きの声を上げるルクスに、レリィはただ、微笑を返した。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

ルクスも退室したことで、この場に残ったのは学園長とジークフリートの二人のみ。

お互い、面接をするとは思えないほど自然体だった。

 

「それじゃ、面接を始めましょうか。ジークフリートさん?」

「はい。そうですね」

 

先程の会話が嘘のように丁寧な口調で返すジークフリートに、レリィは少し驚いた表情を見せる。

 

「──切り替えがはっきりとしてるのね」

「よく言われますよ。最低限の礼節ぐらいなら、出来て当然かと・・・・」

 

すぐに顔を引き締めて彼に聞くと、この程度は当り前と返ってきた。

 

「機竜の整備経験はあるかしら?」

「標準的な調律から、微調整、複雑な調律など一通りはできます」

「へぇ・・・・。それは頼もしいわね」

 

想像以上の腕前に、少々粗暴なところが目立つがメリハリのついた接し方。仕事場の人達とも上手くやれそうな彼は採用か。と、レリィはそこまで考えたところであることに気づく。

 

「その腰に差しているのって、機攻殻剣(ソード・デバイス)よね?見たところ、普通の機攻殻剣(ソード・デバイス)じゃないみたいだけど──貴方は使えるのかしら?」

 

彼の腰には棒状の物が布に(くる)まれた状態で差してあったのだ。

その形状から機攻殻剣(ソード・デバイス)──それも、恐らく神装機竜のモノと思われた。

その事を彼に尋ねると、彼は懐かしいような、悲しいような表情を見せた。

 

「これは・・・・、知り合いに託されたモノなんです。確かに、神装機竜の機攻殻剣(ソード・デバイス)ですが、俺には使えませんよ」

 

死を想え(メメント・モリ)》であるこの男が、自分の神装機竜であるこれを、使えない訳がないのだが、それを知らないレリィは信じてしまう。

このとき、すでに男の策にはまっているとも知らずに──。

 

「そう・・・・。なら、大切にしなさい。それと、貴方は採用よ。今日から住み込みで、()()()()()()として働いてもらうわ」

「えっ・・・・?」

「えっ?」

 

驚愕の顔を見せるジークフリートに、疑問の顔を浮かべるレリィ。

 

「教官?俺がですか・・・・?」

「ええ。貴方には生徒達に整備の基礎を教えてもらいます」

 

さも当たり前のように告げるレリィにジークフリートは思わず詰め寄る。

 

「な、何でですかっ!?」

「調律って言葉はね、機竜使い(ドラグナイト)しか使わないのよ。だから、貴方は装甲機竜(ドラグライド)を使ったことがあるのよ──、少なからずね。なら、適任でしょ?」

「うっ・・・・」

 

図星をつかれたジークフリートはバツが悪そうな顔をする。

 

「・・・・分かりました。教官の件、(うけたまわ)ります」

「そろそろ模擬戦が始まる頃ね。私達も行きましょうか」

「はい・・・・」

 

最後の最後で出し抜かれたことに意気消沈しながらも、レリィと共に歩き出すジークフリート。心なしか目が死んでいる。

 

(面倒なことになったぞクソがっ!この仕事が終わったら一回?????をぶっ飛ばすっ!!)

 

心に誓う《死を想え(メメント・モリ)》であった。




今回はここまでです。
次回、戦闘シーン・・・だと思います。

それでは、
また次回会えることを楽しみにしています。
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