IS〜古都国最凶と蛇と成りて舞う一夏〜   作:第八天黒鴉

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遅くなりました。
決して、艦隊指揮をしていたとか、荒魂討伐していて執筆をサボったわけじゃないんです。

アズレンで綾波が出ません。
翔鶴、瑞鶴、雪風は出たのに何故か綾波だけ出てくれません。

戦闘描写は初めてなので上手く書けてるか心配です。

それではどうぞ


第2話 力の一端・暗躍する者

───王立士官学園(アカデミー)・演習場

 

学園敷地内にある、装甲機竜(ドラグライド)の演習場。

そこに、装衣を纏ったルクスとリーズシャルテが対峙していた。

中心のリングは低く、外側に向かって高く盛り上がった形状は、旧時代のコロシアムを彷彿とさせる。

観覧席には等間隔で石柱が築かれており、その上では生徒の機竜使い(ドラグナイト)数名が、常に障壁を展開して守っている。

 

「それでは新王国第一王女リーズシャルテ対、旧帝国元第七皇子ルクスの、機竜対抗試合を執り行う!」

 

審判役のライグリィの声と同時に、舞台(ステージ)が歓声と熱気に包まれる。

ルクスが周囲を見渡すと、相当な数の女生徒や教官が、この私闘とも言うべき決闘を、見物しに来ているようだった。

 

「何で、こんなに人が集まってるんだろう・・・」

 

大勢の学園関係者に見られて、緊張するルクスを視界の端に収めながら、新たな仕事場が決まった大人がするものじゃない、澱みきった目をしているジークフリートは嘆息する。

 

(こいつら暇すぎねぇか?──ったく・・・・雑用王子は珍獣か何かか?)

「理由を知りたいか?ルクス・アーカディア。私が何故お前に戦いを挑んだのか」

 

ジークフリートが心の中でちょっぴりルクスに同情していると、リーズシャルテが不敵に笑う。

王都のトーナメントとほぼ同じルールを使用しているため、まだお互いに装甲機竜(ドラグライド)を纏っておらず、リングの上に佇んでいた。

 

「──僕が旧帝国の王子だから?」

 

目の前の姫にルクスは問う。

男女と国、二つの因縁を孕んだ決闘。

確かにそれだけ見れば、これ程人目を引く見せ物はないかもしれないが、本当にそれだけだろうか?

 

「それは、私に勝ったら教えてやる」

 

ルクスは気になっていた。

確かにリーズシャルテは、好戦的な少女だろう。

だが、あのとき風呂場に落ちて彼女を組み敷いた直後、ルクスに向けていた視線はただの羞恥だけだはなかったはずだ。

 

「えっと。戦いの前に、確認してもいい?」

「何だ?怖気づいたか?今更命乞いは見苦しいぞ」

「命乞いって・・・・、僕を殺す気だったの!?・・・・じゃなくてさ。その、引き分けだったら、この勝負はなかったことにしてくれませんか?」

「・・・・・・」

 

一瞬の沈黙。

ふいに、リーズシャルテの気配が変わる。

 

「ふっ。私の気のせいかな?」

 

ルクスの問いかけに、リーズシャルテは蜂蜜色の前髪をかき上げ、微笑む。

 

「この期に及んで、寝言が聞こえたような気がするのだが」

「寝言じゃなくて、僕は本気で──」

「そうか。なら、いいぞ?」

 

リーズシャルテが目を細めて、機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄に手をかける。

 

「私の()()に気づいて言っているなら、それでもいい」

(へぇ・・・・ただのお姫様じゃねぇってか)

 

リーズシャルテの射抜くような視線に、ジークフリートは感心する。

 

「ルクス選手、接続の準備を!」

 

同時に審判役のライグリィが、ルクスを促した。

 

「・・・・・・」

 

仕方なく、ルクスは機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜く。

二本の色違いの鞘のうち、白い鞘から。

 

「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」

(グリップ)にあるボタンを押し、詠唱符(パスコード)を紡ぐ。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

更に呟くことで、機竜はルクスの身体を覆う。

多大な戦力を秘めた威光はしかし、瞬時に対面の、巨大な威圧感に呑まれてしまう。

 

「そのもうひとつの剣は飾りか?ルクス・アーカディア」

「ッ・・・・・!?」

 

リーズシャルテの身体が、見たことのない、赤い機竜に覆われていた。

ルクスの《ワイバーン》より更に巨大な、赤の機竜が、そこにあった。

 

「新王国の王族専用機。神装機竜──《ティアマト》。この機竜は、そこいらのものとはわけが違うぞ?」

 

神装機竜。

世界でそれぞれ一種しか確認されていない希少種の装甲機竜(ドラグライド)

使用時の疲労で死ぬことが珍しくない神装機竜は、新王国の法律で厳しく管理されており、相応の実力者しか持つことは許されていない。

性能はさることながら、操作難易度が桁違いなそれを扱えることこそが、無二の才能と弛まぬ努力の証明であった。

その脅威性を認識しながらも、ルクスは冷静だった。

それは、ルクスの《ワイバーン》が基本(ベース)こそ汎用機竜だが、装甲や武装を防御特化に改造しているからにほかならなかった。

賑やかに騒いでいた観客が、静まり返る。

ぴりぴりとした緊張の空気を破るように、ベルの音が響き渡った。

 

模擬戦(バトル)開始(スタート)!」

 

ライグリィの声と同時に、二機の装甲機竜(ドラグライド)がうごきだす。

《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが機竜息砲(キャノン)を展開しつつ上空に躍り出る。

それを追うようにルクスも《ワイバーン》を飛翔させるが、リーズシャルテの構えを見て中空に留まった。

 

「まさか、いきなり撃つ気か・・・・?」

 

動力たる幻創機核(フォース・コア)からのエネルギーを充填して放つ、高熱と衝撃を秘めた一撃は、家屋一件をゆうに吹き飛ばせる威力を持つ機竜息砲(キャノン)だが、発射までに『溜め』を要する分、回避や防ぎやすいという弱点を持つ。

現にルクスも充分回避が取れる距離にいる。

それゆえ、開始早々狙っていくものではないはずだが──。

 

「ふっ・・・・!」

 

そんなルクスの思惑を読んだかのようにリーズシャルテは笑った。

リーズシャルテは照準を、すっと、少し横に逸らし、

 

ドウンッ!

 

発射した。

うねりを帯びた高熱の光芒が、上空から地上のリングへ直線に向かっていく。

しかし、ルクスを狙ったものではないため、当然当たらない。

威嚇か?肩慣らしかのつもりなのか?

リーズシャルテの不可解な行動にルクスは僅かに硬直する。

 

「はっ・・・・!」

 

遥か上空にいるリーズシャルテは、ルクスを見下ろして、口元を弧に歪めた。

その左手には機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄が握られていた。

機攻殻剣(ソード・デバイス)装甲機竜(ドラグライド)を操るための操縦桿のひとつ。

それはつまり──、

 

「──ッ!?」

 

ふいに、大型の(ハンマー)に振り抜かれたような衝撃が、ルクスの横腹に走った。

《ワイバーン》ごと、側方に弾かれ、突き飛ばされる。

すなわち、リーズシャルテがあえて照準を逸らし放った、本来の砲撃。その軌道上へと、ルクスは押し出されたのだ。

 

「なッ・・・・!」

 

完全に虚を突かれたルクスは、瞬時に機竜牙剣(ブレード)を斜めに構え、砲撃の盾にした。

幻創機核(フォース・コア)からエネルギーを全力で注ぎ込み、刃に纏わせた。

本来、攻撃力を増幅させるために行う能力だが、そうすることで砲撃の威力を逸らし、自らも軌道上から弾き飛ばされた。

 

「う、あっ・・・・!」

 

吹き飛ばされ、空中を回転するルクス目掛けて、更に高速の何かが飛んでくる。

破損しかけのブレードを素早く振るい、で四つの飛来物を弾き飛ばすと、その何かは、上空に佇むリーズシャルテの周囲に戻っていった。

 

「あれは──!」

「ふむ。思ったよりできるな。」

 

《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ルクスはを見下ろし、不敵に微笑む。

その少し離れたところに、巨大な(やじり)型の物体が四つ、浮いていた。

 

「まさかあの体勢から、剣捌きだけで私の攻撃を躱すとはな。プライドが傷ついたよ。さすがは『無敗の最弱』といったところか?」

「な、なんて真似を──!?」

「おいおい。ありゃ、殺す気だったぞ!?正気かよ、あの姫さん・・・・!」

 

リーズシャルテを見上げて、ルクスは汗をかき、ジークフリートは驚愕の声を上げる。

 

「どうした?私の特殊武装についても、妹に聞いてのだろう?」

「そ、それは、そうだけど──」

 

神装機竜のみが使える、専用の特殊武装。

《ティアマト》が持つ特殊武装《空挺要塞(レギオン)》についてはルクスもアイリから聞いていた。

それは、《ティアマト》が制御(コントロール)する、小型の流線型金属で、それ自体が推進力を持つ、遠隔投擲兵器だ。

その厄介な性質故にルクスも警戒していた。

 

「・・・・くっ!」

(でも、いくら何でも、あんな使い方──)

 

開幕と同時に、リーズシャルテは飛翔しつつ、《空挺要塞(レギオン)》をルクスから隠して側方へ発射。

更に機竜息砲(キャノン)をルクスへと向けたのだ。

汎用機竜を、出力、性能共に上回る神装機竜。

それにいきなり主砲を向けられれば、誰だって意識がそちらに向かう。

更に、側方に発射することで、ルクスの意識を右側に逸らし、視界に入らないように迂回させた《空挺要塞(レギオン)》を左側からぶつけ、最大出力の主砲、本来の軌道上へ押し込んで攻撃する。

一撃必殺の計略。

一切の容赦のない、悪魔のような戦術。

何より恐ろしいのは、その一連の動作に、一切の淀みがないことだ。

どれほど優れた戦術でも、不自然な動きなら、その時点で察知できたし、避けられた。

だが、王都の模擬戦でも、ルクスはここまでの手合いと戦ったことは、ほとんどない。

本当に、新王国のお姫様なのか?この子は──?

 

「旧帝国第七皇子、ルクス・アーカディアよ」

 

ルクスが体勢を立て直していると、リーズシャルテの声が降ってきた。

 

「正直みくびっていたが、撤回するよ。お前は中々やるな?ちょっとだけ感動したぞ。だからな、今のうちに言っておいてやる。その壊れかけた《ワイバーン》を解除して、もう一本の機攻殻剣(ソード・デバイス)を使うがいい」

 

今までよりどこか優しい、親愛を込めた声色(こわいろ)

周囲の観客席から、小さなどよめきが起こった

 

「どんな装甲機竜(ドラグライド)か知らないが、半壊したそいつよりはマシなはずだ。見せてみろ、お前の全力を」

「・・・・・ええと。じゃあ、僕からももう一度、一言いい?」

 

リーズシャルテの言葉に、ルクスは上空を見上げる。

既に、ルクスのの主兵装である機竜牙剣(ブレード)は半壊、防御装甲も三分の一が削り取られ、充分な障壁も発生できない、

どう足掻いても、《ティアマト》の防御障壁と、厚い装甲を貫けない。

だが──、

 

「悪いけど──。こっちの剣は、使うわけにはいかないんだ」

 

それでも平然とした態度で、ルクスは言った。

 

「だから、このまま引き分けになったら、この件は手打ちにしてくれないかな?正直、他の仕事も立て込んでるし。お、お風呂のことは、ご、ごめん。謝るけど──」

 

リーズシャルテはルクスの言葉に、ひくりと眉を引きつらせる。

そして、頬どころか顔全体を赤らめて、ぶるぶると機竜ごと全身を震わせた。

ルクスはもちろん、本気で言っていた。

だが、『舐められてる』と、思ったのだろう。

 

「はっ。なるほど。ただの馬鹿ではないらしいな──この大馬鹿者め!」

 

リーズシャルテがいきなり、機攻殻剣(ソード・デバイス)を天に掲げ、叫ぶ。

 

「《ティアマト》よ!本性を(あらわ)せ!」

 

その声と同時に、大きなどよめきが波紋のように広がっていく。

その後、光と共に何かが転送されてくる。

普段はその不可故使用を控える付属武装(サイドウェポン)

主砲である機竜息砲(キャノン)よりも二回り大きな砲身。

それが、《ティアマト》の右腕部と右肩に接続された。

七つの竜頭(セブンスヘッズ)》。

その名の通り、七つの砲口が設けられた付属武装。

 

「踊りは得意か?ルクス・アーカディア」

 

絶対の自信と威圧的な笑み。

優雅な声を上げ、リーズシャルテは機攻殻剣(ソード・デバイス)を構える。

 

「私のダンスは、少々荒っぽい。楽しませてくれ、王子様」

 

その周囲には、先程まで四つだった《空挺要塞(レギオン)》が十六機に増えていた。

どうやらこちらの武装も、機攻殻剣(ソード・デバイス)で追加転送していたらしい。

これほどの武装を前に、ルクスの装備はあまりに貧弱過ぎた。

だが、武装を増やせば操作も複雑になることを知っているルクスは、僅かな勝機を見出していた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!リーズシャルテ姫!相手を殺す気ですか!?付属武装まで使ったら、もはや模擬戦の域を超えてしまう!」

 

それを見た教官達が、慌てて声を荒らげるが、

 

「だ、そうだが?負けを認めるか?」

 

リーズシャルテの問いに、短く、されどはっきりと──。

 

「いえ──僕からは、まだ」

 

そう答えるのだった。

 

「では、この場で果てろ!旧帝国の誇りと共にな!」

 

リーズシャルテが叫ぶと同時に、機攻殻剣(ソード・デバイス)を振るった。

先程まで、くるくると《ティアマト》の周囲を回っていた《空挺要塞(レギオン)》が一斉にルクスへ襲いかかっていく。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

リーズシャルテとルクスの激闘を、ジークフリートは観客席から眺めていた。

 

「結構やりますね──彼女。どうやら口先だけじゃなかったみたいですが──」

「そうねぇ。それでも、まともに戦えているのは、(ひとえ)にルクス君の実力かしら?」

「そうかもしれませんね・・・・。あの防御を崩すのは並大抵の実力じゃ無理そうですしね」

 

目の前で繰り広げられるハイレベルな戦いに、レリィとジークフリートは素直に感嘆の声を上げた。

 

「それで、ジーク君──」

「ジーク君?」

「長いからジーク君ね。・・・・で、元機竜使い(ドラグナイト)の貴方から見て、どっちが勝つと思うかしら?」

「引き分けになった際の勝敗が有耶無耶のままですからね・・・・、防御に徹した雑用王子に軍杯が上がるかと思いますが──」

 

レリィに問われ、ジークは答える。

如何に機竜適性が高かろうが、あれだけ特殊武装を多用すればすぐにガス欠を起こす。

そうなった場合、ガス欠を起こした《ティアマト》よりも、半壊状態の《ワイバーン》の方が動けると予想した。

 

「まあ、結果は神のみぞ知る──ですね」

 

そして再び、二人の意識は模擬戦に向けられる。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

時を同じく、ルクスの妹アイリと、三和音(トライアド)の三人も、観客席で見守っていた。

 

「あっちゃー。もう無理だよ!先生に言って、止めさせないと──!」

普段は軽い調子のティルファーも、流石に慌てたように言う。

シャリス、ティルファー、ノクトの三人は遊びも、勉強も、いつも一緒に楽しんできた幼馴染みだ。

特に、正義感の強いシャリスは進んで自警係に名乗りをあげた身だ。

男尊女卑の風潮は廃れつつも、人の意識は簡単には変えられない。

それ故に、暴動を起こす人間も少なくない。

だからこそ、男の犯罪者から生徒達を守ることに、誇りを抱いていたのだが──。

 

「まさか、こんなことになってしまうとは・・・・」

 

今となれば、騒ぎを大きくしてしまったことに、三人は少なからず後悔していた。

 

「済まない、ルクス君」

 

このままでは、敗北はもとより、ルクスの命が危ない。

リング上を縦横無尽に飛び交う無数の《空挺要塞(レギオン)》。

一瞬でも動きを止めれば、発射される超火力の《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》。

《ティアマト》と半壊した《ワイバーン》では、性能差がありすぎるのだ。

 

「あなたが気に病む必要はないですよ。シャリス先輩」

 

ふいに、隣にいたアイリが声をかける。

 

「あの一件は兄さんが勝手にやったことですから、自業自得です。半端な正義感なんてもっているから、余計な事件(トラブル)に巻き込まれるんです。一見繊細そうですが、ただのお人好しで単純バカな人ですから仕方ありません」

 

その端正な顔に微笑を浮かべ、さも当たり前のように、アイリは淡々と言葉を続けた。

 

「・・・・以外に面白い子だな、君は──」

 

その傍観ぶりに、シャリスは苦笑を返すと、

 

「でも、そんな兄さんにもひとつだけ、私も認める、とても良いところがあるんですよ」

 

アイリはそう言って、中央のリングをそっと指さした。

まるで、ささやかな自慢をするかのような笑みで、

 

「それは──?」

 

シャリスが聞き返し、リングに視線を戻すと、大きなどよめきと共に、それは見えた。

 

「一度決めたことは必ずやり通してみせることです」

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

演習場のリングの中で、激しい熱風が渦巻いていた。

発射された後、それ自身の推進力で攻撃を行う《空挺要塞(レギオン)》。

十六機からなる一斉攻撃を、ルクスは紙一重で躱していた。

 

「くっ・・・・ッ!?」

 

機攻殻剣(ソード・デバイス)を左手で振るい、それを操るリーズシャルテの顔に、焦燥が浮かぶ。

一方的な攻撃をしながらも、叫びたい気持ちを必死に飲み込んでいた。

空挺要塞(レギオン)》は一機も破壊されていない。

ルクスはただ、躱し、弾いているだけ。

半壊したブレードと、残された武装を巧みに使い分け、全ての攻撃を防いでいた。

攻撃そのものが、全く当たらないわけじゃない。

装甲も徐々に剥がれ、展開している障壁の出力もあと僅かだ。

残っている武装も《空挺要塞(レギオン)》を弾く度に摩耗し、壊れかけていた。

だというのに──勝てるイメージがまったくない。

これが、『無敗の最弱』たる所以か!

リーズシャルテが全力を出してから、ほんの五分。

いや、すでに五分なのだ。

神装機竜の全力を受け止めることなど、普通の汎用機竜では数十秒と持たないはず。

その驚異的な事実が、リーズシャルテの戦術思考を足止めしていた。

試合の残り時間は、あと三分ほどだが、このままではリーズシャルテの体力が先に尽きることが予想される。

 

「リーズシャルテ様っ!?」

 

呆然としていた頭に、観客席の生徒から、声が届く。

 

「くッ・・・・・!?」

 

思考に気を取られた瞬間、ルクスの投げたダガーが迫っているのが見えた。

回避は間に合わない。

 

「舐めるな!」

 

だが、リーズシャルテが機攻殻剣(ソード・デバイス)を眼前を指すと、ダガーは見えない力に弾かれたように起動を変え、地面に落下していく。

 

「・・・・!?」

 

その不可解な現象に、ルクスが顔色を変えた瞬間、リーズシャルテは息を吸った。

 

「ふっ。いいだろう、『無敗の最弱』!お前の腕に敬意を表し、拝ませてやる!我が《ティアマト》の神装をな!」

「・・・・・え?」

 

神装──。

その言葉を聞いた瞬間、ルクスはほんの一瞬、硬直する。

 

「神の名の下にひれ伏せ!《天声(スプレッシャー)》!」

 

高らかな声と同時に、リーズシャルテは再び、ルクスに機攻殻剣(ソード・デバイス)を指す。

瞬間、今まで高速で空を舞っていた《ワイバーン》が、地面に落ちる。

咄嗟に踏みこたえた装甲脚ごと足場が沈んみ込んだ。

 

「これは──!?」

 

神装とは、神装機竜にのみ秘められた特殊能力だ。

その能力は神装機竜の種類だけあると言われ、その多くは明かされていない。

アイリから聞いた情報にも、これはなかった。

装甲機竜(ドラグライド)と共に全身にかかった強烈な負荷、先程のダガーの起動から察するに、《ティアマト》の神装は重力制御のようだ。

だが、今更気づいたところで遅い。

ルクスの周囲を高速で《空挺要塞(レギオン)》が旋回し、逃げ場を奪っていく。

 

「──終わりだ。没落王子」

 

《ティアマト》の付属武装、《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》の照準がルクスを捉える。

 

(・・・・神装まで使ってくるなんて!もう、僕もやるしかない)

 

ルクスがある覚悟を決めた──そのとき、

 

「──なッ?」

 

ガクン!

という音と共に、《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ぐらりと傾いた。

ほぼ同時に、ルクスの《ワイバーン》にかかっていた重力も解除される。

リーズシャルテは、何が起こっているのか把握しきれていない様子で自分の身に纏った機竜を見つめている。

 

(まずい──!)

「──暴走か」

 

その正体にルクスとジークが理解するのすぐだった。

機竜は肉体操作と精神操作を巧みに使い分けることで操作を行うのだが、極度の疲労や負担により使い手のリズムが狂うと、機竜は想定外の行動をとってしまう──つまり、暴走する。

早々に決着をつけなければ、お互いに危険だ。

それを理解すると、ルクスは《ワイバーン》の推進出力を最大にして、飛翔した。

 

「くッ・・・・・!?こんな、こんなことで・・・・・」

 

リーズシャルテの顔に、明らかな動揺と憔悴の色が浮かぶ。

だが、瞬時に切り替える。

リーズシャルテは素早く機攻殻剣(ソード・デバイス)を振るい、新たな思念を飛ばす。

すると、十六機の《空挺要塞(レギオン)》が力を失ったように次々と落下していく。

制御を切断することで、分散していた意識と力を集中し、ただ、一撃の火力を選択した。

七つの竜頭(セブンスヘッズ)》に全エネルギーが収束される。

 

「私が負けるかぁぁああ!」

 

裂帛の気合いと共に《ティアマト》が制御下に戻った。

上昇して斬りかかるルクスと、眼下に狙いを定めるリーズシャルテ。

二人の戦いが最高潮に達した。その瞬間──。

決して起きるはずのない、異変が起きた。

 

ギィイイイイエエエェェエエエアアアアッ!

 

「・・・・・!?この声は──!」

 

雲を縦に貫き、獣の絶叫が降りてくる。

演習場の空から、人ならざる闖入者が、突っ込んできた。

幻神獣(アビス)

十余年前、機竜が発見された遺跡(ルイン)から時折現れるようになった、謎の幻獣。

その尋常ならざる強さから、ほとんどの大国で、遺跡(ルイン)の近くに砦や関所、城塞都市を幾重にも置き、機竜使い(ドラグナイト)を配備して、不測の事態に備えている。

この城塞都市(クロスフィード)も、王都と遺跡(ルイン)の間にある、防衛拠点を兼ねた都市なのだ。

だが──、

 

「きゃあああっ!?」

「な、何でこんなところに、いきなり幻神獣(アビス)が──!」

「あれって・・・・・、本に載ってたガーゴイル型!?どうして、警報が鳴ってないのよ!?」

「落ち着け!下級階層(ロウクラス)の生徒は機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜くな!慌てずまとまって、後者へ避難しろ!」

 

観客席の女生徒達から悲鳴が上がる。

機竜使い(ドラグナイト)の士官候補生とはいえ、実践を経験した生徒は少ない。

幻神獣(アビス)は出現率こそ低いものの、装甲機竜(ドラグライド)の数倍の戦闘力を有する。

しかも、本来は砦や関所から鳴るはずの警報が鳴っていない。

観客席の障壁を貼るために配置されていた機竜使い(ドラグナイト)数名ですら、この未曾有の出来事に、まるで身動きが取れずにいた。

 

「一体、何が・・・・?」

 

ライグリィは、生徒をまとめつつ上空を睨み、腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)に手をかける。

幻神獣(アビス)の習性は、肉食動物のそれによく似ている。

故に、迂闊に手を出せば、眼下の観客席に攻撃を仕掛けるかもしれない。

だからこそ、ライグリィは判断を迷う。

たが、そのとき──、

 

ギィイアアアイイエェェエエアアア!

 

翼人のフォルムを持つ機械型のガーゴイルが吼える。

同時に、開いた両翼の一部から、羽根型の光弾をばらまいた。

射出方向は、眼下。

すなわち、この演習場の──観客席。

 

「ッ・・・・・!?」

 

教官と生徒が息を呑んだ、その刹那。

 

機竜咆哮(ハウリングロア)!」

 

ルクスの《ワイバーン》の全面に渦状の衝撃波が展開される。

幻創機核(フォース・コア)から発生させた衝撃波により、敵の投擲攻撃を弾く、機竜使い(ドラグナイト)基本技術(スキル)

それにより攻撃の軌道が逸れ、光弾は演習場ではなく、周囲の空き地に降り注いだ。

ドウンッ・・・・・!

一瞬遅れて、轟音と衝撃波が連続して弾けた。

爆風で木々がなぎ倒され、激しく土煙が立ち込める。

観客席から、女生徒達の悲鳴が聞こえてきた。

 

「どういうことだ!?何故、幻神獣(アビス)がいきなり──」

 

動揺しつつ、リーズシャルテと《ティアマト》が《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》を構えようとすると、

 

【──リーズシャルテ様】

 

ルクスの声が、頭の中に、直接聞こえてきた。

その声を送りながら、ルクスはガーゴイルの行く手を阻む。

細長い腕と、紫に光る爪。

そこから繰り出される高速の連撃を、ルクスは半壊のブレードでいなす。

 

【僕の《ワイバーン》の火力では、幻神獣(アビス)を破壊できません。だから、お願いします。地上のリングに降りて、敵を狙ってください】

【私に命令する気か?だいたい、お前ひとりで、幻神獣(アビス)を抑えられるとでも──】

【何とかなります。砲撃の合図は、僕が剣を振りかぶった直後です】

【お、おい!ちょっと待て!?ルクス・アーカディア!】

 

プツッと、勝手に竜声の通信を断たれて、リーズシャルテは歯噛みする。

だが実際、《ティアマト》は極度の消耗により、稼働限界が近づいていた。

確かにあと一発、全力最大の砲撃を撃つ余力しかない。

ルクスの読みは適切だ。

しかし──、

 

「正気か!?王国軍の機竜使い(ドラグナイト)でも、ひとりじゃ何も──」

 

地上のリングに降りたリーズシャルテが、空を見上げたとき、それは見えた。

 

 

●◯●◯●◯●◯●◯

 

 

ルクスがガーゴイルの気を引いているのを確認したジークはすぐ様行動に移した。

 

「帯剣している生徒は今すぐ抜剣!2年が中心になって障壁を展開して、剣を持ってねぇ生徒を守れ!──死にたくなかったら今は大人しくいうことを聞けっ!」

 

恐慌と混乱に包まれた女生徒に、素早く身を守るように指示を出す。

現場慣れしていない素人が前に出ても戦況を悪化させることは分かり切っていたが故だった。

知らない男に指示されたことに不信感を抱く女生徒たちだったが、ジークの最後の一言で大人しく従った。

これにより、混乱は一応の落ち着きをみせた。

現在、上空ではガーゴイルが両腕の爪から繰り出す高速の連撃をルクスが防ぎ続けていた。

ひとつひとつを完璧に防いでもなお、装甲が軋むほどの攻撃を受けているが、ルクスは冷静さを欠かなかった。

ガーゴイルの黒と《ワイバーン》の蒼。

二色の軌跡が中空で幾度となく交わり、激しい火花が舞った。

 

「・・・・・ッ!」

 

回避は最小にしかできない。

ルクスのシナリオが完成するまで、標的を変えられるわけにはいかないのだ。

幾度かの攻防のあと、突き出された合金の爪を掻い潜り、ブレードが完璧なタイミングでガーゴイルの胸に突き立てた。

 

「ギッ・・・!?」

 

ガーゴイルの身体には僅かにだが小さな傷跡がついた。

たったそれだけのことだが、ルクスを強敵と認識したのか。ガーゴイルが硬直する。

幻神獣(アビス)の中でも高い知能を持つ部類に属するガーゴイルの硬直にルクスは警戒するが、

 

『ルクス・アーカディア!増援が来た!包囲の準備をしている!もう少しだけ待ってくれ!』

 

演習場のライグリィからの通信に意識をさいたそのとき、ガーゴイルが空を蹴って襲いかかってきた。

反射的にブレードを構えるルクスだったが、ガーゴイルはそのまま急降下、演習場へ向かって漆黒の翼を広げた。

最初に見せた砲撃の予兆。

その狙いは──観客席!

避難しつつ、成り行きを見守っていた生徒があっと息を呑む。

ルクスは推進出力を最大に切り替え、ガーゴイルの後を追う。

その背後に追いつき、ブレードを上段に振りかぶった瞬間──。

 

「ギェアッ」

 

砲撃を止め、くるっと、ガーゴイルの身体が反転した。

 

「・・・・・ッ!?」

 

ガーゴイル種の高い知性は、あの短い攻防でルクスの実力と戦いの意図を見抜いていた。

ルクスの行動目的──観客席を守るための動き。

それ故、敢えて観客席を狙うことでルクスの隙を誘った。

 

「くっ・・・・・!?」

 

ルクスの全力を込めた斬撃は、虚しく空を切る。

ガーゴイルの前に完全な隙を晒してしまった。

 

「シャアァアッ!」

 

下から上への爪の一閃。

障壁を貫通し、ルクスの肩を覆う装甲が弾け飛んだ。

それと同時に噴き出す、鮮血の飛沫。

 

「く、ああっ・・・・!」

 

《ワイバーン》のシステムがダウンし、自由落下を始める。

だが、

 

「・・・・・なるほどな。分かったぞ」

 

リーズシャルテの微笑が、顔を向けたルクスの目に映った。

 

「守りが堅い者が隙を晒したら、全力をもって一撃で仕留める──。確かに、定石(セオリー)だな化け物。()()()()()()

「ギ──!?」

 

ガーゴイルの動揺が、極大の閃光に打ち消された。

《ティアマト》が誇る《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》の最大火力。

砲口から放たれた七つの光柱が、金属の身体をぶち抜き、粉砕した。

 

アァァアアアァアァアアッ!

 

断末魔の残響を撒き散らし、ガーゴイルが爆散した。

パラパラと、黒い金属の破片が降り注ぐ中を、ルクスが落ちてくる。

悪鬼の敗北と戻った平和に、女生徒達は歓声を上げる。

 

「しかし。なんて男だ・・・・・、お前というヤツは」

 

落下してきたルクスを受け止めたリーズシャルテが、《ティアマト》を解除しながら笑う。

あの攻防技術と、ルクスの恐ろしさを理解できた者は何人いるだろうか。

 

『砲撃の合図は、僕が剣を振りかぶった直後です』

 

つまり、ガーゴイルがルクスを出し抜いたと思った駆け引きこそが、ルクスの描いたシナリオだった。

しかし、ジークは解せなかった。

 

(・・・・・襲撃はお互いに消耗しきった決着の際だった。笛の音も聴こえていたし、一体で倒し切れると思い込むほど相手も馬鹿じゃないはず──ッ!?まさか──)

 

それに気づくと同時に、ジークは叫んでいた。

 

「違うっ!まだ終わりじゃない!二体目だ!」

 

ギィイアアアイイエェェエエアアアッ!

 

言うが早いか、再び奇声が演習場に響いた。

教官と生徒はありえない事態に動きが止まってしまう。

 

「──なッ!?」

 

一直線にルクスへと襲いかかるガーゴイルに、リーズシャルテは一瞬硬直してしまい回避が遅れる。

元より、生身で幻神獣(アビス)から逃げ切れるはずもなく、リーズシャルテはルクスを守るように抱えて目を瞑る。

 

ガキン!

 

だが、いつまで経っても痛みがやってこない。

さっきの音は一体・・・・、と思いつつ恐る恐る目を開くと、驚愕の光景があった。

ガーゴイルの合金の爪を、ジークが腰に差していた機攻殻剣(ソード・デバイス)で防いでいたのだ。

 

「おま──」

「さっさとそいつ連れて下がれ!邪魔だ!」

「──馬鹿かお前は!生身で幻神獣(アビス)に勝てるわけがないだろう!」

 

ジークの物言いに文句を言うが、リーズシャルテはもう《ティアマト》を召喚できないほど消耗しきっていた。

ガーゴイルがいったん距離を取ろうと、腕の力を緩めた一瞬を逃さずに、ジークは上段に構え、腕目掛けて振り下ろす。

リーズシャルテはまた驚愕することとなる。

本来なら、傷一つ付けられずに弾かれるはずの攻撃が、ガーゴイルの腕を()()()()()()のだから。

 

「ギィイエェエッ!?」

 

ガーゴイルも予期せぬことだったのか、苦悶の声のようなものを上げながら、上空へと退避する。

 

「逃がさねぇよ」

 

そう呟いたジークは、ガーゴイルのいる場所に最も近い石柱の下へ素早く移動すると、柱の壁を()()()()()

そのまま、ガーゴイルの方へ壁を蹴り肉薄し、翼を切り落とす。

このままでは自由落下してしまうので、ガーゴイルの尻尾を掴むことで、落下を防ぐ。

片翼となってもなお飛び続けるガーゴイルは、ジークを振り落とそうと暴れるが──。

 

「暴れんな──よっ!」

 

ジークが機攻殻剣(ソード・デバイス)をガーゴイルの核に突き立てたことで力を失い落下していく。

ガーゴイルの死骸を足場に跳躍することで、ジークは体勢を整えて着地した。

 

「お前は、いったい──」

 

その場にいた全員が、信じられないモノを見たような顔をジークに向けていた。

たった三撃でガーゴイルを殺したジークは、機攻殻剣(ソード・デバイス)をしまうと、踵を返し演習場を去ろうとする。

 

「ジーク君・・・・・、貴方には聞きたいことが色々あるけど、明日からよろしくね」

 

疑念が絶えないレリィだったが、一言声をかけるだけに留めた。

その後、ジークが去った演習場に、リーズシャルテがルクスの無罪放免を宣言し、模擬戦は幕を閉じた。

 

しかし、すでに暗躍する者がいることを彼女達はまだ知らない。




如何でしたか?
めちゃくちゃ詰め込んだせいでかなり長くなりました。

あと二、三話で一巻は終了だと思います。
ただ、課題があるので執筆が遅くなります。

それでは、
また次回会えることを楽しみにしてます。
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