原案:皆月なななさん(@nanana_minaduki)
俺は今、幸せだ。
「ねえ、今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」
「そうだな。前にテレビでやってた自然公園、行ってみないか?」
「わあ、いいですね!行ってみたかったんです!今の時期なら、綺麗なチューリップがきっとたくさん咲いてますよ!」
黒髪の美少女が幼い子どものように笑顔を輝かせる。握った手の平からは女の子の甘い体温が伝わってくる。その無邪気な横顔はたまらなく愛おしい。たとえ、その公園には何度も行ったことがあるとしても。そのことを、変わり果ててしまった
彼女は、元は俺と同い年の、男だった。お互い一人っ子で、家も隣同士だったから、物心がついたときから何をするにも一緒だった。自転車に乗って、遠い遠い公園まで冒険して、夜中にほうほうの体で帰宅して両親に怒られたりもした。まるで双子の兄弟みたいな感じだった。互いに互いを半身のように思っていた。良いことも悪いことも、二人で経験してきた。小学校も、中学校も、高校も、偶然が続いてずっと同じクラスだった。これから先も、この腐れ縁は続いていくのだと思っていた。
だけど、2年前、高校卒業まであとわずかという時に、こいつは突然倒れた。高熱を発して意識不明となり、あっという間に集中治療室に運ばれ、面会途絶となった。そして次に顔を見たときには───小柄で髪の長い少女になっていた。『急性女性化病』───俗に言うTS病だった。珍しい病気で、治す技術はまだ確立されていない。しかも最悪なことに、こいつを襲ったのは極めて重度のTS病だった。肉体だけでなく、
1年前に初めて目を覚ましたとき、枕元で喜びに笑った俺を見て、こいつは不思議そうに首を傾げて、こう言った。
『あの……どちら様ですか?』
医者の話では、リハビリと日常生活を重ねていく内にもしかしたら記憶が甦るかもしれないとのことだった。最初はその言葉を信じて、俺はたくさんの思い出をぶつけるように話して聞かせた。でも、すべて無駄だった。自分の両親のことはかろうじて納得したが、俺が親友だったことは信じなかった。困惑させるばかりで、半狂乱状態にまで追い詰めてしまい、激しく拒絶されることも何度もあった。そのうち、医者が諦めの表情で俺の肩を叩いた。
『もう、彼を女性として───
『そのほうが彼女の幸せかもしれない』。その背後で頷いた両親の悲痛な面持ちを見て、俺は現実を受け入れざるを得なかった。俺は親友を永遠に失ったのだ。たしかにそこに生きているのに、俺を置き去りにして、全部忘れてしまった。二人の思い出はこの世に半分だけ、俺の中にしか存在しなくなってしまった。半身を失った喪失感に、俺は一人で膝をついて咽び泣いた。
「ほら、早く行きましょう!あなたの車に乗るの、私とっても好きなんです!」
「───ああ、行こうか」
だが、失った半身は、別の形で取り戻すことになった。俺は、彼女を支える内に、親友としてではない別の感情が自分の中に生まれていることに気づいた。いつの間にか、俺は異性として彼女を意識し始めていた。
結局、彼女は、自身が元は男だったことも、俺が親友だったことも、何も思い出す気配はない。それどころか、俺に関わることだけをキレイさっぱり忘れてしまっている。だが、彼女にとってはその方が都合がいい。数ヶ月前、俺と一緒に卒業できなかった高校に、今度は女子高生としてあらためて通いだした。成長が止まったままだったから、戸籍上の年齢もそのままというTS病患者への特例法に従い、転入の形となった。彼女はそのことを受け止め、昔の性格の面影を見せつけるように前向きな姿勢で、新しい人生を───女性としての人生を歩み始めている。
俺はそんな彼女の傍にいつまでもいたいと思っている。そして、おそらく、頬をほんのり朱に染めている彼女も、同じように想ってくれているのだと思う。細い指に絡めた自分の指に思わず力がこもる。彼女が卒業したら、このポケットの中にある指輪を渡すつもりだ。親友ではなくなってしまったが───あらためて、俺の半身になってくれることを願って。
オレは今、幸せだ。
本当は、
あ、そうそう。ワタクシゴトではございますが、もうすぐ彼女と結婚します~v(´∀`*v)イエーイ