蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説   作:おもち

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いい朝だ…ベットから起き上がり、伸びをしながらそんなことを思った。

ベットで朝を迎えるのはいつ以来だろうか、連載を始めてからはあまり記憶にない。

いっそのこと別の目的で使えるようにしようかとも思っていたが、こんなにも気分良く朝を迎えれるのならば、残しておいてよかったのかもしれない。

 

起き上がり、ドアを開けて洗面台の方へと向かう途中でソファーで眠る人がいることに気がついた。

加藤さんだ…寝るまで見張るとは言っていたが、まさかそのまま泊まっているとは思わなかった。

 

彼女の寝顔を見ていると、苦労をかけたことへの申し訳なさが溢れてくる。

いつも僕を心配してくれている彼女…彼女にとって、最近の僕は見ていられないものだっただろう。

それでも、僕の思いを尊重してギリギリまで見守ってくれていた。

それがどれほどの思いだったのか僕には想像出来ないが、辛い思いをさせてしまっていたのだろう。

そんな罪悪感を拭うように、僕は側にあった毛布を彼女にかける。

そして自分は洗面台に向かい顔を洗う。

 

顔を洗いながら考えるのはこれからのこと。

今のままではいけないというのは正直分かっていた。

けれども、青木さんから逃げたという事実から目を逸らして、順位さえ元に戻れば今までのように楽しく作品が描けると思い込んだ。

 

今それが正しく認識できるのは、やはり加藤さんの言葉が大きいのだろう。

苦しいだけの今の現状、青木さんへの思い、彼女の言葉でそれが正しく認識できた。

現状が正しく認識出来ればやるべきことというのも分かる…もう一度彼女に自分の意見を言うのだ。

それは今更なことでもう遅いのかもしれないが、向き合わなければ前に進めない。

青木さんとの間に出来た上下関係…それを壊さないと本当に全てが終わってしまう。

 

「出来るのかな……」

 

不安から思わず言葉が漏れた。 

何回も向き合おうとして、それでも逃げて、今回もそうなってしまうのではないだろうか…そんな不安があった。

多分ただ話しても同じことを辿ることになるような気がする…何か別の手段が必要だと思った。

 

一先ず作業場に戻り、作業台の自分の席へと座る。

どうするかを考えるのと同時に原稿の確認をする。

最早これは癖のようなものだった。

 

確認作業を進めていると、ソファーから呻き声が聞こえた。

 

「うぅ………あれ、ここどこ?家じゃない……」

 

加藤さんは目を擦りながら辺りを見渡している。

寝起きの彼女はまだ状況を把握出来ていないようで、仕事場で寝ていることに気づかずに不思議そうな顔をしていた。

しかし、それも一瞬で少し冷静になれば自分の状況が分かってきたのか、みるみるうちに顔が赤くなる。

 

「そうだ!私先生の見張りしてたらそのまま寝ちゃったんだ!やばい………って先生!」

 

あたふたしながら自問自答を繰り返す彼女。

そんな彼女は話している途中で僕に気が付いたようで、こちらを驚いたように見ていた。

 

「おはよう加藤さん…よく眠れた?」

 

「それはこっちのセリフ…!って先生起きたなら私も一緒に起こしてくださいよ!」

 

「いや…あまりにも気持ちよさそうに寝てるから悪くて……」

 

「そんな言い訳は聞きたくありません……!」

 

あからさまに不機嫌になる彼女は顔を背けてしまう。

そんな彼女を僕はどう扱っていいかわからずに困ったように笑うことしかできなかった。

 

「それで……自分の気持ちは分かりましたか……?」

 

彼女はそっぽを向いたままそう呟いた。

真正面から聞くのが恥ずかしかったのだろうか、そんなことを思ってしまう。

 

その質問はどう答えるべきか迷うが、結局は自分の思いを正直に答えるのが一番なのだろう。

散々心配をかけたであろう彼女にだからこそ真摯に答えなければならない。

言葉に詰まらないか心配であったが、第一声はすっと口から出てきた。

 

「僕は青木さんが好きだ……いつ好きになったのかは分からないけど、いつのまにか好きになってた。彼女と喋っていると楽しくて、彼女の笑顔が何よりも嬉しい。

だからこそ…今まで僕は逃げてしまった。それは彼女に嫌われたくなくて、彼女の悲しい顔が見たくなかったから。

順位さえ上がれば元通りの関係になるって思い込んで自分を安心させてた…だけどそれじゃダメだって分かったよ」

 

「……それじゃあ先生は青木さんともう一度話すってことですよね……?」

 

「それはそのつもりなんだけど…あの……」

 

「先生……?」

 

突然歯切れが悪くなる僕に彼女はジト目でこちらを見てくる。

 

「正直言うとあんまり自信なくて……真正面からいったらまた逃げちゃいそうで……」

 

「はぁ……なんでそこでビビっちゃうんですかね。ズバッと言うしかないですよ!ズバッと!」

 

彼女は大きく手を振りながらそう言った。

それはズバッとという擬音を表現する動きなのか、よく分からないがとにかく彼女は僕の背中を押してくれているのだろう。

しかし、そんな彼女の期待にうまく応えることが出来ずに、僕の口からは歯切れの悪い言葉しか出てこなかった。

 

そんな僕の様子を見かねたのか、彼女は机を叩き言葉を発する。

 

「作戦会議しますよ!先生!」

 

「へ…作戦会議……?」

 

「そうです!どうやったら先生と蒼樹さんが仲直りできるのか!今から会議します!」

 

「なるほど…二人で考えれば何かいい案が出るかもしれないしね……」

 

突然始まった作戦会議。側からみたらアホらしいことかもしれないが、今の僕にはそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

そんな感じで突然始まった作戦会議…彼女はいつのまにかどこからか持ってきたスケッチブックに大きな文字で作戦会議と書き出していた。

 

「えっと…そのスケッチブックは何に使うの……?」

 

「会議なんだから議事録残しておかないと!さぁ!どんどん案を出してきましょう!」

 

「あ…そう……」

 

彼女は何故そんなにやる気に満ちているのだろうか…ありがたいことなのだが少しだけ面くらってしまった。

 

「それじゃあ先生!何か案を!」

 

ビシッという効果音が聞こえてきそうな勢いで彼女はこちらに指をさす。

 

「いや……それが思いついてたらこんなに悩んでないんだよね……」

 

「使えない先生ですね!じゃあこんなのはどうでしょう!蒼樹さんにプレゼントを上げて気を引くとか!」

 

「いや……物で釣るようなことは流石に……それに青木さんはそんなので釣れるような人でもないと思うけど……」

 

「うーん……じゃあこんなのはどうですか…?」

 

「いや…それも……」

 

「じゃあ…」

 

「うーん………」

 

話し合いを続けていくが、中々いい案が出ない。

初めは加藤さんの方が提案の回数が多かったが、話が進むにつれて僕も意見を出すようになった。

これは僕の問題なのでそれが当たり前なのではあるが……

しかし、僕の提案も到底上手くいきそうなものはなく、言った瞬間に否定されていく。

そんなことを繰り返していくと、当然案も尽きてきて、会議は停滞へと進んでいく。

 

「うーん……全然いい案でないですねー……もういっそのこと絵で描いて伝えるっていうのはどうですか……?絵ばっかりの先生にはぴったり!…………なんちゃって………」

 

机に突っ伏しながらそう言う彼女。

それは彼女にとっては絞り尽くされたうえで出た冗談のようなものだったのだろう。

しかし、僕にはそれが凄くいいアイディアのように感じられた。

元より僕は描くことしかできない……でも描くことなら誰にも負けない自信がある。

言葉だけでは動かない心でも絵と一緒ならば動かすことが出来るかもしれない。

 

「それいいよ加藤さん……!それならいけるかも……!」

 

「やっぱりダメですよねぇ………って…え?嘘……さっきの冗談ですよ先生?」

 

「いやこれならいけるよ……!でもこれは僕だけじゃ無理だ……!相田さんにも相談しないと……あと真城君からも意見を聞きたいな……でも流石にそれは失礼か……仮にもライバルでもあるわけだし……でもそんなこと言ってる場合でも……」

 

「いや……一人で話進めないでもらっていいですか先生……?私には何がなんだか分かりませんよ……?」

 

僕の頭の中で考えが進んでいく中で、一人取り残された加藤さんは困惑したように呟いた。

僕はそんな彼女の肩を掴んで、この発想をくれた彼女に感謝の言葉を述べた。

 

「加藤さんありがとう……!君のおかげだ……!本当に僕は君に助けられてばっかりで……情けないよ。

でもそれはこれで最後にさせて欲しい……最後にもう一度だけ力を貸して欲しい……!」

 

それを聞いた彼女は弾けるような笑顔で笑いこう言った。

 

「当たり前ですよ……私は先生のアシスタントですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電話を見つめながら一人部屋でボーッとしていた。

青木優梨子はそんな時間が嫌いだった。いや、正確に言うならば最近嫌いになった。

少し前までは胸の高鳴りを感じられて、ほんの少しの苦しみとそれ以上の多幸感があった。

しかし、今となっては最早苦しいだけだった。

 

電話が表示している連絡先は赤羽のもの。

電話をかけたいのならばさっさとかければいいと周りから見たら思うのかもしれないが、青木には電話をかける気自体がなかった。

なのに何故電話を開いているかといえば、一言で言えば未練だろうか。

赤羽との電話のやり取り、楽しかったその時間を、電話を見ていると思い出せる気がした。

 

いつから変わってしまったのだろうか。

そんなことを一人の部屋で青木は思った。

 

いや実際には原因自体は分かっているのだ。

あの動物園でのやり取り、それが決定的なまでに青木と赤羽に溝を作った。

話を変えた方がいいと言う赤羽に対して、青木は冷たく扱った。

それは自分の描く話よりも他人の意見を優先した赤羽への怒りもあるし、個人的な価値観として見ている人に合わせるようなやり方が嫌だったからだ。

青木にとって漫画とは自分の表現の場であり、高尚なものだという思いがある。

そんな思いが、安易にアンケートの為に話を描くことを拒絶させた。

 

青木には面白い話を描けているという絶対の自負があった。

そして、それを形にする赤羽の実力も青木は認めていた。

おそらく、赤羽以上の作画は今後の人生では出会うことができないのだろうと、青木は本人には言わないが思っていた。

 

だからこそ、そんな自分達の作品がアンケートの結果が低いことに納得はしていない。

結果が下がるごとに歯軋りを立てるほどに苛々するし、見るたびに不快な気持ちになる。

 

そんな結果を青木は読者のせいにした。

所詮は少年誌…見ている層の年代的に私達の描く作品が理解出来ていないのだろう…そんな風に思っていた…いや思いこむしかなかった。

 

それは、もし…もしもの話だが、アンケートが低いのが自分達の作品が面白くなかったからだとして、それの原因はなんなのか……それは青木の描く話が原因だと青木自身が思っていたからだ。

 

赤羽の実力を認めているからこそ、そう結論づけてしまう。

認めているからこそ、作画が悪いからなんて考えは青木にはできなかった。

 

とどのつまり青木は認めたくないのだ…作品の足を引っ張っているのが自分だということを。

だから読者のせいにした。私達の作品は面白い、それを理解出来ない奴らの方が悪いのだと。

 

そんな考えだからこそ、赤羽が話を変えようという提案を聞くたびに青木の心にはヒビが入るような思いだった。

それはお前の描く話は面白くないと言われているようで、今のアンケートこそ正当な評価だと言われているようで、それを聞くたびに私は必要ないのではないかと思ってしまう。

それが辛くて、必要以上に赤羽には厳しくあたってしまった。

打ち合わせから赤羽を排除して、出来るだけ話に関わらせないようにした。

話に関わらせると、いつか必要とされなくなる気がして。

要するに、青木も赤羽と向き合うことを逃げていたのだ。

 

「でも……こんなことになるなんて……」

 

携帯をギュッと抱きしめて、青木は部屋で一人呟いた。

 

ここ2〜3ヶ月青木はまともに赤羽と話していなかった。

電話での確認は相変わらず続けていたが、それは本当に事務連絡のようなもので、確認が終わると赤羽は作業があるからと電話を切ってしまう。

青木自身で作画に専念してくれと言った手前それを止めることも出来ず、電話を切った後にギュッと拳を握り締めることしか青木には出来なかった。

 

こんなことになるなんて青木は思っていなかった。

ただ青木は赤羽にこれ以上話について考えて欲しくなかっただけで、今まで通り色んな話がしたかったのだ。

電話で冷たい言葉を言ってしまったことも謝りたかった。

だがそれはもう出来そうになかった。

 

もう別の所で描いた方がいいのかもしれない…最近青木はそう思うようになった。

それはこの現状を作った犯人を自分達だと思いたくなかったからだ。

私達の作品を評価してくれない読者…それが変われば全てが元通りになると思った。

 

だからって手を抜いて作品を描くようなことをしているつもりはないが、あからさまにモチベーションは下がっていた。

前までならば溢れるように浮かんでいたアイディアも最近は鳴りを潜めて、1話作るのさえ苦労している。

基本的に1話完結…長くて2-3話を繰り返す作品であるので、アイディアが出ないということは苦しいことだった。

 

こんな予定じゃなかったのに…そんなことを思った。

 

 

 

 

ガガガガガ…そんな機械音が部屋に響いた。

それはfaxが動いた音だった。

faxから出てくるのは原稿。

その音が青木には不快に感じられた。原稿の確認をしたら赤羽に電話をすることになる…それはいつものように本当に確認作業だけなのだろう。

 

溜息を吐きながら原稿を確認する。

相変わらず綺麗な絵だ……回らない頭で思った。

1ページ2ページいつもならばそのまま止まらず読み進めるが、今日はそこで手が止まった。

それどころか手が震えだし、涙が溢れてきた。

 

「私の描いた話じゃない…………」

 

描いた覚えのない話、それが完成した原稿として送られてきた。

それを見た時青木はこう思った。

 

 

ついに必要とされなくなった

 

 

それを認めたくなくて、震える手で電話を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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