自由に歩む【数多の記録】〇番目-オーバーロードの世界- 作:えーきち
ユグドラシルのサービス終了まで、あと1ヶ月。
「こんばんは~」
「ばわ~」
ギルドチャットに流れるログイン時の挨拶と、返答。
一時は数十人という人数からの返答があったが、
今ではたった一人になっている。
そんな状況の寂しさも、もうすでに慣れてしまった事に虚しさを感じつつ、
いつも通りのテンションを装い、ギルド長のモモンガがログインした。
「歩さんはいつもの町徘徊ですか?」
「そうですね、サービス終了に近づくにつれ価格が下がっていくので」
歩は、とあるきっかけから、
アインズ·ウール·ゴウンに所属し、
至高の42人に名を列ねていた。
「サービス終了までそんなに時間ないと思いますが、そんなに買ってどうするんです?」
「んー、さあ?自分でも理由がよくわからないね」
第六感とも呼べる歩の感覚が、
この世界は、ただ単純に、
このゲームが流行ったというだけの世界で終わらない気がしていた。
勿論、このゲームで過ごした日々が、物語となっていて、
ゲーム終了=原作終了といった可能性がある事も視野にはあった。
ただ、原因はわからないが、その考えに若干の違和感を感じ、
買い物をする事で、その違和感が僅かながら払拭されているような、
言葉にしづらい行動理由だった。
だが、的を得ている。
確かにこのままでは終わらない。
歩自身が感じた、この不思議な感覚と、
モモンガが思った疑問の理由を知るまで、あと少し。
サービス終了となる、最終日にも、
歩は町を徘徊し、最終日だからこそと、
1ゴールドで投げ売りされる装備やアイテムを買い込み、
アイテムを配り捨てるプレイヤー達の中に飛び込んでいた。
買い占め、拾い集め、
挙句の果てには、終了1週間前から始まった、
リアルマネー100円分が、ゲーム内課金1万円分!
のサービスで異常な程の課金をし、
アイテムボックスの拡張やら、
課金アイテムの購入やら、
歴代アイテムが出るガチャやら、
豪遊に豪遊を重ねていた。
こんな歩を見て、モモンガは、買い物依存症かと心配していたが、
歩はそんなモモンガの気持ちなど露知らず、
自由気ままに行動していた。
モモンガもモモンガで、
『最終日だからせっかくなので遊びましょう!』
と誘えばよかったものの、
誰か来るかもしれない、
いや、最終日だからきっと来てくれると希望を抱き、
久しぶりにログインして、ナザリックに誰もいなかったら…と、
来るかもわからない、仲間たちのため、
ナザリックの中で待機している。
サービス終了まで後少しのところで、
スライムの姿をした、ヘロヘロがログインし、
モモンガと二人で雑談をしていた。
そう、二人で。
ヘロヘロがログインした際に、
歩もナザリックに戻るよう誘ってみたが、
後で行くと一言残し、反応がない。
「ヘロヘロさんお疲れのようですね」
モモンガのこの一言から、数回言葉を交わした後、
サービス終了間近かつ、歩の姿が見えないままでではあったが、
ヘロヘロは話しの流れのままログアウトしていき、
モモンガは一人となってしまった。
どうしようもない、
寂しさ、悲しみ、怒り、そして現実。
仲間と長きに渡り築き上げた、このナザリックという思い出、宝。
ギルドメンバーという仲間たちがいたから、
楽しくプレイし、苦労をかけて作り上げ、
メンバーのログイン率が低下したあとも、
維持をする事に力を注いでこれた。
そんな大事な場所がなくなってしまうのに、
顔すら見せないメンバー。
連絡すらくれないメンバー。
せっかく来たのに、最後の最後、サーバー停止までおらず、
途中でログアウトしてしまったメンバー。
リアルの重要さと、メンバー各々の大変さが、
わかる部分があるからこその葛藤。
そして、何より、ユグドラシルが好きで、
アインズ·ウール·ゴウンが好きで、
ナザリックが好きで、
メンバーが好きだからこその、
ぐちゃぐちゃとした、思考の迷路。
そんなモノを、少しでも吐き出そうと、
両手の拳を振り上げ、テーブルへ叩きつけようとした瞬間。
「モモンガさん」
モモンガへの呼びかけに思わず、振り上げていた手が止まる。
ずっと買い物ばかりしていた、歩がすぐそばまで来ていた。
思考の迷路に落ちていたモモンガは、
いつからこの部屋にいたのか全く気付かなかった驚きと、
最後まで一緒に居てくれる仲間がいる事に嬉しさを感じ、
何もリアクションが出来なかった。
「せっかくなので、玉座まで散歩しません?」
歩からのこの一言に、ちょっとだけ心が救われた気がした。