ドラゴンクエストLー勇者と魔王ー   作:賀楽多屋

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某勇者様と某竜神様は、そもそも馬が合わないらしい

 

 

 プサンを先頭にして、玉座の間の下にある広大な空間へと伸びる梯子を下り続ける。縦に大きい天空城の中枢が、まさかこんなに広く空洞化しているとは考えもしなかった。この先に何があるのかはレックス君の手記によって知ってるが、それでも私の想像以上にその場所への道程が長い。

 

 さっきまで饒舌に口を動かしていたプサンも今やすっかりと黙り込んで、手と足を動かし続けることしかせず。残りのパーティーである天空の勇者達はと言えば、重苦しい沈黙を漂わせて口を巌のように閉じてしまっている。

 

 あの元気いっぱいなレックス君までもがだんまりを決め込んで、せっせと梯子を下っているのだから私達の間に会話が生まれるわけがなかった。

 

 ユーリルさんは因縁の相手を前にして、いつものように軽口を叩けるはずがないし、イザさんにいたってはそもそもが寡黙な質である。

 

 ーーーーー嗚呼、なんで天空城に来てまで、こんなに気まずい思いをしなきゃならないんだろう。

 

 御先祖様たちと竜神様のご関係は、凡人の私には理解できないほど複雑怪奇で、ややこしいことこの上ない。

 

 長ーい梯子が終わりを告げたのはそれからまた何十分も経った後だったと思う。

 

「此処は、天空城の操縦室です。レックス君は来たことがあるでしょうが、イザとユーリルは初めてですよね」

 

「此処をデュランに占領されて、俺達は城と戦うことになったのか・・・」

 

「嗚呼、そんなこともありましたねー。あの時と天空城をミルドラースに撃ち落とされた時ばかりはかなり焦りましたよ」

 

 アハハハーと過去の大事件をさらりと流す辺りが流石、神様としか言いようがない。ほら、ユーリルさんの目元が引き攣ってるじゃん。

 

「俺の時代は、思ったよか平和だったのか・・・?」

 

「ユーリル兄ちゃん! ほら! あれ見て! あのゴールドオーブが天空城の原動力だよ!! 綺麗でしょ?」

 

 とうとう目を細めて、血迷ったことを言い始めたユーリルさんを見兼ねてか、レックス君がユーリルさんの手を引いて私達の下から離れていった。レックス君の成すがままにされているユーリルさんの足元が若干、千鳥足で覚束ない。そんなに天空城が散々な目に遭っていることがショックだったんだろうか。

 

 ーーーーそういや、さっき『この城に攻め入る奴もいねぇだろ』ってユーリルさん毒づいていたっけ。確かにユーリルさんの頃ってマスタードラゴン全盛期だし、天空城が散々な目に遭っていることは結構衝撃的なことでもあるのか。

 

「あの子は本当に土に還っても変わりませんね。まぁ、今となってはあの子がこの城に馴染めなかった理由が分かりますけど」

 

「・・・・・・え!?」

 

「なんでアンさんが衝撃を受けてるんですか。こう見えて、私も大分人間に馴染んだんです。あの子が私を毛嫌う理由くらい最早理解できていますよ」

 

 眼鏡のブリッジを持ち上げて、二人の天空の勇者が行った方に視線を移すプサンの表情は至って普通のものだ。そこに感情の色は一つも見出だせず、彼はふっと口の端だけで笑みを作った。

 

「ですが、私は自分の選択を後悔しません。マスタードラゴンが選んだ選択に間違いなんてあってはならないんですから」

 

 そう言ったプサンに、私達は何も言葉を掛けられず、黙って彼と同じ方向を見ていたーーーーーなんてことを、勿論私達が出来るはずもなく、各々好きなことをプサンに言う未来が紡がれることになる。

 

「神様って、なんか大変なんですね。自分のやったことをずっと正解だって思い続けるのって、すっごくしんどいことじゃないですか」

 

「貴方がマスタードラゴンでなく、プサンの姿で眠りについたのは、マスタードラゴンの重責から逃れたかったからか。確かに永眠する時ぐらいは、安らかな気持ちで寝たいもんな」

 

 プサンは、私とイザさんの言葉を聞いて目を丸くしていた。鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていたと言えばいいだろうか。なんせ、彼にとって、私とイザさんの妙な同情は聞いて惚けるようなものだったらしい。

 

 まぁ、プサンが呆然としていたのも僅かな時間だったけどもさ。

 

「・・・ッククク、アーハッハッハー! 勇者というものは時たま、突飛な発想をしますよね。『勇者とは、血筋で選ばれるものではない。困難に立ち向かう勇気を持つものを勇者と呼ぶ』。そう定義した神もいたらしいですが、私はそれ以外の定義もあると思いますよ」

 

 プサンは笑った。とにかく呵々大笑と笑った。その笑いっぷりは、見てる私とイザさんがドン引きするくらいのものだったが、彼はそんな私達の冷たい視線も無視して大いに笑いまくった。

 

「そう、それこそ貴方達が先程述べたような『常識に囚われない発想』です。勇者とは、『どんな困難にも立ち向かう勇気を持ち、その身を何ものにも縛られず、自分の生を全うする者』のことじゃないでしょうか。神に関心が無いのも結構。神に憎悪を抱くのも結構。神に親愛の情を抱くのも結構。私は天空の三勇者を誇らしく思いますよ」

 

 プサンの目がまた金色に光る。眼鏡越しに見える瞳孔が縦に伸びた。爬虫類を彷彿させるその目がキラリと光って、また瞬きのような僅かな時間の間に人の目に移ろう。今度はプサンの様変わりについていけない私達が呆然とする番だ。しかし、プサンは私達と違って更に次なる行動を起こす。

 

「まだ力が全て戻ってきたとは言い難いですが、久しぶりに笑わせてもらったんです。アンさん、貴女に贈り物を差し上げましょう」

 

 プサンは唐突に私へと指を向けてきた。よって、私は急な指名にタジタジになって、自分の顔を指差す。

 

「へ? わ、私にですか?」

 

 一体どういう流れでそんなことになってしまったんだろう?

 

 しかし、神様と言うのは何時の時代もマイペースなものだ。そもそも、あの三人を勇者に選んだ強者竜神様のペースを私如きが乱せるはずもない。

 

「彼等に会わせてくれたのは、間違いなくアン、貴女です。その力は、使いようによっては善にも悪にもなるでしょう。ですが、貴女が魔王になったら私が責任を取れば良い話ですしね。貴女の中に眠る力を少し覚醒させてみましょう」

 

 なんかプサンが凄いことを言ってるのは分かる。私にとってめちゃくちゃ大事なことを言ってるんだろうなーってことは流石に私も察してるよ。

 

 ーーーーーけどさ、あまりにも話が断片過ぎて凡人には理解出来ないよ!!

 

 そんな私の心の叫びは勿論オール無視。そもそも、ご先祖様も私の気持ちを汲みとってくれないんだから、その上司である神様が汲みとってくれるはずも無かった。

 

 パチンと皮膚の打つ音がこのただっ広い空間に反響する。私に向かって弾かれたプサンの指が奏でたその音が四方八方に木霊するのだけが耳に残り、私はつい両手を前に出していつ来るか分からない衝撃に備えた。

 

 そして、私が体の前に両手を突き出してから一分くらいの時間が流れる。

 

「・・・・・・あの、マスタープサン」

 

「ブっ! なんでしょう? アンさん」

 

「何を頂いたのか、私には一切分からないのですが、これってどういうことなんです?」

 

 心の中ではプサンプサンと呼び捨てにしている私も、流石に口に出して呼び捨てに出来るほどの度胸もなく、色々と考えた結果『マスタープサン』と呼ぶことにしたのだけど、それが彼のツボに入ってしまったらしい。この神様さ、案外ツボが浅いよね。ゼニス王やマスタードラゴンの時も笑い上戸だったんだろうか。そんなどうでもいい考えが不意に浮かんできたが、その考えが吹っ飛ぶほどの返事がプサンから返ってくる。

 

「それは、そう遠くない未来に分かることです。きっと、お気に召してもらえると思いますよ」

 

「はぁ・・・」

 

 マスタードラゴンという神様が、もはや私には分からない。ユーリルさんから貰っていた前情報とレックス君がくれた前情報を見比べても頭がこんがらがるので、実際会ってみるともっと訳がわかんない神様だ。悠久の時を生きたら、こうも性格に深みが出るものなのだろうかという疑問さえ湧いてくる。

 

「さぁ。そろそろあの二人を追っかけましょうか。ゴールドオーブをユーリルに叩き壊されてしまったら、また妖精の女王に作成を頼まなければなりませんからね」

 

 ただ、ユーリルさんとの確執がまだ健在だってことだけが判明した。気の遠くなるほど長い時間を掛けても、どうにもならない関係っていうのはどうやら存在するらしい。

 

 ーーーーー多分、元からソリが合わないんだろうな。きっと。

 

 もうそういうことにすることにした。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 水底から仰ぐ天は、水面越しに見るからかとても幻想的に映る。ゆらゆらと揺れる水面の向こうにある雲や太陽は、大陸から見るものよりも比較的のんびりと空を漂っているように思えた。

 

 その太陽と雲の間を劈くように空を飛翔する鉛色の竜が咆哮を上げる。

 

「永久の眠りから目覚めるときが来た。我等は穹。この世界を見守るもの。再びこの世の理となり、世界の展望を見据えよう」

 

 鈍い銀の鱗を纏う竜が太陽の下に広がる青空を滑空する姿は一見の価値あり。湖の底に沈む天空城から、プサンはマスタードラゴンへと変身を遂げ、大きな羽を広げるや果てなき空へと飛び立っていってしまった。

 

 なんか上の方から竜の咆哮が聞こえてくるけど、何してるんだろうと私達が湖の底から見上げているといきなり地鳴りがし、ついで足元がガタガタと音を立てて小刻みに揺れ始める。

 

「じ、地震!?」

 

「違うよ、 アン姉ちゃん。 天空城が復活しようとしてるんだ!!」

 

「復活するたってまさか・・・直接此処から上に上がろうとしてるってことか!?」

 

「ユーリル兄ちゃん、正解!」

 

 片手の指で丸を作って正解!と、弾ける笑顔を見せるレックス君も流石にこの揺れではまともに立ってられないらしく、すぐ近くにあったバルコニーの手摺に捕まっている。そして、正解と言われたユーリルさんはと言えば、「嘘だろー!?」と頓狂な声を上げながらも、天空城の太い柱に抱きついていた。

 

「神様は力技が得意のようだな」

 

 脳筋代表のイザさんにまで言われているプサン並びにマスタードラゴン。否定のしようのない事実なので、私もそれに黙って賛同する。因みに私達は、ユーリルさんがしがみついている柱とはまた別の柱に蝉のように二人でくっついて、この突然の出来事をなんとか乗り越えようとしていた。

 

 地鳴りの音が大きくなるにつれて、天空城の揺れも酷くなっていく。ふわっと肝が浮くような感覚が伴い始めた。視界が段々と上がっていくのを見て、天空城が本当に湖の底から飛び出そうとしているのだと実感する。天空城の床下では魚たちが巣でも作っていたのか、天空城が上へと浮いていくのに従って、一斉に城の足元から沢山の魚が砂埃のように巻き上がっていく。安寧の巣を失った彼等の驚きようは如何ばかりか。途方に暮れたように何百という魚が水面へと泳いでいくのを見届けて、暫しそんな感傷に浸る。

 

 ーーーーー天空城の復活に関して、唯一の被害者とも言えるよね、あの魚達は。

 

 しかし、天空城が復活しなければ現実世界がヤバイのだ。

 

 ーーーーー成功に犠牲は付き物だもん。命までは取ってないし、きっと天空城の床下よりももっと良い場所が見つかるって。

 

 そんな住処を追われた魚達にとっては、鬼畜の所業としか思えないことをつらつらと考え、私は漸く天空城のバルコニーで地上の景色を見ることになる。

 

 ザバンと水飛沫を上げて、湖の底からぬらりと現れた天空城。この光景は、もうこの人間の短い生涯の間で見ることが叶わない景観だ。

 

「二回目の湖からの登場だー! やっぱり天空城は迫力あるなあ!」

 

 約一名、幽霊になってから二度目の立ち会いを果たしているが、彼の存在そのものが特殊な例なのでカウントしない。子供でありながら、魔王を倒した勇者とか本当に字面だけ見たらあり得なさ過ぎることこの上ないのだけども、悲しいかな、レックス君はちゃんと実在していたし、まさかの御先祖様でもあるのだ。

 

 

 湖の底から地上へ、そして地上から空へと帰還を果たした天空城は、マスタードラゴンと化したプサンが舞い戻ってきたのと同時に、城の住人達の悠久の眠りを覚醒させた。

 

 城の彼方此方から天空人達の眠たげな欠伸や、おはようの挨拶が聞こえてき、私達も漸く此処で柱や手摺にしがみつくのを止めた。

 

「て、天空人って本当に背中に羽が生えてるんだね・・・。頭に輪っかが無いから天使とは違うみたいだけども」

 

 続々と城の外へと出てくる天空人達は、伝承やご先祖様の手記通り、背中に自分の身の丈程の白い羽を生やしている。それで宙を浮いて移動したりはせず、足で歩いて移動していることがどうにも私にとっては不思議に思えたのだが、天空人達を見慣れているご先祖様達は彼等の姿を懐かしそうに目を眇めて眺めている。

 

「そりゃ、天空の守り人でもある穹の住人だからな。いざっていうときは、あの羽で空を飛んで魔物と一発やりあうこともあったんだぜ」

 

「え!? 魔物ってこんな高い所まで来るの!?」

 

 ユーリルさんから聞いた驚きの話に、ついバルコニーから下を覗き込む。地上にある山脈が線にしか見えないくらい高い場所にいるのだから相当魔物達も頑張って、わざわざこんな高い所までやってきたのだろう。

 

 ーーーーー魔物()ながら、ご苦労様の言葉しか出てこない。

 

「そう言えば、さっき思い出したことがあった。俺の時代に、魔王が天空城に魔の手を伸ばしたことは無いが、一つだけ大事があってな。まぁ・・・あれは、所謂、お互いに納得するための合戦みたいなもんだな」

 

「・・・納得?」

 

「魔族の王と人間界の神による壮絶なデスマッチが一回だけあったんだよ」

 

 哀愁漂う横顔を見せて、何かとてつもない歴史を語ろうとしているユーリルさんの目は、まるで死んだ魚のもののようだ。私はその話をこれ以上聞くと、碌でもない感情を抱いてしまうかもしれないと危惧して彼の話を最後まで聞くことはしなかった。

 

「ユーリルさん、そろそろ本題の天空の装備をマスタードラゴンに聞きに行きましょうか」

 

「そうだな」

 

 この城には、私が知らなくて良い事柄が山のように重なっている気がする。というか、マスタードラゴン自体が想像以上に過激な神様なんだよね。

 

 ーーーーーこの神様に、今更だけど私の世界を任しても大丈夫なんだろうか。

 

 時既に遅しな不安を私は抱く羽目になってしまった。

 

 






ロト達の国との関係も面白いなぁと思いますが、天空三勇者のマスドラとの関係も複雑怪奇で好きです

ドラクエって思ったよか、陰謀だらけなので深読みしていると沼にハマっちゃいますよね
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