お久しぶりです
なんだかんだともう年末ですね
我が家に伝わる錬金釜はとってもケバケバしい。精彩なオレンジ色を基調に、高価な宝石が幾つも嵌められているその釜は、形すらも奇天烈妙ちきりん。いつも見る度に、カボチャにしか見えないんだよなぁと思いながら床下から持ち上げて、三人の前に披露する。
「これが錬金釜なんだ! カボチャみたいだね」
どうやら私、発想力はレックス君と一緒みたいです。見た目は子供だけど、中身は私よりも歳を重ねた立派な大人だもんね! 精神は外見年齢に引っ張られているという話を聞いたような気もするけど、そんなの関係ないね!
「これ、マジもんなんか? お前、ガセ掴まされてるんじゃねぇの」
「俺、これ結構好きだ。普通に気に入った」
「マジかよ、イザ」
「マジだ」
胡乱げに奇抜な錬金釜を見下ろすユーリルさんと違って、イザさんは大層興味深げだ。錬金釜の蓋を取るや、中身を覗きこみ始めたイザさんの姿を見て、レックス君が「ボクもボクもー!」とイザさんと一緒になって覗き込んでいる。
ーーーイザさんって結構奇抜なもの好きだよね。確かに、中身とは裏腹にチャラチャラした格好しているし。・・・実は、かなり派手な物が好きなんじゃないかなぁ、この人。
スライムのピアスをしているユーリルさんもあんまり言えた義理じゃないと思うけど、イザさんのセンスにドン引きする彼には賛同する気持ちもあるので、二人の会話に口を挟むのはやめておいた。
「じゃあ、あとはこの錬金釜を使える錬金術師だっけ? その人さえ居れば、あの錆だらけの天空の装備が蘇るんだね」
ケバケバしい錬金釜を前にひと悶着があったが、レックス君が当初の予定を口にしてくれたから、これ以上錬金釜についてああだこうだと言うことにはならなかった。
レックス君の言うとおり、次は我が一族の墓に行って、その錬金術師とやらを召喚しないといけないし。
「おめぇが呼ぼうとしている錬金術師ってのはどんな奴なんだ? やっぱり、気難しい感じの奴か?」
多分、ユーリルさんはブライさんみたいな人を想像しているんだろうね。錬金術師って呼称も堅苦しいし、物を融合して新たに生み出す人達だから、職人気質な感じもするし。
「嗚呼、チャモロとか錬金術師って感じがするな。だが、彼奴は僧侶だったが」
「タバサも錬金術師とか向いてそうだなあ。研究バ・・・魔法の研究とか好きだったから」
各々、身の回りに錬金術師っぽい人達がいたようだ。確かにあの時代に錬金術師があったら、チャモロさんやタバサちゃんは錬金術師になっていそうだ。でも、錬金術師って魔法と相性が良い人がなれるとは限らない。多分、錬金術師に必要なのは勇者の条件でもある自由な発想力と観察眼なんだ。
ブライさんを筆頭に、チャモロさんやタバサちゃんは少々頑固な所があるから、錬金術とは案外相性が良くないかもしれない。
「その人は、近衛兵から一国の王様になった人だよ」
「「「は(え)?」」」
三人の目が一瞬にして点になる。数秒経っても、三人共が口すら動かせないところを見るに、まだ脳内の処理が追いついてないようだ。彫像のように固まる三人を見て、私も「それもそうだよなぁ」と思ったりする。
まぁ、気持ちは分からんでもないだ、私としても。
次、呼ぼうとしているご先祖様は本当に色々と規格外だから、これくらいで驚かれると実は困るんだけど。
でも、この人達は勇者様だ。あの人にもすぐ順応するだろう。
「それよりも、どうやってあの霊山に行こうかな。今から向かうと着くのは夜ぐらいになるんだよねー。彼処の宿は最近、繁盛してるみたいだから下手したら、満員で泊まれないかもしれないし。明日にすべきかなー」
あの英雄様よりも、問題は霊山にいつ行くか。本心を言うと、面倒くさいことはとっとと済ませたい。善は急げとも言うし、行動方針が明確なうちはチャキチャキ動きたいよね。
でも、流石に夜に着くと分かっていて出発するほど猪突猛進にもなれないのだ。
そんな私の悩みを、勇者様達は全く理解できなかったようだ。言動でよく忘れるけど、彼等は腐っても勇者様。遠い昔に、魔王を倒して世界の危機を救った彼らにとって、歩いて半日かかる霊山に夜までに辿り着くというミッションは、至って簡単なことであったのだ。
「ルーラで行ったら良くね?」
「うん。ルーラなら、世界の何処でも一瞬で行くことが出来るよ」
「あの霊山なら場所は覚えている。ほら、行くぞ。とっとと、あの錆まみれの装備を復活させよう」
そう言えば、ご先祖様の時代にはそんな便利な魔法があったよね。口々に、当たり前のようにルーラで行こうと皆さんは言ってくれるが、かの魔法は歴史の波の中に飲み込まれ、消滅してしまった古代呪文なのだ。ご先祖様の手記でしか、拝むことがなかった伝説の魔法が使われているところを見ることが出来るなんてーーーーー。
「ルーラ」
イザさんが、呆気無く伝説の魔法を唱えた。体がふわりと浮く。
ーーーーーってえ?
床から足が離れているのは、足の裏に床の感覚がないことから分かる。周りを見ると、イザさんは目を瞑って宙を浮いていた。レックス君もユーリルさんも普通な顔して宙に浮いている。
「アルバトロス家の霊山へ!」
イザさんが目的地の名前を叫んだ瞬間、青白い光が私達を覆った。広大な青空が、視界の全てを占領する。初夏特有の白い雲が揺蕩う空が、一面に広がってーーーーー。
気がつけば、私はアルバトロスの墓を前にして突っ立っていた。着の身着のまま、何を用意することもなく、霊山にでんと構えるアルバトロスの墓に来てしまったようだ。二日前に、イザさんを召喚するためにお供えしたお線香も残っているしね。
「此処って本当に静かだよねー」
「しけてるよな」
「昼寝には丁度いい」
背後からした聞き慣れてしまった声に振り返ると、何故か五メートルはありそうな木に登って私を見下ろす彼等と目があった。それぞれ別の枝に陣構えており、レックス君は立ったまま幹に手を付け、ユーリルさんは枝に腰掛けている。イザさんに至っては幹に背を持たれて寝る態勢だ。
「いつの間に、そんなところに・・・」
「アン姉ちゃんも登る? すっごく、いい景色だよー!」
片手を振って私にお誘いをかけてくるレックス君には悪いが、私はここで終わらせないといけないことがある。首を振ってそのお誘いを断ったところで、私は我が家の墓の前に立った。
「さて、問題は線香も持ってこなかったことだよね」
物は試しにとズボンのポケットの中を弄ってみると、いつゲットしたのか分からない飴玉が二つ見つかった。
ーーーーーお供え物ってさ、何も線香だけじゃないよね。お菓子とかお供えすることもあるもんね。もし、他に何も見つからなかったら、知らん顔でその辺に植わっている草花でも手向けようかと思ったけど、一応偉大なご先祖様だし、飴玉を供えよう。
私は、あたかも元から飴玉をお供えしようとしていたかのような顔をして、線香の残りがある場所から少し離れた場所に飴玉を供えて、両手を合わせる。
元は小間使いであったと聞くそのご先祖様は、王族の身辺を守る近衛兵となり、そして、王の一粒種である姫と結婚した。彼が姫と結婚すると、約半年という引き継ぎ期間を経て、二十歳という若さで玉座に着く。トロデーン王族の血筋を汲まない外様の王であったが、彼は世界を救った救世主であること、否、それ以上に茨の城と成り果てていたトロデーンを再興させた救世主であった彼の戴冠には、誰からも拒絶の声は上がらなかったと後世には伝わっている。
彼は、民衆にも望まれた王だったのだ。
とにかく、普通じゃない逆玉の上、ビビるほどの成り上がりエピソードを持つこの人こそが、次の私のご先祖様(ターゲット)。私は、これが空想話ではなく、本当にあった話だということに慄くわ。
目を瞑って、暗闇の中でご先祖様に語りかけるのは慣れた。さぁ、今度のご先祖様はどれくらい私の言葉を聞いてくれるだろうか。
ーーーーーご先祖様。私は貴方の未来の子孫です。どうせ聞いてくれやしないんでしょうから多くは言いませんよ。貴方にお願いしたいのは、錬金術を使って錆まみれの天空の装備を蘇らせてもらいたいことです。貴方が愛用していた錬金釜は現存しているので、その辺の心配はしないでください。あと、諦めきれないのでやっぱりギガデインとマダンテとパルプンテをご教授願いませんか・・・・・。
刹那、背後で風を切る音が聞こえた。それは、明らかに武器を使って空を切る音で、私の両肩が一瞬にして強張る。
「アン!!」
ユーリルさんが私の名前を叫び呼んでいるのが聞こえた。
「・・・アン?」
そして、知らない男の声が私の名前を反芻しているのも、ばっちりと背後から聞こえたのだ。
私の後ろには、多分ご先祖様だろう人がいる。そして、そのご先祖様の後ろにはあの勇者三人組が居るはずだ。
何も恐れることはないと己を宥めつつ、首をゆっくりと背後へ向けて振り返る。
そして、強く射抜くような、黒い瞳と目があった。
「此処は何処でしょう、お答え願えませんか?」
躊躇なく首元に真っ直ぐ伸ばされた剣。柄を握りしめる手には、不必要な力が入ってるようで僅かに手元が震えている。オレンジのバンダナを頭に結んで、険しい視線を送ってるこの男こそ、私が呼んだご先祖様に間違いない。
「貴方が居た時代よりも、ずっと後の世界。此処は、エイトさん。貴方や貴方以外のご先祖様が眠るお墓だよ」
「・・・なんで僕の名前を知っているのですか?」
「それは、私が貴方を呼んだから。私は貴方の子孫のアン・アルバトロス。貴方とミーティア姫の間に生まれた子供から血脈が続いて、私が今ここに居るの」
首元に突きつけられていた剣先がブレた。彼がどのワードに動揺したのかは分かっているつもりだ。我がご先祖様ながら、本当にこの人は忠誠深いなぁ。
ーーーーーいや、それはもう執念と呼ぶべきものなのかもしれないけど。
「おい、バンダナ野郎。アンから離れろ」
「もし、アンに傷の一本でもつけたら、タダでは返さないな」
「お兄ちゃん、此処は一先ず落ち着こうよ。ボクらはお兄ちゃんが思っているような怪しい人じゃないからさ」
エイトさんの背後に突きつけられたのは、ユーリルさんの腰にいつもぶら下がっている剣だ。ユーリルさんが、鞘から剣を抜いているところなんて初めて見たと呑気なことを言ってる場合じゃないのに、ついそんなことを思ってしまった。そして、イザさんは柄に手を置いたまま微動しない。多分、エイトさんが動いた瞬間に抜刀して、切り伏せようとしているんだと思う。同じご先祖様同士なのに遠慮の欠片もないよね、この人達。
残るレックス君は、武器を構えてはいない。至極、平和的に両手を広げてエイトさんを宥めようとしているように見えるが、あれは、いつでも呪文を放てるような状況をした上での行為だ。実は、一番容赦ないレックス君には流石としか言いようがない。
「・・・証拠はありますか? 貴女が、僕の子孫である証拠は」
ーーーーー証拠とな? そんなもの、沢山ありますけど。
途端、エイトさんの背後にいる天空の勇者達があーあと言いたげな顔をし始めた。だけど、その割には、捻くれてる青年組がとっても悪そうな顔をして親指を立てた。レックス君は若干、困り気味だけど、まぁやってやれって顔に書いてあるし。
これは、ある意味ご先祖様がこの世に現れる洗礼とでも言えるのかもしれない。私は喉元を鳴らして、エイトさんに笑顔を作ってみせた。
ーーーさぁ、晒し首の時間だよ、ご先祖様。
「貴方は竜人族と人間のハーフだ。父親は大国、サザンビークの王太子で、母親は竜人族の娘。種族を超えた禁断の愛の末に生まれたエイトさんは、竜人族の里にその存在を認められず、事実上追い出された。そして、浮浪児になった貴方を拾ったのが、この先、貴方が永遠の忠誠を誓うことになるミーティア姫なんだ。ミーティア姫の小間使いとして城仕えすることになった貴方は、城の五年に一度の催し物である舞踏会で武官としての才能を認められ、兵士へ転換。十七歳という若さで異例の近衛入りを果たし、これからエリート街道を爆走するのかと思われた矢先にトロデーンが災厄に見舞われる。貴方は馬になってしまったミーティア姫と魔物になってしまった陛下を連れて、トロデーンと姫達を元に戻すために旅に出る。そして、その旅の終点でミーティア姫と結ばれ、二十歳という若さで国王になったーーーーー」
「よくも、そこまで僕のことを知っていますね。子孫って、此処まで先祖のことを把握しているものなのですか?」
「確かに、普通はご先祖様の詳細を知らないもんだと思う。でも、ウチは普通じゃないからご先祖様のあれやこれやが他にももっと伝わっているんだ・・・・・聞きたい?」
「ーーーーー遠慮します。貴女が、僕の子孫であることは認めます」
首筋から違和感がなくなったのと同時に、エイトさんが腰に差してある革製の鞘に剣を差しているのが見えた。
「これまた、とんでもねぇのが現れたな」
「お兄ちゃんも、もしかしてプサンみたいにドラゴン形態になれたりするのかなー?」
ユーリルさんの戸惑ったような声が聞こえたかと思えば、次いでレックス君が興味津々と言わんばかりにエイトさんに群がりに行った。彼も、子供は嫌いでないらしく、目をキラキラさせて自分を仰ぎ見るレックス君には、柔らかく目元を細める。
「僕は、確かに竜人族の力を持っていますが、竜としての力は半分ほどしかありません。故に、ドラゴンとしての姿は無いのです」
「そっかー。でも、エイトお兄ちゃんが普通の人間じゃないってのは分かるかも。何が人間ぽくないとは言えないけども、エイトお兄ちゃんからはお父さんやお祖母ちゃんに近い雰囲気を感じるよ」
「ということは、君のお父さん達も竜人族だったのですか?」
「ううん、違うよ。お父さん達はーーー多分、
レックスくんの口から、聞いたことのない言葉が飛び出した。それに目を瞬いて、不思議そうな顔をするエイトさん。傍らで聞いてる私を含めた残りの三人も互いに首を傾げ合う。
「・・・・・・人間のようで、人間じゃないもの、ですか」
確認するように尋ねるエイトさんに、レックスはその通りと指を一本立てて頷いた。
「うん。エイトお兄ちゃんも、もしかしたら稀人なのかも。だって、お兄ちゃんは竜人族でも人間でもないんだよね。竜人族と人間の血を持っているんだからさ」
「そういう理論で行くと、俺達もそうじゃねぇのか? 人間と天空人の間なのが、俺達勇者なんだからよ」
「確かにそうだな。勇者の条件の一つが『人間と天空人のハーフであること』ならば、必然とそうなる」
「ホントだ! 確かにそうなるね! そっかー、ボクも人間じゃないんだ」
どうやら此処には、人間が私一人しかいないらしい。
ユーリルさんの言を受けて、納得するレックス君に倣うようにイザさんも、思案げに虚空を見つめている。
「ま、俺は、どう言われたって人間だとしか思えねぇけどな。別に天空人みてぇに羽が生えてるわけでもねぇし、他に人外の特徴を持ってるわけでねぇ。ってーことは、人間だ」
「俺も、ユーリルと同じ考え方だな。人間として死んでいるのだから、多分、俺はそれでいいんだろう」
青年組は、やっぱりどっちかと言うと、人間としてのアイデンティティを大切にしているんだろうなって思う。イザさんなんて勇者やってる期間の殆どがアイデンティティを探すことに費やしていた訳だし、そこで見つけた物を今更、疑うことなんて出来ないだろう。
あと、言い出しっぺのユーリルさんは元来、天空人を嫌っているから、自分にその要素があることを認めたくなんてない。まぁ、それよりも人間のことが大好きだもんねー、ユーリルさんは。彼の人生で最も手を差し伸べてくれたのは、人間だもの。そりゃ、苦労していた時にずっと天上から傍観していた天空人を認めたくない気持ちは、分からないこともない。
それよりも、私はその話題以上に気になることがあった。
「ねぇ、日が暮れる前に家に帰らない?」
着の身着のまま、霊山にやってきた為、日暮れになると寒さが堪える。過去に彼方此方へ冒険に行っていた皆は、寒さ耐性とかあるんだろうけど、生憎と私は都市育ちの現代人なのだ。
「積もる話は、ご飯食べながらでもしようよ」
やっと、天空シリーズ以外の主人公を出せました