ドラゴンクエストLー勇者と魔王ー   作:賀楽多屋

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年末休みをフルに使えば、多分凄く進む気がする!


実はヤンデレじゃないの、エイトさん

 

 

 アレクサンドラの夜は、昼間の賑とは正反対の静けさが支配する。メイン通りに居並ぶ店には、『CLOSE』の看板がノブからぶら下がり、往来を闊歩するのはゴミを漁りに側溝から出てきた猫ぐらい。

 

 飲み屋街もそこまで規模がなく、そもそも夜に外を出歩く人間が余りいないこの街で、夜特有の賑わいを見せることなんて、それこそ創立記念日の祭りとかじゃないと無いよね。

 

 私は、場末の酒場にほぼ毎日通っていたけど、アレクサンドラって意外と治安が良いんだよ。いや、だからこそ女一人で酒場に通えたっていうのもあるか。

 

 まぁ、そんなことはさておきーーー。

 

 御手洗の帰りに薄暗い我が家の廊下を歩いていると、接客室の扉が空いていたから肝が冷えました。我が家でホラー現象に合うとか、まじに有り得る展開だから洒落にならん。この家、幽霊が四体もいるんだぞ。

 

 という自分でもよくわからないガチ切れは置いておき、いつもは閉め切ってるはずの部屋が開いているというホラーイベントに遭遇した私は、ちゃんと現実を見ることにした。

 

 ・・・・・・幽霊じゃなかったら、まぁ泥棒とかが安牌かな。

 

 ってことで、泥棒がのこのこ我が家に入ってきたのならば、返り討ちにしてやろう(皆が)と思って、久しく入ってなかったこの部屋に踏み入った。

 

 接客室はそこそこの広さがあるが、パーテーションが設置されていたり、ピアノが幅をきかせていることもあってそんなに広さを感じることってないんだよねぇ。

 

 年代物のピアノは、父さんが生まれる前かあるものらしい。長らく掃除してないから埃とかどえらい事になってるんだろうなーと遠い目しながら考えていたら、窓の傍に佇む影を私は見つけてしまった。

 

 微動せずに、窓枠にもたれ掛かっているそのシルエットは、ちょっと前に見たものだ。

 

「此処で何をしているんですか、エイトさん」

 

 ってか、ある種ホラーシチュエーションものなんですけど! これ!

 

 私が、無闇矢鱈に驚かなかったのは、泥棒を取っ捕まえようと心構えしてきたお陰だ。誰かしら居るだろうと踏んで入ってきたので、凄く冷静にエイトさんがこの部屋にいることを認めてしまったよ。

 

 私が穏やかに彼の存在を認めたこともあって、彼も凄く普通な顔して、私に声を掛けてくる。

 

「このピアノって、鳴りますか?」

 

 しかも、私の問いかけにはスルーというこの所業。

 流石、御先祖様。どいつもこいつも我が道を行きやがる。

 

「え? う、うん。調律が必要だから、その分時間は掛かるけども鳴らそうと思えば出来るよ」

 

 だけども、私ってば超出来る子孫なのだ。御先祖様が如何にゴーイングマイウェイだろうとも、ちゃんと答えてあげるさ。・・・・・・嗚呼、癒し枠がレックス君だけじゃ足りない。

 

「そうなんですか」

 

 しかし、心中騒がしい私と違って、また黙り込んでしまったエイトさんの目は、何処か虚ろげだ。

 夕食の時間にエイトさんが何故、魂だけ呼び出されてしまったのかとか、今の世界についての話とかを色々したのだが、天空の三勇者にしていた頃よりも説明自体が複雑になってしまったので、エイトさんも概要は理解していても、まだ頭が混乱していることだろう。

 

 私自身も、エスタークを討てと勅命を受けて、まだ一月経ってないし。

 正直、まだ心が浮き足立っている部分もある。

 

 事の全てが、坂道を転げ落ちるように急速に流れていってるのだ。渦中にいるけども、本当はまだまだ他人事のような感じがして、現実味を感じられない。

 

 このまま、お互い黙って時が流れて行くかと思ったが、エイトさんが急に口を開いた。

 

「アンも知っての通り、僕は姫様にこの身を拾って頂きました。それまで、自分がどの様に生きてきたかという記憶はありませんし、正直興味もありません。ですから、僕の人生は姫様と出会ってから始まったのです」

 

 エイトさんの声って、凄く穏やかなんだよね。まるで、子守唄のように、一定の調子で紡がれるから、聞いていてすごく心地良い。

 

 ーーー告白内容があまりに凄すぎて、現実逃避してるとかそんな訳では無いからね! 多分!

 

 やっぱ凄い重たい話を簡単に投下してくるから、御先祖様って怖い。

 波乱万丈な人生を送って来られたから、そういうのに御先祖様サイドは免疫あるかもしれないけどさ。一般ピーポーな私は、たまにぼこぼこ道、時に槍の雨の人生しか送ってないんだから、急にそんな話をされると吃驚しちゃうんだってば。

 

 と心の中で、愚痴っていてもエイトさんには伝わらない。しかも、彼のヘビーな話は淀むことなく続けられるのだ。

 

「始まってから此方、姫様と陛下に忠誠を誓って生きてました。僕が成すことは全て、あの二人の為にあろうと。そうやって、生を全う出来た自分を僕は誇らしく思っています」

 

「・・・・・・今回のお願い事は、トロデーンとは関係ないから聞けなさそうってことですか?」

 

「いえ、聞く気が無いわけではありません・・・・・・ただ、姫様と陛下のいない僕では、あまりお力になれないと思うのです」

 

 エイトさんの言わんとしていることが、私には分からなかった。世界を救世している彼が、どうして力不足だと感じるのか。

 

 確かに、今の世にはミーティア姫もトロデ王も居ない。だが、トロデ王が居なくなってからも見事、王としての手腕を振るい、トロデーンを最盛期へと導いたのは、紛うことなき彼の力だ。過去に世界史で習ったことを思い出して、やはり私は首を傾げる。

 

 どうして、エイトさんはこんなにも自信が無いのだろうと。

 

「恐らく、アンは在位期間に僕が成した政策を知っているのでしょう。そして、世界をどのように救ったのかの経緯も冒険の書があるから知っているーーーーーだけど、貴女は王座を降りた後の僕を知らない。ミーティアを喪い、姿を晦ましたその後を」

 

「そう言えば、存命中にエイトさんのお子さんが王位を継いだのでしたっけ?」

 

「ええ。ミーティアが居なくなってからほんの時間を空けた後に」

 

 一瞬、ある予測が私の脳裏を過ぎった。しかし、その予測はもう、ある意味狂気じみているとしか思えないものだ。

 

 ーーーいやいや、そこまでこの人もミーティア姫に執心していないだろう。

 

 私は、侮っていた。この目の前にいる、穏やかに語り、静寂を纏う大国の元王様を。

 

 ーーー否、トロデーンの近衛兵を私は、見誤っていたのだ。

 

「ミーティアを喪って、僕は大きな虚無を抱えることになりました。姫様もおらず、陛下もいないこのトロデーンは、ちょっとのことでは傾かない基盤が出来ていた。僕の見立てでは、あと200年は国として在れるだろうトロデーンに出来ることは無くなったのですーーーいえ、それは今となっては言い訳のようにも思えます。僕は、姫様と陛下のいないこの国に居ることが耐えられらなくなったのでしょう」

 

 エイトさんが切々と語るその内容は、とても私には理解が出来ないものだ。

 

 ってか、私の予測がかなり大当たりしている・・・・・・!そこまで、ミーティア姫とトロデ王に執着していないだろうとか宣っていたさっきまでの自分を殴り飛ばしたい!

 

「息子に王座を譲った後、僕は竜神王に会いに行きました。この後、どうやって生きていけば良いのか、彼に聞きに行ったのです。僕の相談を受けて、竜神王は頭を抱えていました。『未熟な精神はついぞ育たなかったのか』と。そして、彼は言いました。『己ともう一度、向き直って来ると良い。そろそろ、他人を指針にするのは辞め時であろう』と。僕は竜神王に促されるままに、また世界を回ることにしました。トロデーンから出なかった数十年の間に変わってしまった各国を見回るのは凄く楽しかった。しかし、僕の力は確実に、日に日に衰えていきました。竜人としての力が目覚めてしまってから、老いることも出来ず、体はあまり皆と一緒に旅をしていた時と変わらないはずなのに、何故か剣の腕は落ち、魔法も徐々に唱えられなくなった。それから、僕はーーー嗚呼、どうしたか」

 

 皺の寄る眉間を指で解して、エイトさんはそれから、暫くうんうんと唸っていた。

 

 人をそこまで慕ったことの無い私には、エイトさんの気持ちは分からない。だから、今の彼にはどう励ましの言葉をかけてやればいいのか分からなくて、一言も口にすることは出来ないのだ。

 

「ーーーアンが、そんなに困ったような顔をすることじゃないんですよ。これは、僕のどうしようもない話なんですから」

 

「どうして、そこまでミーティア姫やトロデ王に執着出来るの?」

 

 うん、私。分からないからって、直球に聞くことじゃないな、それ。しかも、何故か励ます側の私が、励まされる側のエイトさんに宥められている。この状況は非常に可笑しい。

 

 しかし、エイトさんはそんな不躾な私の質問に、戸惑ったような顔をしたものの、私の質問に返事をくれた。

 

「あの方々は、僕にとって親であったのです。僕の人生は、あの方達と出会って始まるのですから。そして、姫様は、妹でもあったし、場合によっては姉でもあった。仕えるべき姫の時もあれば、犯してはならない神にも」

 

「そして、妻にもなったーーーってことですよね」

 

「はい。僕が生涯を賭して、お仕えし、守るべき(ひと)でした」

 

 暗闇の中でもよく分かるエイトさんの楽しげな、だけど慈悲に満ちたその笑顔はとても独特で、艶があった。まだ十八年しか生きていない私には、とても出来ないその笑顔に少し見惚れてしまう。

 

 人間ならば、他人に左右されず、自己を律して生きなさいとよく言われる。自分がない人は、よく嫌味を言われたりする対象にもなるこの人間社会で、こうも他人に自分の人生を預けている人もいないだろう。

 

 でも、エイトさんはその人生を全うした。

 だからこそ、言葉に説得力がある。

 なんとか自立して、生きてかねばと常々思っている私でさえも、心傾きそうになる話だった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

「ていやー!」

 

 初夏の朝は早く、白い雲と青空のコントラストが抜群な中、響き渡るのは私の威勢のいい掛け声。

 そして、その私の掛け声に続いて紡がれるのは、冷静沈着な野郎共の野次である。

 

「脇が開いてる」

 

「威勢は良いが、体がふらついてるぜ」

 

「アン姉ちゃん、視線は水平にだよー」

 

 現在の時間、午前6時。着替えるまもなく、天空の三勇者共にベッドから追い立てたられた私は、パジャマ姿で木剣を振るっている真っ最中だ。

 

 くそう。

 奴らと来たら、悠々と空箱や空の酒樽を持ってきて、素振りする私を取り囲むように座っているのである。イザさんなんか、私以上に眠たそうな顔をして欠伸を噛み締めてるよ。

 

 ───あーあ、なんでこんなことになってるんだか。

 

 朝が壊滅的に弱い私がこんな早朝に起きてきて、尚且つ物を振り回してるとか青天の霹靂としか言い様がない。勤め先の店長が見たらひっくりよ、絶対。

 

 と意識を飛ばしていたら、またぞろ三勇者から厳しいお言葉が飛んでくる。

 

「おら、軸がズレてきたぞ。今は集中しろ」

 

 三人の中でも、一際厳しいのがユーリルさんだ。タダでさえ平常時でも眼光鋭いのに、こんな朝っぱらから親の敵でも見るような目で私の動作を観察している。

 

 レックス君とイザさんも私の素振りを見守ってくれているけど、ユーリルさんとは違って少しのズレとかは目零ししてくれてるようだ。

 

 否、目零ししているというか───。

 

「よし。俺もそろそろ素振りしてくる。後の指導は頼んだぞ」

 

「あー! いいなー、ボクも久しぶりにやりたいよ、イザお兄ちゃん」

 

「じゃあ、打ち合いでも軽くするか」

 

「何てめぇら、人にパッパラパーを押し付けて、自主練やろうとしてんだよ」

 

 どうやら、見ていることに飽きたっぽいね、あの二人。

 

 ユーリルさんに私を押し付けて、2人で自主練する気満々らしいイザさんとレックス君は、既に腰を上げている。

 

 しかし、黙ってそれを見ているユーリルさんじゃない。立ち上がった二人に容赦ない視線を向けて、トゲトゲしているユーリルさんは誰がどう見てもご立腹だ。

 

 けど、それに怯むような二人じゃない。イザさんは、何か考えているようで、実際何にも考えないっぽい顔で佇んでいる。ちっとも、ユーリルさんの怒りを収める気のないイザさんには、もう流石としか言い様がないよね。

 

 となれば、三勇者のバランス役であるレックス君が、その腕前を披露するしかない。

 

「じゃあ、交代でやろう! 20分交代で、次はボクがアンお姉ちゃんの素振りを見てるね」

 

「此奴がそこまで持たねぇよ」

 

 名案とばかりに笑顔で告げるレックス君に、冷え冷えとした顔でその名案を叩き落としたユーリルさん。私だって、やれば出来るよ!と言ってやりたいが、残念なことに自分の体力は彼が仰るように軟弱なものでした。

 

「ええー」とレックス君が信じられないと言うような声を上げてるが、素振り一日目の私に寄せられる期待が大き過ぎることを取り敢えず、飽きた組には察してほしい。

 

「あの、すみません」

 

 そうやって、天空の三勇者で意見の食い違いを起こしていたら、玄関の方からランサーのような物を持ってやってきたエイトさんが戸惑った表情で此方にやってくるのが見えた。

 

「この槍って、お借りしても良いですか?」

 

 

 朝日を照り返す黄色の上着が眩しいと目を細めながらも、エイトさんが手にしているランスを見詰める。

 

 ───確か、あれは廊下の奥に飾られていた英雄の槍だ。

 

 時たま、父さんが気に入った武器を床下の物入れから出しては、廊下よ突き当たりに飾っていたことを思い出した。

 

 二年前ぐらいに、唐突に正義のそろばんと一緒に飾られ始めた英雄の槍は、飾った主が居なくなっても尚、あの場所に立てかけられ続けていたのだ。

 

「別にいいよー。どうせ、飾ってあるだけだし、その槍も使われた方が本望だと思う」

 

 妙に英雄の槍が似合うエイトさんを見てしまうと、首を横に振ろうとも思わなくなるよね。

 

 槍の許可が出て相当嬉しかったのか、今まであまり笑顔らしい笑顔を見せることが無かったエイトさんが、ついに目元を緩めて、槍を握り直す。

 

「ありがとうございます、アン」

 

 顔周りに花を飛ばす勢いで微笑むエイトさんの破壊力や凄まじかった。

 

 元々、ベビーフェイスでもあるエイトさん。近衛兵や王様といった異色の経歴を持っていることもあって、どうしても硬質さしか感じられなかった彼は、例えベビーフェイスだったとしても、そのことが加味されて可愛らしいというような感想を抱くことは出来ないでいた。

 

 だが、しかし。エイトさんの微笑は、女である私の微笑よりも数十倍可憐で愛らしいものであったのだ。

 

 ───そう言えば、この人。元は小間使いだったっけ。

 

 急に思い出した彼の最初の職業に、私は何とも言い難い複雑な気持ちになる。

 

 なるほど、そのベビーフェイスで周囲の人間を油断させ、いざっていう時に特大の竜の爪を奮っていたんだなぁこの人。

 

 ふとそう思い至って、背後を振り返ると呆気に取られたユーリルさんと珍しくレックス君と一緒になって、楽しげな笑みを浮かべているイザさんの姿を見ることが出来た。

 

「俺、槍使いと戦うことって案外無かったんだよな」

 

 なんか、イザさんの口から不穏な言葉の羅列が聞こえてきたよ。これは、完全に戦闘狂(バーサーカー)がロックオンしたっていう宣言だ。

 

 この人も一応、王族なんだからさ。優雅にチェスとかの勝負をふっかけたら様になりそうなのになぁ。

 

 まぁ、私のそんな甘い願い事になんか耳を貸さないのが、御先祖である。

 

 それから、我が家の庭が十分も経たないうちに戦場と化したことは言うまでもないことだろう。

 

 天空の三勇者とエイトさんによる、壮絶な稽古試合は、庭に埋まっていた数少ない痩せ衰えた木が倒れたことに業を煮やした私によって、終わりを迎えることになった。

 

 





DQの主人公って、基本喋らないので色々と解釈が捗りますよねー

そう言いつつ生まれたのが、この8主

ブラックジョーク好きな仲間と上手くやってこれたので、多分天空組にも馴染めます


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