誰なのか分かるだろうか?
連れて来られた部屋は軍艦の中ではなく、海軍基地の一部屋。
俺がよく行く場所なので覚えている。
だがいつも誰か海兵の一人や二人いるはずなのに誰もいない。それはまさに緊迫感が漂っているのが分かった。
「……あの」
「アルメリア基地勤務の海兵から話は聞いた。どうやらお前は他の島からここまで来て、身寄りも何もないから働かせてくれと頼みに来たらしいな?」
「は、はい」
まるで刑事と取り調べを受けている容疑者のようだ。
ドジらないようにしないと。動揺したら駄目だ。表情を表に出したら駄目だ。
「帽子とバンダナを取れ。仮にも上官相手にその格好はいただけないだろう?」
「…………す、すいません」
大丈夫。こいつはまだ俺がクローンだと分かっていない。クローンの赤ん坊を連れた犯罪者だとは思っていない。
ふわふわの金髪が帽子とバンダナを外した瞬間に現れる。
俺の顔をしっかりと見てくる。
表情をじっくりと観察される。
「その赤ん坊の服……そうだな。腕を捲るだけでいい」
「そ、それは………」
「どうした。見せられないのかね?」
い、いや大丈夫。片腕を見せればいい。
軽く刺青が入ってない方を見せてやればいい。
「これでいいですか? あの……リードが風邪をひきますので……」
「あっぶー!」
「ま、まさか赤ん坊の身体を見たいからここに連れて来たとかないですよね? リードに……俺の大切な弟を奪い取ろうとか考えていませんよね?」
静寂だ。上官は何も言わない。
「…………ふむ」
表情がおかしくなってないだろうか。汗がしたたり落ちていないだろうか。
この男を欺けるには、どうしたらいいのだろうか。
俺の特徴は見られている。今の様子だと、リードの特徴を知っている。
俺は浅はかだったんだろうか。
簡単に逃げられるとか、思っていたんだろうか。
いやまだ終わらない。まだやれる。
ただドジらなければいいんだ。
ドジったら駄目だドジったら駄目だドジったら―――――――。
「中将殿!」
「何だ騒がしいぞ!」
「す、すいません失礼します!」
扉から慌ただしく入ってきた海兵に一度だけ緊迫した空気が緩和したように思えてホッと息を吐いた。
……そう言えばリードの奴、やけに静かにしてるけどどうしたんだろう。
いや、俺の不安を感じ取っていつもの元気が出せないのかな。ちょっと頭を撫でておこう。
「だぶー!」
「うん、ちょっと大人しくしといてくれな」
「うみゃー!」
頭を撫でたらもっと撫でろとせがんでくるリード。
やっぱりいつも通りだったわ。
いや、これからがきついのだろうか。
とりあえずこのおっさんの傍に居てはいけないから、逃げよう。
「あの……なんか大変そうですし、俺帰りますね? ほら、まだメッセンジャーとしての仕事も残ってるでしょうし……」
「いや、終わるまで待っていてくれ」
ああくそ!
逃がさねえつもりかよこの野郎!!
「それで、どうしたんだ?」
「あの、それが……海軍本部からこれが送られてきまして……」
海兵の一人があのおっさんに向かって何か一枚の紙を渡す。
それを見たおっさんが、ニヤリと歪んだ笑みを見せてきた。
「ほうほう……これはどういうことかな、ロナン君?」
それは、一枚の指名手配書だった。
遠くに映っているため見えにくいが、見慣れた金髪とその少年の顔。
優しげに抱いているのは、黒髪の赤ん坊。
【ONLY ALIVE 『“子連れ狼”ロナン』 懸賞金5500万ベリー】
「…………………………ああ」
――――――――もうとっくにドジってたぁぁぁぁ!!!!??
「さて、覚悟してもらおうか、子連れ狼よ!」
こちらへ向けられるのは大きな殺気と鋭く光る剣。
生け捕りにしろといってきてはいるが、ここでそれをするのは容易いだろう。
「くっ……!」
どうにか打開する策を考えないと。敵は2人。
あのおっさんと手配書を持ってきた海兵を相手しないと駄目だ。
俺に戦う術はない。
海軍を侮っていた俺が悪い。
木を隠すのは森の中とか思って海軍に入ったのは浅はかだったけど、これで終わったら駄目だ!
「捕えろ!」
伸びる手が、俺に向かって来た。
その瞬間――――――だった。
「えっ!?」
「な、なんだ!?」
聞こえてくるのは悲鳴と轟音。
地面が揺れ動くほどの、大きな破壊音が聞こえてくる。
「何だ急に、おい一体どうした!?」
慌ただしくまた扉が開かれる。
その瞬間を狙って、廊下の外へ出た。
だが中将たちは俺の様子に気づかないほど慌てているようだった。
「中将殿! 敵です! 見知らぬ男女がアルメリア国家に奇襲! 国の中央部に位置する城に乗り込んで王族に危害を……!!」
「なんだと!? 兵たちはどうした!?」
「平和主義の国家という理由で戦いの仕方を忘れて―――――慌てております!」
「んなっっっ馬鹿者!!」
廊下を駆けて駆けて、走り抜ける!
聞こえてきた怒声が背後から聞こえるが、無視しよう。
「平和主義だからこそ、海兵も周囲と同じになるってな……!!」
人がただの小さな子供にも悪意をぶちまけて攻撃するのと同じだ。
周囲の空気に流されて、それが異様だと気付かずにいる。
かつて俺をただの『ちにおちた■■■』だと攻撃してきたあの怖い人たちのように―――――――――
「あっぶー!!!」
「いっだっ!!? 急にアッパーすんじゃねえよリード!」
「あぶぶ!!」
まったく。腹が減ってるわけじゃないのに何を怒ってんだこいつ……ってあれ?
「俺、さっき何て思ったんだっけ……」
地面が揺れ動き、海兵たちが慌てて動き出している。
それらの空気に呑まれたのだろうか。
いや、今は考えるのを止めよう。
とにかく逃げるのが先だ。
逃げないと駄目だ。
海軍基地から外に出るのは容易い。
だがそこから何処か別の島に行かないといけない。
そのためにはまず船を見つけないと……いや、船が動き出す前に海兵たちが調べるかもしれない。
「うわ……ひどいな……」
外に出るとすべてが変わっていた。
家が瓦礫に埋もれ、いろいろと爆発したような惨状が見える。
でもそれ以上に背後から追って来るかもしれない海軍が怖い。
どうにかして逃げないと……!!?
「ちょっ……ちょっとすいません! そこのお姉さんとお兄さん! これから別の島に向かうんですか!?」
「急に何よ?」
大きな顔をしたお兄さんと、美人なお姉さんが俺達を見下ろす。
奴らは大きな袋を抱えて、今にもどこかへ行きそうな雰囲気があった。
というよりも、海兵から追われそうな海賊って感じがする。
今の俺は海兵に追われる指名手配犯。ならばこそ、海賊に近づいて別の島へ行かないと……!!
「頼む、俺達を別の島まで送ってくれ!」
「んにーーー!!? 何言ってんだおめー!」
大きな顔をした男は嫌そうな表情を浮かべている。
だがしかし、女性は何故か目を輝かせていて―――――――。
「ねえあなた、私が……必要なの!?」
「う、うん!」
「あっぶー!」
あれ、何か聞いたことあるような……デジャブか……?
いやでもなんか頼んだら送ってくれるみたいな雰囲気あるし、勢いで頼もう! 行っちゃおう!
「そう、なら仕方ないわね! 送っていくわ!」
「おめー急に決めんじゃねえよ! 誰が乗せていくと思ってるだすやん!?」
「だって必要とされるんですもの!」
「その頼まれたら断れねえ性格なんとかしてくれ! 俺を巻き込むんじゃねーよ!」
うぐぐ……なんか男の方は無理そうな雰囲気だな。
でもここでチャンスを逃したら駄目だ。やらなきゃ……!
「た、頼む! 別の島に行くまでの間は雑用でもなんでもするからさ……俺が!」
「ニーン……」
何度も頼んでいくと、男が急に何かを思いついたかのように笑った。
「その言葉、忘れるんじゃねえぞ」
「お、おう!」
「じゃあ行くわよ! 早く乗りなさい!」
「おう! ……ってはいぃ!?」
乗れと言われた場所は男の背。
どういうことなんだろうかと思いながら乗ると―――――男の髪が回って飛んだ。
飛んだ!?
「あぶぶー!!!」
船に乗るんじゃなくて、飛ぶのかよ!?