サイレントを駆使して港に停泊していた普通そうな船にこっそり乗り込んだ先――――ちょっとした物置にて数泊したあと。
その船が向かった次の島は、様々な良い匂いで溢れる場所だった。
リードが一瞬暴れてお腹すいたと叫ぶほどの威力ある町。でも、俺達がいた闇市場のある島よりは活気があるし、子供たちだけで遊びに歩くぐらいには安全ということだろう。
海賊が堂々と港に停泊しているような感じはないみたいだしな。
―――――でもまあ、それとこれとは話が別か。
「うーん。そうだなぁ……この金のコインは……換金するとなると30ベリーにも満たないなぁ」
「…………」
「あぅー」
この町にある銀行。その中で一応それぞれ取引をしても顔が見えないような場所を選んだんだが……うん、やっぱり侮られてるよなぁ。
あの闇市場でもってきた数枚の金コイン。それらはちゃんとした金になることは分かってる。
この金は30ベリーもの価値しかないわけじゃない。というか、そんな小銭ぐらいのコインをあの闇市場で売られるわけないだろう。
子供だからと格下に見られてるんだ。赤ん坊を連れてるのも原因の一つかもしれない。
「……あのさ、あまり人を見た目で判断するな。嘘をつくならこっちもいろいろと考えがあるんだ」
「っ―――――――!?」
とっさに能力を発動させて、奴の声を奪う。
急に声が出せなくなったことに慌てる男を……なるべく悪い顔をしてニヤリと笑ってやる。
「言っておくぞ。このままお兄さんを二度と喋れなくすることだって俺にはできる。何もかもを聞こえなくすることだってできる。そうなるともうここで働くことは出来なくなるなぁ。それでいいなら俺はこのまま去ろうと思うけどさ」
わざと、目の前でパチンと指を鳴らす。
能力を切って男を見た。
もう俺が化け物に見えて仕方がないのだろう。
男は恐怖で身体を震えさせ、ソファにではなく床に倒れる。
「ぜぇ……はぁ……あ、声が……できる……!?」
「これが最後のチャンスだ。なあ、あんたは今の状態でいるのと……音がなくなるの、どっちがいい?」
にっこりと笑っただけで、男の顔が真っ青になる。
それがトドメとなった。
「っっ!! す、すいませんでしたー!!」
「全部で合わせて三十万ベリーはなかなか良かったなー。もっと持ってくれば良かったかな」
「みゃー」
「子猫みたいな声出すなっての。……そう言えばお前って赤ん坊だけど成長はしてるんだよな?」
ちゃんと座ることはできるし、離乳食だって食べられる。
クローンは普通の人間とは違うから年齢がそのままってこともあり得るけれど……でも、ずっと一緒にいるから分かる。ちょっとずつでも成長はしてる。
「なあ、ロナンっていえるか?」
「あぅー」
「ローナーンー!」
「ろぅー!」
「ローじゃなくて、ロナンだって」
「ろまー」
ニコニコと上機嫌に笑いながらもリードは俺に向かって話す。
その様子に少し癒された。
最近は殺伐としたことが多かったからなー。
「……まあ、こういう時間も大切だよな」
「ええそうね。赤ん坊が成長する瞬間って言うのはとても貴重な時間よね」
「ニーン……そういってもよー。俺達が知ってるあいつは元気良すぎの凶暴だったじゃねえか」
「それは血筋じゃない?」
「…………うん?」
なんか聞き慣れた声が背後から聞こえてくるんですが。
……見たくない。すごく後ろを見たくない。
「ろなー」
「あら、あなたの名前を言ったわよロナン。良かったわね!」
全然よくない!
いや良いことだとは思うけど!!?
ギギッと……さびた人形のようにゆっくりと後ろを振り返る。
そこにいるのはリードと同じく、にっこり笑顔の男女2人。
俺がドジって悪魔の実を食べてしまい、逃げなければと思った人たちだった。
「……あはは」
反射的に駆け出して――――――ああぁやっぱり追ってきますよねえ!!?
「止まるだすやん! 別に殺そうとか考えてねえよ!」
「ええそうよ。私達と遊びましょう!」
「どんな遊びだよ!? どうせ残虐無慈悲な怖いことすんだろこんちくしょう! あと悪魔の実はもう俺持ってないから! ドジって本当にごめんなさい!!」
「きゃーう!」
町中を駆ける俺を追いかける2人。
でも本気で追いかけてないような気がする。ただの子供に本気を出せば追いつかれるのは間違いないというのに、彼らは手加減して走って来てるんだ。
……つまり、俺の体力が尽きるのを待ってる?
「ドジって転ばないように。ドジって転ばないようにぃっっ!?」
「待てやゴルァ!」
「逃げんじゃねえぞオラァ!」
目の前から人の集団が俺達の方向へ向けてやってきているのが見えて驚き、転びそうになった。
追いかけてるのは俺じゃなくて……それより前を走る男を追いかけているのか?
いや、考えてる暇はない。
このまま足を止めることは出来ない。
とにかく真正面じゃなくて別の方向……右の路地裏!
って思ってたら追いかけられてる男も俺と同じ方向に逃げただと!?
「邪魔だクソガキ! そこをどけ!」
「ごめん無理! 俺だって追いかけられてんだよ!」
「あぶぶー」
後ろを追いかけている人数が急増して物凄く緊迫感で肌がビリビリと痺れるような感覚に襲われる。
このままでは追いつかれると思ったのか、何故か俺とリードごと腕で抱え込んだ男が本気を出して走り出す。
助けてくれてる?
「合縁奇縁だ! てめえが誰なのか知ったこっちゃねえが、共に追いかけられる仲なんだし助けてやるよ! まあこの借りは高くつくから覚えとけよ!」
「え、いやなんでだよ!? あの集団は特に俺と関係ねえと思うんですが!?」
「降ろすぞクソガキ! 良いから黙ってろ!」
……ってか、お前誰だよ!?
海賊じゃねえよな。海賊じゃねえと思っておくからな!!