「どうせ暇だ。チビのくせに何で追われてんのか話を聞いてやってもいいぜ」
「……こんなところで?」
「あぁ? 当たり前だろうが! 奴らがまた来たらどうする!? こちとらもう一文無しなんだぞ! 奴らに返せるもんなんて何もねえよ!」
「いや知るかっ!?」
「あぶー!」
路地裏からさらに奥に繋がる地下。男が言うにはここは下水道らしい。
嫌な臭いはしないが、薄暗くて一人でここに居たくないような場所だ。
この男は何故かそこに俺たちを押し込んで、地上にいるであろう追っ手がいなくなるまで待つつもりらしい。
まあ俺だけだとあの2人から逃げ切れる自信はなかったから、逃げるという意味ではこの人に会えてよかった。
何かいろんな奴らに追われてたけど、有名人なのかな。手配書に載ってるとか?
前世の知識でもあんまり見覚えが……ぼんやり覚えてる程度だから仕方ないけど。
葉巻を咥えてそれに火をつける男が、こちらをじろりと見つめている。
上が静かになるまで暇なんだろう。俺を追っていたあの2人は……撒いていない可能性があるけれど、そこまで本気で追いかけて来てなかったから、多分大丈夫だと信じたい。
「……なあ、名前聞いてもいいか? 俺は……まあ、チビでいいよ」
「ハンッ。自身を語らず他人に聞くような礼儀知らずの馬鹿に名乗る名はねえよ」
男がつまらなさそうな顔で葉巻を吸って煙を吐く。
なるべくリードにその空気を吸わせないように煙から遠ざけておきながらも苦笑する。
まあそうだよなー。
でも俺の名前は手配書に載ってるし、それを名乗ってこの目の前の男に気づかれて襲われるとかになるのも面倒だ。
ロナンは俺の名前だから、今さら変えるつもりはねえし……。
「……ロシーって呼んでくれ。それとおじさん、さっきは助けてくれてありがとう」
「…………はぁ。おじさんじゃねえ、俺はパウリー。ただの船大工だ」
「だぅー」
パウリーか。
聞いたことあるような……ないような感じの名前だ。デジャブか?
「それで、てめえらは何で追いかけられてたんだ。見たところただのガキだろうが。保護者はどうした?」
「あー……保護者はいない。それと……あいつらに関してはさ、ちょーっと彼らの大事な物をドジって紛失しちゃってな……」
「だはははっ! なんだそれ。何やらかしたんだお前!」
冗談だと思ってんのかこの野郎。
葉巻を落とすほど笑いやがって……サイレント仕掛けて音を消してやろうか。
――――そういえば、いつの間にか上が静かになったな。
彼らはもう、諦めたんだろうか。
「パウリーさん。どうせ出会ったのも何かの縁だし……ここから次の島までいく船ってないかな?」
「船だぁ?」
「ああうん。あいつらが来てるんなら……残念だけど、ここに留まってる必要はないだろうし」
「そうだな。俺もザンバイ共に用があっただけですぐ帰るつもりだった。……だがなチビ助、てめえはこの島が初めてなんだろ? それですぐ次の島に行くってのは、もったいねえと思わねえか。なぁ?」
急に乱暴に頭を撫でてくるパウリーが俺のリュックを持って立ち上がる。
「ちょっ、それ俺の!」
「ああ、持ってやってるだけだ。ガキは黙って俺について来い」
「意味わかんねーよ!」
「ここは美食の町プッチ。美味い飯屋はたくさんあるが――――赤ん坊やガキも気に入るような場所は限られてるんでね。そこに連れてってやる」
「いや何で……」
警戒するようなことじゃない。
俺を誰なのか知らないのは態度で明らかだし、ただ追われた先で出会っただけの縁だというのによくわからないことを言う。
いや、もしかしたら……これが追われた時に助けた借りを返せってことかな。
俺らに飯を食べさせることが?
それはあり得ないだろ。俺達に利益があってパウリーには何もないというのに。
……でも、本気でそう思っているような表情だ。
また追いかけられたらこの人に助けてもらおう。
俺の悪魔の実の力は音をかき消すだけで強くもなんともないしな。ドジって捕まったら目も当てられねえ。
でもそんな俺の思惑を気にしちゃいないのだろう。
俺を子ども扱いして、リードの頭も少し優しげに撫でてくる。
「次の島に行きたいんだろう。だが何処でも良いってんなら俺の故郷へ連れてってやる。出発するまで時間はかかるんでな、その間は俺と飯でも食いに行こうぜ」
「……パウリーさんって一文無しじゃねえの?」
「……………ツケでもいける店がある」
「………そっか、分かった」
まあ、逃げるだけも疲れるよな。
楽しむことも必要かな。
「ろなぁー」
「……うん、美味しいのあったらいいな」
「だぅー!」