「ここが美味い飯屋だ、ロシー」
「…………」
「あぶぶぶっ!!!」
「おいロシー! ……チビ助!!」
近くで言われて気が付く。
そういえば俺、ロナンの名前だと手配書と同じだからとっさに偽名を使ったんだったな。
ロシーの名前でも反応しないと駄目だ。気を付けよう。
「……えっと、うん。リードが凄くはしゃいでるから美味しそうなのは分かるぜ。それに良い匂いもする」
「ふんっ、そりゃあそうだ。この飯屋は赤ん坊から老人。はたまた別種族の生き物も頬を思わず落とすと言える飯が出る! 何よりツケで払えるし最高の店だここは!!」
ツケで支払える店を第一優先で選んだのかこの人は……。
ご馳走になれるならぜひなりたいけどさ。
金はあるけどこれから先やっていくなら凄く足りないし、他の人の好意に遠慮してたら生きていけないのが現状。
……それにこのパウリーさん、悪い人に見えないんだよなぁ。
何でほとんど知り合いにも満たない出会ったばっかの俺達を甘やかしてくれるんだか。
店の中に入って、パウリーさんが注文したものを待つ。
ツケを溜めているのか、いろいろと店側のスタッフに話しかけられたり怒られたりとかなり騒がしい。まあすぐにそれらの騒動は終わってゆっくり待ってたが……。
しばらくしていろんな料理が来るが、それらを差し出すパウリーさんに疑念は晴れない。
もしも、俺の直感が正しくなくて罠で俺を捕まえるためだったら……いや、それだと最初に出会った時から仕組まれたことになる。あんな偶然はあり得ないから違う。
「食ってみろ。美味いぞ」
「……うん」
「だぶー!」
美食の町と人々から称賛されるほどの料理だと納得できるほどの美味さが口から脳へ伝わっていく。思わずまた一口、二口と食事が進む。
「お客様。こちら赤子用のミルクとなります」
「あ、ああ……ありがとう……」
「みぅー!!!」
「分かってるって。ちょっと待て!」
リードもお腹が空いているのだろう。
ごくごくと勢いよくミルクを飲んでいくリードに苦笑する。まあ俺もさっきまで勢いよく食べまくってたから同じことか。
生まれて初めて美味い食べ物を味わったと思う。
……これがもう二度と食べられなくなるかもしれない。
そう思うと少し惜しくなるんだよな。
「……なあ、何で俺達に料理を奢ってくれたんだ?」
「あぁ?」
「金がないんだろう。なのに俺達に美食の町特有の美味さを知ってほしいからって……。パウリーさん、アンタが得することは何もないのに、何で俺達に優しくしてくれるんだ?」
「あぁ……まあ、そうだな……」
パウリーが照れくさそうに葉巻に火をつけてそれを吸う。
ゆっくりと煙を味わいながらも、どう俺に言おうか悩んでいるような顔をしているのが見える。
やがてミルクを飲み終わったリードをげっぷさせて落ち着かせるまでの間、静かに彼が言葉を紡ぐのを待つ。
「……一言で言うならただの自己満足だ」
「自己……満足って?」
「ロシー。お前の抱いてる赤ん坊が……以前知り合った奴に似ているような気がした。そして美食の町の匂いに大騒ぎする腹ペコな赤ん坊と、何もかもを我慢してそうなガキに美味い料理を食わせてやりたいと思えた。それだけだ」
うーんと。
つまり、俺達に飯を奢ってくれたのは、すべてパウリーさんの善意でやったことだったってわけなのか。
「……なあ、リードに似てる奴って誰なんだ? そんなに似てるのか?」
「……赤ん坊が誰に似てるかは俺に区別つかねえよ。雰囲気と直感で判断しただけだ!」
「誰に?」
「以前いろいろと大暴れしてはあっという間に消えていった、麦わらの野郎に似てただけだ」
麦わらと言われて驚く。
麦わらの一味―――――その船長のルフィ。
パウリーの言動から彼に会ったことがあるようだ。そうすると俺が感じたデジャブはたぶん、前世での知識をぼんやりと思い出した結果ってことなのかな。
でも一番の重要な問題は誰が誰に似ているということ。
俺はオリジナルがはっきりしてるから分かる。でもリードはまだ分かってない。黒髪と刺青が特徴的な子供というだけしか分からない。
リードの顔を見るが……そのルフィに似てる……のだろうか?
いや似てないような気がするんだけど……?
……そういえば麦わらってどんな顔してたっけ。
えっと、直接会えば分かると思うけど……頬に傷があって、よく笑うゴム人間……これじゃあ分かりにくいか。
「おい、いいのか?」
「え?」
「せっかくの飯が冷めちまうぞ。ボーっとしてないで食ってその味に感動しやがれ」
「……うん」
テーブルにはまだまだ料理がたくさん並んでいる。まるで満漢全席のように大量だ。
大きめの皿に積まれた大量の肉と野菜。魚料理もあるし、米類にデザートだってある。
「……いただきます」
もう一度両手を合わせてゆっくりと味を噛み締める。
料理を食べながら、別のことを考える余裕なんてなかった。
ただ、不安しかないんだ。
答えはまだ出ていない。
この先の目的も分からず、ただとにかく逃げ回るのみ。
……このままでいいのだろうか。
海軍や海賊に見つからず、他の人たちにも手配書のロナンだと知られないようにして生きていく生活ができるだろうか。
リードを守りながら逃げていくことはできるだろうか。
―――――なんか俺、不安になってるのかな。
美味い料理を食べて気が抜けているのかもしれない。
「口に食べかすついてるわよ」
「んぐ……あ、ありがとう」
白くて清潔あるハンカチで食べかすの肉を取ってくれる女に礼を言って―――――――
「…………………ん?」
「どうしたのよ、ロナン?」
「あぅー!」
「流石は美食の町! 美味い物が多いですやん!!」
あれー。えー……
何でこいつら平然と俺らのテーブル席に座ってんの!?
「あっ! てめえらあの路地裏にいたっっ!!? っておい待て女お前なんつーハレンチな服着てんだアホかっ!!?」
「はぁ? これぐらいの露出度は普通でしょう?」
「んなわけあるか! 頼むから普通の服着てくれハレンチな!!」
「なっ……あ、あなた……私が必要なの!?」
「はぁ? 何言ってんだ!?」
「分かったわ。あなたが望む通り、普通の服を着るわね!」
「いや待て、まず俺の話を聞けハレンチ女! 長ズボンを着るのは賛成だがな!!」
「分かったわ!」
片方では女とパウリーがいろいろとちぐはぐな会話をしているのが見える。
そしてもう片方は、肉を食ってる男が俺の腕の中にいる赤ん坊に見せつけながら笑う。
「うめーなこの肉。そう思わねえかチビ!」
「だぶぶー!!」
「ニーン。そうだなー。おめーまだ食えねえんだなー。こんなにうめえのに残念だなー!」
「みゃーー!!!!」
「お、落ち着けってリード。お前もうミルク飲んだばっかだろうが。あとお前も……あんまりリードに見せつけながら食べないでくれよ」
「んにー。面白かったからついなー」
なんだこれ、カオスか?
いや、シュールだなこの光景……。
それに、美味い飯を食ってるだけの2人にあの時の恐怖心が湧かない。
パウリーがいるからだろうか。それともパウリーと女がいまだに騒がしく会話をし、男が食べ物に夢中になっているからだろうか。
「……おいロシー! こいつらお前を追ってた奴だろ!? 一緒にいても大丈夫なのか!?」
「殺されそうになったら頼みますパウリーさん!」
「他人事かこの野郎!!」
葉巻を口から落とすほどの怒声を上げたパウリー。
その騒がしさに店のスタッフが嫌そうな顔をする。他の客もチラチラとこちらを見ているので、そろそろ騒ぐのを止めた方が良いかもしれない。
殺し合いがマジで起きたら出禁になりそうだ。
それで済めばいいんだけどさ。
「ちょっと待ちなさい。誰が殺すって言うのよ」
「はい?」
男女が俺達の会話を聞いて首を傾けた。
「言ったじゃない。私達は殺さないわ。遊ぶだけよ」
「そう言っただすやん?」
「追いかけっこは楽しかったでしょう。次は何をしましょうか」
えーちょっと待って!?
何でそう言う話になってんの!?
「悪魔の実とかは……」
「もういいのよ」
「おう、目的はもう違うからなー」
つまり、他の目的が出来たってこと?
それとも、あいつが何か指示をし……だからあいつって誰だよ!
ああくそ! 冷静にならなきゃ駄目だ俺!!
……落ち着け。こいつらが殺気立たないんなら、少しは逃亡生活も安心してできる可能性が高くなる。大丈夫だ。さっきのカオスな光景は平穏そのものだった。
だから平気なはず……。
「ってかおめー聞きてえことあるんだがいいか?」
「はい?」
「そっちのあなたもよ」
「あ? 何だハレンチ女」
「あぅー」
リードはともかく、俺とパウリーを見た男女が真剣な表情で言う。
「あなた今、ロシーって言わなかった? そう呼んでくれってロナンから言われたの?」
「あ、ああ。そうだが」
「……そう」
あれ。待って。
俺もしかしてドジった? またやっちまった?
とっさに偽名的な意味でロシーって呼んでくれって言ったけどさ。
手配書の名前を知られるわけにはいかないからそう名乗ったんだけど……あれ?
「おいロナン。おめー……『ロシナンテ』もしくは『コラソン』に聞き覚えはあるか? もしもあるなら、そいつとどんな関係だ」
「……………さ、さあ?」
――――――まさかの俺、ドジってたぁぁぁ!!!?
ってかロシーってオリジナルのあだ名かよ!
とっさに名乗っただけで俺知らねえよ畜生がっ!!
あとコラソンってなんだよそれもオリジナルのあだ名なのか!!?
「ロナン?」
「おい、ロナン。さっさと答えろ」
……さて、どうしよう。