フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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その色はもう見たくない

 

 

 

 

 

 最近世界がとても騒がしい。

 なんか麦わら一味が壊滅したんじゃないかという噂があるだの、世界の破壊者の異名を持つワールド……なんちゃらがいろいろと派手にやらかしているだのいろいろと酷いニュースが飛び交っている。

 

 この世界については、俺はあまり知らない。麦わらが主人公というのは分かってるし、東の海やアラバスタ、あと注目されてた人物などに関しては分かるが、物語の詳細については知らないとしか答えられない。

 漫画だって俺が前世で死んだときはまだ完結したわけじゃねえしな。

 

 とりあえずグランドラインとかいう場所の果てに海賊王となるためのワンピースがあるとか言うのは分かってるが。まあ麦わら一味が壊滅っていうのはあり得ない話だろうとは思う。

 なんかあったのは確かだけど、ニュースって言うのは偽の情報も真実のように扱う時があるからな。なんとなくそう思う。

 

 でも偽物だとしても新聞の情報は一番大事だからとっておこう。

 

 

 

「ばあさんにじいさん、この新聞貰っていい?」

 

 

「ああいいよ。おじいさんもそれでいいかい?」

 

 

「もちろんだとも。ワシらは暇つぶしに読んでいるだけじゃからのぅ。ほれ、それよりもせんべい食べるか?」

 

 

「いや止めとく。たぶん喉に詰まる」

 

 

「ロナン君はドジっ子だからねぇ」

 

 

「あぶー」

 

 

 

 うぐぐ……ドジっ子って呼ばれても否定できない自分が辛い……。

 いやでも最近は手伝いでやらかすことは少なくなったし、ココア飲んで噴き出して転ぶことはあっても怪我はしなくなったし!

 

 ミルクを飲ませてゲップさせ、上機嫌に笑うリードを揺らしながら遠い目をして現実逃避する。転んでもリードが怪我をしないように背中から倒れるようにしてるからまだいい方だと思うけどな。

 一日に数回以上やらかしてたら意味ねえか。

 

 

 

 

「ああそうだ。ロナン君、今日は港で魚を貰ってきてくれないかねぇ」

 

 

「魚ね、分かった。それ以外何かいる?」

 

 

「そうじゃな。畑仕事で使う道具を新調したいんじゃが……それをいつもの店の主人に伝えてきてはくれんかのぅ?」

 

 

「えっと、確か船大工も兼任してるおじさん……だっけ?」

 

 

「そうじゃよ。宜しく頼むぞ」

 

 

 

 老人夫婦は俺達を息子のように扱ってくれる。

 以前は実の子供がいたようなんだがその子は海賊の道へ進んでしまって寂しいからこそ、警戒はしていてもしばらくすれば慣れてくるし心も開く。見た目赤ん坊を背負った少年だからという点でも警戒心を解くのに役に立ったみたいだ。

 

 俺達にとっては幸運だ。

 とりあえず、俺を生み出すのを希望した海賊に見つかることなく生活できるのが一番いいからな。

 

 さて、魚でも買って来るとするかね。

 お金はばあさんから朝パンを買いに行った時の分がまだあるし、リードをベッドに降ろして一人で……。

 

 

 

「あーう!」

 

 

「リード。俺から手を離せって」

 

 

「あぶぶ!」

 

 

「笑っても駄目なもんは駄目だって言ってるだろー!」

 

 

「あうー!」

 

 

 

 ……くっ。

 この赤ん坊、指の力が強い!

 きまぐれでも起こしたのか? 俺の服を掴んでは離さないのは良いけど、涎垂らすなよ汚いな。

 

 

 

「あらあら、リードちゃんはロナン君の傍にいたいそうよ」

 

 

「ついでに連れて行ったらどうじゃ? ワシらもまだ畑仕事が残っておるからの」

 

 

「……………分かった」

 

 

「あぶー!」

 

 

 

 まあ海賊が暴れているとニュースでやっていても問題は起きないだろう。

 海軍支部だってこの港の近くにはあるんだ。

 海賊のような見た目をしたいかつい男たちが買い物途中の俺の傍を横切ることなんて老人夫婦に世話になってからは当たり前になった。

 最初はビクビクしていたがもうそれは昔の話だ。海軍だっているし。

 

 ドジらなければ、何も問題はないはずだ。

 

 

 

 

 

「何も問題はない……はずだったのになぁ……」

 

 

「あーう」

 

 

 

 ただの不良よりもガラの悪い見た目をした三人の男達が俺の前で立ちはだかる。

 俺はただ、足を滑らせて転んだだけなんだがなー。

 

 

 

「おおん? このクソガキ俺達に向かって酒樽ぶちかましたくせに何言ってやがる」

 

 

 

 いやそれリードを抱きかかえてたから背中から転んでその近くにアンタらがいて、ちょっとぶつかっただけだろ。

 ぶつかった拍子に男が持ってた酒樽が転がって壊れて地面に中身が溢れ出ただけの事だろ。

 

 

 

「舐めてんのかガキ!」

 

 

 

 舐めてません。逃げる間にドジらないかどうかに戦慄してるだけです。

 

 

 

 

「俺達は海賊だぞ。我らが船長は手配書に載ってるすげえ奴だぞ分かってんのかああん?」

 

 

 

 逃げられるかな。

 いや俺の脚力は意外とある方だからいけるはず。途中で転ばなければいける。

 

 

 

 

「あぶぶ!」

 

 

「笑うなやクソガキ!!」

 

 

「いや今のは俺じゃなくて赤ん坊のリードなんですが」

 

 

「知るか! 死ねやゴラ!!」

 

 

「どぉっ!?」

 

 

 

 男が剣を思いっきり俺達に向けて振り下ろす。

 身体が反射的に右に向いてそれを避けることに成功した。でもまだ心臓がバクバクいってる。

 

 俺の身体が普通じゃなくて良かったというべきなのか。

 

 

 

「あっぶねぇ殺す気か!?」

 

 

「殺す気なんだよクソガキ!!」

 

 

 

 殺気立つ男達。

 ぶっちゃけいうと早く海軍さん来てくれませんかと思うんですがね!

 俺戦闘とかできるわけないから! 前世でも喧嘩なんてやったことないんだっつーの!!

 

 だが、周りを見るとざわついてはいるが遠巻きにしてるのみ。

 おっさんたちがひそひそと「おいあれって変わり者夫婦が引き取ったって言うみなしごじゃね?」とか「ねえどうするのよ。海軍は別の海賊を追ってていないんでしょ?」とか聞こえてくる。

 ハイ、使えないですねこの野郎!!!

 

 というか俺の不運が問題か!!

 

 

 

「あぶー」

 

 

 リードはいつも通り可愛い声出して笑ってるし! 普通の子どもだったら泣いてるレベルの凶悪な顔が三つ並んでるっていうのに!

 

 赤ん坊に八つ当たりしても意味はない。奥の手だ!

 

 

 

「あーーーっ!! あれはなんだーーー!!!」

 

 

 

「あぁ?」

 

 

「何だ急に」

 

 

「何だ。何かあるってのか?」

 

 

 

 大きな声を出して男達の視線を俺から大きく海の方向へ向けさせる。

 奴らが隙をついた瞬間に駆ける。

 意外と長い俺の足を動かして走って逃げる!!

 

 

 

「おい逃げたぞあのクソガキ!」

 

 

「追いかけろ! 撃て!!」

 

 

 

「いや待て拳銃は反対!! この卑怯者!!!」

 

 

「うっせえ海賊に卑怯なんてあるかー!!!」

 

 

 

 正論を言われながらも懐から取り出した拳銃で逃げる俺の背を撃とうとしてくる。

 リードをしっかりと抱きしめて、大きく足を駆けだして逃げる―――――――。

 

 

 

「うぁっっ!!?」

 

 

「あぶっ!」

 

 

 

 こんな時にドジって足滑らせんじゃねえよ俺の馬鹿!!!

 勢いをつけすぎて何度も回転しながらぐるぐると回ってぶっ倒れる。身体中がぶつかって痛い。

 

 リードは……よし、大丈夫だな。

 赤ん坊のくせにまだ笑ってやがる。お気楽なもんだなまったく……。

 

 

 

「追いつめたぞクソガキ」

 

 

「ハッ、やべえ忘れてた!!」

 

 

 

 やべえうっかり後ろに敵がいるのを忘れてぼんやりしてた!

 

 

 

「何が忘れただ! へへっ、まあいいさ」

 

 

「ああそうだな、さあ死ね!」

 

 

 

 後ろを振り返ると、そこには男たちがニヤニヤと俺を見ながら嘲笑う。

 赤ん坊をしっかりと抱きしめて拳銃と死の恐怖に思わず目を瞑って覚悟を決める。

 

 いや決められない。今も恐怖で身体が震える。

 

 

 

「あぅー」

 

 

 今は喋るなよリード。

 こいつらが俺を攻撃して気が済むまでは……気が……。

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 攻撃が何も来なくて拍子抜けする。

 海軍でも来たのか? いやでも目の前に男たちが白目向いて俺を見ていて――――――何でこいつら白目向いてんだ?

 

 

 

「え?」

 

 

 

 不意にぐらりと男たちが倒れる。

 どさりと倒れたその背には、三本ぐらいの切り傷みたいなのを負って血を滴り落としながら気絶しているのが見えた。

 死んではいないが、攻撃された。

 

 

 

 その倒れた男たちの後ろにピンクの毛玉。

 

 

 

 

 

「フーッフッフッフ」

 

 

 

 

 ―――――奇妙な格好をして、嗤う男。

 普通ならば「何だこのピンク男。変人か」とか「助けてくれたのか?」とか思っているかもしれない。

 でも違う。こいつはそんなんじゃない。

 

 

 そいつを見た瞬間、ドクリと心臓が高鳴る。冷や汗がだらだらと流れ落ちる。

 こいつに会っちゃいけない。この男に近づいたらいけない。

 

 こいつは危険だと、頭の中で警鐘が鳴り響く。

 頭が痛い。こいつの近くに居たらヤバい。

 

 

 俺に近づくピンク毛玉の男が、こちらに向かって手を伸ばす。

 

 

 

 

「あぶ!」

 

 

「っ……!!!」

 

 

 

 

 赤ん坊の声で我に返って、ようやく身体が動かせた。

 まずは海軍だ。海軍基地へ向かおう。

 

 

 

「ああ? 追いかけっこでもしたいってのか?」

 

 

 

 後ろを見る余裕なんてなかった。

 あいつに捕まることだけは絶対に避けなければと必死に走った。

 

 

 

 

「まだ時間はたっぷりある。愉しもうぜ、―――――――」

 

 

 

 

 声を聞く余裕も、失せていた。

 

 

 

 

 

 

 

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