―――――――海兵は嫌いか?
―――――――政府に関わる奴は吐き気がする!!
幻聴だというのは分かっている。だが懐かしいと思える声が聞こえる。
頭も痛いし、何が何だかよく分からない感覚もする。
何故だが急に口に何かを咥えたくなる衝動に襲われる。
俺の手を引っ張ってどこかへ行こうとするモフモフ帽子をかぶった少年に、無性に抱きつきたくなる。
でもそんなことをして何になる。
俺は知らない。トラファルガー・ローだなんて七武海で海賊な男のことを、俺は知らない。
……でも、この子供のことを知ってると心が叫んでいる。
「おい白猟屋。ここで争っても何の意味もねえ。子供の体力も限られてるんでな――――――俺は七武海だ。海兵と争うような立場じゃねえことぐらいお前にも分かってるんだろう」
「…………チッ、そういうところが気に食わねえ」
「フッ」
仕方がない、渋々降ろしてやるか。
そう言っているような態度で後ろから追いかけてきていた煙まみれの少年が立ち止まる。
そしてモフモフ帽子をかぶった少年も急に立ち止ま―――――――ちょっっっ!!?
「ごっふっっ!!?」
「びゃー!」
足が絡まりモフモフ帽子の少年よりも前に何度も転がりながら出て、その正面の壁に顔面をぶつけて止まった。
顔面というか、仮面越しにぶつかったので余計に痛い。
咄嗟に両手でリードの頭や身体を守るように抱きしめてたから……大丈夫……だよな?
うぐぐ……。
「いでででっ……」
「何やってんだお前」
「う……うるせー……」
「うるしゃー!」
急に立ち止まるような軽快な動きをドジな俺が出来るわけもない。
モフモフ帽子の少年が呆れたような目で俺を見ており、煙の少年が小さくため息をつく。
そんな気まずい空気に、何とも言えないまま立ち上がって彼らの傍へ寄っていった。
「……ロー。このガキは誰だ。仲間か?」
「違う、あの青髪の女の居所を知るガキだ」
そう言って、二人の目が俺を直視する。
殺気はないけれど……嫌な感じだ。
煙の少年……たぶん先程の……モフモフ帽子少年との会話で海兵だというようなことを言っていたから、多分彼は海兵だろう。
だから俺に十手を向けて、怖い目つきで睨みつけてくる。
「おいガキ、てめえ何で仮面をかぶってる」
「えっ」
「何か顔を隠す理由でもあるのか?」
まあ、普通はそう思うだろう。
このまま怪しまれるぐらいなら、仮面を取っても良いかもしれない。
でもそれは駄目だと本能が訴えかける。あのモフモフ帽子の少年に……。
――――――ローに、顔を見られてはならないという思いがあるのだから。
「仮面は……顔を見られたいという訳じゃない。こっちにも事情はあるんだ。えっと白猟……?」
「けむりゃーん!」
「ああ、ケムリンだっけ?」
リードの言葉に頷いた俺を見て、ケムリンな少年が額に青筋を立ててキレやがった。
「誰がケムリンだこのクソガキ!! 上等だ……無理やりその仮面を引き剥がすぞ!」
「んなことしたら青髪の女が何処に向かったのか言わないからな!!」
なのでやめてください!!
俺は弱いんですぐに仮面を引き剥がされちゃうから!!
「……おい白猟屋、余計なことをして手間取らせるな。あの女が永久にこの島にいるとは限らねぇんだ」
「……チッ」
ようやく殺気がなくなるが、それ以上にこちらを追求するような目が向けられる。
「とりあえず、どういうことなのか話を聞いても?」
「……そしたら話すか?」
「まあ……」
治療した彼女に危害を加えそうな雰囲気のある2人にそのまま話せるわけはない。
まあ、俺も確実な情報を知る訳じゃないからな……。
ただなんとなく、モフモフ帽子の少年を放っておけるような気はしないだけだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
詳しい事情は話すつもりはないらしい。
だが、ある程度のことは教えてくれた。女性が海賊と同じく敵であるということ。
彼らが海兵と七武海であるということ。
そして女性が何をやったのかを――――――。
「ええっと……つまり、あの女性はモドモドの実を食べた能力者で、こちらに歯向かってきたから戦って?」
「海軍の物となるはずのエターナルポースを奪って逃げたんだ」
「そのエターナルポースって?」
「…………」
「ああ、言えないのな……まあとにかく、その能力者の力のせいで子供にされたと?」
否定も何もなかったので、とりあえず頷いた。
「えっと、1回触られたら12年……で、今はケムリンが10歳と、えっと……」
「とりゃおー!」
「ああ、トラ男が12歳か」
「おい誰がトラ男だ」
ごめん。でもローって面と向かって言うのは、何か……うん……。
でもため息ひとつで許してくれるのはありがたい。良い子に育ったな!
いや、良い子とかじゃねえだろ。
ああもう。これは俺の言葉じゃねえな……。
「あーっと……身体や精神年齢はどっちも俺より年上なんだな……」
「ああ? てめえ何歳だ」
「えーっと……8歳くらいっ?―――いだっ!?」
「てめえは13歳くらいだろ」
「いやいやいや……」
いくら身長が大きくても頭殴ることないだろ!?
だいたいそのぐらいの年齢だって大体でわかるし!!
たぶんオリジナルの記憶の感覚で言うと8歳なんだよ! お前らよりちょっとでけえけどさ!
「とにかくとっとと話せ」
「ああうん、えっと女性は奥の方の……もう一つの……たぶん、エターナルポースを手に入れるために向かうみたいなことを言ってたよ」
「奥の方にあるエターナルポースか……なら、あそこか。……あの女、いったい何を狙ってやがる……」
舌打ちをしたケムリンが、何かを考えるような顔をして遠くの方を見る。
何を考えているのだろうか。
身体は子供のくせに葉巻を吸って、難しそうな表情をしているのが凄く違和感がある。
「白猟屋、確かエターナルポースは複数管理された場所があるんだろう」
「あ? てめえらを連れていくつもりはねえよ。俺があの女をどうにかする。それで能力を解除してもらえばいいだろ。ロー、てめえはそこで大人しくしとくんだな」
「ほぉ? 言うじゃねえか白猟屋……あいにくだが、こっちにもエターナルポースに用があるんでな。海兵が管理するものじゃなく、正規で取引できる代物だ。あの女全部持っていきやがった……」
「だから手を出したのか……なるほどな。ならエターナルポースはそっちが追え。俺は女を追う」
そう言ったケムリンが急に煙となって宙へ浮き、天井を伝って行ってしまった。
そしてローも奥の方へ歩き出して――――――って。
「ちょっと待ってくれ、トラ男!」
「あぁ?」
「俺も一緒にいきたい」
「何言ってんだ……てめえなんか来ても―――――」
「足手まといになるなら置いていってくれ。囮に使ってくれても構わない。ただ、一緒に行きたい」
何故かこの少年と離れたらいけない気がした。
だからついていく。
ついて行かないといけない気がしたから。
「あぅー?」
ごめんリード。お前を危険に晒すかもしれない。
でも絶対に守るから。
だからローの傍に行かせてくれ。
ローはただ無表情で俺を見つめている。
仮面越しにじっと俺の考えを読みとろうとしているかのようだ。
「……妙な真似はするなよ」
「ああ!」
良かった。一緒に行くことが出来て……。
「おいそこは穴だ」
「どぉっっ!!?」
「きゃーぅ!!」
「はぁ……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
奥の方というのは、以前別の島で見たことのある闇市場と似たような建物の中にある金庫だった。
騒がしい音が聞こえるが―――――たぶんあの女性か、それかケムリンが戦っているに違いない。
その隙に中へ侵入し、ローが狙うエターナルポースを見つけるために探す。
だが金庫は何故か開きっぱなしで、エターナルポースも乱雑に積み上げられた状態で置かれていた。
もしかしたら女性がもう侵入して何かを持っていったかもしれない。
「くそっ……1つの島を示すエターナルポースは複数あるみたいだが、肝心のがねえ……まさかあの女がもう持ってったのか?」
「なあトラ男、俺も一緒に探すよ。どれを探してるんだ?」
「ドレスローザだ。だがどこに……」
「えっ」
ドレスローザという名前を知っている。
俺は知ってる。
――――――――この筒一つで……はるか遠い国……『ドレスローザ』という王国を救えるんだ。
――――――――届け終えたら……すぐにこの島を出よう。
覚えてる。知っている。
俺が救えなかった島の名前を知っている。
誰が何をしているのかを、知っている。
「ろなー?」
リードの声が遠くで聞こえる。
手を伸ばし、俺の顎を触って問いかけるような声が聞こえる。
でもそれが理解できても身体が反応しない。
ただぐるぐると幻聴が聞こえてくるんだ。
ローは何を考えてる?
ドレスローザで何をするつもりなんだ?
……いや、考えるべきは一つしかない。
抱き上げているリードを床に座らせた。
傷つかないように壁沿いに座らせてから、ローを見る。
「おいロー。お前そのドレスローザで何をするつもりだ」
「あ?」
「あそこには……もう、ドフラミンゴがいるはずだろう。あそこに行って、何をするつもりなんだ」
「……てめえには関係ないだろう」
「うるせえよクソガキ!!」
「っ!」
ムカついた。苛ついた。
だから奴の胸ぐらをつかんで、仮面越しに睨みつける。
この子供は―――――またドフラミンゴに会ってどうするつもりなんだ。
死ぬ気なのかこのガキは……!!
「ドレスローザに行こうとするな! お前が行って何になる! お前が行く理由なんてないはずだろ!!」
「うるせえ。手を離せ!」
「ぐっ!?」
胸ぐらを掴む俺の腹を蹴り、そのまま向こう側の壁に吹き飛ばされる。
急な激痛と衝撃に視界が明滅する。
子供だというのに強い脚力だ。
いや、鍛えられたからか。
それとも元気になったから強くなったのか……!
でも関係ない。
腹を押さえて再び立ち上がる。俺を睨みつけるローと、向かい合う。
「俺はお前を助けたい! その一心で動いたはずだ!」
「何を……」
「復讐してくれだなんて考えてなかった! ただ生きてくれたらそれで……なあロー、お前は……お前が、救われた命を無駄にするなよ!!」
蹴られた衝撃で身体がふらつき、そのせいで剥がれた仮面がころりと地面に落ちた。
「はっ……」
ローが声なき何かの名前を、唖然とした顔で口にする。
だが我に返り表情を変えて―――――。
「ROOM」
薄い膜が俺達を覆いつくし、ローがこちらへ向けて刀を二度、突き刺すような動きを見せる。
ドクリと―――――何かが飛び出したような音が聞こえた。
何かの衝撃が身体を襲ってきた。
「シャンブルズ」
「えっ」
視界が急に狭まる。
いや違う、ローを直接見ている視界が違う。
ローを、見上げている……!?
「すべて終わったら、元に戻す。だからそのままここにいろ」
つらそうな表情で、ローが言う。
慌てて手を伸ばそうとして――――――それが出来ない自分がいることに気づいた。
「その顔で、その表情で……二度と同じ言葉を吐くな」
金庫から出ていくローを追うことができない。
歩くこともままならない。
というか、俺がいるんですけど。
なんか俺の身体がが壁際で寝転がっているんですけど……?
ローを追いかけようとして……でもそれができない身体に、目を見開いた。
「あぅぅぅぅぅっっ!!!!???」
―――――――リードが俺で、俺がリードになってるぅぅぅ!!!!???