アインという女は海兵の一人であった。そう彼―――――スモーカーは知っていた。
だがしかし、海軍を裏切り敵に回そうとする目的をスモーカーは疑念に感じている。
海賊になろうというつもりで動いているようには見られない。
ただ偶然いただけのトラファルガー・ローに対して敵対的な行動をしたということ。それまではこちらに目もくれず……捕まえようとした意思を感じ取り能力を使った以外は何もなかった。
それが解せない。
海賊を許さない気持ちはあるらしいが、海軍を裏切るような気持ちは感じられない。
……いや違う、ただ今は興味がないだけか。
(聞けば分かるが……)
手に入れた2つのエターナルポース。
そこから導き出される島の特徴、その共通点は分かる。
残りの1つもそうなのだろう。
だが、手に入れて何になる。……何を企んでいる。
「アイン、海軍を裏切ってまでてめえは何をするつもりだ!」
いつもならば煙で捕えて離さないようにする。
だが女の能力は触っただけで発動する厄介なものだ。あと一回触れば存在ごと消滅する。
だからスモーカーは触られないような位置に立ち、アインを十手で壁に押し付けたまま睨みつける。
海楼石入りの十手のせいで身動きが取れない彼女が、苦しそうに表情を変えながらも口を開いた。
「……あなたには、関係のないことだ」
「あぁ?」
「……は……あの海賊が……あいつが七武海加盟をすることに反対をしている。それでも押し切るのなら……だから私はここにいる」
「何言ってやがる」
「……いいえ、気にしないで。貴方には関係のないことよ」
何を言っているのかは分からない。
だが彼女はエターナルポースが入った袋を抱えて離さない。
おそらく共通点のある島が記された3つのエターナルポースがあるだろう。
いや、それ以上の物を奪っているかもしれない。
「てめえが何の目的で動いているのかは後で聞こう……だがな、これは海軍への反逆行為だ。分かってんだろうな、アイン!」
「ええ……覚悟は出来てるわ」
「ハッ、そうかよ」
その瞳に迷いがあるように見えたが――――――スモーカーは何も言うつもりはなかった。
「このまま迷惑をかけるつもりなら、私は……!」
指摘することができなかったのは、アインの手に大量の爆弾があったこと。そしてそれらが放たれたせいもあったからだった。
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仮面の奥に隠された素顔に心臓が酷く鳴り響いたのはなぜだったのか。
あのガキが一般人じゃないのは分かっていた。
素顔を隠し、名前さえも言わず、こちらの物騒な事情を知っていて共に行動しようとするその度胸の全てが普通ではないと分かる。
「……クソッ」
いつもの自分らしくない心境に苛立ちを隠さず舌打ちをする。
仲間たちを海列車の先の―――――美食の町へ置いてきたのだ。これは復讐の為に始めること。仲間の彼らにもやってもらいたいことはあるが、これだけは譲ることのできないもの。
一人でやろうと決心したからここにいる。
だからこそ、無意識ながらもやってしまった己の行動に嫌な激情が込み上げる。
一人でやろうと決めたというのに―――――共に行動しようと思えたのは何故だったか。
囮に使おうと思って行動したのかと言われたら否と答える自分がいる。
何かに利用するにもあのドジさではやっていけないだろうと思える自分が……。
(ああ、そうか……)
素顔だけじゃない。
その行動。その性格も似ている。
綺麗とは言えないが、絶対に失ってはいけない昔を思い出す。
あの日からこの復讐を決めていた。
他の奴等を利用して、ドフラミンゴを陥れる。
自分の手でやるのではないが、危険な道を通るのは確実。自分が囮になることだって必要とあればやる。
心臓を取り出して餌にしてやることも考えてる。
それぐらいの覚悟でもって奴に挑むための―――――これはいわば準備だ。
いつかの未来においてドフラミンゴを倒すための準備。
そのためにドレスローザへのエターナルポースが必要となる。
――――――だから嫌だった。
あの泣きそうな表情で、『救われた命を無駄にするな』と言われることの意味を。
命を無駄にするなと言われて思わず「アンタが言うな」と怒鳴りたいほどに似ているその容姿を。
完全に他人だと否定できない自分の動揺と困惑に苛立ちが募る。
「……もう決めたことだ」
ああそうだ。
もう決めたことだ。
あの日からすべての覚悟は出来ている。
そのために今を生きている。
ただ、あの少年が誰なのかは知らないといけない。
そのための覚悟を作らないといけない。
彼があの人とどういう繋がりがあるのかを知る―――――その覚悟がまだ出来ていない自分にまた苛立ちを込めて舌打ちをした。
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「どりょぉぉっ!!?」
どうなってんだこれ!!?
いやいやいや、赤ん坊の身体だよな。遠くの方に俺の身体があるからこれってリードの身体だよな!?
マジでどうしてこうなってんの!?
いや、でもこのままじゃいけないのは確かだ。
ローを追わないといけない。
ああでも赤ん坊の身体だから、ふらふらして……。
うぐぐ……立てねえ……!!
「あちょ、ちょっりょぉぉ!!」
あとちょっと。あと少し!
壁沿いに、生まれたての小鹿並みに足をプルプルさせながらも頑張って立ち上がって――――――んぐっ!?
「いぢゃ……うぐ……」
ドジは精神から来ているのだろうか。
立ち上がれたと思いきや背中から転んで、頭を打って痛みに身体を震えさせる。
赤ん坊だから涙腺が弱いのか……涙が込み上げてきて止まらん……。
ああくそ……うぐぐぐ……!!
「ふぇぇぇ……こりぇ、りょーにょびゃきゃぁぁ!!!!」
ローの馬鹿やろうがぁぁ!!
絶対に許さないぞ。……いや、説教したら許してやるけど!
でもってあのクソガキにげんこつしてやる!!
「りーりょぉ!」
「あー!」
リードは普通に寝そべったまま俺を見つめて笑いかけている。
うわー。
俺の身体で赤ん坊の精神はちょっとキツい部分があるような気がするんですがぁ……。
―――――――って、なんだ?
「ふぉぉぉぉぉっ!!!?」
身体が揺れる。いや違う。
建物全体が揺れている!?
え、何で、天井がヒビ入ってるし……ちょっ。待って待って!
「しにゅぅぅぅぅぅぅ!!!」
俺今赤ん坊! 動ける身体はリードが入ってるから!!
いやマジ無理だから! 俺にできることはほとんどないから!!
ちょっとローくん。帰って来てくれよぉぉぉぉぉっっ!!!!!
「――――――――ったく、仕方ねえな」
「ふぇ?」
聞こえてきた声と、ふわりと誰かの腕に包まれる感触に驚愕した。