フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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いつか、彼が思い出したその時に

 

 

 

 

 

 本当は何もするつもりはなかった。

 傍観して、彼らがどう生きるのかを見届けるだけで良かった。

 

 この魂、この精神。俺の記憶が成長するにつれて消えてしまっても構わないと思っていた。

 ……あいつがそれを知った時、悲しむかもしれないが。

 

 だが、もう終わったことだ。

 今さら表に出ても仕方ないと思っていた。

 それでよかった。

 

 ―――――ああ、それで良かったんだが。

 

 

 

「りーりょ?」

 

 

 

 舌っ足らずに話しかけるきょとんとした顔のロナンに呆れてため息が出る。

 こいつを助けたいという感情と、ロナンの無鉄砲な行動のせいでこうなった。だから己の身体であろうともつい乱暴に扱ってしまうのは仕方ないことだろう。

 

 

 

「あぅ……にゃに……!?」

 

 

 

「良いから行くぞ。あの白い帽子のガキんところに行くんだろ」

 

 

「ふぁ……りーりょ?」

 

 

「うるせー」

 

 

 

 どうせ中身赤ん坊が喋れることに驚いてるってところなんだろ。

 でもこいつに話しても意味はない。

 

 彼らの話は聞いていた。ロナンはあの白い帽子のガキを追いかけようとしていたんだ。

 目覚めた時からずっと守ろうとした赤ん坊ではなく、あのガキを選ぼうとしているように見えた。

 

 

 だから……いや、気にすることはない。

 こいつがどう選んだかによって、俺自身がその時の対応を変えるだけだ。

 

 

 

「りーりょ!」

 

 

「あぁ?」

 

 

 米俵を運ぶように肩に乗せている赤ん坊姿のロナンが何かを言う。

 焦った様子はない。よくドジって転がったり穴に落ちたり海に落ちたりを繰り返してるから、こういう不安定な抱き上げでも動揺はしていないみたいだが……。

 

 

 

「りーりょ、あーりゃとにゃ!」

 

 

「……馬鹿、言えてねえよ」

 

 

 

 ―――――ありがとな。

 そう言った顔はあまりにも素直なものだった。

 

 こちらに対して何も聞かずに、ただ普通に対応している。

 ただ俺を味方だと信じ切っている。疑わずに真っ直ぐに助けてくれると信じて言う。

 

 その言葉に少しだけ……不機嫌だった心が和らぐ。

 

 

 

 

 

「……俺はリードじゃねえよ」

 

 

「はう?」

 

 

 

「……あいつは今眠ってる。俺はただ、代わってもらっただけだ」

 

 

 

「ふぇ?」

 

 

 

 考え事をしているのだろう。

 俺が言った言葉をちゃんと考えて、そして答えを決めようとしている。

 

 俺が誰なのかを知って―――――どう対応しようか、考えているように思う。

 

 

 

 

「……んーじゃ、おみゃえは?」

 

 

 

 ほらきた。

 

 

 

「俺は……そうだな、誰でもないし何でもない。ただの記憶の残骸。お前が言うリードとは違う……ただのコピーだ」

 

 

 

 

 あのクソ科学者がやりやがった失態は、俺にとってはありがたいものだった。

 

 あいつが俺の代わりに主導権を握ってくれているから、俺は安心して見ていられる。

 ロナンが……いや、あの白い帽子のガキに会うまでは安心して見ていられた。

 

 記憶があっても良いことなんて何もない。

 

 オリジナルは死んだ。俺は記憶を持つコピーに過ぎない。

 クローンと言えどもこんな記憶は必要ない。

 もうとっくに終わったことを繰り返されても仕方ないんだ。

 あの時のオリジナルは悔いなく終わった。だからもういい。もう、この記憶は必要ない。

 

 

 それはロナンもあいつも……まだ完ぺきに思い出してないみたいだからなんとも言えないが。

 

 

 

 

「ちぎゃうだりょ!」

 

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 ――――違うだろ! と、ロナンは言う。

 舌っ足らずだからただ聞くだけならば分かりにくいが、何を言っているのかは分かった。

 

 

 

 

「おみゃえは、おれにょ……あう……おれにょだいじにゃおとうと……りゃ! りーりょ、じゃにゃくても! りーりょでみょ!」

 

 

「…………ハッ、あの白いガキはどうしたよ」

 

 

「あいちゅは、とみぇにゃいといけにゃいのら!」

 

 

「……言えてねえぞ全然」

 

 

「うー!」

 

 

 

 リードじゃなくても、リードでも……大事な弟だと言う言葉。

 白いガキは、止めなくちゃいけないと言うこいつの感情の込められたもの。

 

 それは――――――いや、まだ信じられる事じゃない。

 ロナンはまだ、自分自身が何なのかを分かっていない。だから信じきれない。

 信じるにはまだ早い。

 

 

 だが…………。

 

 

 

 

「……お前が名づけた……リードという名のクローンが作られたのは、あの科学者が戦場で血を使った細胞複製のものだった」

 

 

 

「うー?」

 

 

 

「あー……あんま俺も知らねーが……とにかく、戦場で落ちた血を利用してクローンを作り出したのは本当の事だ。だがそこに複数の血が入り込んだことに奴は気づかなかったみたいでな……」

 

 

 

 

 

 ―――――だから俺は見守ることを選んだ。

 記憶のないあいつがどう選ぶのかを、俺はただ見ているだけで良かった。

 

 見た目は同じだが、中身が違えばまた雰囲気も変わる。

 別人だと思う奴もいるだろう。

 

 赤ん坊のふりは俺にはできないから、あいつに任せていた。

 あいつはある意味被害者だから、そのまま健やかに育って欲しいと願った。

 

 そのまま見守っていればよかった。

 

 

 

 

「俺がこうやって表に出て動くことは……あまり、なくなるだろうな」

 

 

 

「ふぇ?」

 

 

 

「いや、それはどうでもいい。お前はただあいつを守れよ」

 

 

 

「……あいちゅ」

 

 

 

 気になったのだろう。

 たぶん、俺の今までの言動を聞いて―――――今まで一緒にいたリードと呼ばれた赤ん坊の方だと分かったはずだ。

 

 米俵抱きから、真正面で抱きしめてその顔を見る。

 ロナンはただ、きょとんとした顔で俺を見上げていた。

 

 

 

 

「なっ、あいちゅって?」

 

 

 

 

 

 首を傾けてまた問いかけてくる言葉に、俺はただ小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「……俺の弟だ。今俺の中で眠っている……いつものリードだよ。お前がどう決めて動くのかは……まだ分からねえが、とにかく、弟を裏切るような真似はしないでくれ。頼むぜ」

 

 

 

「あぅ! もちろんりゃ!」

 

 

 

 

 へたくそな笑顔で言うが――――――それが真実かはまだわかんねえ。

 

 こいつは信じられるが……いや、まあいい。

 とにかく、ロナンはロナンの問題をさっさと解決しちまえばいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

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