フェイクというには程遠い   作:若葉ノ茶

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終了のアナウンスが脳内で鳴り響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――地獄を見た。

 深淵の果ての地獄を見た。

 

 

 化け物やモンスターを怖いと言う人間が多いが、地獄を引き起こすのは決まって人間が(おこな)ってきた。

 

 

 燃え盛る嫌悪を伴った炎を引き起こしたのは誰だ。

 憎しみと悲しみ。そしてすべての悪意を向けるのは誰だ。

 

 誰が何をしたというのだ。

 俺は何もしていない。何もすることが出来なかったのだから。

 

 憎しみの連鎖に巻き込まれた人間が、結局また他の人間を憎んで殺す。

 その果てを見てしまった。欲望の先の業火を見た。

 

 憎しみは憎しみを呼び起こす。

 誰かが止めようと思わない限り、憎しみの連鎖は止まることはない。

 地獄が終わる気配は見えない。

 

 ああそうだ、誰かが止めないと――――――――。

 

 

 結局、一番怖いのは人間だ。

 

 

 

 

 

「……ロナン。おい、ロナン」

 

 

「っ」

 

 

 

 何かぼんやりとしていた気がする。

 いや違うな。何かを見ていた?

 ノイズと切り離された光景が映し出されては消えていった。

 

 まるで夢のような光景だったけど……あれは………。

 

 

 

「ボーっとすんなよ。そろそろだぞ」

 

 

「うっ……わかっりゃ!」

 

 

 

 ため息をついたエースに頷いておく。

 考えるのは全て終えてからにしよう。うん、そうしておいた方が良い。

 抱きしめられたまま、その胸元の服にしがみついて絶対に離さないようにする。

 

 エースはドジじゃないから急に転んだり爆弾か何かで崩壊しかけた建物の穴に落ちることはない。

 とりあえずしっかりと掴んでおけば大丈夫だろう。まあ……ローが俺達を元に戻した後の方が問題だよな。

 

 廊下の先――――――閉ざされた扉の先に騒ぎ声が聞こえる。

 争っているような声と、大きな複数の悲鳴。

 

 

 

「ローの声は聞こえないけれど……まあいいわ。ほらあなた達は後ろに下がってなさい」

 

 

「ニーン……怪我したくなきゃな!」

 

 

 

 ガシャコンっと、腕やら身体やらを能力で変化させたベビー5達が悪そうな笑みを浮かべている。

 いやお前ら……まさかとは思うが……。

 

 

 

「ロー!!!」

 

 

「いるんだろ、ロー! おめーとっとと若様の元まで帰ってきやがれー!!」

 

 

 

「はッ!? 何でてめえらがここに……っ!!?」

 

 

「あぁ? ロー! てめえの知り合いか!?」

 

 

「おいまた増えやがったぞ! どうすんだよ!?」

 

 

「と、とにかく戦って宝を手に入れるしかねえだろ!!」

 

 

 

 扉を吹っ飛ばす勢いで飛び込んできた男女にそれぞれが驚愕した表情を浮かべる。

 ケムリンもいるし、ローだっている。子供の身体じゃなくて普通の成長した姿になっていた。うん、元気に成長していて、でもなんか悪人みたいな風貌になってて嬉しいような悲しいような……。

 あとよく分からない海賊風味の人たちが複数いるな。

 

 まあ想定してたけど! 驚くことぐらいは分かってたことだけどさ!!

 いやそれよりも、ベビー5達は何でローに対してだけ武器を構えて攻撃しようとしてるんだよ!?

 

 

 

「まちぇっ!」

 

 

「駄目だ、暴れんな」

 

 

「うーっ!!」

 

 

 

 

 でも行かないと! あいつらの喧嘩を止めてやらないと!!

 

 俺をしっかりと抱くエースに不満の意味を込めて顔を見上げた。

 だがエースは真剣な表情で扉が吹っ飛んでない方に身体を隠して座り込み、奴らの喧騒を眺めている。

 

 

 

 

「俺の存在をあいつらに知られるわけにはいかねえ。特にあの海兵には」

 

 

「うっ……けむりゃんのこちょ?」

 

 

「ああそうだ。あいつは特にな」

 

 

「にゃんで?」

 

 

「……記憶の中で、奴を見たことがある」

 

 

 

 エースはいろいろと変な顔をしていた。

 懐かしそうに少しだけ笑ったかと思いきや、嫌悪にも似た表情を浮かべる。

 

 やがて首を左右に振って……何もかもを振り切って俺に向かってと言うよりは、独り言のように話す。

 

 

 

「俺にとっても弟にとっても……記憶があると知られたら面倒なのは確かだな……」

 

 

「あぅ……」

 

 

 

 あーっと……確か弟の……リードの方はあのケムリンを見ただけでにっこりと上機嫌に笑ってたよな。

 それでもって「けむりゃん」としきりに話しかけていた。

 

 それは完璧に思い出してはないとしても……ある程度ケムリンと関わった記憶があると言うことではないか。

 だからリードは知っている。そしてエースも彼を知っている。

 オリジナルとして、彼が誰なのかを知っているから、知られたくはないと言う。

 

 でもこのまま放置しているのも嫌なんだよな……!

 

 

 

「おりぇを、おろしぇ!」

 

 

「はぁ? 降ろせってお前……どうするつもりだよ」

 

 

「ろーにょもちょまで、いきゅ!」

 

 

 

「ローの元まで行く……あのケムリンじゃねえほうの男か……」

 

 

 

 隠れながらも扉の先を見たのだろう。

 いつの間にやら騒ぎに決着がつきそうな勢いになってきている。

 

 あのよく分からない海賊風の複数の男たちが身体をバラバラにされたり煙で吹っ飛ばされたり拳銃で撃たれたりと見事に倒れているのが見える。

 そして、ローとケムリンがそれぞれ単独で助け合うこともなくベビー5達と対立する形で動き、戦い合っている。

 

 それを止めたいと思った。身体が反応するんだ。

 彼らが戦う必要はないって。止めないといけないって……!!

 

 

 

「落ち着けよ、ロナン」

 

 

「うぎゅっ!?」

 

 

 

 抱え込むと言うよりは握りつぶされるぐらいぎゅっとされて内臓が飛び出そうになる。

 ってかなんだよ急に……!!

 

 

 

「今、お前の身体は赤ん坊だろ」

 

 

「しっちぇる!」

 

 

「なら赤ん坊のお前が行っても意味はねえってこと分かってるよな。むしろ行っても無駄だ、諦めろ」

 

 

「しょ……そんにゃこちょ……」

 

 

「んなことねえってか?」

 

 

 

 ――――――ハッ、と自嘲したような顔で笑うエースに言葉を失った。

 

 

 

 

「いいか、身勝手な行動をすれば失うものだってあるかもしれねえんだ。ちゃんと考えろよ、弱いまま何ができるか考えろ。抱き上げたまま落とせば怪我を負うお前に何ができる?」

 

 

「しょんにゃの……」

 

 

「何もできねえだろうが馬鹿」

 

 

 

 くそっ……言い返せねえ……。なんか妙に説得力のある声で言うんだよな、エースは……。

 もしかしたら経験から言っていることかもしれない。

 オリジナルの記憶を所持しているから、そう言えるのだろう。

 

 でも、それでも……!

 

 

 

「おりぇは、もうみちゃままでいちゃくない! うごきゃないといけないこともありゅ!」

 

 

 

 

 見たまま動かず、助ける命が助からないままでいたくはない。

 行動を起こせば救える命だってあるんだ。行動したから救えた男がいるんだ。

 

 だから俺は……!!

 

 

 

「まあ、もう遅いがな」

 

 

「う?」

 

 

 

 よく見るとなんかいろいろと壮絶だった。

 いや、廊下の窓際の壁が半分吹っ飛んでて凄いことになってる!?

 

 ってか……え、何が起きてんの?

 

 

 

「大佐! ……ああっ、ここにいたのですか!?」

 

 

「たしぎ! 島に包囲網を設置しとけ!」

 

 

「え!?」

 

 

「エターナルポースを強奪した女が逃走した。アインだ! 分かってんだろうな!?」

 

 

「っ……はい! すぐに!」

 

 

 

「ニーン……他の海兵共が来たか……」

 

 

 

 わらわらと集まってくる海兵にベビー5達が微妙な表情を浮かべる。

 彼らが七武海のドフラミンゴの仲間だとしても……それでも、面倒なのは確かだろう。

 

 一応事態が収拾したようで良かった。俺が行かなくても良かったことにエースはよく分からない表情を浮かべてるけど、まあよかった。

 

 でもローは楽しそうだな。

 

 

 

「…………これ以上ここにいても意味はねえ。とっととあの国に帰れ」

 

 

 

「っ―――――ロー! 逃げんじゃねえだすやん!!」

 

 

「チッ……てめえらといると面倒事しか起きねえ……」

 

 

「聞きなさいロー! 貴方が七武海に入った以上……いつか、若様が動くわ。その意味をあなた、分かってるんでしょうね!?」

 

 

「……ふん」

 

 

 

 窓から出て行こうとするローに慌てて扉の隅から顔を出して――――――。

 

 

 

「ろー!!」

 

 

 

「っ……チッ!」

 

 

 

「ちょっと待ちなさい、ロー!!」

 

 

「待つだすやん、ロー!」

 

 

 

 

 本日一番の舌打ちをかました後、彼が手をくるっと回すのが見えた。

 その後急に視界がひっくり返って頭から倒れる。

 

 

 

「あれ……?」

 

 

 

 元に戻ったと気付いた時には、もうローはいなかった。

 というよりは、逃げられたと言った方が良いのだろうか。

 ローを追って二人も窓から飛び出して行くのがひっくり返った視界から見えた。

 

 

 

「おいあれ、子連れ狼ロナンじゃねえか!」

 

 

「捕えろ! 殺すんじゃないぞ、生け捕りだ!!」

 

 

 

 

 もういろんな意味で手遅れかもしれないと気付いたのは、海兵たちが俺と再び赤ん坊となったエース……いや、リードかな。そんな俺達を取り囲んだあとだった。

 

 

「子連れ狼ロナン……てめえだったとはな、仮面のガキ」

 

 

「あはは……お、お手柔らかに」

 

 

「ふんっ」

 

 

 

 ケムリンがこちらへ近づいてきて、力が抜けてしまう海楼石の手錠をはめ込んでくる。

 

 

 

「……あぁ」

 

 

 

 ちょっとすいません!

 ベビー5さん達来てくれませんかね!!?

 

 

 いや無理なの分かってんだけどな畜生!!!!

 

 

 

 

 

 

 

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