一応手配書を用意されたのだから、手錠で繋がれたまま囚人としてどこかへ送られるのが普通だろうと思っていた。
いや、船まで行くルートではそうだったんだ。前に手錠を付けられて、身体が重苦しくなって歩くのも大変だったし、逃げられるかどうか考えて目の前のケムリンに睨まれたぐらいだし。
まあ一度ドジって転んでうっかり俺を監視する役目を担った見知らぬ海兵のズボンをずり下げてパンツを公衆にさらしてしまった事件もあったが、それだけだ。
「……俺達をどこに連れて行く気なんだ。牢屋じゃないのか?」
「あうー?」
そんな質問にケムリンはただ舌打ちだけを返した。
普通ならもっと凶悪そうな顔をして「ああそうだ」とか言いそうな気がするんだが……何かあったのだろうか。
船に入った瞬間、一人の海兵に呼び止められてからずっとこうだ。何かが伝えられた瞬間、男は不機嫌な顔になった。
そして、何故か俺の手錠が外された。いやマジでそれの意味が分からん。
そういえばさっき女の人のポケットから電伝虫が鳴っていたような気がするが、あれは一体……。
「ここでいい、おい。人払いしとけ」
「ハッ!」
「ス、スモーカーさん! 私も一緒に――――――」
「いや、たしぎはアイン捜索に向かっとけ。……まあ、お上の反応を見る限りすぐに打ち切られるかもしれねえが……」
「は、はい! 分かりました!」
殺風景の部屋の中。一応は海軍の船だが―――――書斎というべきなのだろうか。本はあまり見当たらないが、備え付けのような2つのソファの間にテーブルが置いてある。
そのソファにどっかりと座ったケムリンが、こちらをじろっと睨みつけた。
「お前は何故ここにいるのか、分かってんのか」
「いいや……全然……というか、手錠を外された意味も分かんねえし」
首を傾けて率直にどうしてなのかと問いかける。
するとケムリンは葉巻を深く吸って難しい顔をした。
難しいと言うよりは、物凄く苛立ってるような感じか?
ドフラミンゴもそんな感じだったような気がする……。
「えーっと、ケムリン?」
「けむりゃん!」
「チッ……全くもって意味が分からねえな」
「はい?」
「……てめえらはどういう立場なのか分かっててここに居んのか。あぁ?」
いやずっと前から思ってたけど、何で喧嘩売るような態度で言ってくるんだ?
その辺の海賊だって言われても仕方ないぞ。まあ海軍にはいろんな奴がいるから分かってるけどさ……。
「俺達の事なら分かる。俺達はクローンなんだろう? だから、捕まったらどんなことをされるのかも分かってる」
「……お前らが世界にどんな影響を与えるのか分かってて言ってんのか」
「はい?」
「クローンはコピーだ。本人が生き返ったわけでもねえ。だが、本物とほぼ同等の存在なんだよ。その意味を、てめえらは分かってんのか?」
「………うん?」
どういうことなのか聞こうとした――――――瞬間だった。
「准将殿、失礼します!」
「チッ……」
ケムリンの苛立った舌打ちがかき消されてしまうほど、扉の先から数人の海兵がやってくる。
その中央にいるのが……。
あぁ……。
「スモーカー准将。今回の子連れ狼の連行、およびアインへの情報の件で本部はG-5への移動を許可している。俺はお前たちを歓迎しよう」
「……そうか。ところで、頬にハンバーグが付いてるぞ」
「むっ……食べ残しだ、気が付かなかった」
もぐもぐと頬についたハンバーグを食べ、こちらを見つめる。
他の海兵たちがいるからか、真面目そうな海兵を演じているように思える。
記憶の底にある、彼にぶん殴られて殺されかかった記憶が背筋を凍らせる。
怖い、逃げたい。でも無理……!!
「子連れ狼ロナン、および赤ん坊リード。お前たちは一時的にこちらの預かりとなる……それまでは、分かっているだろうな」
「……はい」
「うっー!!」
記憶がなくてもわかるぞ。
このまま抵抗したら即座に殺されるんだろうなって。
嫌な顔をして暴れ出しそうなリードを抑え込みつつ、項垂れた。
ベビー5やバッファローと違って逃がしてくれなさそうだ。
いや、逃がしてくれないんだろうな……。